孤高再び
なんと、最初に投稿してから一年経過しました!(驚き
そろそろ、何処かに応募でもしてみようかと過り、ふとバナーを見たら”アイリス恋愛ファンタジー大賞”のが目に入り、『これイケんじゃね?』って思いましたが、冷静に考えてイケる訳ないので止めました(英断
ロウの口から語られた事は、とても信じがたいモノだった。
”魔物の群れが来た”これが遠くの地であれば、十分にあり得る事だが、これがノトスの街の近くだと言うと話が変わってくる。
何故なら――
「なんで誰も気付かなかった!? 確か監視役がいるだろ?」
「知らねぇよ! でもすぐ近くまで来てんだよ、それに――」
狼人少年ロウは、まくし立てるように外の状況を語った。
熟練中年冒険者のドミニク達の荷物持ちとして、ノトスの街周辺を見回る仕事に就いていたロウは、偶然にも魔物の群れを発見したのだと言う。
流石に詳しい数までは把握し切れなかったようだが、2~3体の魔物という訳では無さそうだった。
その魔物の群れが、ノトスの街の近くを通っているのだと。
そしてドミニクの指示により、狼人少年のロウと他にもう一人の冒険者が大急ぎでノトスの街に戻り、その事を報告に回っているのだと語った。
門番にその事を報告し、何人かが既に伝令に走ったとも言う、そしてロウは俺の所にやって来たのだと――
「ロウ、もう一度聞くが、その群れを発見したのはお前達なんだよな?」
「っだからそう言ってんだろっ! なんで嘘を吐く必要があんだよ」
「――ッ!?」
――おかしいっ
なんでだ? なんで発見がそんなに遅れてんだよ‥
見張りをしている奴らは何をやってんだ?
俺は違和感を覚えていた。
この異世界では魔物が存在する、元の世界で言うならば人を襲う猛獣。
北の方の地域で言えば熊だ。
それらの脅威に対して、見張り役のような者が各地に点在して、魔物の群れによる移動、”魔物大移動”は目立つので、すぐに発見して対処していると聞いていた。
この”魔物大移動”の対処が遅れるようでは、その領地に住む人達は不安がり、最終的にはその地を離れていくことになると、そうアムさんに教えて貰っていた。
イレギュラー的な、一匹程度の魔物なら仕方がない。
運悪く近くに湧いた魔物が、運悪く移動を開始して人を襲う場合は、さすがに全部対処できない。
だが、魔物の群れとなると話は違う。
被害も甚大になるし、何よりも群れであれば目立つ。
見張り役がそれを簡単に見逃す筈がないのだ、見張りの仕事に就いている者達は、それに適した【固有能力】を持っており、【遠視】や【索敵】などといったモノを持っていると俺は聞いた。
それが監視の薄くなる、遠くの地ならばまだあり得るが、このノトスの街周辺を見逃すとは思えなかったのだ。
「くっそ! 群れの発見が遅れるってことは、防衛戦の対処が遅れるってことだろ、迎え撃つどころか、間に合うかどうか…」
「だから助けてくれよ! 親方が行っちまったんだよ、一緒にいたワッツさんと行っちまったんだよ、村を守るって言って‥」
「――っな!? おい、それって二人で村を防衛に行ったって事か!?」
「そうだよ! この先にある村がヤバいかもって言って、そんで‥」
簡単にだが、現在の状況が理解出来た。
魔物の群れが現れ、それがノトスの近くを通過中、そしてその先の村へとドミニクは向かい、その情報をロウともう一人の冒険者に伝えさせたと。
そして足りない情報は、魔物の群れの規模と正確な進行ルート、それと何故その群れの発見が遅れたのかの3点。
俺は取り敢えず装備品を取りに、屋敷の離れへと向かおうとすると――
「ジンナイ! 報告は聞いたか?」
「アムさん、いまロウから聞いた」
「なら話が早い、すまん力を貸してくれ。既に伝令は深淵迷宮の方にも向かっているみたいだから、連絡がつき次第、陣内組も来てくれるだろう。だがそれでは間に合わないかもしれない‥だから――」
「ああ、わかった俺が先に行く。規模が分からないから流石に無理な時は無理だけど、それでもなんとかしてみせる」
「すまんジンナイ頼む…コチラからも何人か付ける、それと馬車もアレを使ってくれ、すぐに準備をする。それと俺は一度確認に戻る、今回の件はおかしい所がある‥」
ロウの次にやってきたのはアムさん。
そして既に報告は聞いているらしく、手短に状況を説明し、次に防衛戦の依頼をしてきた。
現在俺は、元からアムさんに雇われている身である。
断る理由もなく、俺はそれを引き受けた。
ただ、それなりの危険はあるが。
「すまん、俺行ってくる」
「え、陣内君…」
「陣内アンタ…、全くこれは貸しイチだからね。ノトス公爵様、わたしもそれに参加します。沙織は急いで宿に戻ってハーティさんにこの事を伝えて」
「勇者ミクモ様、ありがとう御座います」
その後、俺はすぐに屋敷の離れに走り、自分の装備を取りに向かった。
今回運が良かったと言うべきか、三雲が参加してくれると言うのは大きかった。勇者である彼女が居れば、【宝箱】から必要な物を容易に取り出せるからだ。
現に彼女は今、自身の【宝箱】より装備を取り出し、それを装備し始めており、俺よりも早く戦いの用意を終わらせようとしていた。
そして馬車の止めてある場所まで向かうと――
「陣内、準備はOK? こっちは荷物とか【宝箱】に入れ終わったから」
「ああ、助かる。マジで助かる」
急ぎで集められた物資を、全て【宝箱】に収納していた三雲。
【宝箱】に入れれば重さが緩和され、馬車での移動時に負担が軽くなり、今、時間が惜しい状況化では本当に助かることであった。
「ジンナイ殿、それでは出発します!」
「おお、行ってくれ、MPが枯れるまで飛ばす勢いで」
俺と三雲、それと移動補助系魔法が使える御者が一人、その他、公爵家の兵士2名で出発した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
激しく揺れる馬車。
その激しさが、それだけ速度を出している証なので、その事には文句は言えないが、油断をすると乗り物酔いでもしそうな状況だった。
「くっ、全く揺れすぎなのよ、でも仕方ないわよね…」
「ああ、すまん三雲。でも一応特注品の馬車だから、これでもまだマシな方だと思うぞ」
俺の言葉に、嫌そうな顔を見せる三雲。
「申し訳ありません勇者ミクモ様…」
「何卒、暫くのご辛抱を、もうすぐ着きますので」
馬車に乗って約25~30分、そろそろ本気でキツくなって、馬車酔いでもしそうになった時に――
「見えました! 村ですっ! ああ‥シータの村が‥」
御者から村が見えたと報告がやってくる、そしてそれと同時に、その村が襲われていると声音から判断が出来た。
「わたしの出番ね、ここで下ろして、範囲WSをぶち込んで間引いてやるわ」
「任せた三雲、あと二人は三雲の護衛に就いてくれ、俺はこのまま突っ込む」
「はい、勇者様に一匹たりとも寄せません」
「ジンナイ殿、村はお任せしました」
「わかった何とかしてみせるっ! 御者さん、ギリギリまで突っ込んでくれ、あとは離脱していい」
「は、はぃいい」
馬車を一度止めて三雲と護衛の兵士2名を降ろす。
そしてその時に見た、目の前に広がる光景はまるで戦場の一言。
村と聞いていたので、簡易的な木の柵がある程度だと思っていたのだが、襲われているシータの村には、予想よりも立派な防壁が存在していた。
村の出入り口にあたる場所は、切り出された石を積んで強固に作られており、壁の方も石材で作られた場所と、木材を使用した場所が交互になる形でしっかりと作られていた。
壁の高さも2メートルは超えており、簡単に乗り越えられる様子はなかった。
そしてその防壁を上手く利用した戦闘を行っていた、防壁の上から弓で攻撃する者と、長槍のような物で登ろうとしてくる魔物を突き落とす者達。
時代劇モノの映画で見た事がある、戦のワンシーンのような光景。
しっかりとした籠城戦を行っているのだが――
「さすがに数が多い‥それに奴まで居んのかよ」
籠城戦を行ってはいるのだが、戦力差が大きく見えた。
幅50メートル程に見える防壁の上には、10人程度しかおらず、善戦はしているが完全に戦力不足。
今は前面だけだが、完全に囲まれるような状態になったら、間違いなく押し込まれる状況。
しかも、厄介な敵の代表でもある霊体タイプまでチラホラと見えた。
狼型やカゲザルといった獣系の魔物に紛れて、白いカーテンのような姿の霊体タイプまでもが、この魔物の群れに加わっていたのだ。
あの霊体タイプが相手では、いくら堅牢な防壁であっても効果は無い。
あれが防壁の上で戦っている者を襲い始めたら、完全に防衛側は崩れるであろう、村の裏側に逃走経路があるかは不明だが、押し込まれたら村は全滅である。
「くっそ、だけど耐えれば援軍が来る、それまで持てば――って!?」
籠城戦で時間を稼げれば思っていたが、村へ近づくとその案は瓦解した。
村の正面を閉じれるような扉があると思っていたのだが、それが片方壊され倒れており、魔物が入り込む亀裂となっていた。
だが当然、その亀裂を塞ぐ者達がいた。
「ドミニクさん! 良かった、生きてた‥」
ドミニクともう一人の冒険者、それと村人らしき人間が数人で亀裂となった門を守っていた。
「ここを死守すんぞ! 魔法使える奴をもっと呼んで来い、何だってイイから少しでも助けが欲しい」
ドミニクの指示が聞こえてくる、彼は村を守るべく全力を尽くしていた。
だがやはり多勢に無勢、そう長くは持ちそうに無い雰囲気、それに霊体タイプまでも流れ込めば、一気に崩壊する程度の戦力。
今も狼型の魔物が一斉に雪崩込み、防衛組を呑み込もうとするが――
「っしゃああああああ!!」
全力の横薙ぎ一閃。
俺はギリギリまで馬車で寄ってもらい、そこから一気に駆け出し、亀裂となっている門前に躍り出て薙ぎ払い、魔物を黒い霧へと変える。
「ジンナイ!? マジか…もう来たのかよ?」
「ああ、ロウが知らせてくれた、それに三雲も来ている」
「弓の勇者様まで!?」
「今は後ろの方で後続の魔物を抑えてくれているはずッ――だあ!」
俺はドミニクと会話を交わしながら、再び殺到してくる魔物を薙ぐ。
「もう少しだけ耐えてくれ、すぐに援軍が来るはずだ」
「おうよ、英雄さんのアンタが来たんだ、勝てるぜこれは‥」
俺の参戦に顔を綻ばせる熟練中年のドミニク。
だが、問題そう簡単では無い――
「ドミニクさん、ここは俺が引き受けるから、ワッツさんと二人で村に入り込んだ可能性がある霊体タイプを探して倒してくれ。今はいなかったとしても、いずれ入り込むはずだ」
「ちぃ、やっぱ居るよな、分かったここは任せたぜジンナイ」
「了解した、ドミニク隊長いきましょう」
俺の指示に納得し、ドミニクさんがすぐに行動に移ろうとしたのだが。
「ま、まってくれ、アンタが一人でここを? 3人で守るんじゃないのかい? 村人の俺達じゃ‥」
「そうだよ!3人でも足りないだろ! まだ居るかわからない魔物なんて」
「そんな若い奴に‥ここを一人で任せるなんて無茶だろうっ」
ドミニクともう一人のワッツを頼りに戦っていた村人達。
その村人達は、俺が一人が守ることに不安を感じ、自分達がより戦わされることに怯えたのか、考え直すように抗議の声を上げてきた。
俺はどう説得したら良いか、それとも、もういっそのこと無視でもしようか思っていると。
「ああ、この人なら問題は無いぜ。何せこの人はボッチラインって呼ばれているぐらいだからな、むしろ横に俺達が居る方が邪魔になるぜ」
「うぉい! なんでドミニクさんがそれを知って――」
――ああ、昨日の飲みの時か!
あの時に三雲組のメンツから聞いたんだな、
くっそ、拡散しやがった…
「ボッチ…?」
「ボッチ言うな!取り敢えずここは俺に任せろ!」
「ああ、ジンナイ任せたぜ、俺は村を見て回る、霊体以外にも入って来てるかもしれないしな、だから…死ぬなよジンナイ」
「ああ、任せ――っろ!」
「すげぇ、一撃でいっぺんに数匹を‥」
「確かにこれなら、」
俺は門のすぐ後ろに陣取り、壊れた門の幅、約2メートルほどの隙間から侵入してくる魔物と対峙した。
正面だけに集中し、槍で魔物を薙ぎ払う。
「ココは俺だけに任せてくれ、横に来られると巻き込んじまうから、支援系の魔法を使える人を呼んでくれ」
「あ、ああ‥わかった、アンタに村を任せたぞ、頼む」
こうして俺は、再び一人で最前線に立つのだった。
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