再会と集結と考察と突撃
前回までのあらすじ。
言葉様は何か大切な事を言おうとするが妨害される。
それを言葉様が激オコ。
鉈を片手に北原狩りに向かう。
走り続ける馬車の中、女神の勇者言葉がポツリと呟く。
「モモさんに会いに来てから、目まぐるしい状況ですね…あ! モモさんが悪いって意味じゃですよ陣内君」
「ああ、分かってるよ。あ~~モモちゃんに会いたいなぁ。あれから会ってないんだな」
「陣内先輩、言葉先輩、真面目にやってください! 王女様が危ないんですよ、しかもそれをやらかしたのはボクらの仲間、勇者の一人なんですよ」
「ああ、すまん。そうだな、霧島の言う通りだな」
「すみません霧島君。不謹慎でした…」
俺と言葉の会話は、劇場の勇者霧島によって注意を受ける。
だがそれは、少しばかりの現実逃避をしたい気分と、先程聞いた、ギームルからの情報によって、僅かながら心に余裕が生まれたからであった。
今も金色に輝いている光の柱は、ギームルから勇者召喚時に放たれる光だと断定された、だがその勇者召喚の儀式はまだ完成はしておらず、半日ほどの猶予があるのだと言う。
あの立ち昇っている光の柱が徐々に低くなり、最終的には3~4メートル程まで低くなるのだと。
そして低く縮んだ分、光の粒子が濃くなり、それによって勇者召喚の儀式が発動するのだと、そうギームルからの連絡を受けたとハーティが言う。
そしてその発動前であれば、無事に助け出せるらしい。
「いいですか、まだ時間に余裕があるとは言え、王女様を助け出した訳じゃないのですから」
「わかってるって」
俺が先程の軽口を叩くのには、実はもう一つ理由があった。
それは、俺が一番狼狽えてしまい――
『――ッざけんな北原! くっそ、王女様に俺は世話になって…、あの野郎ぶっ殺す! 絶対に殺す』
『陣内先輩! 勇者を殺すって絶対に駄目ですからね、保護法があるんですよ』
『陣内君、それだけは止めておこうな。それをやっちゃうと僕達が今度、君を追うことになっちゃうんだから』
『陣内君…』
と、激情任せた言葉を吐き出し、そしてみんなから窘められていた。
勇者召喚が始まったら、もう終わりだと俺は勘違いしていたのだ。
王女アイリスは、この異世界でラティの次にお世話になった人、その王女の命が危ないと知って、つい熱くなっていた。
その照れ臭さを誤魔化すように、俺はそんな態度を取ってしまっていた。
先程の言葉からの話題も、俺に気を使って言ったのかもしれない。
「しかし、霧島は軽薄そ――軽そうに見えて、意外と真面目なんだな」
「陣内先輩、それあまり変わっていないですよ。ただ、今回の件で勇者側と貴族側…異世界側との関係が拗れるのが嫌なんです」
「…案外真面目なんだなお前は、」
「だってそうでしょう、変に拗れたりしたら、ボクがお芝居の舞台に立ち辛くなるじゃないですか、理想の環境が崩壊するかもしれないんですよ?」
「訂正、真面目じゃなかったな…」
( 結局そこかよ! )
馬車の中でそんな会話を交わしているうちに、俺達は光の柱が立ち昇る廃村へと近づいていく。
北原がいるのであれば、もしかすると戦闘があるかもしれないと予想し、俺はある事の確認を行う。
「ハーティさん、MP残量ってどんなモンです? あと言葉も」
「ああ、移動補助系をずっと使い続けていたからね、今は6割って所かな」
「はい陣内君、私も6割ぐらいです」
「それなら、なんとかなるか‥」
ハーティと言葉は、思っていたよりMPを消費していた。
MP回復に努めようとしていた休憩は中止になり、ハーティは馬車の馬達、6頭全てに移動系補助魔法を掛け続けてMPを減らし、女神の勇者言葉は、昨日、シータの村を逃げた犠牲者を助ける為、MPを一度、ほぼ空になるまで回復魔法を使い続けていたのだ。
それにより、かなり危なかった村人も息を吹き返していた。
そして暗い夜道を生活魔法”アカリ”で乗り切り、約一時間ほど走らせ、俺達は廃村へと辿り着いたのだが――
「っな!? なんだこの壁は‥、村ってより要塞? それとも監獄?」
廃村だと知らされていた場所は、村と呼ばれるには似つかわしくない程の、強固な防壁によって囲われていた。
「北原が用意したのか?」
「あの、ご主人様。壁の状況を見る限りでは、最近作られたと言うよりも、もっと昔からあったように見えますねぇ」
ラティに指摘され、俺はその防壁をよく見ると確かにラティの言う通り、かなりの年月を感じさせる老朽化の跡が見られた。
もっと目を凝らして見てみれば、所々崩れており、最近作った物ではなかった。
そしてその防壁の正門、出入り口にあたる場所には、かなりの大人数が集まっており、その中には、最近まで会っていたメンツが混ざっていた。
「くっ、やっぱお前が来たかジンナイ!」
「ノトスからですからね、来ると思っていましたよ」
「あらぁ~来ちゃいましたかぁ~」
「我が宿敵よやはり来たか‥」
「‥‥‥」
「あ、陣内君」
中央側からの王女捜索隊、その中には聖女の勇者葉月と、その護衛騎士である五神樹達が居たのだ。
そして葉月の声で気が付いたのか、もう二人ほどやって来る。
「なんで陣内が? あ、言葉さんと霧島君も参加していたんだね」
「由香、そんなゴミに挨拶なんていらないから、それと言葉さんもこっちに、その男は危ないわよ」
こちらにやって来たのは勇者八十神と橘。
八十神は意外そうな顔で、橘はまるで生ゴミでも見るような目で俺を見る。
――ったく、なんだよ橘は、
まぁ今はそれよりも確認が先だ、
なんでこんな門の前でモタついてんだ?さっさと行けよお前ら、
俺は疑問を感じていた、俺達よりも先に到着していた中央組。
だが、その中央組は正門のような出入り口で止まっていたのだ。いくら時間に猶予があるとはいえ、ココで止まっている必要はないと感じ批難を口にする。
「おい、なに入り口で止まってんだよ、さっさと王女を助けに行けよ」
俺は入り口で止まっている中央組に文句を言っていると。
「――っがああああああ!?」
「くそ!やっぱりまだあったかっ」
「怪我人が出たぞ! 誰か回復を――」
「――っな!?なんだ今の爆発は!?」
激しい轟音と共に、何人かの兵士達が吹き飛んでいた。
「く、やはり地道に解除していくしかないか…」
「おい! どういう事だ八十神」
俺は状況が把握出来ず、八十神に食って掛かる。
「見ての通りだよ、魔法を? 使ったトラップらしい。僕もこのウルドの鎧がなかったら危ない所だったよ――」
勇者八十神は、今のこの状況の説明を始めた。
どうやら北原は、この防壁のある廃村に罠を設置して、王女の救出隊の進行を妨害しているのだと言う。
しかも正門付近には結界が張ってあり、最初は近寄る事も出来なかったそうだ。
そしてその時に、八十神は結界を破るべく剣を突き刺しに近寄ったそうだが、その際に地雷のような罠に引っ掛かり吹き飛んだのだと言う。
ただ、王家より、正確にはギームルより授かった三種の神器の一つ、【ウルドの鎧】により、その命を救われたのだと彼は語る。
それは、真の勇者のみに下賜される装備品らしく、未来の斬撃を現在に出現させる【スクルドの片手剣】、現在ある形を現在のままに留め、形を決して変えない【ベルダンディの盾】、そして、現在受けた攻撃を全て過去へと飛ばし回避する【ウルドの鎧】。
勇者八十神は、地雷兵器のような爆発による衝撃を全て過去に送りつけ、その爆発を凌いだのだと自慢げに語ってきた。
「どうだい陣内、僕のこの鎧は凄いだろう? 君のもまあまあみたいだけど」
「へいへい‥」
褐色の肌のような色をした鎧、いばらのような意匠が凝らされ、一目で格が高そうに見える鎧を、親指で指しながら八十神は言ってきた。
――なんで装備自慢になってんだコイツ、
つか、過去に衝撃を送りつけるってどんな魔法の付加が掛かってんだ?
そっちの方がある意味凄いぞ‥
八十神の自慢話の間も、兵士達による罠の撤去と結界の解除が進んでいた。
魔法で誘爆を誘い撤去する者や、瓦礫を使って発動させる者、そして結界に魔法効果解除の魔法を掛けて結界を解いていく者。
そして強力そうな結界には。
「タチバナ様、すいませんお願いします。これは強固過ぎて…」
「全く、コレは凄く高いんだからね」
「申し訳ありません、掛かった費用はお支払いしますので」
「コレ、なかなか買えないらしいんですけどね。弓WSダークショト!」
弓と言ってはいるが、ボウガンを使ったWSを放つ、ボウガンの勇者橘。
黒い稲妻を纏った閃光が結界に突き刺さり、黒い稲妻が一瞬だけ結界の表面をなぞり結界を砕き霧散させる。
「凄い、これが竜核石を鏃に使ったWSの威力‥」
「コレ滅多に手に入らないんだからね」
「ご協力感謝します、勇者タチバナ様」
勇者橘のWSに感嘆の声を漏らす兵士達。
そしてその橘に、皆の代表として頭を下げる白髪の老人。
「‥‥ギームル‥」
「他の勇者様方も、ご協力感謝致します」
橘に礼を言って頭を下げた後、こちらにやって来た男は宰相のギームル。
露骨に俺とは目を合わせず、勇者達の方だけを見て声を掛けてきた。
「えっと、ギームル様、私達にお手伝い出来ることはありますか?」
「ボクも何か出来ることがあれば」
やってきたギームルに、協力を申し出る言葉と霧島。
しかしその返事は。
「いえ、今は待機をお願い致します。勇者様のお力はこの先でお借りすると思いますので、その時に何卒、お力をお貸しください」
返って来た返答は、待機であった。今は連れて来た兵士達が働くと言う。
ノトス側とは違い、隠すつもりが一切感じられない兵士達の数。
( おいおい、百人以上いないか‥ )
俺がその意識の違いに、何処か違和感を覚え訝しんでいるとハーティが口を開く。
「失礼致します宰相殿、今回の件は内密に伏せて行うと聞いていたのですが。中央の方は何故、この様な戦力の投入を? 少し食い違いがあると思いまして‥」
俺が気になっていた事を訊ねるハーティ。
三雲組の指揮や管理を普段から行っている彼にとって、この指揮系統の指示の違いは、簡単に見逃して良いものでは無いと思っているのかもしれない。
こういった部分を気にせず見過ごしているようでは、30人近いメンバーを抱えるリーダーとしてはやっていけないのだろう。
ハーティはしっかりとその辺りの確認を行っていた。
「ふむ、ミクモ様とコトノハ様に付いている冒険者じゃな? 確か後衛のハーティと言ったな、その質問に答えよう、この戦力投入はワシの判断じゃ。王女アイリス様は次世代勇者召喚の要にして希望、決して失う訳にはイカンのだ!」
「では、宰相様の独断であると?」
「何かそれに問題が?」
ハーティの言葉に、これ以上、何も囀るなと睨みながら返事を返すギームル。
「あ‥いえ、何も御座いません。失礼致しました」
ギームルの眼光に、完全に押された形でハーティは引いていった。
俺がそのやりとりを観察していると、そっとラティが後ろから囁く。
「あの、今のギームル様の御心は、怒りだけで満ちております。今の言葉も、嘘は言っていないのですが真意は別にあるかと‥」
「‥嘘は言っていないが‥真意は別にある?」
――うん?どういう事だ?
怒りって‥そりゃあ自分の所の姫さん攫われたら怒り狂うよな、
たぶん、その責任を取らされるだろうし、焦るよ――ッあ!?
「ラティ、ギームルの感情の色には、恐怖や焦りといった不安はあるか? なんて言うか、自分の立場が悪くなることに対しての恐怖のような感情の色は?」
「あの、尻尾を使った訳では無いのでハッキリとは申し上げられませんが、視える感情の色は怒りのみです。あ、あとは不安というよりも、誰かを気遣う心配のような感情の色だけが視えます」
「ッやっぱり!」
――あのクソ野郎‥
やっぱ怪しいと思っていたんだよな、これは北原と何かあったな?
絶対になにか食い違いとかがあったんだ‥そうじゃないとおかしい、
俺はある仮説を立てた。
もし自分が宰相の立場であれば、今回の攫われたという失態の責任を取らされる、そういった不安や恐怖が出てくるはずであると。
自分の立場や地位が危うくなるのだから、そういった感情が絶対に出て来ると、だがラティはそういった感情の色は視えず、怒りと気遣いのみが視えると言っている。
これは、何かの計画が予定と違って、それにより怒り狂っているのだろうと考察出来た。
そうで無ければ、もう少し自分の立場に不安を感じるはずであると。
「ラティ、どうもキナ臭い、宰相のギームルに油断するな」
「はい、分かりましたご主人様」
俺が考察を終えて、ラティに指示を出すと同時に、正面の結界が完全に解除され、兵士達が廃村へと雪崩込んでいくのであった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども…




