表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

251/690

朱の証

遅れました。


あと、書籍化の打診が来た夢を見ました。

 昔、漫画や小説などから、『朝チュン』と言うモノを知った。

 

 初めて・・・の朝、スズメの囀りにより目を覚まし、そして隣を見ると其処には……。  

 

 そんな王道(テンプレ)


 だがそれは、嘘だった。偽りだった。妄想だった。

 何処の世界に、心底惚れた人が横に居るのに、そのまま寝れるのだろうか。

 俺には眠気などは一切なく、目も色々もギンギンだった。


「慣れると寝れるのかな……」


 そんな感想が口から零れる、そして俺は横に目を向ける。

 

 ( ああ……綺麗だ )


 俺の横には、心底惚れた人(ラティ)が、浅い呼吸を繰り返しながら横になっていた。ここはテンプレだった。

 


 俺はさっきまでの事を想い出す。


 昨日の夜は連敗続きだった。微塵にも勝ちが見えない戦い。

 だが俺は諦めず、必死にもがき戦い続けた。


 そしてそんな時、藁にも縋る思いで取った行動が戦局を一変させた。


 ”尻尾を撫でながら致す”。


 これにより、俺は勝利へと至った。

 そして心底惚れた人(ラティ)は、ぐったりとして動かなくなった。



 何とも言えぬ達成感に浸りつつ彼女を見つめる。細めの肢体は今も浅い呼吸を繰り返す。

 

 もう日が昇って来ているので、真っ暗だった室内は、今は薄暗い程度。

 柑橘系の果実を半分に切ったような、とても綺麗に整った双丘。

 横向きになっているにも関わらず、重力を無視でもしているかのように形は崩れていない。そして淡い朱色は、サイズは控え目ながらもぷっくりと自己主張をしている。


 ( ああ、理想が目の前に……)


 俺は昨日の夜、途中で耐え切れずソレに手を出していた。

 

 柔らかいだけではないしっかりとした弾力、それは指を押し返してくる程。

 だが本来であればそれはアウト。

 しかしラティは、それを受け入れてくれていたのか、首輪の色は赤のまま。


 ( もう一度…… )


 ぼんやりとした思考のまま、俺はその果実へと手をおもむろに伸ばしたが。


「あの、首輪の色が変わるかもしれませんよ?」

「っ!?」


 ベッドで横になっていた俺は、神速の(はや)さで起き上がり、そして流れるような動作で土下座へと移行した。


 勢いよく正座した時に、腰の辺りで『ぺちんっ』と音が鳴る。

 きっと今は俺は、人生でトップ3に入るほど情けない姿をしているだろう。


 因みに一位は、ソロプレイを母親に目撃された時だ。

 だが今は、そんな事を思い出すより謝る時。


「スイマセンっ! うっかりまた手を伸ばしそうになりました!」


 額をベッドに擦り付けて懇願する。

 何卒、何卒、お許しをと。


 俺が頭を下げて土下座をしていると、大きな布が擦れる音がした。

 その音がふと気になり、俺は面を上げると其処には、ラティがドレス姿で立っていた。


 正確に言うと、掛け布団にしていた厚めの白いシーツを、彼女は体に巻く様にして身に纏い、マーメイドドレスのような格好をしていた。

 そして手には、猥シャツをブーケのように持っている。


「あの、自分の部屋に戻ります」

「ああ……」


 ラティは俺にそう告げて、白いドレス姿のような恰好で歩いていった。

 

 俺はそれを呆けながら見送ったが、その歩き姿に違和感を感じた。

 ラティらしくない、下手・・な歩き方。


 重心はブレており、頭の高さも激しく上下しており、何か怪我でも庇っているような、そんな歩き方。


 ( あ! そうか……)


 俺はすぐに気が付いた。

 その何かを庇うような歩き方の訳が。


 そしてそれに気付くと、あり得ない程の達成感が湧き出してくる。

 甲子園で優勝を決めたとしても、高校サッカーで国立競技場での試合をしたとしても、きっと上回ることが無いと思える程の達成感。


「おおおおお……」


 俺は全裸で正座をしたまま、渾身のガッツポーズをする。

 全世界が俺を祝福している、そう思えてくる。今ならソロで巨竜を倒せる気がする。


「俺は、俺は……あっ」


 ガッツポーズをして天を仰ぎ、そのまま自然に目線を下げると、其処には証があった。

 処女雪のような真っ白なシーツに、朱色の証が存在していた。



 古来より。

 その証を切り取って神棚に奉納すれば、その後、その者達は幸せな人生が送れるという習わし。


 俺はその朱色の証を確保すべく、何かシーツを切れる物が無いか探す。

 そしてハサミかナイフなどを探していると其処に。


「あの、ご主人様。失礼します」

「へ、ラティ?」


 部屋を出て行ったラティが、部屋着に着替えて再びやってきた。

 戻って来るとは思っていなかったので、俺は全裸のままきょとんとしてしまうが、ラティはそんな俺などお構いなしにやって来て。


 ベッドに敷いてあるシーツをさっと引き抜いた。


「おわっ!?」


 当然ベッドの上に乗っていた俺はバランスを崩し転がってしまう。

 そして何が起きたのかと顔を上げると、ラティがシーツを回収(没収)し、そそくさと部屋を出て行こうとしていた。


 俺としてはシーツを持って行かれてはマズいので、咄嗟にラティを呼び止める。


「ら、ラティ! ちょっと待って!」

「はい、何でしょうかご主人様?」


「えっと……」


 いつものよりも深い半眼(ジト目)で見つめるラティさん。


――おぃぃいいい!

 なんて言って返して貰うんだ? 適当な事を言っても嘘はバレるし、

 だからと言って、『証が欲しいんですなんて』もっと言えねぇ…… 

 それにあの目は、完全に怪しんでんぞ、どうする、



 刹那の逡巡。

 俺は嘘にもならず、そして時間を稼げる言葉を選択する。


「ラティ、き、昨日はなんで突然……あんな……して……」


――乙女か俺はっ!

 どもるなよ……いや、でも気になっていた事だし、

 流石に最中は訊けなかったからな……



 俺は昨日の夜の事をラティに訊ねた。

 とても急な展開だったので、どうしても気になっていた。しかし、一から十まで流されるような形になってしまい、最後まで聞けず仕舞いだったのだ。


「あの、昨日のことですか?」

「うん、夜のこと……」


 ( すげぇドキドキする……)


「あの、それは……」

「それは?」


「貴方を取られたくなかったからです」

「へ? 俺が取られる? 何に?」


「では、失礼します。あとコレ(シーツ)は洗っておきますので」

「あ、うん。――えっ!? あ、ちょっとラティさんっ」


 ラティは取り付く島もなく、さっと部屋を出てしまった。

 まるで俺の目的が分かっているかのように。


「おおおおおおお……」


――持って行かれてしまった……

 神棚に奉納するご神体が持って行かれてしまった……

 いや! まだだ、まだ何か他のモノが残っているかもしれない!



 全裸で落ち込んでいた俺は、顔をきっと上げて行動を開始した。

 朱の証は無くなった(没収された)が、まだ代用出来る何かがないか探す事にした。


 まだ諦めるのは早いと、俺は己を奮い立たせ、そして立ち上がる。

 


 まだ薄暗い部屋の中を、俺は必死で探した。 

 まだ見ぬ希望を。


 しかし、薄暗い部屋での物探しは難航した。

 部屋が暗いうえに、何を探しているのか不明なのだから仕方ないだろう。


 昨日の夜も似たような事があったのを、俺はふと思い出す。


『くっ、ラティさん。暗くてシミが探せな――っぐ、ので”アカリ”をっ」

『あの、駄目です。MPがゼロなので』


『それ絶対に嘘だよねぇえええ!』


 ナイスアイディアだと思ったのだが、呆気なく却下された事を想い出す。

 そしてそんな事を想い出していると、おれががんがり始めた。


「拙い! 落ち着け俺。水面のような心を……」


 俺は目を閉じて精神統一を試みる。

 意識高い系でいうと、コンセントなんたらレーション。

 中二的にいうと、明鏡水の心境。


 すうっと心が凪いでいく。

 すると、気が付いていなかった事を気付く。

  

「そうだ、ステータスプレートの光で照らせば」

 

 落ち着きを取り戻した俺は、簡単な事に気付き、物探しを再開する。

  


名前 陣内 陽一

職業 ゆうしゃ (非童貞)


【力のつよさ】90

【すばやさ】 93       

【身の固さ】 91

【EX】

【固有能力】【加速】

【パーティ】



 ――――――――――――――――――――――――――――――――


  

 俺はステータスプレートを出して捜索を開始した。

 ケータイの明かりで探しているような気分。スマホのLEDライトほどの明るさは無かった。


 暫くの間、俺は必死に探したが、結局何も見つからなかった。

 そう見つからなかったのだが、先程からチラチラと気になるモノが見えていた。


 そして俺は、その気になるモノに目を向ける。



 名前 陣内 陽一

職業 ゆうしゃ (非童貞)


【力のつよさ】90

【すばやさ】 93       

【身の固さ】 91

【EX】

【固有能力】【加速】

【パーティ】



 ――――――――――――――――――――――――――――――――



「おおおおおおぃいい! ふざけんな! このクソステプレ!!」


 俺は手刀にて、青いステータスプレートを叩き割る。


「なんつーもんを表示してんだよ! プライバシーの侵害だ! 訴えんぞっ!」



 その後、何度かステータスプレートを呼び出しては割ってを繰り返したのだが、結局、(非童貞)の表示は消えてくれなかった。


 一瞬だが、ワガママ勇者の加藤瑠衣を探そうかと本気で模索した。

 しかし、一時的にステータスプレートからそれが消えたとしても、時間が経てば元に戻るので、それでは意味が無いと気が付き諦めた。


 

 要は気付かれなければ良いのだと。

 俺はそう思い直し、黒鱗装束と槍、そして木刀を装備して部屋を出た。


 廊下を歩きながら考える。俺とラティの関係を。

 お互いに愛していると宣言したのだから、彼氏彼女などの関係ではなく、これはもう恋人同士と言っても差し支えないだろう。

 

 だが、ちょっと見方を変えると、奴隷に手を出したクズ野郎にも見える。

 

「……これはまだ人には言えんな、うん隠そう!」  


 俺は取り敢えずそう決めて、泊まっていた男爵の館を出た。

 そしてその館の庭先では、すでに馬車への荷の積み込みや、その他の準備を終えていた。


「やっべ、もう出発か。全く手伝わなかったな……」


 俺は何も手伝っていなかったので、その気マズさから呟いていると、俺に気が付いたガレオスさんが話し掛けて来た。


「お、英雄のダンナ、起きるの遅かったなぁ。いま起こしに行こうかと……」

 

 ――ガッ!!――


「ガレオスさん? 何でいきなり俺を【鑑定】しようとしたんです?」

「ん? いや、何となくオレの【直感】が囁くんだよ、【鑑定】をしろって」


「っんな!?」


――マジかよ!

 【直感】ってそんな汎用性高いのかよ?

 もうちょっと戦いとか、生き死にを賭けた瞬間とかじゃないのかよ……



 俺は【鑑定】をしようとしていたガレオスさんの腕を、ガッと掴んでいた。

 両手を使ったのぞき窓さえ妨害すれば、【固有能力】である【鑑定】を防げるのだ。


 俺は誤魔化すようにガレオスさんに話し掛ける。


「が、ガレオスさん、遊んでいる暇は無いので急ぎましょう」

「ああ、ダンナの言う通りなんだが……今まで寝ていた奴に言われてもなぁ」


 そんなグダグダな事をしつつ、俺達はエウロスへ向かって出発した。

 ただ、クソジジイ(ギームル)だけは、元インカ男爵を連れてノトス()へと帰って行った。

 しかも、ノトス()での仕事が溜まっていると愚痴りながら。


 正直、そんな忙しいのなら出て来るなの一言だ。



 その後、俺は馬車の中で、言葉ことのは奪還作戦の説明を聞いていた。

 エウロスの街に入る為には、どうしても門でステータスプレートのチェックを受けるので、隠密的な行動は出来ないと。


 一応、こっそりと中に入る事は出来るらしいが、そうすると街中での行動に制限が掛かるので、その案は却下されたらしい。


 他には、白い毛玉を使った信用性も説明された。

 毛玉を使ったやり取りが、実はエウロス側ではないかと俺は勘繰った。

 しかし、その可能性が無いかと、ハーティが言い切る。

 

『このヨウちゃんが、言葉ことのはちゃんが不利になることする訳ないだろ』と。


 どんだけ毛玉が信用をされてんだと思う。



 その後も、説明と言うよりも情報のすり合わせが続き、そして――


「実はね、今回、陣内君を誘った最大の理由なんだが」

「うん? ハーティさん?」


「ギームルさんの案なんだよ、ギームルさんが言ったんだ……」

「……何をだよ」


 急に神妙な口調で語り出す冒険者ハーティ。

 俺は何か嫌な予感がした。

  

 昨日はラティと徹夜だったので、ボヤけた頭で話を聞いていたのだが、ハーティの普段とは違う声音に、言いようのない危機感を覚える。


 身の危険と言うより、それとは別な危険……。



「陣内君、ギームルさんは君に、ブレイヴカウンターになれと言っていた」

「へ? ぶれ? カウンター?」


「ああ、勇者と対する者(ブレイヴカウンター)……」

「……こっち(異世界)の用語か」


「ダンナ、勇者に敵対する者さ……それは一種の孤独な立場になる」

「ガレオスさん、孤独って……」


 ハーティの話に、熟練冒険者ガレオスさんも入ってくる。


「いいかいダンナ? 勇者様ってのは周りから支持されるもんだ。オレも実際にイブキの嬢ちゃんを支えている」

「うん私、かなりガレオスさんに助けて貰っているかな~、戦闘はこなせても、他の指揮とか組の運営は全くダメダメだからね」

「そりゃそうだろ、伊吹は普通の女の子だったんだし……って、それが?」


「ちょっと話が逸れたが、要は、勇者ってのは周りから支持をされるモンだ。で、勇者と敵対するヤツは、貴族連中や一般人にも嫌われる」

「ああ、そうだろうな……」


――ん? 何が言いたいんだ?

 全く意味がわからないんだけど……



「陣内君、ハッキリ言うよ。ギームルさんは君に、ボッチになれと言っている」

「はい?」


「時には、勇者達の目に余る行動を正す者が必要だ。だけどみんなそれを避けるんだ。義を持って勇者と敵対をしても、最終的には損をする事が多すぎるからね」

「いや、それよりもボッチって……」


「だけど必要なんだよ、勇者を止められる者が、そう……勇者を倒す事の出来る英雄が、――だがその評価と報酬はきっと理不尽な孤独」

「おい、俺の話を……」


ボッチ(孤高)()ヒーロー(英雄)になるんだ陣内君!」

「ぶざけんなあああ! 馬車を引き返らせろ! あのクソジジイ(ギームル)を殺す!」



 俺は馬車の中で叫んだ。だが、言葉ことのはの事を言われ、今はギームル抹殺を諦めた。


読んで頂きありがとう御座います。

ボッチの説明は次回あたりで。

あと、感想やご指摘なども頂けましたら嬉しいです。


誤字と脱字も……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] やっとくっついたなwww ラティナイスゥ! [気になる点] やっぱり無○転生をオマージュってほどじゃ無いだろうけどところどころ意識してる?
[一言] これ面白い❗本買う❗
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ