心意把
あけましておめでとうございます。
今年も、勇ハモにお付き合い頂けましたら、幸いです。
激務と風邪のダブルパンチで更新が遅れてしまいました。
ボッチ・ヒーローになれ。
また酷い事を言われた。
だが、本気で悪気はないらしい。
そして、その理由を説明された。
要は、暴走した勇者を抑えろという事。
ハーティとガレオスさんも、ギームルに詳しく言われた訳ではないが、この二人なりの解釈で、俺にそれを伝えてきた。
勇者を抑える者になれと。
本来ならば不敬。
称えるべき勇者を諫める者。
いま俺は、夜の見張り役をこなしつつ、今日聞いた話を思い返していた。
因みに、徹夜だった俺は、いつの間にか寝落ちしており、馬車の中なので問題は無かったのだが、寝ているうちに【鑑定】をされて、ガレオスさんに生暖かい目で見られる事となった。
ガレオスさんはいい大人らしく、それを言いふらすような事は無かった。
そして寝落ちしていた分、今は眠気がないので見張り役を買って出た。
このアライアンスの馬車には、白い毛玉であるヨウちゃんがいるので、例の謎テリトリー? 効果で魔物が寄って来ないらしく、最低限の見張りだけを置いて、みんな馬車の中で眠っている。
他に注意すべき野盗などの集団は、魔物がいるこの異世界では少数らしく、それらに遭遇する事はほとんど無いらしい。
居たとしても、大きな街の周辺だと言う。
そう、だから最低限の人数で見張りを。
俺とラティの二人だけで、今、見張りをしている。
あまり変な事を意識しないように、俺は伊吹が【宝箱】から出してくれた椅子に座って考え事に集中していた。
そしてラティも少し離れた場所で椅子に座っている。
ボッチ・ヒーローについて。
あのクソジジイが、それになれと言った意味と理由を考察していた。
今はアムさんに雇われているとはいえ、決して油断は出来ない人物。何も考えずにボケっとしていると、ガブリと喰われる相手だ。
――とは言え、情報が少なすぎる……
言葉を助けに行くのは当然だけど、
これもシナリオのひとつって感じがするな……
「う~~ん、情報が足りん……」
「んっ……」
「俺の勘が、『利用されている』って言ってんだよなぁ」
「んぅ……ぅ」
――勇者を諫める人が必要ってのは分かるんだよな、
野良で活躍している奴はいいけど、今回の椎名みたいな馬鹿がいるし、
綾杉だってそうだったもんな、あとは加藤……そして北原か、
綾杉の時は巻き込まれた。
加藤の時は、アムさんにお守りを頼まれた形。
そして今回の椎名の件。
この椎名の件も、攫われた被害者が言葉でなければ、たぶん俺は動かなかっただろう。
大きな恩があるから動いた。
北原の時も、アイリス王女の為、そして北原をぶちのめす為。
正義感などで動いた訳ではない。
義は大切だとは思うが、なんでもかんでも首を突っ込むつもりはない。
「勇者を倒せか……」
「んっふぅ……」
「…………………………」
気が付くと俺は、ラティの頭と耳を撫で回していた。
あまりにも自然にラティが、俺の膝の上に頭を乗せて来た為、二ヵ月間撫でに飢えていた俺は、それをそのまま自然に受け入れ、完全完璧頭撫でをしていた。
気が付くと心が凪いでいく。
そして混雑になっていた思考が落ち着いてゆく。
「ラティ、勇者を倒すってのはどう思う?」
「あの、勇者様を倒すですか? 一般的に考えて忌避される行為でしょう」
( そりゃそうか…… )
「なら、勇者を勇者が倒すのは?」
「それはもっとも避けるべき行為かと、保護法でも、特に厳しくされている部分かと思います」
( ああ、そういやそんな事を言ってたな )
「…………勇者を止められるのは?」
「それはきっと、ご主人様にしか出来ない事でしょう」
俺の問いに、迷う事なく即答するラティ。
正直なところ面食らう。
「どうしてそう思う?」
「あの、ご主人様の言う、『勇者を止める』とは、歯止めがきかなくなった勇者様の事ですよねぇ?」
「あ、ああ……今回の椎名とか、前の北原だな」
「あの、ご主人様が何を意図して訊いておられるのか図りかねますが、わたしは二ヵ月の間、ご主人様をお探しして各地を回っておりました」
「ああ……」
「そして何人かの勇者様と出会い、時には同行をしてもらう事もありました」
「……それで?」
「あの、わたしが言うのも失礼なことなのですが。とても幼い? いえ、危ういと言うべきなのでしょうか、勇者様の心の持ちように未熟さを感じたのです」
「未熟さって……」
「端的に申しますと、持っている力の強さに対し、それを扱う精神が未熟であると感じたのです。当然全員が、と言う訳ではないのですが」
「あ~~~~なるほど、確かに……そうかもな」
(1年半前までは、普通の高校生だしな )
その後もラティは、遠慮をしながらだが、見て来た感想を俺に言ってきた。
ある熱い勇者は。
捜索の同行者である某聖女様に対し、捜索などは二の次でアプローチばかり。
何事も深くは考えず、善か悪かの極端な思考。
酷い言い方をするならば、ソイツはYesのみを望み。
自分の意に沿わない、Noを極端に嫌がり、無理をしてでもYesに持っていこうとするのだと。
しかもそれは、単にワガママで言っているのではなく、それが正しい選択だと思い込んでおり、そしてそれを行動に移しているのだと言う。
本来であれば、叱るか注意する大人が必要なのだが、その大人達がそれをしないので、よりソイツの行動を助長してしまっているのだと。
他にも、大剣を持った大きいけど小さい勇者は。
明るい子。いい子。愛嬌がある子。少し無邪気な子。性格が良い子。
そんな評価が全て当てはまる勇者。
それは決して悪い事ではない、きっと良い事なのだが、ただ単に悪意に曝されていないだけとも言えるのだと。
もし醜い悪意などが彼女を絡めとれば、きっと彼女は駄目になってしまうと、ラティはそう彼女を評価した。
今は防波堤となる仲間が居てくれるお陰で、彼女は明るく白いままなのだろうと。酸いも甘いも噛み分けている、いい大人が守ってくれているから。
他にも。
偏った思考を押し付けて来るクロスボウ使い。
頼られると調子に乗る盾使い。
ひとつの趣味に没頭し続ける役者。
もし彼ら彼女らが、己の意思を上手く誘導され、貴族達に使われると危険だと、危ういと、拙いとラティは語った。
俺はふと、ラティの精神年齢に疑問を持った。
何処かのラノベのように、80代とかのお婆ちゃんが、”前世の記憶”を持ったまま転生でもしたのではないかと。
そんな怖い事を思い浮かべたのだが、よく考えたらラティは、主を30人以上変えてきた猛者である事を思い出した。
過酷な仕事で、様々な上司や雇い主と出会って来たようなものであり、歪な人生経験を積んできたからこその、大人びた思考と精神年齢なのだと。
――ふう、
ラティの精神年齢がお婆ちゃんレベルか、
俺がそんな感想を持ったってバレたら怒られるな……
俺はラティの尻尾を撫でていなくて良かったと思いつつ、そのまま耳を撫でながら彼女の話を訊き続ける。
「――ですから、今回のコトノハ様を連れ去るといったような暴挙を、勇者様を咎めなくてはいけない時に、それを咎める人が絶対に必要だとは思います」
「それが俺?」
「はい、ヨーイチ様でないと勇者様には勝てないですからねぇ」
「え?」
――へ? なんで?
別にラティなら余裕で勝てると思うんだけど……
ボッコボコに、
「あの、格下が相手なら何とかなるのですが、【直感】持ちが相手の場合、今のわたしの戦い方では通用しないかと、それに装備品の性能で押し切られる場合も」
「あ~~、【直感】か……」
――確かにそうか、
フェイントで裏を取る動きをしても、【直感】で防がれるのか、
あと装備品ってのは八十神のあの鎧か、
ラティの言いたいことが解った。
【心感】のあるラティなら、仮に相手が気配を読んだ動きをしてきたとしても、それを察知して逆手に取れる。
だが【直感】は、それらを飛び越えて、瞬時に反応してくる可能性がある。
そしてそれは、【心感】では予測が出来ない事。
「でもヨーイチ様なら、それらを正面から捻じ伏せてしまうでしょう、きっと今回も」
「いや、流石にそれは買いかぶり過ぎだろ」
ラティさんの過剰なヨイショに、一応は否定はしつつも、つい心が躍る。
そして、『いえいえ、本当のことです』と、俺の否定を否定する。
彼女は俺に、勇者を咎める者になれと言っているのではない。
ただ、俺が訊ねた問いに対し、彼女なりの分析による評価を述べただけ。
だからこそ、ぐわっと嬉しくなる。
惚れた相手に褒められるというモノは、とても心地良い。
特に愛している人にそう言われるのは……。
「…………」
「…………」
ふと会話が止まり、静寂が場を支配する。
そしてその静寂が、何となくだがある感情を呼び起こす。むくりむくりと桃色な思考が鎌首をもたげる。
なんら不思議な事では無い、昨日の今日であり、他の連中はみんな馬車の中で寝ている状況。
今、俺はラティと二人っきり。
会話が途切れれば、どうしても思考がそっちに行ってしまう思春期。
ラティの耳を撫でていた俺の右手が、すうっと不埒な動きを見せる。
彼女の脇下へと、誘われるように動いたのだが、俺の右手の動きを察したのか、脱力していたラティの身体が急に強張る。
「……」
――…………、
…………………………、
俺はラティのその反応に対し、そのまま進む事は出来ず止まってしまった。
少しの静寂の後、ラティがその沈黙を破る。
「あの、ご主人様。お聞きください……これも二ヵ月の間にあった事なのですが」
「ああ……」
ラティは俺の膝に頭を乗せたまま、俯いて表情を見せないで話し出した。
「実は、ご主人様に対し、恐らくボレアス側からでしょうか、多数の刺客が送られた様子なのです」
「っは!?」
「ノトスから離れ、一時は罪人として追われそうになっていたので……」
「なるほど、確かにそうか」
――そりゃそうか、
フユイシ家だったか? 確か俺を狙ってたよな、
ルリガミンの町でもひでぇ目にあったし、
「捜索をしている時は、色々と情報を集めていたので、予想だにしていない話も入ってきていたのです。この奴隷の首輪をそのままにしているのも、その理由のひとつです」
「ステプレの表示で、主が確認出来るからか……」
「はい」
( 俺が死んだら表示消えるもんな )
「あと、この奴隷の首輪が一種の身分証明にもなったのです。ノトスは問題無かったのですが、エウロスでは狼人が街に入るには、それなりの手続きなどが必要な場合もありましたので……」
「……なるほど」
( そういや、そうだった…… )
「あの、それで少し話を戻しますが、今もご主人様は狙われています。以前ほどではないのですが、少なくともノトスの街以外では危険があります」
「確かノトスの街だと、アムさんがその辺りは警戒をしてくれていたな」
「はい、そうなのです。ですから……あの、ノトス公爵家の離れ以外では……その、出来ましたら…………あの、控えて頂けましたら……」
「へ? えっと……何を?」
「特に……尻尾を撫でられながらですと……その、前後不覚になると申しますか、【心感】が全く発動出来ない状態に陥ってしまいまして……」
「えっ……ああっ!」
ラティはその理由を語った。
その声音は、何とか気丈に振る舞っている様子だったが、所々たどたどしく、顔は俺の膝に埋めるように隠し、明らかに恥ずかしそうにしてその訳を話した。
そしてその内容は、なかなか辛いモノになってしまった。
まず、ノトス公爵家の離れ以外では、色々とあるのでお預けとなった。
どうやら昨日の一件は、ラティにとって本当に不覚だったらしい。
ラティが言うには、俺がナントーの村に滞在したのはとても幸運な事で、ボレアスは当然ながら、余所の場所も結構危険だったのだと彼女は言う。
【索敵】や【心感】などの無い俺では、呆気なくやられていただろうと。もしくは魔法などで、無力化された可能性もあったと。
ラティと葉月が情報を掴めるように、あちら側もラティ達の動向を追っていた可能性があり、運が悪ければ、先にやられていたかもしれないと言う。
そして掴んだ噂話が、『槍で木こりをしている馬鹿がいる』
ラティ達には、これが俺だと分かったそうだが、あちら側には分からなかっただろうから、俺が無事だったのかもしれないと、そうラティに説明された。
俺は恥ずかしそうにしているラティを見て、『これはレアだ』思い、彼女の言うことを全て『うん』と肯いてしまい。
以下の要求に同意してしまった。
同時の尻尾撫では禁止(本当に意識が飛んでしまうらしい)
ノトスの街以外では禁止(刺客がいる可能性があるので)
休日の前日でないと駄目(次の日の戦闘に影響が出るから)
などを約束させられた。
そこまでしなくてもと、そう思ったのだが、ラティ曰く、『これはご主人様を守る為に必要な事ですので』と、押し切られてしまう。
その時にラティから教えて貰った内容で、今の彼女は、レベルが上がった恩恵なのか、睡眠中でも【心感】によって敵意を察知出来るようになったと言う。
だからこそ、昨日の不覚はラティにとって大きな衝撃だったらしい。
そして――
「あの、あと、本当に危険な人物がいたのです」
「危険な人物?」
「はい、凄まじい敵意を撒き散らし、わたしと同等の体捌きを見せた女性です」
「っはぁ!? ラティと同等って……」
――おいおい、なんだよソイツ、
ラティと同等って化物かよ、まさかソイツが……
「直接やりあった訳ではないのですが、たまたまその女性が乱闘をしている所に遭遇しまして、あまりのその強さに気になって【鑑定】で調べたところ、フォールベルと言う方で」
「フォールベル? 聞いたこと無いな」
「後日、わたし達が掴んだ情報の中に、フォールベルと言う刺客がご主人様を狙っていると知りまして」
「凄腕の暗殺者ってことか……」
「はい、既にノトスにもその事は伝えております」
――ラティが過剰に警戒をするのはソイツの所為か、
しかし、ラティが警戒する程って、どんな凄い奴だ、
「あの、ですのでご主人様。ノトスに戻るまでは……」
「ああ、分かった」
俺はラティにそう説得され、仕方ないので――
――よしっ
ノトスに戻ったら一週間のうち七日は休みにするか、
これなら問題ないっ!
俺はノトスに戻った時に予定を、心の中で固く決めた。
そして次は――
「ラティ、俺が逃げた後の……、あの廃村での事を教えてくれ。その時の言葉の状態とか葉月のことも。そして八十神の野郎の事も……」
「あの……ヤソガミ様の事も?」
「ああ、ちょっと引っ掛かってな」
その後、俺たちは。
夜が明けるまで、情報のすり合わせを行ったのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども。
親指の傷がやっと塞がりました!
ただ、爪から傷口の間の神経が切断されたままで、その辺りの肌の感触がなくなりました。
その為か、『に』『と』『を』『の』などの誤字が多くなってしまうかもですw




