あのテーブルとイス
すいません、連休忙しくて…
短くてスイマセン
その日の捜索は成果が無かった。
厳密にいうならば、捜索した村や町には居なかったとも言えるだろう。
本来であれば人海戦術で、ローラー作戦のように探すのが良いのかもしれないが、それだと事が公になり、揉み消すのが困難になる。
それと人海戦術の場合は、大人数で動くのが前提なので、捜索範囲は広いが捜索速度はかなり遅くなる。
確実性は欠けるが、少人数で素早い移動で捜索する今の自分達は、急いで探すという点では有効かもしれない。
そう自分に言い聞かせて、北原が王女と二人で馬に乗って移動する可能性を隅に追いやりつつ、俺は夜の見張り役をこなしていた。
馬車の馬を疲労のピークまで走らせ、日が完全に落ちた今は休ませて、自分達も順番で仮眠を取っていた。
今は白い毛玉がいるので、見張り役は俺一人だけ。
先程までラティが隣に居たが、伝えておきたい件と、それに対しての意見も聞けたので、今は先に仮眠に入ってもらった。
なので俺は一人、サリオの”アカリ”は本当に優秀なんだなと、僅かながら揺らぐラティの作り出した”アカリ”を眺めながら見張りをしていると――
「陣内君」
「…言葉、交代の時間はまだ先だし、MP持ちはMP回復重視のために見張り役は無しのはずだけど?」
なんとなく、なんとなくそんな言い方をしてしまった。
言葉が、見張りの交代で来た訳ではないと判っていた。彼女は多分、俺と話をしに来たのだろうと分かっていた。
「陣内君、ちょっと隣いいですか?」
「ん、ああ‥」
断りを俺に入れてから、言葉は隣の椅子に腰を下ろす。
いま俺達が座っているのは、言葉が【宝箱】から取り出した椅子である。
何度か見た事のある椅子とテーブル、これは地下迷宮で、魔石魔物狩りの休憩の時に、三雲組が使っていた物だ。
俺はお呼ばれしなかったので、参加したことは無いがサリオとラティが呼ばれて、特にサリオが貪るようにして、出されたお菓子を食べていたことを記憶している。
「陣内君とちょっとお話がしたくて、起きて来ちゃいました」
「あ、ああ‥」
「こうやって御一緒するの初めてですね」
「うん? そうかぁ? 何回も地下迷宮とかで一緒だったような‥」
――それどころか、
深淵迷宮でもそうだし、竜の巣だって一緒に踏破したよな?
そう思うと結構一緒にいた事あるんだな、
「いえ、パーティとしては御一緒でしたけど、こうやって外で並んでいるのは初めてでして。深淵迷宮は大人数でしたし、竜の巣は橘さんが‥その厳しく仕切っていて…」
「ああ‥そうだったっけか…」
――言われてみるとホントだな、
特に竜の巣の時なんて、橘に完全に隔離されていたな、
あとは、ルリガミンの町の地下迷宮か? あの時は…
「私、ルリガミンの町の地下迷宮の時‥」
言葉は、約一年ほど前のことを口にした、初めて魔石魔物狩りに参加した時のことを。
「魔石魔物狩りの休憩中は、いつも一人で居て…いま思うとお誘いしたかったです。ご一緒出来ましたら…もしかしたら…」
「あ~~、いや、別に気にする事じゃないだろ、俺も一人で居たかったし」
――う、嘘は言ってないよな、
マジで一人で居たかったし? 三雲はなんか睨んでいたし、
居づらい訳じゃないけど、なんか行き辛かったしぃ?
思わず心の中で謎の言い訳を展開する俺、だが言葉は――
「ふと思ったんです、あの時、もし声を掛けれたら違っていたんじゃないか?って…もっと違ったんじゃないのかって…」
「もっと違うって何が…」
俺のことを、横から上目遣い気味に見つめる言葉。
”アカリ”に照らされている彼女の頬は、薄っすらと朱色に染まり、そして何処か濡れたように見える瞳は、とても不安そうに揺らいでいる。
今まで、一度も見つめられた事のない種類の瞳。
そしてその瞳に、希望や決意のような影が見え始め――
「じ、陣内君、私――」
言葉が言葉を紡ぎ出した瞬間。
「っなんだあの光は!?」
「――っえ?」
俺からは正面の方向、言葉にとっては後ろ側。
距離はしっかりと把握は出来ないが、遠くの夜空に一筋の光が立ち昇った。
黄色、もしくは金色の光柱、そんな幻想的な光の柱が突然に出現したのだ。
その刹那、頭に浮かぶのは北原のこと。
アイツが何かを始めたと、すぐにそう思い当たった。
それからの行動は迅速だった。
寝ている者を皆叩き起こし、光の柱の存在を伝え、そしてそれを皆が確認すると、もう馬を乗り潰すつもりで光の柱のもとへと走らせた。
今もまだ煌々と光り続ける光の柱。
下からライトなどの照明で夜空を照らしているような光ではなく、濃密な光の粒子が舞っているように見えた。
皆が馬車の中で疑問を口にする。
『あの光は何か?』『なぜ目立つような真似を』『目的は何か?』
俺も考察する、北原のことを。
アイツはどういう奴だったか、そしてどういう事をしようとしたのか。
何故、王女アイリスを誘拐したのか。
「――ッまさか!?」
「陣内君?」
「あの、ご主人様?」
「陣内君、どうしたんだい?」
「陣内先輩?」
頭に過ったある可能性、そして実際に起きたあの事件の事を思い出した。
そして、その可能性に気付いた俺は、思ったよりも大きな声で呟いていたらしく、馬車の中にいる皆から視線を集める。
俺の様子に、皆が注目していることを確認してから口を開く。
「みんな一つ聞いて欲しい――」
俺は手短に、ラティが北原に攫われた事件のことを話した。
詳しい部分はボカしたが、ある程度の経緯を知っている勇者達は察したかもしれないが、要は、北原がラティを、自分の仲間にする為に強引に動いたことの話をした。
北原は有能な仲間を欲していた。
有能な仲間を欲するの当たり前のことだが、奴のやりかたは普通では無かった。だからこそ思い当たった。
「俺がこれから言うのは憶測だけど、北原は”勇者召喚”でもしようとしているんじゃないのか?」
コレはきっと、俺だけが思い当たることなのかもしれない。
奴の本性を知っている俺だけが…
「陣内君! 貝玉から連絡が来た。どうやら中央側からもあの光の柱は見えたらしい、それでこれから向かうとも。どうやら、あの光の柱が上がっている場所には廃村があるみたいだ」
連絡用の玉を耳に当てながら、ハーティがそう話した。
「ハーティさん、会話の相手ってギームルですよね? 聞いてください、あの光は召喚の光じゃないのかって」
「ああ、わかった…」
ハーティがシェルに小さな声で話し掛ける。
そして――
「最悪だ、勇者召喚時に発生する光に似ているらしい…」
「「「「――ッ!?」」」」
俺の、最悪の予想が当たってしまっていた。
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あと、誤字脱字なども…




