まわる新しい歯車
頑張ってまとめたつもり……
新章『狩られるもの――ふたりの○○――』の開始です。
俺は苛立ち、言葉の話を急かす。
――言葉が生きてる!?
いや、ハーティは生き返ったって言ってた、
まさか【蘇生】か!? いやこの際なんでもいいっ!
ほとんど掴み掛るような勢いで、俺はハーティに詰め寄った。
『はやく話せと』息まいて。だが――。
「陣内君、これ以上はここだとマズイ、馬車の中で話そう」
「え……?」
俺はハーティにそう言われ、彼が見渡す視界の先を追った。
その視界の先には、俺達のやりとりを、村人達が固唾を飲んで見守っていたのだ。
ギームルとの会話は、特定が出来るようなキーワードは避け、事情を知らない者にとっては理解が出来ない、主語が抜けたような形で会話をしていた。
北原は”奴”で、勇者保護法は”法”などで、伏せた感じで会話を続けていたが、そろそろそれも限界と感じたのか、ハーティは話を別の場所でと提案をしてきた。
「……わかった。ラティ行くぞ」
俺は何とか気持ちを切り替え、その提案を受け入れて移動をしようとすると。
「あの、ご主人様。こちらをお返しします」
「ああ、そっか。それもラティに預けていたか……」
振り向いた先には、ラティが俺の黒鱗面当てを両手で持っていた。
俺は彼女が、捧げるようにして持っている黒鱗面当てを受け取り、約二カ月ぶりにそれを装備する。
少々懐かしい感触の面当て、すると今度は、木刀を持っていない事が寂しく感じると、まるで俺の心でも読んでいたかのように、木刀がやって来た。
だが――。
「へ? 何で二人かがりで? なんのパントマイム?」
伊吹組の冒険者二人が、俺の木刀を重たそうに運んで来た。
まるで木刀の重さが100キロ以上ありそうな、そんな迫真の演技で木刀を持ってくる。
「何を遊んでんだか……」
俺は呆れつつそう呟きながら、その木刀を右手で掴み受け取ると。
「「「「――――――ッ!?」」」」
「え?」
感嘆とも取れる驚きの声が漏れた。
たかが木刀を掴んで持っただけなのに、ラティ以外の冒険者達は、明らかに驚きの声と表情を浮かべていた。
何か馬鹿にされているのかと、俺は少し苛立つが、すぐにラティがその訳を教えてくれる。
「あの、ご主人様。その木刀は誰も重くて持てなかったのですよ」
「え? なんでこの木刀が?」
ラティは突然不思議なことを言い出した。
重さ2キロも無い木刀が、重くて誰も持てないと言うのだから。
俺はなんのこっちゃと、木刀を軽く振り回す。すると再び驚きの声が上がる。
――何を驚いてんだ?
木刀なんて普通の剣より軽いだろうが、
俺がラティの言っている意味を掴みかねていると、葉月がやってきて。
「えっとね陣内君。ラティちゃんが言っていることはホントなの。なんて言ったらいいのかな~、まるで他の人に持たれる事を拒否するみたいに重くなるの、その木刀」
そんな馬鹿な? っと、思う一方で。
――いや、その可能性はあるか、
一応世界樹の木刀だし、もしかしたら……
って、今はっ、
少し思考に囚われたが、俺はすぐにそれよりも大事なことを思い出す。
「木刀の事は後だ、まずは言葉の件。ラティ、付いて来てくれ。黒鱗装束を取りに行くから」
「はい、お着替えをお手伝いします」
何処かしっくりとした。ラティが居て、そして俺の後ろに着いて来てくれる。
手にも木刀を持ち、身体から晴れるモノも感じる。
纏わりついていた見えない靄のようなモノが晴れ、例えるならば、黒いへその緒が取れたような謎の解放感。
完全に自分を取り戻した感覚。
そして『さぁ行くか』とした瞬間、今度は村人達の方から声があがった。
「す、すいません。彼は、ジンナイはこの村の者です、彼を何処かに連れて行くおつもりでしょうか冒険者様」
「へ?」
――俺を連れて行く?
何を言って……? 俺は、
俺が疑問に思っている中、突然に話し掛けて来た男、この村の村長はハーティやガレオスさんを見ながら話し続けた。
「彼はこの村にとって大事な存在なのです。ええ、彼が居なくてはこの村は成り立たないでしょう」
「そうだそうだ!」
「この村の守り人なんだ、ジンナイは」
村長の言葉に乗っかるように追随する村人達。
俺にとっては正直な所、『何事?』と思う展開である。
あまりにも身勝手な流れに、俺が呆気に取られていると、俺にとっては意外な人物が動いた。
「あの、貴方達は何を勝手なことを言っておられるのですか?」
「ら、ラティ?」
「この方はわたしの主です。そしてこの村の守り人ではありません。主は今から向かう場所があるのです。邪魔をしないで頂きたい」
ラティは俺の前に立ち、村人達から俺を遮るようにしていた。
先程も、『何事?』と思ってはいたが、今のラティの言動はそれを上回っていた。
「何を言い出すんじゃ! この狼人風情が」
「引っ込んでろ!」
「主だと? ならば主に従い此処に居れば問題無かろう」
「頼みます冒険者様。ジンナイはこの村に必要なのです、何卒、何卒」
村人達は、ラティの言葉に火が点いたように騒ぎ出したのだが。
「あ~~あ、ホントにこの村は変わってね~な」
「あれ? ラムザ?」
――コイツも来てたのか、
姿が見えないから居ないと思ってたけど、
地元だからテレて姿でも隠してたのかコイツは?
普段とは違い、少し悪態をついた感じで話に割って入って来るラムザ。
元村人、現在は冒険者、そんなラムザにどんな態度をとったら良いのか、村長は困惑した態度で対峙する。
「相変わらず村のことしか考えてねぇ。村に住む奴らの事を、村の為の道具か何かと思っていやがって。村長、アンタはジンナイを隠していたよな?」
「な、なんの事だ!!」
「この村には、何回か見回りが来てジンナイの事を聞いて回っていたはずだ。だけどアンタはそんな奴はいないって誤魔化したよな?」
「あ、え……それは……」
明らかに狼狽える村長。
完全にそれを肯定するかのように、村長は言葉を発せずにいる。
そしてラムザは、言葉に詰まった村長を畳み掛ける。
「いいか? ジンナイは一人で魔石魔物を苦も無く倒せる奴だぞ? それどころか、巨竜を相手にだって正面から挑むほどの馬鹿……す、凄い奴だぞ」
「竜!? そんなのを相手に……」
「それに、冒険者の中じゃ必殺とか、足狩りなんて二つ名で呼ばれているし、東ではボッチラインの名でも知られているんだぞ」
「ボッチライン……」
「孤高の最前線……だと!?」
「ボッチ……なるほど」
( コイツ拡散させやがった! )
その後も、懇々と説教染みた話をするラムザ。
この村は、この村の維持しか考えておらず、村人はそれを維持する為の道具で、それが嫌で村を飛び出したと彼は語り。そして、この村の維持の為に俺を利用するなと言い放った。
ラムザが村長を黙らせた後、俺は自分の荷物を回収し、リナとニーニャさんに別れの挨拶をして馬車へと乗り込んだ。
こうして、俺の逃亡劇は呆気なく幕を閉じた。
葉月に言わせると、はた迷惑な家出らしい……。
因みに、兵士を二人、村に残していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
バタバタとした状態で、俺は馬車に揺られ移動する事となった。
理由は時間が惜しいから。
俺は言葉が攫われたと聞かされた。
現在馬車の中には、俺とラティ、ハーティとギームル、そして伊吹とガレオスさんの6人。
聖女の勇者葉月は、どうしても外せない用事があるとかで、迎えに来た五神樹達と、中央へと旅立って行った。
今回の村に来たのも、かなり無理をして来た様子であり、最後に葉月は、『見つかって良かった』と、彼女はそれだけ言って、五神樹達を従えて去って行った。
ただ、何となくだが。
俺には、従えてではなく、囲われて連れて行かれているようにも見えた。
少し気にはなったが、今は言葉の方を優先させる。
俺は走る馬車の中で、更に詳しく事情を訊かされた。
言葉は蘇生した後、蘇生が原因なのか体調は良くならなかったらしい。
その結果、彼女は保護される形で、中央の城で養生をしていたそうだ。
だが其処に、聖剣の勇者である椎名秋人がやって来たのだと言う。
そしてその椎名は、ベッドの上で動けなくなっている言葉を、自分達、エウロスが保護すると言って、強引に連れて行ったと。
言葉の見舞いに来ていた勇者伊吹はその場に居合わせ、強引に連れ去ろうとする椎名を止めようとしたそうだ。だが――
「ごめん、全く歯が立たなかったよ。私は軽くあしらわれて、最後には大剣を真っ二つにされて負けちゃった……、だからこの剣は二代目なの」
「伊吹が軽くあしらわれたか……」
――伊吹は弱くないぞ、
って事は、椎名が強くなっているって事か?
もしくは対人戦に特化したとか……
その後も話は続いた。
言葉が連れ去られる時に、世話役をすると三雲が名乗り出たそうだ。
保護を名目に連れて行くのであれば、世話役を断れる訳も無く、椎名は言葉と三雲の二人を連れて、転移魔法で東に飛んで行ったと伊吹が教えてくれた。
これが、貴族が連れて行ったのであれば、勇者保護法が使える。しかし連れて行ったのは勇者。そうなると若干複雑になるらしく、下手に動けない。しかも――
「今回の件は、色々と複雑になっておる……」
「……どういう事だ、ギームル」
「今回は勇者保護法を使うと拙いのだよ――」
今度はギームルが話し始めた、今回の複雑な件を。
まず、下手に勇者保護法などを使うと、その対象がエウロス公爵家になるかもしれないと言う。
もし、このエウロス公爵家が潰れると、間違いなくボレアスがやって来ると。
そしてボレアスがエウロスまで攻めて来ると、位置的にノトスが危険に晒される可能性があり、なによりもパワーバランスが崩れるとギームルは指摘した。
保護法が発動すれば、処罰対象への略奪などが認められる。
だから本来であれば、公爵家はそんな迂闊な真似はしない、リスクが大き過ぎるのだから。
だがエウロスは動いた。
「……今回エウロスが無茶をしたのは、ワシの所為かもしれん……」
「ギームル、何でアンタの所為なんだよ、訳を言え」
「ワシが勇者保護法をひっくり返したからじゃよ。本来であれば死刑以外の選択などは無いモノを、無罪へとひっくり返したのだからな。……それにワシも降りたしの」
「なるほど……そう言う事か……」
「ハーティさん? どう言うこと?」
俺はギームルの言いたい事が全く分からず、理解した様子のハーティに訊ねた。すると返ってきた言葉は予想外のモノだった。
「ああ、陣内君。これは君が原因でもあるかも」
「へ? 俺? なんで……」
「……君が無実になったからだよ。要は鉄の掟が綻んだのさ、覆ることのない事が覆ったんだ、覆らないという前提が崩壊したんだよ。それでまた次もって思ったのかもしれないね。それに、今の宰相に就いたのはエウロスからの貴族だよ」
「――っあ!」
「ワシがもう少し詳しく話そう……」
ギームルが追加で補足をしてくれた。
要点を纏めると、今回の件は、勇者を使い言葉を保護という名目で攫い。
勇者のした事なのだからと、保護法を誤魔化し、宰相もエウロス寄りなので便宜を期待し、そして保護法が覆った前提があるので強気に。
だからと言って、他の公爵家を焚きつけて保護法を無理に発動させると、エウロスはボレアスに乗っ取られてしまう。
俺はこの時、『ノトスが取れば?』と言ったのだが、ノトスとボレアスでは戦力が違い過ぎて、弾かれるだけだと言われた。
そして当然、距離が一番離れているゼピュロスも出遅れるだろうと。
早い話が今回の件は、俺が無罪になった事がトリガーだった。
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