その後
今回はほのぼの会話回です
俺が目を覚ましたのは二日後だった。
ベッドの横にはラティが座っており、
不安と安堵を混ぜこねた表情でこちらを見つめている。
「おはようございますご主人様」
あまり寝てないのか、いつもよりも遥かに眠そうに下がった瞼、
「おはようラティ」
返事をするとそれらが、ふんわりとやわらいだ表情に変わる。
俺はそれを眺めつつ手を伸ばして、ラティの頭を撫でようとする。
ラティは気を使ってくれて少し頭を下げて撫でやすくしてくれる。
口元からの『ぷしゅぅ~』を聴きながら、俺は生還したことを実感した。
正直生きているのが不思議な位の出来事だった。
あと俺は三日かと思っていたけど、二日の遭難だったそうだ。
撫でながら5分経過したあたりでサリオが帰って来た。
サリオは何処かに行っていたのだろうか。
「サリオお帰り、何処か行ってたの?」
「ぎゃぼージンナイ様!目覚ましたのですね」
「ちょっと前にね、それで何処に?」
「いま、聖女様に呼ばれて行って来てたです、ジンナイ様の容態を聞かれて」
「そっか、ひょっとして葉月にも迷惑かけたりした?」
「それはもう、凄い滝汗ものでした」
「じゃあ、あとで顔出しておくか」
その後、三人で無事を喜び合った。
崖に落ちるとかやらかしたのだから二人には心配をかけた。
それから俺は腹が減ったことに気付き、食堂に向かった。
食堂では基本的に誰にも話し掛けられない。
疎まれるような視線は貰うことは、よくあった。
だから俺は冒険者に話し掛けられることは今まで無かったのだが。
今日は、三十台後半の犬人の男の冒険者が話し掛けてきたのだ。
「よう!お前さん、俺はガレオスって者だが二日前の地下迷宮ありがとうな、助かったぜ」
「えっと、誰?」
「ご主人様、この前の救出したパーティの方の一人です」
「ああ、あれは慌ただしかったからな、それと”お前さん”の救出にも参加したんだぜ」
「そうだったのですか、記憶があまり無くてね。来てくれたならありがとう」
「まぁ、直接に感謝の礼と話がしてみたかっただけだ、邪魔したな”英雄”」
「ああ、」
俺は初めて冒険者に面と向かって感謝の言葉を貰った気がした。
それとも英雄なんて言うのだから、単にからかわれただけかも知れないが。
それでも、少し気分は良かった。
それから三週間が経過した。
その後の【ルリガミンの町】の町の流れを説明する。
赤城のやらかした魔石魔物逃走などで、勇者同盟から勇者達が何人か抜けた。
残ったのは3人だけになった、冒険者もかなり去っていった。
だが、脱貴族の考え方をする勇者達は
自分達だけの10~12名ぐらいのグループを作る事になった。
結果として、貴族派と脱貴族のグループ派あと脱貴族の勇者同盟の三つに分かれ、勇者達でも派閥を作って細かく分かれる形になった。
それとこれは冒険者のガレオスからの情報だが、勇者と行動してる冒険者と、そうでない冒険者では、決定的に差が開き、冒険者ギルド内でも混乱が出てきたみたいだ。
簡単な例を上げると。
冒険者ギルドのランクが信用出来なくなってきたそうだ。
勇者の仲間達は、ステータス面だけを見ると2倍近い差があるのだ。
高ランクでも弱いと見られてしまうようだ。
勇者の下でレベル上げしてました、と言う経歴が優遇されるようになったのだ。
そんな激動の中、俺達は普通にレベル上げをして過ごしていた。
ラティとサリオはレベルを上げ、中層でも戦えるくらいになっていた。
ステータス
名前 陣内 陽一
職業 ゆうしゃ
【力のつよさ】49
【すばやさ】 46
【身の固さ】 51
【固有能力】【加速】
【パーティ】ラティ41 サリオ31
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス
名前 ラティ
【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)
【レベル】41
【SP】236/236
【MP】214/214
【STR】 141
【DEX】 163
【VIT】 138
【AGI】 216+2
【INT】 128
【MND】 132
【CHR】 178
【固有能力】【鑑定】【体術】【駆技】【索敵】【天翔】【蒼狼】
【魔法】雷系 風系 火系
【EX】見えそうで見えない(中)
【パーティ】陣内陽一 サリオ31
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス
名前 サリオ
【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)
【レベル】31
【SP】145/145
【MP】258/258
【STR】 69
【DEX】 82
【VIT】 68
【AGI】 86
【INT】143
【MND】129
【CHR】 90
【固有能力】【鑑定】【天魔】【魔泉】【弱気】【火魔】【幼女】【理解】
【魔法】雷系 風系 火系 土系 闇系
【パーティ】陣内陽一 ラティ41
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして現在。
レベル上げを早々に切り上げ、いつもの食堂で昼食を取りつつ愚痴を零していた。
「ぎゃぼう、最近は中層も人が増えてきて魔物の取り合いばっかです」
「そうですねぇ、最近は特に増えてきましたねぇ」
「あ!そういや増えたと言えば”あの盾”増えたよな」
「ほへ?”ラティ盾”迅盾”ですかです?」
「あの、お恥ずかしいのですが、確かに増えられましたねぇ」
ラティ盾と迅盾とは、ラティの動きを参考にした盾役のスタイルである。
魔物の周りを【天翔】など使い攻撃をひたすら避けて、隙を他のアタッカーが攻撃するスタイルである。
いままでの大盾を持った盾役が、回復魔法を受けながら戦うスタイルとは違う、全く新しい戦い方である
「いま流行ってますですよです」
「だな、ラティもその動きから、”瞬迅”とか新しい二つ名出来てるし」
「あの、旬と速いの意味を込めて瞬らしいですねぇ、ちょっと恥ずかしいです」
「”瞬迅”ラティかっこいいです」
「でも【強盾】の【固有能力】持ちが最近不遇らしいぞ」
「あの、ご主人様 それは私のせいでは、」
「ジンナイ様がラティちゃんいじめてるです」
【強盾】とは、盾を力強く扱える【固有能力】であり。
盾役には必須と言われていた、盾役を優遇する【固有能力】だ。
優遇されていた連中が最近肩身が狭いらしい。
――固有能力持ちであぐらをかいていた奴にはいい気意味だ。
これは決して固有を一個しか持ってない、俺の僻みでは無い!
少し平和過ぎる時間が最近は流れている。
だが魔王復活もあるので、強化も忘れてはいけないので。
「ちょっとレベル上げより、金策して装備品も集めて備えたいと思います」
「あの、ギルドから依頼を受けれないですからねぇ」
「魔物からの魔石とかが生命線ですです」
「その魔物が最近満足に狩れていないと‥‥ どうすっかなぁ」
「よお英雄!金策で困ってるならウチの伊吹紅葉組の手伝いしないか?」
突然話しかけてきた男は、犬人の冒険者ガレオスだった。
ガレオスはここ最近よく話す冒険者だ、救出事件後に交流をするようになった。
俺にとっては町の噂話なども教えてくれる貴重な冒険者だ。
一部を除いた他の冒険者には未だに俺は嫌われているのだ。
「ええと、伊吹ってあの背の低い?」
「ああ、そのチビ巨乳のイブキ様だ」
「ぎゃぼ!あたしが呼ばれてましたか?」
「イカっぱらの、お嬢ちゃんのことじゃないな」
激しく落ち込むサリオをラティが慰めてるのを横目に、詳しい話をガレオスに聞く。
「伊吹の手伝いって、何をするんだ?」
「ああ、ちょっと迅盾の手本とか見せて欲しいんだが――」
そこからガレオスが語りだした。
流行の迅盾を採用してみたが、上手く行かず悩んでいると。
それなら本人にアドバイスをっと、ガレオスが提案した所、それが採用され。
俺達に迅盾のレクチャーを依頼に来たと。
だが、俺の評判は良くない。
特に女性には噂が噂なだけに‥‥。
「いいのか?俺はその、あまり‥」
「ああ、俺は気にしないからな、イブキ様もその件についてはデマだと感じてるみたいだからな問題は無い」
「そうなのか?」
「なんでもラティ嬢を見れば分かるだとよ、あの噂がデマだって事が」
勇者でもある伊吹紅葉は、ラティ手篭めの件はデマだと信じてくれるみたいだ。それなら後は報酬だ。
「報酬は?」
「三日で金貨三枚」
「引き受けたー!」
こうして俺達は勇者伊吹組の依頼を受けることにした。
この報酬金額は今の俺達にはありがたい話だった。
そしてそのまま、ガレオスに連れられて伊吹組が居る宿屋に向かうことにした。
「ここだ入ってくれ、イブキ様連れてきたぞー!」
「おー!ガレオッスんさんありあとー!」
「よろしく、伊吹、さん」
紹介された伊吹紅葉とは、別のクラスで全く交流は無かった。
だが、大半の男子ならその存在を知っていた。
一部が大きくて魅力的なのが理由だ。
俺も廊下でスレ違うと『おお』と思うことがしょっちゅうあった。
背はラティより小さい150㌢位で、髪は長く腰まで。それをシュシュで背中辺りでまとめている女の子だ。
見た目はリスを彷彿させる可愛い系だ。
「よろしくね陣内君、私は噂否定派だから気にしないでね」
「ああ…」
「私はずっとこっちに居て詳しくは知らないけど、その大変だったみたいだね。オッスンさんから聞いたのよ」
そのまま伊吹の話を続いた。
元から脱貴族派に近く、赤城達の勇者同盟に入ってみたが、
何か違うと感じ抜けたそうだ。
その時にガレオスさんと一緒に行動するようになったと。
――気持ちは解る。
あの集団は不安しかないからな、正しい選択だ!
「うん、まぁ分かった、それで迅盾の練習だけど誰がやるんだ?」
「私とあと一人ね。一応私は【駆技】と【天翔】の両方の効果を持つ【天駆】持ちだから迅盾適正はあるはずよ」
「オジサン達の組は回復持ちが一人でね。戦闘の連戦がキツいんだ」
「なるほど、それで回復に負担の少ない迅盾を覚えようと」
「今日はオレとイブキ様、あとウチの二人とラティ嬢の5人で行く予定だ。後は見学でいいかな」
「分かった、それじゃ入口行くか」
俺達は入口にまで移動し、残りの二人もすぐにやって来た。
パーティを一度組直し、俺とサリオは見学組だ。
五人と二人で地下迷宮に入り、五人は戦闘を入口付近で開始しする。
そして俺とサリオの見学組は座りながら――
「ジンナイ様、なんか新鮮です」
「うん、新鮮過ぎて落ち着かないレベルだ」
「ぎゃぼ!ラティさんまた凄い動きです」
「激しい動きだな。この報酬入ったら(強)のスカート買わないと」
「酷いですー、あたしにもミニスカ系の可愛い奴を所望です」
「サリオお前は何履いても膝下になるって」
「酷いtake2ですよ、揺れる乙女の気持ち踏みにじりですよ」
「ハイハイ乙女乙女って、おぉ!凄い揺れてる」
「ジンナイ様、ちょっと最低です」
「お前も親の仇みたいな目で見てるぞ」
「しゅかし、あの身長で大剣使いって凄いです」
「ああ、色々とブン回してるな」
「ジンナイ様、まだそれひっぱるです?」
「ごめ…」
常に戦闘ばかりしていた俺たちには、ある意味貴重な時間が流れていた。
魔物を倒すのでは無く、接近してひたすら避ける訓練を続ける伊吹達。
伊吹組は全員で9名、回復持ちが一名だという事。
他の勇者組も回復持ちを集めてるみたいで、回復持ち不足になっているらしい。
新人の回復持ちは赤城が集めてしまっていると言う。
葉月が聖女様として大切にされているのも、強力な回復持ちだからかも知れない。
その伊吹組は8人を一人で回復させる形。
回復役の負担が大きすぎる為、それを解消させる為の練習だが…。
「やっぱ簡単じゃないです」
「ああ」
「そして暇だな」
「暇だからって頭ナデナデしないです」
「手持ちぶさたでな」
「レデぃーの頭を気安く触るなですよです」
その日の特訓はあまり上手くいっていなかった。
伊吹は大剣に振り回されてばかりで、とても迅盾を出来そうには見えなかった。
そして今はガレオスに夕食を奢って貰っている。
「ラティ嬢ちゃんありがとうね。ウチのイブキ様は大剣使いだから迅盾教えるの大変でしょ」
「おい!没収しろよ大剣なんて、俺と違って複数の武器使えるんだろう」
「なんでも大剣は乙女の意地らしい」
「捨てちまえ!そんなモノ」
「ああ、ホントは回復役があと一人居ればイインダケドナ~」
「そんなに今って回復役見つからないのか?」
「どこも回復役集めちゃってね、カスリ傷程度なら治せるってのは多いけど」
「なるほど、優秀なのは少ないのか‥」
「どっかの組が新人の回復役独占しちゃってね~」
「ふ~ん」
( 興味無いんだけど、何故か怪しいな )
「あっと、ラティ今日はお疲れな」
「そうです!ラティちゃんおつかれです」
「いえ、奴隷ですので問題ありません」
その日のラティは何故か機嫌が悪かった。
( 一人で戦わせてたから怒ったのかも知れない )
◇ ◇ ◇ ◇
それから二日後の契約最終日。
迅盾の練習はあまり芳しくない。
何故熟練のガレオスは伊吹に大剣を止めろと言わないのだろうか。
そんなことを考えながら、五人の練習を岩場に座りながらサリオを膝に乗っけて眺めていた。
練習開始から1時間経過したあたりで団体がやってきた。
20人を超えるパーティの団体が近くを通りかかったのだ。
パーティが通りかかるのは珍しいことでは無いが、今回は人数が多いのだ。
一応警戒の意味も込めて眺めてると、向こうから話を掛けて来たのだ。
「やぁ伊吹さん、そろそろ勇者同盟に戻って来たらどうかな?」
「赤城君…」
その団体は赤城の勇者同盟だった。
そして赤城は伊吹にねちっこく話し続ける。
赤城を警戒してか、ラティの機嫌が異様に悪い。
「やっぱさ、パーティ管理には【政治】と【支配】とかの【固有能力】が必要だと思うんだよね」
「はぁ」
「だから君の大剣とか生かせるには、僕のようなマネージメントが必要だと思うんだ」
どうやら話の流は、勇者同盟を抜けた伊吹の再加入を勧めているようだった。
よその組の話なので静観していたが、横からガレウスが俺に話かけてきた。
「英雄のダンナ、ちょっと聞いてもらいたい事があるんだ」
「うん?」
「赤城の持ってる【支配】なんだが、あれは意思の弱い奴を従わせる【固有能力】なんだ」
「なるほど」
「ここで本題だ、英雄のダンナに勇者同盟の回復役を引き抜いてもらいたいんだ」
「待て!俺を巻き込むな」
「12~15才の新人だから嫌でも逆らえないらしいんだよな」
「話を続けるな…」
「伊吹様もアレだから引き抜きとか出来ないタイプだし、俺が行くのも角がたつ」
「俺が言ったってギンギンに立つよ」
( あ、なんか卑猥だ )
「ダンナなら、前の救出事件でアイツら回復役にも好印象だし、何より、」
「何より?」
「赤城達には嫌われてるんだし今更問題無いだろ。成功報酬金貨五枚も付ける」
「分かってるじゃないか俺に任せろ!」
――いや、金貨に釣られたんじゃ無いんだ。
【支配】で管理されてる新人が可哀想だし、
それに赤城は俺の救出を中止しようとしたし(ガレオスに聞いた)
しかもあの件の感謝のお礼すら言われていない。
ちょっと困らせるのもありだよな。
こうして俺はコッソリと勇者同盟の回復役2名の説得し、
伊吹のパーティに加入させる事に成功した。
説得の際の手引きはガレオスさんが手配を行った。
いま思うと迅盾が目的ではなく、
この引き抜きがガレオスの真の目的だったのでは無いかと思う。
だから、練習場所が入り口の通り道だったのだろう。
結果、俺はラティにスカート(強)とサリオにミニスカローブを買ってやることが出来たので、よしとする事にした。
読んで頂きありがとうございます