黒い目をした魔物
沢山の感想コメントに、書き溜めを止めました!
連載再開です!
私はいつもの日課となっている、薬草採りに外へと出かけた。
【ナントーの村】から歩いて、約10分程の距離の場所へと。
最近では東から魔物が流れて来ていると、そんな物騒な噂話が流れていた。
そしてその噂話は、ナントーの村では本当の事となっていた。
実際に襲われた人が増えていたのだ。
流石に、命を落とすとまではなっていなかったが、それなりの怪我をしてしまい、結果として薬草不足という状況が続いていて――
「はぁ~、今日は沢山採れるといいなぁ‥」
私は少し憂鬱になって、思わず独り言を呟いてしまう。
普段なら、そんなに苦労することなく採れていた薬草が、ここ最近はあまり生えておらず、薬草を探すのに苦労していたのだ。
「うう、魔物がいる…」
遠目に見える距離に、トカゲ型の魔物が一匹うろついていた。
ある程度近寄らない限り襲われはしないが、どうしても視界に映るので、私は気になってしかたなかった。
本来であれば、ナントーの村を治めるノトス側のインカ男爵様が、しっかりと討伐隊を定期的に派遣してくれれば良いのだが、ここ一年間それが全く行われていなかったのだ。
「ちゃんと距離を取れば平気だよね…」
私は魔物に怯えつつ、周囲をきょろきょろ見渡し警戒しながら目的の場所へと向かう。
「他の村みたいに、勇者様が来てくれたりしないかなぁ~。それか、アイツが…」
今の村の状況に、つい愚痴のような願望を呟き、そして村を出て行ってしまった幼馴染のことを思い出す。
『ボクはビッグになる』そう言って村を飛び出した幼馴染。
村人として生きていくのではなく、冒険者になるのだとそう宣言して、ナントーの村を飛び出して行ってしまった彼。
幼馴染は強かった。
扱える武器の種類も豊富で、剣や大剣なども扱えて、確かに村人らしくなかったかもしれない。
だけど、村に残っていて欲しかった。
そして、村を守って欲しかった。
そして、私を――
思考が脱線し始めた時に、目的の場所へと辿り着いた。
辿り着いた場所は、鬱蒼と茂る森。
決して広い森ではないが、この森には薬草などの貴重な植物が多く群生しており、しかも、魔物が湧かない場所としても知られていた。
何故か魔物が湧かない場所。
何か特別な理由があるのかもしれないが、村にとっては大事な森である。
「ふぅ~、さて、探しちゃうかな。他の人に取られてないといいけど…」
私は森の中に入ってから大きく息を吐く。
この森ならば安全地帯。
鬱蒼と茂る草木が視界を遮り、魔物に発見される可能性がグッと下がるのだ。
張りつめていた気持ちが緩む。
そして――
「あ! 薬草が沢山生えてる!」
私は運よく発見した薬草の群生地帯へと駆け寄る。
そこに生えている薬草をすべて採れば、今日のノルマを達成出来るのだから。
弾む気持ちのままに駆け寄ったのだが――
――ガサリ――
草木をかき分ける音がした。
犬か猫か、もしくはアルパカと呼ばれる、少しイラっとする顔つきの馬のような動物かな?っと、音のした方へ顔を向けると、そこには。
「っきゃあああああ!?」
そこに居たのは、”ヤミザル”。
黒い靄のようなモノを纏い、手の長い人型の魔物。
トリッキーな動きから、鋭い爪を振るい村人などを襲う厄介な魔物。
決して強い魔物ではない。
しかし、ただの村娘が勝てる相手ではなく、襲われればひとたまりもない相手。
「ああ‥あああああ…」
油断したという気持ちと、何故この森に魔物が、という思いが湧きたつ。
完全な不意打ち。
私は魔物の射程に入ってしまっていた。
両手を大きくかがげ、鋭い爪で引っ掻く動作に入るヤミザル。
私が恐怖に動けない中、そのヤミザルは爪だけではなく、他のモノまで生やして襲ってこようとした。
ヤミザルの胸元から、禍々しい刃のようなモノを生やしたのだ。
爪だけではなく、新たに生えた刃のようなモノを利用した、抱擁のような抱き着きをもらえば、完全に串刺しとなり私は死ぬだろう。
もう助からない、そう覚悟した瞬間――
「え‥!?」
音も無く、ヤミザルが黒い霧となって霧散したのだ。
「え? え!?」
あまりの出来事に、状況が上手く掴めないで呆けていると。
新たな危機が訪れた――
「――っひい!?」
ヤミザルの胸から生えていたモノは、ヤミザルのモノではなく、そのヤミザルの後ろにいた黒い人型の魔物の武器であった。
先程のヤミザルとは比べ物にならないプレッシャー。
人しての生存本能が、『諦めろ』と囁く。
目の前にいる魔物は、絶対的な捕食者。
万が一にも助からない、本能が私にそう宣告する。
さっきは鳴らなかった奥歯がガチガチと音を立てる。
こちらを睨む、ドロリとした黒い瞳が私を容赦なく射貫く。
その黒い瞳に、唐突にもあるうわさ話を思い出す。
魔物の中には、人の意思が宿った魔物がいるという、そんな眉唾な噂話。
曰く、器量の良い女性が、犯されてから襲われ殺された。
曰く、他の人間は一切襲われず、悪徳商人だけが襲われて殺された。
曰く、ある人攫いの一団が、一夜にして壊滅させられた。
そんな噂話。
本来、魔物は全て白目である。だが稀に、人と同じ瞳孔を持つ魔物がいるのだという。
そしてその瞳孔持ちの魔物は、人を襲うしかしない魔物とは違い、何か、人の意思のようなモノを持って行動をするのだという。
そんな噂話を不意に思い出した。
そして、それがさらに恐怖を膨れ上げさせる。
人として襲われるだけではなく、人して襲われる前に、女性として襲われ、そしてその後に殺されてしまうかもしれないという可能性に。
清いままで死にたいとは思わない。
だがこれは違う。
嫌だと感情が叫ぶが、本能が酷く怯え、声が一切出なくなる。
もうどうしたら良いのか分からなくなり、私はただ立ち竦む。 ――と、その時。
「あの、すいません。ちょっと迷ってしまって‥」
( ああ、喋った、やっぱり人の意思持ちの魔物だ‥ )
「えっと、怪しい者ではありません、」
( 怪しいとか、そんなぬるいモノでは無いのですね。わかります )
「あの、聞こえていますか? 出来れば村か町まで案内して欲しいのですが」
「え…?」
「ちょっと迷子になってしまいまして…」
私の目の前に立っていたのは、魔物ではなく人であった。
黒と鳶色の斑模様をした装備を身に着けた冴えない男。
槍持ち冒険者が立っていたのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
これからも、この物語にお付き合い頂けましたら有り難いです^^
引き続き、感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども…




