表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

221/690

捜索開始

 ガラガラガラと、車輪の音と振動だけが鳴り響く馬車の車内。


 ららんさんからは、いま現在判っている事だけを聞けた。

 王女が攫われ、攫ったのは万引き勇者の北原。

 万引きを繰り返しているとは聞いていたが、人攫いにまで手を出しているとは想定外であった。


 あまりの内容に、一通り聞いた後は皆が口を噤んだ。

 そして取り敢えず今は、アムさんのもとに向かって、追加の新しい情報が来ていないか尋ねることにする。

 

 俺達はそのままノトスの街、公爵家屋敷へと急いだのだった。 

 




 

         ◇   ◇   ◇   ◇   ◇






 ノトスの街に辿り着いてからは、門番によるチェックも事前に説明が行っているのか素通りが出来、止まることなく公爵家屋敷へと向かった。


 そして屋敷の門の前で待っていた執事により、真っ直ぐにアムさんの所へと案内される。

 

「戻って来たかジンナイ、それと女神の勇者様」

「アムさん、王女が誘拐されたってどういう事で?」


「ああ、追加の情報も来たのでそれも話す、取り敢えず席に着いてくれ、それと、ららん人払いを」

「はいな」


 俺達が案内された先は、客間のような部屋。

 だがその部屋は窓もなく、調度品といった物も少なく、少々殺風景な部屋。

 そんな部屋に、俺とラティ、ハーティと言葉ことのはの4人だけが入る。


 ――ん? これは盗聴とか防止用の部屋か?

 壁も厚めに感じるし、扉も重そうだな‥



 部屋の中は人が隠れられそうな所は一切なく、これから話す内容は、とても重いモノであろうという空気を漂わせる部屋。


「ららんから話は何処まで?」

「たぶん大体は、王女がさらわれたって‥北原の馬鹿に」


「そうか、なら次は詳しい状況を話そう。まず、王女アイリス様を攫う前、事前に準備をしていたそうだ勇者キタハラは――」


 アムさんは攫われるまでの状況を話してくれた。

 どうやら万引きの勇者の北原は、王女アイリスを攫う前に、2回ほど王女と面会をしていたそうだ。

 当然、王女との面会なので、周りには護衛も控えており、何か良からぬ魔法を使用されぬ様に、魔法などを阻害する仕掛けも施されていたそうだ。

  

 ただでさえ良からぬ話が出ている万引きの勇者が相手。

 それなりの警戒をしていたそうだが、魔法を阻害する仕掛けを無効化するモノを使い、その隙に王女アイリスと共に、光に包まれ飛んで行ったのだと言う。

 

 勇者が使う魔法の中には、地下から脱出魔法や、特定の場所へ飛んでいくような魔法があるので、それ系統のを使ったのではと、中央側は判断したそうだ。

 そして、その移動系の魔法であれば、飛んで行った方角に移動している筈なので、北原は(ノトス)側へ逃げただろうと判断し、北原の捜索と、王女アイリスの救出の依頼がノトス公爵のアムさんへと来たのだと。 

 


 俺はアムさんからの話を聞いて、一つ確認するかのように呟く。


「‥いきなり馬鹿な事を考えて行動したのではなく、計画的にしっかりと考えて馬鹿なことをしたって訳か…」

「そうみたいだな、何かの計画があって攫ったようだ」


 ――それなら何処かに潜んだのか?

 もしくは追われても平気な何かが用意してあると考えるべきか、

 移動するにも監視があるし…あっ!



 (ノトス)は大絶賛混乱中。

 偶然なのか意図的なのかは不明だが、監視役が機能していない状態である。


「アムさん、まさか…」

「ああ、ジンナイ達に捜索をお願いしたい、それにこの件は他へは頼み辛い」


 再びアムさんが説明をしてくれる。

 

 今回の誘拐の犯人は勇者北原。

 派手に万引きを繰り返しているので、注意して下さいとはレベルが違い、深刻なまでに勇者達に対する不信感が高まる事をしたと。

 貴族側であれば、酸いも甘いも噛み分け、使えない勇者であったと割り切ることが出来るかもしれないが、他は違ってくる。


 不要に一般市民達に不信感を募らせるのは得策ではない。

 なので、今回の件は――


「だから、コチラの判断で人選を絞らせて貰いたい」

「…なるほど、そういう訳でしたか。納得出来ました、先程の彼、ららんさんが言っていた、『手間が省けた』の意味が」

「ハーティさん? 何が?」


 俺はふと疑問を感じ、それをハーティに訊ねた。


「どうやら、三雲様は敬遠されたようでね、この話に」

「ああああ! なるほど‥」


 ――納得出来る、

 三雲って短絡的だからな、穏便にことを済ますとか出来なそうだな、

 熱くなって無茶しそうだ…


 まぁ、俺も穏便に済ませるつもりはないけどな、




 その後、俺達はアムさんからすぐに捜索に出て欲しいと請われ、既に用意してあった水と食料を受け取り、いつもの馬車で出発をした。

 メンバーは俺とラティ、ハーティと言葉ことのは、そして――


「むう、北原先輩ってなにやってんですかね」

「馬鹿の考えることなんてわかんねぇよ霧島」


 劇場の勇者、霧島渚(きりしまなぎさ)も捜索メンバーに加わったのだ。

 そしてアムさんからは、超貴重品である、連絡用アイテムの貝玉(シェルパール)を手渡された。

 中央の城と公爵家、それと【ルリガミンの町】だけにあるアイテム、それを今回は特例として預かったのだ。

 これを使い中央から派遣された捜索隊と、連絡と連携を取りながら捜索して欲しいと言われたのだ。

 そして、絶対に無くすなとも釘を刺された。



「それで、中央側からは誰が来るのですか?」

「はい、勇者霧島様。中央からは運良く連絡の取れた、勇者八十神様と勇者葉月(はづき)様が来られるそうです。 それと――宰相のギームル様も捜索隊に御参加されたと」


「ッな!? なんでギームルがっ!?」

「うん?どうしたんですか陣内先輩、そんなに驚いて」

「陣内君、どうやら貝玉(シェルパール)を扱う責任者として参加されるそうだ。ノトス新公爵様は簡単に僕に渡したようだけど、本来はそんな風に扱って良い物じゃないらしい」


 ――おいおいおいおいおい、

 北原がやらかして、それでギームルまで出て来たぁ?

 なんだよコレ…マジで怪しいぞ…



 俺の中で激しい疑惑が生じた。

 むしろ、生じたなどとは生温い、爆発的に噴き出したと言うべきか、斜に構えた捉え方をするならば、今回の件は、俺を誘き寄せる為の罠かもしれないと思えてくる程である。


 ――もしそうなら、 

 斜に構えたと言うよりも、穿った見方って方だな…



 俺は後で隙を見て、ラティに相談と報告をする事を決めた。

 そして馬車はノトスの街を出て、俺達を乗せて北へと向かったのだった。

  





           ◇   ◇   ◇   ◇   ◇







 馬車を走らせ数時間。

 俺達は一度、馬達にしっかりと休憩を取らせていた。ハーティに移動補助系魔法があるとはいえ、結構な長距離を走らせていたのだ。


 結局、俺達は他のメンバーは補充することなく、御者役が1名、俺とラティ、ハーティと言葉ことのは、そして後輩の霧島の6名だけでの探索となった。


 広い範囲を探すには完全に人が足りないが、北原は王女を抱えた身である。

 移動をするのならば馬車か何かを使うはずであり、それならば必ず道を通る必要が出て来る。

 元の世界にあったようなオフロード仕様の車でもない限りは、管理されていない草原など走れる訳がないのだから。


 道を通っているのであれば、今のノトス以外は必ず監視役がいるはず。

 移動系の魔法で、飛ばれて移動されていたら元から補足は出来ないし、もしそうなら(ノトス)側に居ない可能性が高い。


 ならば場所を絞り、村か町、もしくは隠れ家のような場所を探すことにして、今は何処が怪しいか皆で相談していた。


「確かこっちに町があったよね?」

「チョイシータの町ですね勇者霧島様。でもあそこは町へ入るのにチェックがあるから、たぶん避けられるでしょう、身元がバレるので」


「ハーティさん、さっき橘も捜索隊に参加したって言ってたよな?」

「うん、貝玉(シェルパール)からの連絡で、そう聞いたね」


「ハーティさん、次の予定はエスエスイーの村で良いんですよね? 御者の方から確認をされて」

言葉ことのは様、それで良いとお伝えください」


「あの、ハーティ様、仰った通り、周辺には魔物が居りません」

「あ、ラティちゃん【索敵】ありがとう、ようちゃんがいるからたぶん平気だと思うけど、一応引き続きお願いします。それと次の村でも索敵での捜索もお願いね」


「はい、承知しました」


 正直、相談ではなく、実はハーティへの丸投げであった。

 地図はあるのだが、それをしっかりとは把握出来ず、ほぼハーティ一人の判断を任せてた。

 しかも、他のことも全てハーティに任せるような形に。

 そしてそれと――


「しっかし、この白い毛玉は優秀だな…」

「はい、ようちゃんが居るお陰で旅が凄く楽になりました」


(う、名前変えて欲しい‥ )


 名前はともかく、白い毛玉は優秀であった。

 言葉ことのは曰く、静かなようちゃんモードは、一切の音を立てない状態で、呼吸すらしておらず、今までの間、背嚢のようなモノの中に、まるでヌイグルミのようにして入っていたのだ。


 馬車の中でそれを出した時はかなり驚いた。

 特に、あのラティの索敵に引っ掛からなかったのだから。



 そしてもう一つの状態、元気なようちゃんモードは、広域に展開される結界のような縄張りを敷く状態。

 魔物に目視されれば襲ってくるが、それ以外では魔物が寄って来なくなり、しかも周囲には魔物が湧かなくなるのだった。


 話には聞いていたが、これはかなり優秀であり、休憩などを取っている今は、かなり重宝する存在だった。

 

 俺はその白い毛玉を見ながら、何故あの時、俺は引き取らなかったのだろうと、そんな軽い後悔を抱いていると――


「む!? 中央から連絡が来た。チュンの街とセンターの村は捜索したと連絡が来た。それと勇者橘様が合流したそうだ」

「ふむ、それじゃあ中央組の捜索隊には勇者3人が集まったのか」

「う、橘風夏(たちばなふうか)先輩ですか、少し厳しそうな人ですよね」


 ハーティからの報告に、少し眉を顰める霧島。

 もしかすると勇者霧島は、あのムカツク女(橘風夏)と何かあったのか、明らかに嫌そうな表情を見せていた。


( まぁ、俺もあの女は苦手だ、むしろ敵か… )



 こうして俺達は。

 万引きの勇者北原が飛んで行ったと言う所を、虱潰しに捜索するのだった。


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字なのも‥

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ