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俺達の冒険はこれからだ……

すいません、遅れました;


――冒険だと!?

 おい、まさか……冒険って……おい……

 まさかっ!?



 俺はガレオスさんのその言葉に戦慄する。

 この東の地で、まさか冒険があるなどと……




「オレ達はなぁ、コトノハ様を助け出すまで我慢していたんだよ」

「へ? 我慢って……?」


 固まってしまっている俺に、説明するかのように語り始める熟練の冒険者(ガレオスさん)


「誓いっても言えるかな? 無事に助け出すまでは冒険には行かないってなぁ」

「ああ……そうか……」


「それでな、助け出せたらみんなで行こうって決めてたんだよ」


 気が付くとガレオスさんは、まるでどこかの総司令官のように、指を組んで肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せて俺を見据えていた。


 そして周りでは、冒険者達が何やらチーム分けを開始していた。

 だが俺は――。


「ガレオスさん。アンタならもう察していると思うけど、俺とラティは……」

「ああ、分かっているさ。……だからこそさ」


「へ?」


 俺はガレオスさんが何を言っているのか判らなかった。

 俺にはもう、冒険に行く必要は無いというのに、何故そんな事を言うのか。もう危険を冒す必要など無いのに――いや、むしろ行く事によって大事なモノを手放してしまう可能性が極めて高いというのに。


「英雄のダンナ。アンタはまさか、もうルーキー(・・・・)じゃないつもりかい?」

「えっ……いや、だって俺はもう……」


「いいですかいダンナ。アンタは本当に戦えているんですかい? ちゃんと相手と、互角に戦えて(・・・)いるんですかい?」

「――!?」


 俺を見据えるガレオスさんの目は、まるで俺を見透かすようだった。

 それは熟練冒険者の勘なのか、それとも他の何かなのか、ガレオスさんのその目には、強く何かを俺に訴えていた。


「ちゃんと戦える武器を持っているんですかい? アイツ等は、生まれながらにして戦士なんですよ、いやアマゾネスかな? そりゃぁ全員がとまでは言わねぇが、大体が最初の方は男がやられて終わりさ」 

「な……」


「奴等は初心な振りをしているが、生まれながら狩人なんだよ」


 『そんな馬鹿な』――と思ったが、俺はそれを完全には否定出来なかった。

 あの日の夜、俺はこれでもかとやられたのだから。

 尻尾を撫でるという、逆転の一手がなければ、俺は男としての自信を失っていただろう。当然、主としても。


 だが俺には、尻尾撫でという武器がある。そう思っていたのだが――。


「いいですかい……奴らと戦うには武器も必要なんですよ。ひとつだけじゃなくて沢山の武器が、時にはその武器が使えない時もあるんでねぇ」

「あっ……」


 ( そうだった…… )

 

 俺はガレオスさんのその言葉に、背中に冷たいモノが走るのを感じた。

 そう俺は、唯一の武器(尻尾撫で)を禁止されていたのだ。ラティから、あの時の尻尾撫で行為は、【心感】の妨げになると注意され。


 あまりの現実に、何も言えず放心状態となる。


「……ダンナ、何で階段が存在すると思うかい?」

「え、そりゃあ……アレだし、需要もあるし、アレがアレだしぃ……」


「まあ、そんな理由もあるけど。本質は違うんですよダンナ」

「え……本質?」


 俺には全く判らなかった。ガレオスさんの言う本質とは何を指しているのかを。



「階段ってのは、修行の場所……いや、修練の場なんですよダンナ。奴等と互角に戦えるようになる為の、己を磨く場所なんですよ」 

「な、なんと……確かにそうかもしれないっ」


 ガレオスさんの言には、一切の破綻がなかった。一分の隙も無い完璧なロジックだった。

 俺はまさに目から鱗な心境、ちょっと騙されている気もするが、きっと気のせいだろう。たぶん。

 


 そしてそんな俺に、ガレオスさんは一気に畳み込んできた。


「英雄のダンナ。修行は裏切りですかい? 新しい何かを得る為の特訓は咎められるモノですかい? いや、違うでしょう?」

「ああ、そうだ。決して裏切りなどではない」



 俺は修行に出る事を決意した。



 

 

        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇






 点呼の声が響き渡る。

 そして編成された部隊が、一糸乱れず宿屋から駆けて出て行く。


 三雲組と伊吹組、合計40人近い冒険者達が4チームに分けられていた。

 ライオンさんチーム、ゾウさんチーム、キリンさんチーム、カバさんチームと分けられ、各チームが与えられた任務へと就く。


 ひとつのチームが公爵家を見張り。

 ふたつのチームが言葉(ことのは)の居る宿屋の護衛。

 そして遊撃隊として冒険に出るのが残りの1チーム。


 まさに熟練の三雲組、流石は歴戦の伊吹組であった。

 エウロス側が動くとは思えないが、不測の事態に備え戦力の半分を防衛に、そして四分の一を見張りへと割り振っていた。


 遊撃隊は遊撃をした後、そのまま宿に戻り、宿で待機していた1チームが見張りへと移り、見張りをしていたチームが今度は遊撃隊となる、そんなローテーションを組んで冒険に挑んだ。


 こうして俺は、三雲組のメンツで構成された、見張り役のゾウさんチームへと組み込まれる。

 いきなり冒険に出てしまうと、【心感】を使って宿屋周辺を見張っているラティに察知されてしまうが、見張り役として宿を出ることでそれを誤魔化した。


 


 現在の時間は十九時。

 第一陣が出発したのが17時、そろそろ自分達の順番だと、ゾウさんチームの仲間が俺にそう言って来た。


 普段よりも早い時間から冒険に向かったのは、4チームが順番に行くので、いつもよりも早めたそうだ。

 そして仲間が言った通り、キリンさんチームが見張り役を交代しにやって来た。

 

 短い引継ぎを行い、俺は修行へと向かう。

 因みに引継ぎ時の情報交換の時に、”瞬迅”は宿屋にちゃんと居るという情報を受け、俺はそっと胸を撫で下ろした。


――うう、やっぱ気まずい……

 だがこれは必要な事だっ! そう必要な秘密の特訓なんだ!

 だから俺は悪く無い……よね?



 心の中で謎の言い訳をしつつ、俺はエウロスの階段通りへと向かう。そして約10分程歩き辿り着いた階段通りは、ピンク色の提灯が乱舞していた。


 誘うように少々ケバい光を放つ提灯。

 まるで縁日のように、所狭しと提灯が吊るしてあり、ここまで歩いている間、今日はどのように戦ったら良いかシュミレーションをしていた俺の視界に飛び込んできた。


「すげぇな……ピンク一色だ」

「エウロスの階段通りって、元の世界のお祭りを思い出すよね」


 俺の呟きに、同じゾウさんチームのハーティが話し掛けてきた。


「たぶんこれも歴代勇者の影響なんだろうね、ネオン街みたいな感じとお祭りを混ぜた感じで」

「歴代共か……」


 ハーティの考察に同意しつつ、俺はこの通りに屋台が無いのを少々寂しく思いつつ眺めていると、鬼のような顔、羅刹のような形相をした女性が向かって来ることに気が付いた。

 激しい怒りを身に纏い、ツカツカと俺の前まで女性がやって来る。

 

 そしてその女性は、俺に向かって大きく右腕を振りかぶった。


 俺の左頬へと、その女性の平手が振り抜かれる瞬間。


「ご主人様に何をするおつもりですか、――エルネ様」

「邪魔をしないで!」 

「ラティ!?」

「ラティさん」

「「「げぇ瞬迅!?」」」


 音も無く現れたラティは、振り抜かれるはずであったエルネの右手を掴んでいた。本当にいつの間に来たのか、ラティはさも当然と俺の隣に立っていた。


――うえええっ!?

 ラティいつの間にって、いや、今はそれよりもなんでコイツがここに?

 葉月(はづき)に付いているんじゃ……

 


 ラティの登場にも驚くが、今はそれよりも目の前にいるエルネへと目を向けた。

 ただ彼女は、以前会った時のような余裕さは微塵にもなく、瞳にはこれでもかと怒りを顕にしていた。


 しかしラティは、そんなモノには怯む事なく。


「良くない怒りの感情がご主人様に近づいているかと思えば……まさか貴方とは。もう一度お訊きします。ご主人様に何をするおつもりですか?」


 ラティに問われ、平手打ちを止められたままのエルネは、彼女を睨みつけ、らしくない罵声を吐き出した。

 

「このっ、邪魔をするな狼人が! この男を……このクソ野郎を……なんで、なんでハヅキ様はこんな奴を……」

「おい、エルネ。何を突然――」


「貴方の所為でっ、貴方の所為でハヅキ様が……それなのに貴方はこんな下劣な場所を呑気に歩いていて……」


 激しい怒気を込め、だが最後の方は絞り出すような声で、葉月(はづき)の侍女をしていたエルネ(ユニコーン)は言葉を吐き出していた。


 俺はそれを見て、今にも崩れ落ちそうなエルネの両肩を掴み、『葉月(はづき)に何かあったのか?』と、正面からそう問いただす。


 葉月の侍女であるエルネの今の状態を見て、ただ困惑するほど俺は馬鹿じゃないしおめでたい思考でもない。

 俺は葉月に何か良くない事が起きたと察し、エルネからそれを聞き出した。



 そして話を聞き出した俺は、あの時、ナントーの村で葉月と別れた時に感じた違和感、彼女が前よりも囲われているような不快感の正体を知った。


 それは聖女の勇者葉月が、教会とある取引をした事。

 彼女は、勇者(北原)殺しの俺を助ける為に、俺を無罪とする為に、教会から提示された要求を飲んだのだ。


 教会側の要求、神子たる五神樹ごしんきとの婚姻を。


 しかもふざけた事に、五神樹ごしんき()と婚姻を結ぶのだと。

 教会側は、派閥で争うのを一時止め、エルネが所属する派閥を抜いた、五つの派閥で共闘する事を選んだらしい。

 

 だからと言って、それを黙って見ている訳ではないエルネは、聖女の勇者葉月に考え直すよう進言したそうだ。

 だが、『儀式みたいなモノだから平気だよ』と返され、葉月の意思を変える事は出来なかったと。


 どうやら実際に、形だけの婚姻なので、普通の結婚のように重く捉えなくて良いと、教会側の代表からそう言われたらしい。

 

 ただ単に、儀式(・・)みたいなモノだと。



 だが教会の内情を知っているエルネにしてみれば、教会側の最終目的は、”聖女(勇者)の子供”。だから儀式(婚姻)で終わるはずは無い。

 エルネはその危険を感じ、必死に抗議をしたそうだが、その結果、エルネは葉月の侍女を外されてしまったそうだ。


 絶対に逆らえない上からの指示。


 そんな荒れる気持ちの中、エルネは俺が見つかった事を知り、何かが変わるとは思えないが、それでもやって来たのだと言う。そして情報を集め、やっと見つけてみれば、階段通り(下劣場所)を歩いていたと。


 そして聖女の勇者葉月由香(はづきゆか)の婚姻の儀式は、明日の昼に、中央(アルトガル)にある大聖堂で行われると嘆いていた。



 階段通りの中央、そんな目立つ中で、エルネは喚くように俺に話した。涙こそ流してはいないが、もうほとんど泣き顔のエルネ。

 

 俺はその話を聞いて、すぐに決断をする。


「ラティ! 今から行くぞ中央(アルトガル)に」

「はい、ご主人様」


 ( あの馬鹿…… )


 俺の指示に対し、ラティは迷うことなく従い同意した。そして次に俺は、冒険には行けないことと、今すぐエウロスの街を発つことを、三雲組のハーティに言うが――。


「すいません、俺達はこれから中央に――」

「――ッ聞いたか野郎共! 今すぐに馬車の手配だ。あと水と食料も――」


 俺が街を出ることを言い終える前に、ハーティはゾウさんチームに対し指示を出していた。

 それは俺の出す答えを解っているかのように。しかも、ただ中央に行けばイイと思っていた俺とは違い、しっかりとした具体的な指示を出していた。


「陣内君、中央に行くならまず馬車が必要だろう」

「はい、助かります……よし! 超大急ぎですので、金に糸目を付けず一番速い奴でお願いします」


 今回は時間との勝負。

 その場のノリもあって、俺は大きく出ていた。


「ほう、それなら……。野郎共! 指示の変更だ。集める馬はスレイプニール種だ、それを4頭集めてくれ。それ以上は流石に僕のMPが持たない」

「お頭! 流石にスレイプニール種は相手が渋るかと……」


「渋ったら勇者様の名前を使え。勇者様には僕の方から話を通しておく。三雲様に言葉(ことのは)様、あと伊吹様と小山様の名前を使っていい」

「伊吹組の方に連絡は? ガレオスさんには何と?」


「ああ、あっちには『馬鹿が無茶をする』って伝えてくれ」

「了解、オイラが宿に伝えに行くッス」


「あと、軽くて速い馬車も探しとけ」

「昼間の連中に当たってみますっ」


「よぉ~し野郎共、40秒で支度しな!」

「「「「「「「了解してラジャ!」」」」」」」 

 

――ああ、その台詞ってやっぱ浸透してんのか、

 それともハーティさんだから?

 それよりも葉月、あの時言えよ……いや、言えないか……



 こうして俺は、冒険を止めて中央(アルトガル)へと向かう事になったのだった。



読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです~


あと、誤字脱字の報告も……

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりみんなのノリ良いよね てかバカが無茶するだけで伝わる位みんなにそう思われてるんだよね
[良い点] まさに一分の隙も無い完璧なロジックだ 亜麻色の髪の乙女から逃げることが不可能という点に目をつぶればですがねー [一言] 戦闘直後にどの面下げてという話ではありますが、 椎名君に頭を下げて…
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