げっつ!村へ
短くてすいません~
私は手早く薬草を採り終え村への帰路に着く。
行きは一人で、そして帰りは二人で。
「あ、あのぅ…すいません、もう一度お聞きしてしまうのですが、本当になんであの森に居たのですか? 道に迷って迷子になったって言っていましたけど…」
それは大事なことだった。
あの森は、ナントーの村にとっての生命線とも言えた。
他の村や町からはそれなりの距離はあり、あの森に行くはナントーの村人だけ。
だが、あの森の有効性が知られて、他の村などから人が押し寄せて来たりすると、それは死活問題に発展するかもしれないのだ。
魔物が湧かない森は、安全な伐採にも向いていて、しかも貴重な薬草もよく生えており、あの森は、ナントー村の生活資源となっているのだ。
だからこそ私は、その確認をもう一度取ってしまっていた。
私の隣を歩く男、ジンナイと名乗る男は、どこか欠落感を漂わせる、そんな寂しそうな表情を浮かべながら肯定の言葉を口にする。
「ええ、本当に迷っていただけです…」
力ない声音でそう語った。
ただ、小さく消え入りそうな声で、『人生に…』と、続きが聞こえた気もしたが、あまり掘り下げるとマズイ気がしたのでそれはスルーした。
一応こっそりと【鑑定】もしておいた。
名乗った名前に偽りがないか、用心するに越したことはないので。
ステータス
名前 陣内 陽一
職業 ゆうしゃ
【力のつよさ】90
【すばやさ】 93
【身の固さ】 91
【EX】『武器強化(中)赤布』
【固有能力】【加速】
【パーティ】
――――――――――――――――――――――――――――――――
名前は偽っていなかった。
しかし、一度も見た事のないステータス表示に私は――
『やっぱり黒目ありの魔物!? 私、犯されて食べられて殺されちゃう!?』
『ええ!? えっと特別なステータス仕様なのです…ええ、呪いにかかって…って、だから俺は人間ですって、どう見たら魔物に…』
そんなやりとりがあった。
だが私は悪くないだろう、あのステータスプレートがおかしい。
そして私からの質問の後、黒い人からある質問をされた。
「あの、さっき叫んでいた、”黒目ありの魔物”ってどういう意味ですか?」
「あ‥えっと、ですね ――」
私は彼に”黒目あり魔物”のことを話した。
人のように黒目がある魔物の噂話を。
ただ人を襲うだけの魔物が、まるで人の意思が宿ったように振る舞い、他の魔物達とは明らかに異なる行動を取る魔物の噂話を彼に語った。
話し終えた後、返ってくるのは嘲笑か否定。
もしくは、相槌のような曖昧な感想でも返ってくるものだと、そう私は思っていたのだが――
「‥‥‥あの森にいたのは‥まさか…」
彼は神妙な面持ちで、ぼそりとそう呟いていた。
そんな彼を、私が不思議そうに見つめていると、『いえ、なんでもないです』っと言って距離を取られてしまった。
彼と距離を詰めるつもりはないが、私は彼に、良い印象を持ってもらいたいと思っていた。
助けて貰った時もそうだが、このジンナイと言う冒険者はとてつもなく強かった。
森へ行く時に見かけたトカゲ型の魔物を、彼は何気なくあっさりと倒したのだ。
村の男達も、村に魔物が近寄った時は勇敢に戦う。
だがそれは、村人複数で囲んで戦うのだ。
しかし彼は一人で正面から挑み、一撃で魔物を黒い霧へと還していた。
迫りくるトカゲ型の魔物に対し、彼は一切動じることなく、スッと槍を突き出し魔物を串刺しにして倒したのだ。
まるで呼吸をするように、それぐらいの自然体で。
見方によっては、魔物から槍へと飛び込んだようにも見えるぐらい鮮やかに倒していた。
私はその光景を見て、彼が村に居ついてくれないだろうかと考えた。
彼が村の護り人となってくれれば、最近物騒になっていた村の周辺が安全になるのではと、そう考え着いたのだ。
そんな事を考えつつ彼を観察する。
彼は迷子と言っていた。
だが、迷子と言っても文字通りの迷子ではなく、何か別のモノだろう。
道ではなく他の何か。
それを掘り下げると、きっと彼は去ってしまう。
閑話休題
私は彼の観察を継続しつつ、何気なく話を振っていた。
このジンナイと言う人は、少し珍しい装備をしていた。
吸い込まれてしまいそうに感じる程の、そんな漆黒の板を張り付けた布地の装備。
素人目には、動きやすさを重視した装備に見える。
ただ、黒い板の部分以外は、黒だったり、その黒が色落ちしたような濃い鳶色との斑模様あり、少しみっともない感じがした。
そしてその見た目の印象は悪い人。
人間としての見た目は、どう見ても悪い人。
特に目つきの悪さは、”すでに二桁は殺している”そんな想像をかき立てる目つき。
最初に会った時、『目つきが凄くて、魔物と勘違いしました』と、思わず言ってしまった私に彼は、『昨日から寝ずに走り続けたので』眠気からちょっと目つきがどうのこうのと言っていた。
しかし話をしてみて解かる。
彼は、人としては悪い人では無いと。
「3年ほど前には、村にも護り人が居たんですよ。ただ、ビッグになる? なんか大きくなりたいから村を出るって言って、そのまま村を飛び出して行ったんですよ」
「ああ、冒険者に?」
私は少しでも良い印象を持って貰う為に、少しばかり自分の事も話していた。
「そうです。幼馴染だったんですけどね、そのラムザって言う――」
「――ッ!?」
「あれ? どうしたんですか?」
「いえ、なんでもないです。ただ、多分ですけど‥きっと大きくなりたいじゃなくて、大きいのが好きで村を出たんじゃないかな~と思いまして‥」
「はぁ‥?」
私は彼のあやふやな言い方に、言葉と首を傾げた。
ただ気のせいかもしれないが、なんとなく胸元にちらりと視線を貰った気がしたが、きっと絶対に気のせいだろう。
そうでないと駄目な気がしたのだ。
そんな会話を交わした後に、私は彼に思いを告げてみる事にした。
村に暫くの間、滞在してみたらどうですか?と。
もし上手くいけば、彼が護り人として村に居つくかもしれないと、そんな淡い期待を込めて彼に告げる。
「あの、ジンナイさん。宜しければ暫くの間、村に滞在してみてはどうですか? 正直に言いますと、最近魔物が多くなっていて不安なのです。もう少しすれば魔物の湧きが収まると聞いていたのですが、なかなか収まらず不安でして…」
私は、歴代勇者の格言で言うところの、『女は度胸で直球を投げろ』を実践してみた。
詳しい内容は知らないが、男には正面からしっかりと誤魔化さずに告げないと、それはなかなか伝わらないという意味らしい。
そしてその格言が正しかった事を知る。
「…いいですよ、俺も助かりますし…」
僅かな逡巡の後、彼はそう口にした。
私は密かに心の中でガッツポーズを取ると同時に、何故あの時も、幼馴染にコレをしなかったのかと深く後悔をした。
( ラムザ今頃なにをしているんだろう… )
こうして私は、彼を村へと連れて行ったのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字も‥




