斧が使えぬ
かなり短いです。
ちょっと…
オレの伐採作業に、一人の人員が追加された。
今、村で一番注目されている男、冒険者ジンナイが仕事を手伝うこととなった。
村で荷物運びなどをしていたが、薬草採取に来ているリナや他の者達の護衛として森に行くのだから、木こりの仕事を手伝ったらどうかと、そんな話が出たのだ。
魔石魔物を簡単に屠る腕力だ、きっと木こりとしての仕事も向いているだろうと、オレは5分前まで、そう思っていたのだが――
「っふあ!?」
「きゃっ!?」
手からすっぽ抜けていく斧。
先程から何回も斧を振り回しているが、一度もまともに当たっていない。
真横に振りかぶっているのに、何故か斧の腹の部分で木を叩いたりなどして、まともに木に当たらないのだった。
一言で言えばセンスが欠片も無い。
得意武器の中に斧がないのだからそれは仕方ないのだが、それでもやはり酷いモノであった。
せめてWSが使えれば、モーションがある程度固定されるので、両手斧WSの”フルスイング”などが使えれば問題無かったのだが――
「っぐ、駄目か…やっぱ斧の適正がないから…」
「槍は使えるのに、ジンナイさん」
斧が全く使えず、悔しさを声音に滲ませるジンナイだっただが、リナからの一言にハッとなって動き出した。
そして何を血迷ったのか、持ち出して来たのは例の無骨な槍。
確かに槍と呼ぶには大きく、幅も広く厚みのある穂先。
だが所詮は槍であり、突きを主体とする武器である。それを使って目の前の樹木を切断しようなどと――
――ッガ!!――
( は!? 何で斧より深く? )
――ッコカァ!――
( おいおい、何でそんなに簡単に… )
――ッガガ!――
( アホか… )
冒険者ジンナイは、腰の重心を下げて槍を短く持ち、力を込めて横に振りかぶったのだ。
下手な槍のスイングなら、刃が食い込むことなく弾かれるのだが、ジンナイの槍は深々と食い込み、たった3回で、幅80センチ近い樹木を切り倒したのだ。
しかも、WSを使用しない切り付けで、槍も刃こぼれなどする事はなく。槍とそれの持ち主、両方とも規格外の働きをみせる。
最初は斧が使えなくとも、切り倒した樹木運びを手伝って貰う、それだけでも十分に大助かりだとオレは考えていた。
だがジンナイは、槍で木こりとしての仕事をこなしたのだ。
「ジンナイ、あんた無茶苦茶だな‥」
「え、ええ‥よく言われてました」
「ニーニャさん、これでお仕事が捗りますね」
その後、森をはげ山にでもするような勢いで切り倒そうとするジンナイに、樹木は適当に切り倒すのではなく、選んで雑木を間引くように切るのだと教え、その日の仕事は早々に終わりを告げた。
因みに、これは後から聞いた話だが、この時に村へ二人の兵士達がやって来ていたそうだ。
ある人物を探していると言ったそうだが、それに対し村長は、『その人物は凶悪犯か何か?』と、訊ねたらしい。
そして――
『いや違う、危険人物などではない』との返答を受け。
『知らないな』と返事を返したそうだ。
オレはこの話を、妻のサーフから聞いた時にふと気が付いた。
村長はジンナイを手放したくないと考え、きっとジンナイの事を黙ったのだろうと。
彼の、村へともたらす安全と利益を秤に掛け、村長は兵士達にジンナイの事を話さなかったのだと。
冒険者ジンナイには何かある。
村の誰もがそう考えるようになった。
普通に考えて、それは当たり前のことだった。
単独で魔石魔物を倒すような男であり、槍で樹木を切り倒すほどの存在。
そして彼は時たま休憩時間の時に――
『なぁジンナイ、その手の動きは何か意味があるのか?』
『あ‥いえ、ただの癖のようなモノです…』
彼はそう言って右手を引っ込めていた。何処かとても寂しそうな目をしながら。
彼は、ジンナイは時たま何もない所を、撫でるような動作をする癖があった。
他の村人達は気付かないだろうが、猫人の嫁を持つオレには分かった。
アレは獣耳と尻尾を撫でる動作であると。
彼には一体何があったのだろうか。
読んで頂きありがとう御座います。
次回より物語が動くかもです? やっと彼女の再登場です。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。
あと誤字ご指摘も…




