あれから
あれから~
いま私はアキイシの街へ来ていた。
ラティちゃんからの情報で、アキイシ伯爵に陣内君が気に入られていたと聞いたからだ。
もしかすると、アキイシ伯爵が陣内君を匿っているかもしれないと。
そう私達の見解では、陣内君は一人では生きていけない、そう判断したのだ。
だからきっと、何処かの村か街に身を寄せているだろうと。
あの時も、みんながそう判断していた。
王女様を救出して、北原君が陣内君に殺された日の二日後に――
陣内君が逃走した後、私達の意見は二つに割れた。
一つは、すぐに勇者殺しの追跡に向かうべきだという意見。
まだ今ならば、兵士達など大人数で探せば、その足取りを追って追跡出来るだろうと言うのだ。
この意見を強く主張したのは、兵士の大半と、八十神君と五神樹達。
そしてもう一つは、今は王女アイリス様を優先するべきという意見。
勇者召喚によって、完全にではないが魔力が吸われ、そしてその疲労からか気を失っている彼女を、まず最優先に考えるべきだという意見。
これは私と風夏ちゃん、そして宰相のギームルさんが主張した。
『ならば、部隊を二つに分けるべきか?』
そんな意見が出始めた時に――
『すまない、彼女を助けてくれ。まだ完全じゃないんだ、誰か回復魔法を――』
その場に現れたのは、三雲組の冒険者ハーティさんだった。
彼は、ぐったりとした言葉さんを抱えてやって来た。
陣内君と北原君の会話では、言葉さんは死んだと聞いていた。
ならばアレは嘘だったのかと、そう思ったのだが――
『え? その血の跡は…』
『ああ、言葉様は一度死んだんだ…けど、【固有能力】の恩恵か息を吹き返してね。だから頼む、僕の回復魔法だけじゃ追い付かなくてっ』
脇腹の辺りが血で真っ赤に染まった言葉さん。
もう陣内君の追跡どころではなく、王女アイリス様と言葉さんの治癒が最優先とされた。
中央の広場となっている場所に、風夏ちゃんが【宝箱】からお家を出して、その家の中に王女アイリス様と言葉さんを運び込んだ。
疲弊している王女アイリス様には安静を。
脇腹の怪我がまだ完全に治癒し切っていない言葉さんには回復魔法を。
そんな慌ただしい状況となっていた。
基本的に風夏ちゃんは、男の人を家にはあげない。
お家に招くのは女の子ばかり。
余程の信頼が無いと入れないのか、宰相のギームルさんは王女様の付き添いとして入れたけど、以前は入れていた八十神君を断り、霧島君とハーティさんまでも断っていた。
私が付きっ切りで言葉さんに回復魔法を掛けている間、男性陣は廃村を調べ始めていた。
他にも誰か潜んでいないか、他に危険な罠が無いかなどの調査を。
そして、救出したハーティさんからの情報の聞き出しも。
言葉さんが倒れていた場所に、不自然な死体らしきモノと、破壊された魔法陣のようなモノがあったと彼は語ったのだ。
この話を聞いた時に、宰相のギームルさんが反応を示し。
『もしかすると、他にも勇者召喚をしていた可能性がある』と、そう話した。
私が回復魔法を掛け終えた後、ハーティさんとその場所まで案内された兵士さん達が、赤黒い肉塊のようなモノを運んできた。
見ていると何故か嫌悪感が湧き上がる肉塊。
あまり凝視していると、吐き気が催してくる赤黒いモノ。
最初は気付かなかった。
だけど、頭の中の何処かでは気付いていたのかもしれない。
昔見たことがある布地。
そして最近は、全く見ていなかった布地。
それは――私達の学校の制服に似ていた。
そして学校の制服の残骸だった。
取れかかっていたボタンが一つ。
それが決め手となり、これは元の世界の学校の制服だと判断した。
もしかすると、これは北原君が着ていた制服かもしれない、そんな意見も出ていたが、北原君の遺体から回収されたモノの中に、ある人物のお財布が出て来た。
そしてその人の名前は後藤修二君。
彼は私達の同級生、そして最初の勇者召喚には居なかった人物。
本当の事は分からない。
だけど、陣内君は言っていた。
『アホか、コイツは人を殺してんだぞ、王女だって危なかった。それに‥コイツは言葉を殺した、もう理由はそれだけで十分だ。コイツを生かしておく必要はねぇよ』
最初は、その言葉の意味が深く解かっていなかった。
疑う訳では無いが、陣内君の言っていたことが全て本当の事だとしたら、この肉塊は後藤君であり、そして彼を呼び出す為に、誰かが犠牲になっているのかもしれないと。
この仮説が出た時、『信じられない』と言って八十神君は頭を振って否定していた。
風夏ちゃんと霧島君も顔を顰めていた。
そして霧島君が――
『陣内先輩なら、何か聞いているかもしれません。だって北原先輩と何か話をしていた様子でしたから…』
陣内君を探す理由が一つ増えた。
彼なら何かを知っているだろうと、みんながそう考えた。
そしてそんな中、奇妙な事が一つ起きていた。
それは世界樹の木刀の変化。
変化と言っても形が変わったのではなく、重さが変わっていた。
置いてある分には変化は無いのだが、人が持つと重さが変わったのだ。まるで持たれる事を拒否でもしているかのように、世界樹の木刀は重くなったりしていたのだ。
ほとんどの人が持つので精一杯で、しかも振りかぶろうとするとより重くなり、地面から離れれば離れるほど重さを増していった。
しかも持ち運びの為に、【宝箱】に収納しようとしても、それを拒否するかのように収納されない木刀。
今回派遣された兵士達の間では、結界壊しとも呼ばれ、そしてそれを使おうとしていた八十神君は、振り回す事の出来ない木刀を残念そうにしていた。
彼は、得意武器の項目に【木刀】が無いから扱えないと思っている様子だが、私は違うと思っていた。
根拠は無いが、きっと世界樹の木刀が使い手を選んでいる、そんな気がしていた。
それから二日間ほど、兵士達によって廃村の捜索が行われていた。
他に何か無いかと。
そして陣内君の奴隷であるラティちゃんは、風夏ちゃんのお家に保護となった。
顔は無表情を装っているが、きっと落ち込んでいるのだろうか、ほとんど口を開かず部屋で大人しくしていた。
兵士さんや、八十神君に五神樹の人達は、ラティちゃんが勇者殺しの事で何か知っている事は無いかと、そう尋問しようとしていたが、私と風夏ちゃんがそれを拒否した。
あの時、どう見てもラティちゃんは陣内君に置いていかれていた。
もしかしたら有益な情報を聞き出せるかもしれない。
だが、とてもそんな気は起きなかったのだ。彼女はとても傷付いている。
そんなラティちゃんに、陣内君のことを根掘り葉掘り聞くのは酷いと思ったから。
そして陣内君には、【宝箱】や他にも【固有能力】がほぼ無いことから、一人で何処かに潜伏して生きていけるはずは無いと結論づけ、地道に探せば見つかるだろうと、そう話が纏まった。
まずは陣内君を見つけて、事の真相を話して貰い。
最後には彼に、勇者殺しの罪を償って貰う。そう話が決まりかけた。
特に八十神君と風夏ちゃん、そして五神樹の人達がそう主張していた。
その主張に対して、私は待って欲しいと声を上げようとしていた時――
女神の勇者、言葉沙織さんが目を覚ました。
そして、彼女の口から語られた内容により、決まりかけていたモノが止まった。
言葉さんは、再び陣内君を庇ったのだった。
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