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三雲さんからの手紙

白い毛玉がんがる。


書籍版が出せたら、本の帯の部分に。

『誤字脱字9割カット』って書いて貰おうと思っています。

 夜が明ける頃、伝書竜となった白い毛玉が帰って来た。

  

 特に怪我をした様子などはなく、無事に戻って来た。


 首には赤い色のスカーフを巻き、そこに手紙を差し込む形で三雲からの手紙を運んで来ていた。そしてそれをガレオスさんが外し、手紙を読み始める。


 役目を終えた白い毛玉は、現在伊吹に抱っこされて、たわわチャレンジ中。

 

 そんな中、俺達はガレオスさんが手紙を読み終えるのを静かに待つ。


「……状況はあまり変わらず、だが……急いだ方がイイかもだな」

「ん? そりゃすぐ助けてやりたい」


 ガレオスさんは手紙をハーティに渡し、俺の方に向き直ってから口を開く。


「ああ、ミクモ様はまだ平気だって書いてはあるが……長男の野郎がどうにもヤバい気がする。最近の報告によれば、全く屋敷から出ていないらしいからな」

「?」


 俺には、ガレオスさんが何を言わんとしているのか、イマイチ掴めなかった。

 よく解っていない俺に、ガレオスさんは追加で話す。


「まぁ、アレだ……遊びに出てねぇんだよ。ありゃ絶対に溜まってんぞ。外から呼んだって報告も無いしな」

「うん? ガレオスさん、たまっているってお金とかかな?」


 白い毛玉を胸に乗せたまま、伊吹がガレオスさんの言葉に反応した。


「いや、伊吹。その溜まっているってのは多分――って!?」


 詳しく言える訳がなかった。そしてそれを詳しく説明するのもアレだった。

 しかもその伊吹の横では、小山が白い毛玉を乗せた胸をガン見していた。むしろガン見などと言う表現では生温い視線で。

 

 小山の、ナニ(・・)かにチャレンジしそうな気配。

 しかもコイツは以前に、一度やらかした前科がある。

 

 小山が下手な事をして、ここで奴が伊吹に再起不能に追い込まれると色々と問題があるので、俺は小山の顔面を鷲掴みにして奴をおっぱいから遠ざける。


「ちょ!? 陽一君。何をいきなり! 痛い痛いって!」

「喧しい! ここで無駄に戦力を減らしている場合じゃねえんだよ! 言葉ことのはを助けるまでアホな事をしている場合じゃねえ!」

「ほぇ? 陣内君? 小山君? どうしたの?」




 話は大きく脱線などはしたが、要は色々とヤバいので、言葉ことのは救出計画を急ぐ事が決まった。

 

 取り敢えず分かった事は、言葉ことのはと三雲の近くには、勇者椎名が張り付いている事と、公爵家嫡男もウロついている事が分かった。


 ガレオスさんの経験と勘が、急いだ方が良いと判断し、俺にとってそれに反論する要素は無く、それに賛成した。


 そう、俺は言葉(ことのは)を早く助けたいと焦っていた。




       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





 二日後。

 白い毛玉のやりとりを2回交わし、作戦の決行が決まった。


 作戦の目的は言葉ことのはの奪取。

 その後は、街の大通りで言葉(ことのは)にある宣言をさせる事。


 その宣言する内容は、翌日に中央(アルトガル)か北か、もしくは南に向かうというモノ。

 

 現在、建前では女神の勇者言葉(ことのは)は、自分の意思でこのエウロス()に滞在している、と言う事にされている。


 それは虚偽なのだが、軟禁されている状態ではそれを晴らす事が出来ない。

 だから今回の作戦では、言葉ことのはの救出後、ただ匿うのではなく、表に出して、この街を出て行くことを彼女に宣言させる事にした。


 そして複数のルートを示す事で、無用な妨害への牽制とし、その後は小隊のように馬車で船団組み、堂々とエウロスを脱出することを予定とした。


 俺的には、救出後はさっさと逃げれば良いと思ったのだが、言葉ことのはの容態を考えるとあまり無理は出来ず、秘密裏に逃げようとすれば、エウロス側も秘密裏に追手を差し向けて来る可能性があると言われた。


 ならば街全体を味方につければ良いと言う。


 女神の勇者言葉(ことのは)が滞在している理由が、彼女の意思による保護ならば、それを逆手に取れば良いと。

 

 言葉ことのはの意思で出て行くと宣言すれば、その”嘘”で固めたモノは瓦解すると。


 俺達は大筋をそう決めて、人が多い時間帯を狙って作戦を開始する。


 ハーティ達が戻った事は相手に知れ渡っているので、単純な奇襲のような奇策は通じない。ならばと、正面のエウロス公爵家の正門には勇者の二人を向ける。


 簡単には門前払いなど出来ない人物。

 たが、今の公爵家にとっては来て欲しくない人物。


 対応にはそれなりの労力がかかる。

 権力では公爵家が上、しかし、知名度や権威であれば勇者の方が上。

 しかもその上、勇者には戦う力がある。


 正門でゴネればきっと、奥に居るであろう勇者椎名にも伝わる。そしてその場に居るはずの三雲までも動けば、勇者椎名も動く。


 もしかすると動かない可能性もあるが、その辺りは賭けとなる。

 仮に椎名が動かなければ、その時は伊吹と小山の二人に中へと乗り込ませる手筈だ。体調を崩している言葉ことのはのお見舞いという名目で。


 だからこそ、きっと椎名は出てくるはずだと、力によって伊吹と小山を止める為に。


 そしてその時に、陽動を目的とした別動隊を公爵家へ潜入させる。

 

 エウロス公爵家側も馬鹿ではない、きっと別働隊が言葉ことのはを助けに行くことを予想しているはずであり、正面とは別の方向にも気を張っているはず。


 ならば、その別動隊を陽動に使い、本当の本命を送り込む。


 そしてその本命が俺とラティ。


 【索敵】に引っ掛かり難くなる付加魔法品アクセサリーを借りて装備し、ガレオスさんも認めるラティの【索敵】(【心感】)で相手の目を避けて進む。そして道中の道案内は白い毛玉。


 当然それでも見張りは残っているだろうが、その辺りはラティの睡眠魔法で無力化させつつ進む予定となった。


 一番の注意点は、ガレオスさん曰く、勘づいた勇者椎名が戻ること。

 陽動で椎名を引っ張り出せたとしても、5割の確率で椎名は言葉ことのはの元に戻るだろうと、ガレオスさんはそう予測した。


 そして俺の役目は、その戻ってくるかもしれない椎名の撃退。

 この役目は俺にしか出来ないだろうとの事。


 もし運良く椎名が来なければ、そのまま言葉(ことのは)を背負って逃げれば良い。


 この作戦は多少の穴はあるが、強引に推し進めなければ解決出来ない問題。

 あと作戦が、とても冒険者とは思えない何処かの野盗のようなモノを感じはしたが、その辺りは触れるのを控えた。


 知らなければ、問題は問題にならないので。




 そして作戦が開始された。


 時間は昼の12時。

 エウロス公爵家の正門に、勇者の二人と、それに従う十数人の冒険者達が向かった。

 

 当然、警戒していた公爵家側、すぐにそれに気付き殺到した。

 そして出来る限りやんわりとした対応で、勇者の二人を足止めしている。


 遠くから見る限りでは、エウロス側が必死に頭を下げている。

 だが、一向に中に通す様子はない。


 暫くの間はそのままだったが、勇者小山が強引に進もうとした時に状況が動いた。


 小山の動きを見ていたかのように、勇者椎名が姿を現したのだ。

 威圧感を振りまく椎名、そしてその椎名の姿を確認すると、建物の二階に潜んでいた伊吹組のメンツが鏡をつかった光の反射で合図を送った。


「ご主人様、そろそろ準備を」

「ああ、わかった移動しよう」


 鏡による合図によって、今頃は別働隊が陽動として動いているはずだ。

 因みにガレオスさんとハーティは、陽動隊の陽動の為に、目立つようにして公爵家周辺をうろついている。 


 別働隊はあまり奥に行くと、公爵家側に捕まる恐れがあるので、手前側で侵入しようとして引き返すフリを繰り返す手筈。


 【鑑定】などで特定されればアウトだと思っていたのだが、障害物を挟めばそれは防げるらしく、魔法による爆煙などでそれを回避すると言っていた。


 特定さえされなければ、逃げ切れると(シラを切れると)


 俺はそれを信じ、今は突入の機会を覗う。

 素人考えだが、いま揉めている正門付近の方が逆に手薄だろうと思い、一度下見した、正門から横に60メートルほど離れた場所へと向かう。


 高さ3メートル以上の塀の前で、ラティが周囲を警戒した後、一瞬のうちに【天翔】を使い塀の上へと駆け上がる。

 そして俺は槍をラティに投げ渡し、槍の刃を塀に引っ掛けるようにしてラティに固定してもらい、その槍をロープ代わりにして堀をよじ登った。


 塀の上に居ては目立つので、すぐに公爵家敷地へと降りる俺達。

 

 降りた先、目の前に広がるのはエウロス公爵家の庭。 

 その庭は、下手くそな和風の庭園としか表現のしようのない風景。


 ひょうたんのような形の池があったり、砂を海のように見立てたのか、まるでゴルフ場の大きなバンカーのようなモノまである。

 そして規則正しく植えられた、不規則な形をした盆栽のような木々。

 

 はっきりと言って、センスの欠片も無い庭だった。 


 俺はそんな庭を見渡しながら、懐から白い毛玉を出して道案内をさせる。


「頼むぞ毛玉」

「案内お願いしますヨウちゃん」

「――――」



 一応隠密行動中なので、俺とラティは口数を少なくして進んでいたが、急にラティが『しぃ』と小さく呟く。


 ラティのその警告に、俺と毛玉は察するように従い、植木へと身を潜める。


「あの、この先に見張りが一人います、どうにもこの場所の担当らしく、動きそうにありません」

「流石に誰かは配置されてっか……」


 俺達が進む方向、それは小高くなった場所に建っている公爵家本館ではなく、脇に逸れた離れの方向だった。


 白い毛玉が、目と鼻先で進むべき方向を示す。


「仕方ない、ラティやれるか?」

「はい、問題ありません」


 俺の要求にラティが短く答え、そして即実行に移した。

 

 ラティは潜んでいた茂みから飛び出ると、足音をさせぬように【天翔】を使い空中を駆け、見張りの背後を取って後ろから口を手で塞ぎ、そのまま睡眠系の魔法を使い眠らせた。


 そして眠らせた男をズリズリと引きずって来る。


――あ、昔やった潜入ゲームに似てる、

 何というか、凄腕の蛇な人みたいだな……

 つか、手際が鮮やか過ぎるだろっ、



 ラティは見張りの男を茂みの中に隠し、その後は周囲を警戒する。


「……ご主人様、他には気付かれた様子はありません、さぁ行きましょう」

「ああ……」


 ( ラティがガチで万能過ぎるっ )


 その後も、ラティの潜入無双だった。

 【索敵】を超える【心感】のアドバンテージ(優位性)は凄まじく、伝説の蛇の傭兵のように見張りを無力化していった。


 そして呆気ないほど簡単に、目的地である離れへと入れたのだが。


「ッ!?」

「ラティ、どうした――ッ!?」


「急ぎましょうご主人様」

「ああ、急ぐぞ、このまま突破するっ」



 ラティの表情が語っていた。

 以前も見たことがある表情。広域防衛戦時、ナンの村に泊まった時、夜にラティが見せた表情。

 

 あの時は村娘のレイヤが――


「くっ、言葉(ことのは)が危ない!」

 

 俺達は駆け出したのだった。

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども……

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