エウロス強襲 ジンナイ ヨウイチ
遅れましたー;
「じゃあ、正面から乗り込むよ」
「ああ、了解したハーティさん」
「あの、ご主人様……本当に宜しいのですか?」
「ん? 別に問題無いよな?」
俺達は今は、三日ほどかけて、エウロスの街までやって来た。
そして街の中に入る為、俺達は街の正門前に並んでいた。
「後々難癖つけられないように、正規の手続きで入るって決めてたよな?」
「あの、その……そうなのですが……」
「?」
何故かラティは心配そうな顔をして、俺の方を覗っていた。
より細かく言うと、困った顔をしながら。
――なんだ?
エウロスの方じゃ俺って、極悪人扱いだったりするのか?
それとも他に何か理由が……?
いよいよ俺達の番が回って来た。
ステータスプレートをチェックしている門番達の前まで行き、御者以外はみんな下に降りて、順に門番にステータスプレートを見せる。
そして、門番達の気配が一変した。
しかも待機していた内の一人が、馬に乗って街の奥へと駆けて行く。
「……これって」
「ああ、僕達が戻って来たから、上に報告へと向かったんだろうね」
「ケツの穴の小さい連中だなぁ」
「ガレオスさ~ん、下品だよ。私だけじゃなくてラティちゃんも居るんだから」
「おっと、こいつぁ失言だったなぁ」
どうやらハーティ達は、エウロス側にしっかりと警戒されている様子だった。
三雲組を仕切っているハーティの帰還、そしてそれをフォローする伊吹とガレオスさんの帰還。
勇者伊吹がいる為か、街に入る事は妨害されることはなく、順番にみんなが街へと入る許可を貰っていった。そして、とうとう俺の番がやってくる。
「はぁ、毎度ながらこのポンコツを見せんのはアレだ……」
「あの、ご主人様……それよりも今は、あの……」
「ん?」
俺はステータスプレートを門番に見せた。
しかし何故かラティが妙にそわそわとしており、何か言いたげな顔をしている。
( 何でラティが……? )
「なっ!? この表示はっ」
「あ~、俺のステータス表示はちょっと特殊で、人と違っていて」
毎度の事ながら、俺は自分のステータス表示にうんざりしていると。
「こいつがボッチライン! しかもこの追加されている項目……受けていた報告とは少し違うぞ。しかしこれは……」
「あっ」
俺のステータスプレートを確認した門番は、俺とラティを交互に見る。
そして少しニヤ付きながら、ラティのステータスプレートも確認し、街の中に入れる許可を出す。
――ああああああ、
そうだった、それを忘れてた……マジか、
これから俺は、コレを見せていくのか、
俺が激しく落ち込んでいると、ハーティが横にスッとやって来て、俺に小声で話し掛けて来た。
「陣内君もしっかりとマークされていたね」
「へ?」
「君をボッチラインと呼んでいたよ。そしてあからさまに警戒している」
「マジで?」
俺はハーティに言われ、目だけを動かす形で門番を盗み見ると、彼の言う通り、門番達は俺の方を訝しそうに見つめ続けていた。
( 俺も警戒されている? )
こうして俺達は警戒をされながら、エウロスの街へと入った。
東側の最大都市であるエウロスの街。
中途半端な魔法などは歯牙にもかけそうにない城壁。
見た目よりも性能を重視した城壁であり、一言でいうならば、岩石で出来た石垣というべきか、岩を積んでその隙間にコンクリートを流し込み、しかも鉄骨らしきモノで補強している感じだった。
今まで見た城壁の中では、一番堅牢に見える。
そして門を潜る時に気が付いたが、城壁はかなりの厚みがあり、仮にサリオの魔法であっても、これを一撃で崩すのは困難に思えた。
「すげぇな……」
「ああ、この城壁かい? 城壁でならたぶん一番だろうね」
俺の呟きにハーティが答える。
そして、追加の情報を付け足してきた。
「エウロスはね、ゼピュロスに対抗意識を燃やしている所があるんだ」
「対抗意識?」
「ああ、無意識な部分もあるんだろうけど、東と西は逆な所が多いんだ」
ハーティは三雲組が泊まっている宿屋に向かうまでの間、俺に東と西の対抗意識の事を教えてくれた。
まずは階段。
聖地とも呼ばれるゼピュロスでは、エルフなどの控え目も良しとする文化が根付いているが、エウロスでは、大きいが全てという風習があり、『絶壁は滅びよ』や『戦いは大きさだよ、兄貴』などの言葉があるそうだ。
そして街の外装。
美しい水上都市のゼピュロス。
要塞のような無骨なエウロス。
美しい湖に守られている水上都市に対抗するように、この堅牢な城壁が作られたのだと言う。
他にも、元の世界に当てはめると、ゼピュロスは北欧系の装備品。
一方エウロスは、和のテイスト。
言われて見てみると、強引に和の要素を注ぎ込まれた建物が目立った。
そして街の中央側、少し小高くなっている辺りには、大きな建物が見える。
「ああ、あれがエウロス公爵家の屋敷さ」
「……なんか中途半端な」
「やっぱそう思う?」
五重の塔のような建物、そして大きな鳥居。
物凄くチグハグな感じな、エウロス公爵家が存在していた。
余所の外国が、和風に憧れて無理矢理作った的な建造物の群れ。
「そして、あの中の何処かに言葉が……」
「……だね、その辺りの話は、一度宿に戻ってから詰めよう陣内君」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……大丈夫です、話を聴かれる範囲には誰も居ないかと」
「ラティ、ありがとう」
「相変わらずラティ嬢ちゃんの【索敵】はスゲェな、建物の中だと多少なりと鈍るもんだが……」
俺達は宿屋に辿り着いた後、一番広い部屋に集まっていた。
泊まっている宿屋は、そこまで大きい宿屋ではなく、泊まれても20人程度だが、今は宿を全部貸切る形で30人以上の冒険者達が泊まっていた。
そしてその宿屋ごと見張る形で警戒をしていた。
余所の冒険者などが居ないので、仮に誰かが紛れ込んでも、すぐに気付けるように。
仲間の冒険者や勇者以外は居ない状況……。
「陽一君、本当に良かったよ無事で」
「まさかお前まで合流していたとはな、小山」
「たまたまなんだけどね」
なんとエウロスには、鉄壁の勇者小山清十郎が居たのだ。
しかも今回の件、言葉の救出を手伝ってくれると言う。
小山曰く、一緒に竜の巣を生き抜いた仲間の危機を、このオラが見過ごすつもりはないと。
そして、積もる話もあるが今は――。
「陽一君、まずは掴んでいる情報から話すね」
「ああ……あとお前は俺を『陽一』って呼ぶな」
俺達は早速情報のすり合わせを行った。
まずは言葉の所在。
外から観察していた結果では、彼女はいまだエウロス公爵家敷地内で、調べによれば、公爵家嫡男であるリュウシンの離れに軟禁されていると言う。
そして、エウロス公爵家側からは、保護しているとの宣言。
言葉もそれに応じており、そしてその庇護下に入っているとでっち上げている様子だと言う。しかし――。
「今回の件は、エウロス公爵家の意思で動いた訳じゃない様子なんだ」
「へ? 公爵家じゃないって……どういう事だ小山」
「うん、上がって来た情報によると、嫡男? 要は長男の暴走かもしれないって言うんだ。それで取り敢えず公爵は、今は静観しているんじゃないかって、オラの部下がそう言っているんだ」
――ん? どういう事だ?
親と子供側では何か認識が違うとかなのか?
いや、でも……
俺が思考にハマっていると、ガレオスさんが口を開いた。
「もしかすっと、親子の仲が悪いって可能性もあるな……」
「なるほど、だからこんな強硬策に出たと?」
ガレオスさんの発言にハーティが答える。
「待った、それなら公爵の方に交渉を持ち込めば、普通に言葉を助けられるんじゃ?」
「いや、陣内クン。オラもそう思って一度訊ねたんだけど、駄目だったんだ……」
俺の案を、既に試したと小山が残念そうに言う。
そして小山の言葉の後に、ハーティが続く。
「多分だけど、コレはコレでありだと思っているのかもね。上手く事が運べばそのまま、でも失敗したら下を切るって考えなのかもね」
「は? 下って言っても自分の息子だろ!? それを切るって事は……」
「ダンナ、それは十分考えられるぜ、エウロス公爵は子沢山って聞いているし、代わりはいくらでもいるだろうからな」
「戦国時代かよ!」
その後、暫くのあいだ意見交換を行った。
そして深夜になると、俺達がエウロスに戻った事を言葉達に知らせる為、白い毛玉を伝令に飛ばすことにした。
物理的に。
「おっし、こっからでイイか」
「ガレオスさん? え? なんで振りかぶって……」
白い毛玉を右手に持ち、エウロス公爵家の塀に向かって、自然に投球モーションに入るガレオスさん。
「行って来いヨウちゃん!」
「うええええっ!?」
ガレオスさんの剛腕によって、まるで白球のように夜空に放られる白い毛玉。
本来であれば、登って侵入するには一苦労しそうな塀も、ボールのように投げられた白い毛玉は、塀を軽々と超えていった。
「よし、撤収するぞ」
「え? え? これが連絡のとり方なの!?」
「あの、なかなか斬新なやりとりなのですねぇ」
「ああ、ヨウちゃんなら音を立てないからな」
「いやいや、アンタら白い毛玉の扱い雑過ぎんだろ……」
( あ、そういや馬車でも、普通に袋に入れてたな…… )
「あとは連絡待ちだ、宿の部屋に戻って待機だな」
「しかもここじゃなくて、宿で待つのか……」
「ああ、暗いうちに戻って来るから、たぶん4~5時間後には戻って来るだろ。それに此処に居たら無用に目立つ」
俺は高い塀の先を一度見つめ、その後は目立たぬように、ガレオスさんの後について宿へと戻った。
「お疲れ様ですガレオスさん」
「お疲れッス!」
「おう、変わりナシか?」
宿に戻ると、伊吹組のメンツが俺達を迎える。
言い方は少し悪いが、現在エウロスの街は敵地に近い。
ただ、竜殺しや大剣の勇者と呼ばれる伊吹と、鉄壁の勇者小山の二人が居るので、今は強引な手段には出れない様子だ。
だが、状況を探られる可能性はあるので、ガレオスさんの指示により、泊まっている宿屋は、伊吹組のメンツが警備している状況となっており、深夜にも関わらず、入り口には二人の冒険者が待機していた。
――こういった所はしっかりとしてんなぁ、
流石は熟練冒険者って感じだな……、
いや、この警戒心って冒険者のモノか?
俺がそんな感想を思い浮かべている中、ガレオスさんは仲間の冒険者と会話をしていた。
「ヨウちゃんを投げて来たから、多分そのうち戻る。戻って来たら部屋に連れて来てくれ。あと、一応追手がいないか、その辺りも頼んだぞ」
「はい、ガレオスさん」
「あいよ、【索敵】で目を光らせとくッス」
入り口で手短に報告を交わし、俺達は宿屋の中へと入ると、今度は。
「あ、ジンナイさんお帰り」
「リナさん、夜食の用意ですか?」
「はい、ラムザがお腹減ったって言って」
「あ~~、なるほど。深夜なのに大変ですね」
「無理を言って着いて来た身ですからいいんです」
ナントーの村の村娘リナは、実は着いて来てしまっていたのだ。
あのゴタゴタの後、ラムザに強引に着いて来た形で……。
「冒険者としては戦えないですけど、家事とかでしたらお手伝い出来ますから」
彼女はそう言って、トトッと奥の厨房へと消えて行く。
「三雲組はイイ手伝い役を見付けたなぁ、冒険者に従事する奴なんて滅多にいないからなぁ」
「ええ、そうみたいですね。村でも気がきく子でしたし」
――きっとラムザを追って来たんだよな、
今度みんなでラムザを祝福しないとだな……
俺はそんな事を思い浮かべながら、白い毛玉の帰還を部屋で待った。
そして明け方近く、その白い毛玉が戻って来たのだった。
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