戦場
話が長くなったので分割ッ短め
南ノトス領を目指して二日目
早い時間から馬車を走らせる、途中休憩を挟みつつ、特に問題無く進めた。
昨日の夜から葉月がこちらに何か言いたげに、見つめる事が多くなった。
理由は何となく分かる。
だが俺は、それに目を合わせないようにしてあえて避けていた。
「あの、ご主人様宜しいのですか、葉月様が」
「‥‥ああ」
当然ラティも気が付いているみたいだ。休憩ごとに葉月が近寄ってくるのだが、俺が避けているのをラティに察せられているようだ。
そのまま夜の夜営の時間も、ラティとサリオは勇者組の家にやっかいになっているが、俺はそれでも葉月を無視し続けた。
三日目の出発前には、葉月からの話し掛けたそうな空気、そしてそれを見ている橘が機嫌を悪くするという、そんな険悪な空気の中で出発する事になった。
そしてその日の夜。
いつもと同じで荷馬車で寝てると、葉月がやって来る。
その行動は正直意外だった。が――
「あの、陣内君が呼んでるってラティさんに言われて来たんだけど」
「ああ、ラティがか」
ラティが気を使ったのか謎だが、ラティが葉月を俺に向かわせたようだった。
結果、俺は避けられず、葉月と話す事になる。
「たぶん、ラティがお前の態度を見て嘘でもついたんだろうな」
「うん、そんな気がしてたかな」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
短い沈黙の後に、ぽつりと葉月が呟く。
「ごめんね」
「‥‥‥‥」
俺は何も言わない。
「私が‥‥、ううん、今はそれだけで」
「‥‥‥‥」
「それじゃぁ、お休みなさい」
それだけ言って、葉月は戻っていった
( ズルいだろ!取り敢えず葉月の件は許すしかないよ )
大人気なく怒っていた俺が、酷くカッコ悪く感じてくる。
拗ねて無視した俺が悪いんだろう。
大規模戦闘前に、変にギクシャクしなくて良かったのだろう。
――情けねぇ、ラティにフォローされてたのか俺は。
なんか、心のモヤモヤが段々抜かれてる気がするな。
でも!あの二人を許す気はねえけどな…八十神…橘…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少し心のモヤモヤが晴れた四日目。
出発してからすぐに目的のノトス領に入った。
遠くに陣営っぽい物が見え、領地の騎士団と兵士が集結してるようだった。
ただ、冒険者達が少ないように見えた。
今回の戦闘はどのような事をするのかラティに聞いてみると、ラティ自身は経験無いが、多分柵か何かで防衛ラインを引いて後ろに通さない様に戦うのだろうと教えてくれた。
ラティには昨日の葉月の件といい、お世話になりっぱなしである。
見たことが無い果物の畑を越えた先に、大小の天幕が設置された場所が見えた。ただ柵らしき物やバリケード類は見えなかった。
「あの、もしかしたら、ここじゃ無くてもっと先なのかも知れませんねぇ」
「ああ」
「サボってるだけだったりして」
サリオが何となく不吉な事を言っていたが、俺達は天幕が設置されてる本隊らしき場所に向かう。
本陣天幕前では、今回の防衛戦に参加に来た冒険者達を割り振っていた、中には商人もいるらしく商人は別の場所に行くよう指示されていた。
勇者達はその身分を明かすと、歓迎されながら一番質の良さそうな天幕に案内され、そして俺達の番になったが。
「ふむ、なるほど悪くないな」
「俺達もあの天幕でいいのですか?」
冒険者の割り振りを担当している髭を生やした中年の隊長らしき男は、俺達を値踏みするように見ていたが、顔を下卑た表情にしながら、俺の地雷を踏んできた。
「小さい方は俺の趣味じゃないが、そっちの【狼人】は俺がチェックしてやるからこっちに来い。ここで仕事がしたいんだろ?赤首輪だけど問題無いんだろ」
「――ッ!!」
俺はラティを隠す様に前に立ち、ラティは俺に隠れる様に後ろに下がった、そして俺は下卑た男を睨みつける。
何が言いたいのか解った。
【ルリガミンの町】ではもうラティに絡む馬鹿はいなくなったが、久々に【狼人】奴隷だからと見下して接してきた相手だったのだ。
だから俺は軽蔑した眼差しで睨みながら言い返す。
「違げぇよ!俺達は防衛戦の急募で仕事に来たんだよ」
「ああ、戦闘用奴隷か、それよりも、」
まだ下衆な話しを続けようとする男に、俺はぶん殴ってやろうと思い少し重心を下げて構えると――
「すいません!その人達は私達の仲間です」
「‥葉月」
「聖女様!?」
「仲間ですので、きちんと同じに扱ってください」
どうやら葉月は、俺達をずっと見ていたようだ。
俺と隊長の間に不穏な空気を感じて飛び出してきたそうだ。その後は普通の冒険者用の天幕に案内され、今回の戦いの説明を受けることになった。
ただ、俺とあの髭の隊長はお互いを敵と認定しあった。
説明で聞いた戦闘場所は、東側に広がる大な森の手前側であった。
大きな森から1㌔もしないで畑に着くので、森から100㍍あたりを戦闘場所にして畑を守る形になる。
簡単に言うと、森から出てきた敵を待って叩くだけの作戦。問題は敵の集まり具合が森で見えないので、ある程度防衛ラインを長く取ることになる。
その説明が終わった辺りで、領主様からのお言葉があるので集合をして欲しいと連絡が来た。集合場所ではすでに騎士達が整列をしていたが、少しだらしない感じの印象だった。
その後は領主から、この防衛の指揮総大将は息子のヴェノムが、騎士隊長はデウスと宣言をしていった。ちなみにデウスは先程俺と言いあったあの髭野郎だ。
あとは、斥候からの情報を待ちの待機と言うことになった。
戦場の空気に似つかわしくない容姿のサリオが、俺に訊ねてきた。
「ジンナイ様、取り敢えずは指定された配置の近くでノンビリしてれば良いのです?」
「そうだな、指定された場所いって待機しとこうか」
「あの、私達は左の端のほうですねぇ」
そして、移動してから2時間後に斥候から第一波が来ると報告が届いた。
それと戦場の防御柵は作られていなかった。
なんとサリオの予想通りサボリで作らなかったらしい。
因みに、その指示を出したのは息子のヴェノムだった。
「ちょっと心配になってきたな」
「あの、わたしも少し不安になってきました」
「うんうん、なんか騎士様たちもビミョーだしねです」
などと愚痴を言いながら魔物を待ち続けると、カゲザルやカゲロウなどの黒い靄を纏った魔物が森から溢れ出てきた。
そして防衛戦が始まった‥‥ 皆が楽しそうだった。
「剣WS”スピヴィス”」
「斧WS”ナブラ”」
「大剣WS”シルブレ”」
騎士や冒険者がWSで敵をなぎ払って行く。
特に勇者の八十神は一度の3~4匹を吹き飛ばすWSを放っていた。
「さすが勇者殿だ!」
「我々のWSとは格が違う」
「さぁ我らも勇者殿に負けてられませんぞ」
俺から離れた場所でスーパー勇者タイムが始まっていた。そして俺の前では、ラティ無双が始まってた、森から溢れ出る魔物を一人で首を刈り取っていく姿はまさに無双状態であった。
そんな中、真打の俺は、ラティが気を遣って時々1匹づつ魔物を俺の方に逃してくれる、それを「エイエイ」と槍で突くだけの作業だった。
ラティの気遣いが逆にとても辛かった。
( あれ?俺いらなくない? )
大量の魔物を相手にする時は、複数を同時に攻撃出来るWSが無いのは致命的だと感じさせられた。
そして、魔物の第一波が終わりを告げた。
斥候から次に魔物の大群が来るのは明日以降と言う報告が届く。
その日は警戒をしながらの待機となった。
その日の夜は、ある程度の量の酒も許され、騎士や冒険者達が今日の戦いを振り返り、そしてお互いを称えあっている。
「いやいや、勇者様はお強かったですなぁ~」
「アレならば今回の戦いは問題なしですな~」
「冒険者の方々も、強いですしWSが凄かった」
俺達は離れた場所で支給された食事を食べながら、遠巻きに騎士や冒険者達を眺めながら雑談に耳を傾ける
「あと、あの女の奴隷凄かったな」
「瞬迅のことか」
「速さと強さではこっちでトップレベルですからね」
「ほほ~やはり、あの強さは凄かった」
次はラティが話題になっていた。が――
「逆に全く使えない奴も居たけどな」
「サリオ、おまえが魔法サボったから言われてるぞ」
「ぎゃぼう!ジンナイ様、無理ですよあんな密集した場所に魔法なんてです」
「あの槍持ち、WSを使わないでただ刺しているだけなんて」
( ‥‥‥‥‥ )
「ジンナイ様のお話だったようですよです」
「待て!槍持ちは他にもいるだろ!」
俺じゃない俺じゃないきっと違う、違うよね?騎士達の話は続く。
「ああ、女の奴隷に守ってもらってた奴だろ」
「そそ、女の後ろでチクチク突いてた奴」
「がははは、それ聞くと卑猥に聞こえるな」
( ‥‥‥‥‥ )
「ふう、卑猥な奴だから俺じゃないな」
「ぎゃぼう!まだとぼけるジンナイ様のメンタルに脱帽です」
ここは気遣いが出来るラティに頼ろうと思い彼女を見ると、無表情で目を逸らされしまった。
「まだだ、ちょっと俺は槍持ちで奴隷を連れている奴を探してくる!」
「あ!逃げたです!」
――違う!俺は逃げたのでは無く、可能性を信じたのだ、
決してその場に居るのが居た堪れなくなったからではないんだ、
違うんだ、
心の中で言い訳しながら当ても無く歩いていると、突然騎士に話しかけられた。
その話しかけてきた騎士は、見た目は二十歳位人懐っこそうな優しい顔をした青年だった。
「やぁ、君と話をしてみたかったんだよ、ずっと機会をうかがってたのさ」
「すいません、警戒しても良いですか。いままで碌なことが無かったんで」
俺は警戒してますよ、と 軽く釘を刺して置く。この場所で無用な揉め事は出来れば避けたいのだ。
「ああ、なるほど確かに手紙に書いてある通りの人物なのかもな」
「手紙 ですか?」
「君達が来た時に、手紙が一緒に僕宛に着ていてね、それで君のことを知ったのさ」
「はぁ?」
俺を知っている奴が手紙を誰かに出すと言うのが、想像つかなかった。勇者の誰かかと思ったがそれも想像がつかないので、俺を油断させる作戦かもと思い警戒は解かずに接する。
人目の付かない場所に行こうと言われたが、俺はそれで誘き出されてラティが攫われた事があるから、それを拒否し、ラティが見える範囲で話を聞くことにした。
「これも手紙に書いてある通りだね、彼女は君の逆鱗でありそして…おっと話が逸れた」
「その手紙の差出人が気になるのですけどね」
( 間違いなく俺を知っている奴だ )
そしてその騎士が話し始めた。
内容はこの領地の愚痴のようなものだった。
ノトスとその周辺の貴族のことや、この領地の領主には息子が二人いて、兄は横暴で弟は遊び回っている事。その兄は圧政を強いていて、領民が困っている事。
それとこの領地は貴族だけが好む物、高価な果物や宝石類の加工などの生産ばかりで、世の中に貢献が出来てないなど、愚痴と言うよりも、懺悔のような別なものに感じられる愚痴であった。
「話しをしたいと言うよりも、話を聞いて欲しいって感じなのですが」
「ああ、そうかもな聞いて欲しかったのかもな…」
「俺に感想でも言えとでも?一介の冒険者の俺に?」
「うん、それだ!君の意見を聞いてみたいかな」
「領民が困っているとか言われても、その原因が今回の総大将をやってる息子で、しかもその弟も遊んでばかりじゃもう詰んでるとしか」
「あはははは、耳が痛いな」
( 耳が痛いって )
「あとは生産品だって一応需要はあるんだし無駄じゃないでしょ。貢献したいってのも方向性を変えれば良いんだろうけど、どの道、その息子達が駄目なら無理なんじゃ?」
「君は結構ハッキリ言うんだね」
「色々と酷い目にあって歪んだだけですよ。あとは前に、どうしようもない状況で悲惨な目に合って、それから言える事は言って行こうとも思うようになったし、それに行動しないともっと酷くなるからって、何言ってんだ俺は」
「なるほど、苦労してるって訳か。面白い話ありがとう」
「俺は騎士様に恥ずかしいことを暴露させられた気分ですよ」
「騎士様?ああゴメンまだ名乗ってなかったね。俺はアムと呼んでくれ」
「わかりましたアムさん」
「じゃあ、これで失礼させてもらうよ、またな”英雄”君」
言うだけ言って騎士のアムは去って行った。最初は警戒していたけど、不思議な雰囲気に俺は流されて警戒を解いていたのだ。
それと手紙の差出人も見当が付いた。
( ガレオスさんか‥ )
その後俺は、冒険者用の天幕に1人泊まり。ラティとサリオは、周囲の騎士や冒険者を驚愕させた、勇者橘の二階建ての豪邸に泊めて貰っていた。
その夜1人眠る俺は、さきほど出逢った騎士アムさんを思い出し、明日の防衛戦で観察して見ようと思い、眠りに就いた。
読んで頂きありがとうございます
中途半端な話切りですいません