おまえかよっ
話を長引かせて時間を稼ぐ。
それが目的で俺は、この北原に話を振っていた。
だが、返って来た話の内容は、俺の頭の中を真っ白にさせた。
まさか既に、”勇者召喚”を何回も行っていて。
しかも、それによって同級生の一人が犠牲となっていたのだから。
犠牲となった同級生は後藤修二。
特に親しい間柄という訳ではないが、俺は彼のことを知っていた。
何しろ目立つ奴だったのだから。
学校行事では常に張り切り、何でも熱くリーダーぶる八十神とはベクトルが違う、嫌な感じがしないイイ奴だった。
俺は時間稼ぎの事などは忘れて、思わず北原に食ってかかる。
「お、おい。おまえわかってんのか? どうきゅうせいをコロしたんだぞ?」
「ハァ? 陣内、お前なに言ってんだ? ボクは殺してなんかいないぞ? 不完全だった勇者召喚がいけないんだ」
「‥は?」
「だって考えてみろよ、勇者召喚には生贄が必要なんてのがぁ悪いんだよ。しかも普通の血統じゃ駄目だとか、本当に困るよな」
――マジでコイツなにを言って‥
いや、そうだった! 召喚には人柱が必要だ、
おい‥まさかコイツ…
「よぶための、ひとはどうしたんだよ…」
「ん?そりゃあココに居た兵士達だが? ああ、あと後藤を呼び寄せた失敗召喚の時は、奴隷商人を使ったっけな? 怖気づいて抜けるとか言い出したから、ムカついて材料にしてやったよ」
( ココに奴隷商人が? )
「なんかその奴隷商人お前の事を恨んでたぞ? 陣内、お前はドコでも恨みを買うんだな。彼はボクには協力をしてくれたよ、人徳の違いって奴かな? それにこの数々な魔法とかを教えてくれた特別な協力者も居るし――」
「………」
そのまま北原は饒舌に語り始めた。
俺を捕らえている優越感に浸っているのか、終始笑顔のままで。
そしてその内容は、狂っているの一言だった。
偶然に知り合った奴隷商人が、俺に強い恨みを持っていることを知り、その復讐を手伝うという理由で、その奴隷商人が持つ、奴隷を縛る首輪の秘術を聞き出したそうだ。
そしてそれを勇者召喚に組み込み、召喚された勇者がそのまま奴隷になって従うように、勇者召喚をカスタマイズしたのだと北原は言う。
俺はそんな都合の良い事が出来る訳ないと、そう言ったのだが。
北原は、自分の【法改】の【固有能力】ならば可能だと言い放った。
そして警備兵士とは違って、貴族の末子だと言っていた奴隷商人を贄にして、勇者召喚が半分成功したのであれば、王族の血統を贄として使用すれば、完全な勇者召喚が出来ると――
「むちゃくちゃだ! だいいち、なんでオマエがゆうしゃしょうかんのやりかたをしってんだ。それにワナとかケッカイも…」
「協力者だよ、そいつから全て流れ――ッ聞いたんだよ! だからこの先の事も分かる、あんな未来間違ってんだ! 認めるモノか! ボクが、ボクがあんな…」
先程の余裕とは違い、『全てを否定する』そんな切羽詰まった表情でわめき散らす北原。
『あの時、あの貴族が金貨八千枚を支払えばっ』『みんなボクを馬鹿にしやがって』『ボクから会いに行ってやったのに、ボクの顔を見たら帰れとか言いやがって』など、数々の愚痴にもならない不満を吐き出す。
金貨八千枚は、奴隷商からラティを買おうとした時の金額。
ボクを馬鹿にしやがっては心当たり無かったが、『ボクの顔を見たら帰れ』は、たぶん小山が前に言っていた、北原がヤバい顔つきをしていた件の事だろう。
グダグダと言葉を吐き出していたが、何個か気になる事も言っていた。
それは――
「おしえてくれたってきょうりょくしゃってだれだよ」
――マジで誰だソイツは?
こんな危険人物に刃物を持たせるようなことしやがって、
しかも、この先の事も分かるってなんだよ…予言者か?
「ふんっ! わざわざ教えてやる必要なんて無いな。ただ、ソイツから…教えてもらった魔法に関しては感謝しているかな。まさにボクに相応しいモノだからね」
まるで我が事のように胸を張って誇る北原。
その姿は、いま自分が使っている魔法罠の技術を、自分の手柄、自分が編み出したモノのように振る舞っていた。
( 人のフンドシで相撲を取るようなマネしやがって )
「へっ、なんだ、けっきょくのところ、ひとのモノでちょうしのっていただけかよ」
あまりのアホらしさに、俺は北原を挑発してしまっていた。
すると奴は激怒して――
「人のモノじゃあねぇよ! ボクが創ったモノだ。ボクが創り上げたモノだ」
「はぁ? なにをいって‥」
( 人から教えてもらったモノを、自分が創ったって‥ )
「50年後からやってきたボクが、ボクに託したんだよ! この異世界を救う為に。未来からやって来たボクが、ボクに教えたのさ、魔法も勇者召喚も、そして【法改】の本当の使い方をね」
「へ?」
ファンタジーだと思ったら、いきなりSFな事を言い出す北原。
あまりのネジの飛んだ発言に、俺は再び時間稼ぎのことを忘れてしまう。だが、次に北原が語り始めた内容は、馬鹿だと一蹴することが出来るモノでは無かった。
「ナントカの鎧って言うヤツに掛かっている付加魔法の応用なんだとよ。それを利用して、過去限定だがそれを利用して過去に飛んだんだってよ――」
あまりにも荒唐無稽な話、頭がその内容を受け付けない感じはしたが、無視をしてはいけない内容を語り出していた。
未来の北原が、自身の現状に嘆き、それを変える為に未来から過去の自分に会いに行き、創り上げた魔法を授ける。
まるでどこぞの青い猫型ロボットである。
そしてその青い猫型ロボットは、不思議な魔法を使い、知識や経験などを北原の頭に直接流し込み、透けるようにして消えていったのだと言う。
こうして北原は、なんの苦労もなく数々の魔法と知識を授かったのだと。
「ふう、そういう訳だから、コレはボクの力なんだよ。未来のボクが創ったモノなんだから、ボクの実力さ!ボクの努力の結晶さ! ボクのモノさ! 理解したか? この魔王の手下野郎が!」
「は? なにをいって‥」
( 魔王の手下? 俺が? )
「ボクは認めない、あんな未来。アレは間違っているんだ、このボクが‥、だから間違った未来を正す為にボクは勇者を召喚するのさ」
「‥‥‥」
( 結局は他力本願かよ‥ )
「ボクは勇者を統べる勇者、そう勇者の王‥ブレイヴロードとでも名乗ろうかな、奴隷たる勇者を召喚しまくってやるのさっ」
「おまえ‥」
「ああ、そうだ! 3年の冬馬雪菜先輩でも召喚出来ないかな、あの先輩なら葉月とタメを張れるからな見た目は。ボクの彼女‥いや、女にしてやってもイイな! そうだ!召喚出来るまで召喚してやろう! アハハハハ最高のアイディアだ」
「くるってやがる‥」
ほとんど狂人となった北原は、俺の前で両手をあげて虚空を仰ぎ、狂ったように嗤い声をあげていた。そして――
「じゃあ、そろそろ死んで貰おうかゴミクズ」
「――ッ!?」
嗤い声をピタリと止めて、顔は歪めたままでそう言ってきた。
「おっと、汚ねぇ返り血なんて御免だな」
俺から二歩三歩と離れて距離を取る北原。
そして十分な距離、約10メートル程の距離を取って右手を構える。
いまだに身動き一つ取れない俺。
右手の照準を俺の顔に合わせ、歪んだ嗤い顔をさらに歪ませて――
「死ねよ陣内! 火系魔法”ファイアボ”圧縮型!」
「――っぐ!」
俺は全力で身体を捩って避けようと試みる。
身体全身を万力で締め付けられているような束縛から脱し、北原の右手より放たれた赤い点から避けようとした瞬間。
「障壁魔法”プロテ”!」
俺を庇う様に、白いローブ姿の女性が駆けて来た。
「――んあ!? なんでボクの認識阻害魔法を超えて?」
「ああ、ことのは‥?」
「はい陣内君、助けに来ました。間に合ってよかったです」
俺の危機を救ったのは。
自分自身に衝撃軽減魔法の防壁を張り、己を盾にして北原の魔法から俺を庇ったのは、女神の勇者言葉沙織であった。
「本当に良かったです、間に合って」
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