黒いのが村へ
短くてすいません~
自分は慌てていた。
何故なら、”リナ”が一人で森へ向かったというのだから。
以前ならまだよかった。
だが今は状況が変わっていた。
今は、魔物が湧きやすくなっており、東からも魔物が流れて来ている。
噂では魔王の発生が近いから、それに合わせて、魔物の湧きが活性化しているのだと皆が言う。
それが本当かどうかは分からない。
だが、分かっている事はある、あの森も前みたいに絶対に安全とは言えないということだ。
リナは村にとっての切り札であり大事な存在。
村一番の器量よしであり、防衛戦などで訪れた冒険者や、ごく稀にやってくる元兵士などの強者を、ナントーの村に居つかせる為の存在。
そして自分にとっても。
自分は嫌な予感を感じ、森へと駆けだそうとしていると――
「あ、リナ‥良かった…」
村の入り口、頑丈に作られた木の塀に囲まれた村へ入る為の正門に、彼女は居た。
活発な彼女にピッタリな、明るい茶色のサイドポニー。
誰もが好感を持つであろう、愛くるしいタレ目と無邪気な笑顔。
身体の線は細いが、きゃしゃ過ぎずに健康的な体型。
そして淡く可憐であり儚げで慎ましく抑えて控えめな一部分。
自分の知っているリナは、無事に村へと帰って来ていた。
『良かった』と、そう彼女の無事を確認して自分は大きく息を吐く。
息を吐いてリラックスすると、無事を確認出来た安堵からか、狭くなっていた視界が広がった感じがして――
「――ッ!? 横に黒いのがいる?」
一瞬『まさか魔物か?』と、心の中で呟いてしまう程の存在。
自分は急いでリナのもとへと駆け寄り声を掛ける。
「リナ! 一人で森に行くなとアレほど言ったのに‥」
「ごめんなさい、ベオルフさん…」
自分の諌めに、しゅんとした態度で己の非を認め、素直に謝るリナ。
自分の心は、そのリナの姿に溜飲が下がると同時に、ある罪悪感が湧き上がる。
少し前に、護衛と称して彼女と共に森へと向かい、そこで自分はリナに迫るような真似をしてしまっていたのだ。
そんな事があった後に、彼女が自分を頼ってくるはずなど無い。
彼女は断ったのだから。
自分はあの幼馴染だったアイツのようにはなれなかった。
湧き上がる罪悪感に蓋をして、隣にいる男へと目を向ける。
「リナ、彼は? 村の人じゃないようだけど‥まさか冒険者?」
「はい、ジンナイさんって言う方です。すっごく強いんですよ! 私が魔物に襲われた時もパァ~っと倒しちゃったんですから――あっ!」
閑話休題
リナが連れて来た男は、ジンナイと言う冒険者であった。
ステータスはともかく、身に纏う雰囲気とその手に持つ無骨な槍。
素人目にも彼はただ者ではないと、一目でそう思えた。
浮かない表情のままの冒険者。
無表情という訳ではないが、どこか大事なモノが抜け落ちてしまった。
そんな印象。
目は虚ろで力なく、彼の目を見ながら話をしていると、言いようの無い不安感に襲われ、自分はジンナイと目を合わさぬように彼と会話を行った。
しかし意外にも、会話をしてみると横柄な感じもなく粗暴でもない。
どちらかと言うと謙虚な態度。
ジンナイは、あまり冒険者らしくない男だった。
そしてあれよあれよと話は進み、リナの紹介もあって、冒険者ジンナイは村に住むこととなった。
防衛戦用の、冒険者達が寝泊りする為の予備の小屋を彼に貸し与え、食料なども、村の備蓄から配分することとなった。
ジンナイはそれに感謝し、村の護りを引き受けてくれた。
普段は村の仕事の簡単な手伝いをこなしつつ、魔物が出ればそれを討伐してもらう。
それが彼の村での役目となった。
それから十日が経過した。
そしてある日を境に村人達は、一番容姿が良くて性格も良い村娘のリナを、冒険者のジンナイとくっつけようと画策し始めた。
食事などの届け事は全てリナに任せ、薬草採りの護衛もジンナイに任せて同行させていた。
自分にとってそれは、決して面白い事ではない。
だがそれに異を唱えるのであれば、自分は強さを示さねばならない。
彼の代わりが出来ると、ジンナイのように魔物を屠り、村を守ることが出来ると示さねばならないのだ。
そう、ジンナイのように。
彼は突然現れた魔石魔物級の魔物を、たった一人で、単独で倒してしまったのだ。
本来であれば絶望的とも言える状況であった。
魔石魔物級の魔物は、村人がいくら束になっても勝てる訳もなく、排除するならば、冒険者ギルドに魔物討伐の依頼をして、金貨5~10枚を報酬として支払い倒して貰うしかないのだ。
だがそんな魔物が村のすぐ傍まで来ており、討伐依頼などは絶対に間に合わない、『もう村を捨ててでも逃げるしかない』そう思っていたのだが。
彼は、なんの躊躇いも無しに前へと征き、村の傍まで迫っていた巨大なトカゲ型の魔物を苦も無く倒してみせたのだ。
ジンナイが強いとは、リナから聞いていた。
”強い”と聞いてはいたが、冒険者達がパーティを組んで討伐するような相手を、たった一人で倒すとは予想だにしていなかった。
この一件により、村は別の意味で殺気立った。
彼を逃してはならないと。
そしてそんな中、自分はある事に気が付いた。
ジンナイがあるモノを、よく目で追っているという事に。
村に住む猫人のサーフさんの耳と尻尾をよく見つめているのだ。
猫人のサーフさんは既婚者であり、ニーニャという背の低い木こりの夫が居る。
最初は、『これはマズイ』『彼はケモナーか?』と、思っていたのだが。
ジンナイの目には、思慕といった恋愛的な感情はなく。サーフさんの猫耳と尻尾を通して何か別のモノを見ているような気がしていた。
そしてそれが理由なのか、彼はリナに対して手を出すような事はなく、村人たちをヤキモキさせたのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字も‥




