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ここちよいひと

メインヒロインの登場です。

 幼子は思う……。

 

 よくふれていたのがなくなた。

 ふれてくるものは、まだいっぱいある。


 でも、いっぱいのここちよい、ふれてくるのがなくなた。



 いちばんここちよくて、いちばんうれしいふれてくるのがない。


 みみとしっぽがさみちい。


 あのここちよいは どこ?






 



 ジンナイ様が居なくなってから一か月ほど経過した。

 

 その理由は、ラティちゃんとハヅキ様から聞いた。

 なんか色々あって逃げたそうだ。


 その色々とは、ラティちゃんの為らしい。

 二人がそう言っていた。あと、一応あたしの為にも。



 ジンナイ様はいつも無茶なことばかりをしているし、何故かよく落っこちる。

 それはもう馬鹿が付くほどに。

 歴代勇者様の遺した言葉に、『馬鹿が無茶をする』というのがあるが、まさにそれを表している気がする。


 そしてそんな馬鹿(ジンナイ様)を探しに、ラティちゃんとハヅキ様が一緒に捜索の旅に出て行ってしまっている。

 

 あたしも行くべきなのかもしれないが、ラティちゃんから、『モモちゃんの傍に居てあげて下さい』と言われ、あたしはノトス公爵家でお留守番中。

 それにもし、ジンナイ様がノトス周辺で見つかった時の為の戦力として。


 きっとすぐに逃げ出すだろうから、迷わずに捕獲して欲しいと言われた。

 だからノトスでお留守番。


 しかし、お留守番だけでは駄目なので、陣内組の魔石魔物狩りには参加している。

 ノトス公爵家から外に出るには誰かしらの保護者が必要なので、今日は狩りはお休みだが、普段は遠征から戻ってきたミズチさんと一緒に、深淵迷宮(ディープダンジョン)へと向かっている。



 ハーフエルフで奴隷という立場。

 ジンナイ様がいない今、あたし一人では外に行けない。

 ノトスの街なら平気だとは思うけど、外から入って来る人がこの頃急増しているから。


 街の人なら平気かもしれない。だが、街の外からの人が相手だと、理不尽なトラブルに見舞われる恐れがあるとららんちゃんが言うのだ。



 ここ最近、本当にノトスの街は慌ただしくなっている。

 最近ノトス公爵家にやって来た一人のオッサンによって、ノトスの街が急激に変わってきたとららんちゃんが教えてくれていた。そしてあたしもそんな気がしていた。

 

 ららんさん曰く、そのオッサンの働きにより、害虫のような奴らが駆除されたと。

 そして、駆除された場所に新しい人が流れ込んで来ているので、今のノトスは慌ただしいのだとららんちゃんが説明してくれた。

 


 詳しい内容は聞いていないので分からないが、きっと害虫駆除屋さんなのだろう。

 あの偉そうなオッサン・・・・・・・・は。

 

 おっかない目つきのオッサン。

 ジンナイ様とは違う、威厳のある厳しい目つき。

 どこかで見た事があるような顔立ちの人。



 あのオッサンが来てからしばらくの間は、ひっきりなしに豪華な馬車がノトス公爵家にやって来ていた。そしてみんな怒って帰っていく、そんな状況が続いていた。

 しかし二日もすると、青くなった顔をして再びノトス公爵家にやって来る。

 

 ららんちゃんが、『あの人(オッサン)は凄いのぅ~』っと、にししな笑みを浮かべてそれを見ていたのが印象的だった。



 そしてそのオッサンの影響か、ららんちゃんにも余裕が出来たらしく、前ほどアムさんのお手伝いをしなくてもよくなったそうで、空いた時間にあたしをお芝居に連れて行ってくれることが増えた。


 最近観に行ったお芝居は、『悪役令嬢逆転物語』と言うモノだった。

 脚本を作ったのはシェイクさんでは無いらしいが、あたし好みのスカっとする展開が多く、最後の逆転劇も良くてすっごく面白い劇だった。

 

 しかもそのお芝居に大満足して帰る途中には、『”狼人奴隷と主の恋”が近いうちに公演されるから、またお芝居行こう』と、ららんちゃんに次のお誘いまでも貰った。


 ららんちゃんは優しく、あたしのワガママをよく聞いてくれる。

 だけどその反面、変な物足りなさを感じる。

 なかなか通らないワガママが、なんとか通った時の達成感のようなモノが足りない。



「むむ~~、ジンナイ様はドコに行ったんですかね~です…」


 あたしはそんな愚痴を吐きつつ、ある部屋を目指す。

 コンコンとノックをしてから部屋へと入る。


「サリオお姉ちゃんが来たですよ~です~」


 ほへぇ?っと、いった感じで重そうな頭で振り向く二人。

 よく分かっていない顔をして、茶色の瞳を向ける赤子のラフタリナちゃん。

 

 そしてもう一人。

 茶色よりも淡い色をした紅茶色の瞳に、期待の色を滲ませてあたしを見る赤子のモモちゃん。


 しかし、あたしの姿を確認すると、『あぷぅ…』と、露骨にガッカリした姿を見せる。


「モモちゃんも、ジンナイ様を待っているのですねです」

「そうみたいなのよね。扉が開くたびに振り向いて…」


 乳母のナタリアさんがそうしみじみと語りながら、優しい手つきでモモちゃんの頭を撫でた。



 モモちゃんはジンナイ様を待っている。

 最初の三日ほどはそうでもなかったのだが、いつの間にか、扉を気にするようになっていた。

 それこそ、実の兄の事などは全く気にせずにだ。


 兄の狼人少年のロウは、熟練冒険者であるドミニクさんに付いて行き、ノトスの街の近く、【シータの村】へと派遣されていた。


 少数の魔物の移動が確認され、その報告を受けて派遣されたのだ。



 兄も、ジンナイ様もいなくて寂しそうにしているモモちゃんを慰めるべく、最近あたしは毎日ココへ訪れる。

 あたしの観たお芝居のお話を、二人の赤子に聞かせてやるのが、あたしの日課となっていた。


 そして今日も二人に聞かせる――


「モモちゃん、ラフタリナちゃん。今日のお話は『悪徳令嬢逆転物語』ですよです」

「サリオさん…悪役・・です、悪徳じゃありませんよ。それに、もう少し子供向けのお話を…」



 乳母のナタリアさんに注意されたが、あたしは『悪徳令嬢逆転物語』を話して聞かせるつもりだ。

 あたしのように大人な女性になるには、幼い頃からの英才教育が必要なのだ。

 ジンナイ様がいない今、あたしがモモちゃんをしっかりと教育する。


  

 こうしてあたしは。

 一歳ほどの赤子に、貴族達の黒い物語を聞かせてやるのだった。


 

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと誤字脱字なども…

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