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劇で出会う

新章、『北原closing chapter』です。

プロローグなのでちょっと短めで(言い訳

 深淵迷宮(ディープダンジョン)の封鎖解除から約2週間が経過した。

 

 その間、聖女の勇者葉月(はづき)はノトスから旅立っていった。

 葉月(はづき)は、サリオを通してららんさんに魔石の杖を依頼し、そしてそれが完成してからの旅立ちであった。


 杖の代金は金貨400枚、さすがにそれだけの大金は持ち合わせておらず、侍女のエルネや五神樹ごしんき達は、教会から出すと申し出たのだが、葉月(はづき)はそれを断った。


 その際、魔石の杖の依頼は諦めようとしていたのだが、依頼の話を持ってきたのがサリオであり、そのサリオの顔を立てる意味で、ららんさんは――


『にしし、聖女さまに恩を売れるのも悪くないからのう、貸しでええよ』

『ぎゃぼう! さすがららんちゃんです!』

『え?ええ?』


 と、いった流れで葉月(はづき)は魔石の杖、【ユニコーンホーン】を手に入れた。


 なんとかお礼を返したいと言う葉月(はづき)だったが、サリオは、『いつもお菓子貰っているから、そのお返しです』と本気(マジ)で全く無い胸を張ってそう答えていた。

 作ったのはららんさんなのだが‥



 もう一つの騒動、有罪(ギルティ)となったレプソルの件。

 兎人の少女ミミアは15才だった。

 そんな彼女は仕事を探していたが、やはり兎人という事でどうしても好奇の目や、色のこもった目で見られてしまい上手くいっていなかったのだが。

 ミミアと一緒に住む事にしたレプソル(有罪)が泊まっている宿屋、【竜の尻尾】の食堂部分、【竜の尻尾亭】で働くこととなった。

 事情を知った女将さんが雇ってくれたそうだ。

 

 ただ、その竜の尻尾亭には荒くれ者の冒険者ばかりが客としてやってくるので、その辺りの心配はあったのだが、常連の客が多い為、逆に馬鹿をする奴は少なく、寧ろ、ちょっかいを出して来る客を抑える効果があった。

 

 こうして兎人のミミアは、無事に仕事へと就けた。



 

 そして、順調に進んでいる一方で、一つ大きな問題が発生していた。

 それは【魔王発生】の予兆とも言える、魔力の渦の流れが前よりも酷くなっていると言う報告が来たのだ。

 具体的には、東側で独立していた魔力の渦が強くなっていると、中央の城からそう連絡が来た。それにより東に派遣されている、ミズチさんとスペさん率いる陣内組の遠征期間の延期が決定した。


 落ち着くと思われていた東側は、予想よりもまだ落ち着いていないらしい。



 そしてそんな中、俺達は――


「ぎゃぼー! あったですよです」

「あの、これが前に東で聞いた、動きが激しいお芝居ですか?」

「これって、アクションお芝居って言うのかな? 違うか‥?」


 俺達は魔石魔物狩りが休み日に、サリオが希望したお芝居を観に来ていた。

 東の遠征時に聞いていた、東側で流行っているお芝居を。


「なになに、”剣聖乱舞物語”だと、派手なタイトルだな」

「剣聖‥、聖剣を持っていた勇者様のことでしょうか?」

「そう言えば折っていましたねです、ジンナイ様が」



 ふと思い出す、俺が聖剣を木刀で突いてへし折ったことを。


 ――あれは仕方なかった、

 明らかにあの聖剣(魔剣)に操られていたからな、

 あの時、あれ折っていなかったらライエルさんの魔石斬られてたしな、



 なにをトチ狂っていたのか、聖剣の勇者椎名秋人(しいなあきと)は、地下迷宮ダンジョン最奥の精神が宿った魔石を敵視していた。

 しかも、大した理由もなく、魔石から気配がするという理由で。



 俺はそんなことを思い出しながら、料金一人銀貨2枚、合計銀貨6枚を支払って芝居小屋へと入っていった。


 中に入ると、そこはほぼ満席であった。人気がある芝居なのか、まだ始まるまで時間があるにも関わらず満席に近い客の入り。


「がぉーん、後ろの方の席しか残ってないですよです…」

「あの、このお芝居は人気があるのですねぇ」


 俺は二人の感想を聞きながら周りを見渡す。

 何となくだが俺は違和感を感じていた、芝居に人気があると言うよりも――


 ――ん? 女性客が異様に多いな?

 それに何だか浮かれている様子…?



 少し経つと、その違和感に気付いた。

 それは女性の客が多く、そして皆が口々にある言葉を放っていた。


 『本当に出て来るのかな?』と――



 そして芝居が始まった。


 物語の流れは――

 聖剣の勇者が、公爵から魔物討伐の依頼を受け、仲間と共に旅立つところから始まる。

 しかし予想外の規模の魔物の群れと遭遇し、勇者は危機に陥るも何とか仲間達と力を合わせて戦うが、最終的には、聖剣の勇者がゴリ押しで倒していくと言うストーリーであった。



「おいコレ、もう勇者だけでいいじゃねぇかよ」

「あの、仲間との連携とかはどうなったのでしょうねぇ」

「ほへ? コレと似たのどっかで見たような気があるのですよです‥」 


( 駄目だな、先走り過ぎだソイツは。もっと仲間を頼らないと‥ )



 舞台劇、”剣聖乱舞物語”は最後の佳境を迎えていた。

 仲間6人と、100体を超える魔物の群れを退けたが、その後ろにはまだ200体を超える魔物が潜んでいたのだ。

 そしてその魔物が絶望と共に雪崩込んで来るシーンだったのだが――


『まだあんなに魔物が!?』

『さっきの倍はいるぞ!』

『ああ、もう無理だ…』


 仲間達が絶望する中――


『ボクは仲間を守り切るっ!』

『シイナ様!』

『アキト様、くっ、お任せしました』

『我々が不甲斐無いばかり‥』


 共に戦っていた仲間はいつの間にか満身創痍、剣を杖のようにして縋りながら立ち、皆がもう戦えない状況を示してた。


『ああ、任せてくれ、この”聖剣”の勇者のボクにっ!』

 

 茶色い髪をなびかせ、剣を二刀流に構えた勇者役の男が吼えた。

 そして今のセリフに、観客の女性陣が歓喜の張り声を上げる。

 

「きゃーー!勇者さまー!」

「勇者さまかっこいい」

「きゃーきゃ~」

「勇者様素敵~」


( 勇者勇者って、お芝居だろうコレは… )


 察するところ、今のありきたりなセリフは、一応決め台詞だったらしい。

 そのイマイチな台詞はともかく、確かに主役には華があった。

 体は少し小柄だが、動きにはキレがあって脇役の奴らとは別格、他の役者は斬り付けた後にそのまま動きを止めてポーズを取るが、主役の男は違った。


 まるで実戦のように次の動作に移り、次々と斬っていく。

 お芝居としては、止まって魅せるのが正解なのかもしれないが、だが主役の男は、その流れるような動作でより上を魅せていた。


 

 本当に魔物と戦った事があるような動き(・・)


 そして最後の見せ場(クライマックス)では――


『はぁぁ!WSウエポンスキル”コゲツセン”!』


 作り物の魔物を、放出系WSウエポンスキルを放って吹き飛ばしたのだ。


「わわ! 本物のWSウエポンスキルですよです!」

WSウエポンスキル…、冒険者ですかねぇ‥」

「だろうな、あの動きは本物だ」



 派手に張りぼての魔物を倒し、そしてお芝居は閉幕となった。

 ストーリー的な要素は薄く、派手な動きで目を楽しませるお芝居だった。


 個人の感想としては、結構好きな部類だった。



 そして芝居が終わり、俺が外に出ようとした時――


「あの、ご主人様、先程の主役をやっていた方なのですが、こちらを見た時、正確にはご主人様を見た時に、感情がとても動いておりました」

「――ッ、それってまさか?」


「いえ、敵意の色は見えなかったのです、ただ感情が激しく動いていた様子でして‥」


 『【鑑定】をしておくべきでした』と、悔やむラティ。

 しかし次の瞬間。


「あの、先程の主役の方が追って来ているかもしれません」

「む、【索敵】にひっかかったのか? それなら‥」



 俺達はすぐに動いた。

 土地勘はあるので、後ろには開けた通路ある脇道で待機した。


 ラティの【索敵】の位置取りから、主役の男は正面から来る様子であり、建物に挟まれた脇道なので大人数は通れない場所。


 そこで俺達は、先程のお芝居の主役の男を迎え撃つことにした。

 そして――


「ふう、やっと追い付いた。いきなり走るからびっくりしましたよ」

「そりゃ顔を見せない怪しい奴が追って来ていたからな」


 主役だったと思わしき男は、フードを深く被り顔が見えないようにしてやってきた。

 

「あ、すいません、ちょっと顔がバレているから、すぐに囲まれちゃうので」


 そういってフードを取る男、見せた顔は、やはり先程の主役の男。


( あれ? なんとなくどっかで見たことがあるような… )


 先程の芝居とは違い、茶色のカツラでも被っていたのか、今、目の前にいる少年は黒髪だった。


( いや、でもこんな知り合いいないな‥ )


「あれ? ひょっとして覚えていませんか? 陣内先輩・・

「へ?」


「そっか~、覚えてないのか‥」

「お前はまさか…」


「一年下の霧島渚(きりしまなぎさ)ですよ先輩」



 俺の目の前に、一年下(下級生)の勇者がやって来たのだった。


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども…

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