【閑話】タカノメ
レプソルの二つ名は、有罪のレプソルの方が良い気がしてきた。
今日は話し合いの集まりだけだった。
三日間の深淵迷宮の封鎖。
それにより、自分の所属するアライアンスの活動は休みだった。
だからオレは、アライアンスでの話し合いが終わった後、明日に備え、英気を養う為に少し良い物でも食べに来たのだが――
「ぎゃぼーー! これですよこれ、嬉し過ぎるですよですっ」
「あの、サリオさん? あまり騒ぎ過ぎない方が宜しいかと」
「サリオ、卵はその5個で終わりだからな、追加は無しだぞ」
「らじゃです」
行き付けの食堂の一角に、3色の奴らが居た。
一人は、白いローブを身に纏っている小さい女の子。
もう一人は、紅の外套を纏い、室内にも関わらずフードを深く被った少女。
そして最後の一人、黒い恰好に黒い目つきの男。
オレが所属するアライアンス、陣内組の主要メンツだった。
( あの3人も此処に来たのか )
オレが3色の方を見ていると、オレの存在に初めから気付いていたかのように、瞬迅ラティが目配せしつつ、小さくお辞儀をしてきた。
( あ、ども )
オレも心の中で返事を返しながら小さく頭を下げる。
瞬迅ラティは3人での食事を楽しみたいのか、オレのことは、彼女の主であるジンナイに報告する様子は無かった。オレ自身も今は、一人でゆっくりとしたい気分なので助かった。
オレは一人、高い肉を使った焼き肉の食事を楽しむ。
噂によると、肉の仕入れ先である東が不安定であり、今後、値上がりする可能性があると聞いていた。
オレはそんな噂のある肉を、噛み締めつつ楽しんでいると――
「てめぇサリオ! 肉を一気に取り過ぎだろ」
「仕方がないのです、今のタイミングが一番おいしいのですよです」
「お肉が…」
「火の通り具合の事なんて言ってねぇよ! 取り過ぎるなって言ってんだ」
「スキヤキは弱肉強食なのです」
「意味があっているようで、違いますねぇ」
少々羨ましい光景。
オレはそんな気持ちで三色を眺めた。
その後、オレは食事を終えて、そろそろ店を出ようかと思っていると――
「お? この子なんていいんじゃないか? 昨日店に紹介してやった兎人の娘は逃げ――なんか店を辞めたみたいだからよぉ」
「お前なぁ、アレは大変だったらしいんだぞ?」
何となく気になる言葉が聞こえ、オレは声のする方に目を向けると、其処には瞬迅ラティが男二人に絡まれていた。
一緒に居たはずのジンナイは、トイレにでも行っているのか不在だった。
( ああ、またか‥ )
俺は心の中でそう呟く。
このノトスで、瞬迅ラティの周りでよく見かけるこの光景に。
誰も口にはしないが、彼女には違和感を感じていた、ハッキリと言うならば何か不思議な力があるだろうと思っている。
もっと具体的に言うならば、それは【魅了】。
瞬迅ラティはよく男を惹きつけていた、しかも駄目そうな奴ばかりを。
前に、フードを被らずに街中を歩いている彼女を目撃した時に、まるで惹き寄せられるようにして男が寄って行った。
その隣には、あの必殺が立っているにも関わらず。
結果、強引に瞬迅に詰め寄ろうとした男は、ジンナイによって地面に叩き付けられてのびてしまっていた。
他にもこの店で酔っぱらった冒険者が瞬迅に絡み、そして床に叩きつけられるのを何回か目撃した。その中には自分が主だと主張する者も――
『俺様がそいつの本当の主だ、仕方ないから金貨8枚の所を10枚で買い戻してやる。だから――ッガッフ!?』
『あの時は無理矢理で悪かった。だから今度は優し――ぐっがぁ!?』
『テメェこのラビットラティ! お前は俺の――っがぁ!? 止めてくれ、っぐは!いてえ、まってくれぇ話を――ぶべらぁ!?』
そのうちの一人は本気で殺されそうになり、止めに入るのが遅かったら、本気でヤバかった時もあった。
(そういやアイツ、警備兵に引き渡されてからどうなったんだろ… )
何回も不思議に思ったが、納得出来るようなところもあった。
瞬迅ラティの顔を見つめ続けていると、何故かムラムラと黒いモノが沸き上がるような感覚に囚われ、視線を逸らすとそれが霧散する症状。
オレは人の女が好みで、耳と尻尾持ちは趣味ではないのだが、何故か瞬迅ラティの時だけは強く惹かれた。
だが、隣にいるジンナイの存在を思い出すと一気に冷めるので、オレが地面に叩きつけられることは今までなかった。
そんなことを思い出しながら、瞬迅をつい【鑑定】をしてしまう。
なんでステータスプレートに【魅了】が無いのかを。
オレが【鑑定】で瞬迅ラティを見ている中、彼女に絡んでいる二人の男はまだ話し掛け続けていた。
「キミいいね~、なんか惹かれるよ。どう?ちょっと良い仕事があるんだけど、少しだけでも働いてみない? 凄く楽な仕事だよ」
「お、おいリッツ、強引過ぎるだろ。彼女も困惑しているじゃないか」
「なんだよバーグ、邪魔をするなよ」
片方の男がグイグイと押し、もう一人の男がそれをやんわりと窘める。 のだが――
「ごめんね君、コイツ普段はこんなじゃないんだけどさ、君が可愛いから浮かれちゃっているんだよ。でもまぁ分からなくもないんだよね――」
元からそういう手筈だったのか、窘めていた方の男までも、ちゃっかりと瞬迅に話し掛け始める。
しかしそれを無視し続ける、瞬迅ラティと焔斧のサリオ。
瞬迅の方は敢えて無視している様子だが、焔斧の方は本気で気にした様子もなく、ガツガツと肉を貪っていた。
(おおお、おい、喰い過ぎだろう… )
「実はさぁ困っているんだよ、この前誘ったコが突然に辞めちゃって、ホント無責任でさ~、ボクも困っちゃってねって……君、聞いているかな?」
「………」
男が必死に話し続けるが、その男には一瞥もくれず淡々と食事を続ける瞬迅ラティ。
彼女は基本的に無表情なので、その拒絶感はなかなかのモノ。
( すげぇシカトっぷりだ、あの時の逆赤ちゃんプレイをしていた本人とは思えないな――あっ馬鹿 )
「なぁ、しっかりと顔を見せて話せよ」
無視され続けた事に腹でも立てているのか、グイグイといっていた方の男が、瞬迅のローブのフードを剥ごうと手を伸ばすが――
「俺のツレになんの用だ」
「ああん? なんだテメェは」
「あ、ご主人様」
いつの間にかジンナイが戻ってきて、瞬迅へと伸ばそうとしていた男の手を遮った。
そしてやって来た主へと、顔を向けて綻ばせる瞬迅。
「ん? あれ…赤首の奴隷? まさか……」
「はぁ、この女が奴隷だって? それならこの野郎が主だってか?」
瞬迅が顔を上げた事により、少しだけ露わになる首元。
そして彼女のその首を見て青ざめる男。それとは逆に何を思い付いたのか、下卑た嗤い顔を覗かせるグイグイ男。
「馬鹿ッ! リッツ、コイツ等はヤバいって」
「ああ? なにをビビッてんだよバーク。奴隷ならある意味好都合だろうが、コイツに命令をさせれば働くってことだよな? この女が階段で働か――っがは!?」
本当に見慣れた光景。
流れるように相手の首を掴み、一瞬だけ少し持ち上げてから一気に叩きつけるジンナイ。
「おい、お前‥、ラティに階段で働けっての――っか!」
「――ッうがぁぁぁ!?」
叩きつけた後も油断無く追撃を加えるジンナイ。
しかもしっかりと機動力を奪うのを目的とした脚への攻撃、右脚の付け根辺りをジンナイに踏み抜かれる。
「おおおお、おい待ってくれっ! 許してくれ!知らなかったんだ、アンタの、【足狩り】のツレだなんて。だから許してくれ――」
「………」
無言で返事を返すジンナイ。
是か否か、判断の付かない返事を返され、必死に取り繕おうと縋る男
「悪かった、最近ってか昨日見つけた兎人に逃げられて困ってたんだ、その穴埋めに必死で馬鹿なことをしました、だから許してくだ――っがふ!?」
先程の光景を繰り返すジンナイ。
「お前達が犯人か、よしコイツを裏切り者に引き渡そう」
いつものように騒動が起き、そしていつものように呆気なく終わった。
既に慣れているのか、店側の方も、店内の物が壊されない限りは文句は言って来なかった。しかも店内にいる客たちも――
「馬鹿な奴だ‥」
「この店は初めてだったんだろうな、」
「この店の常連で瞬迅に絡むとかするヤツはいないからな」
「まぁ面白いモン見せてもらえたな」
「それは言えるぜ」
「「「「ガハハハハ」」」」
とても慣れた様子であった。
その後、男二人は魔法で眠らされ、食事を終えた瞬迅がレプソルを探し出して来て、レプソルにその二人を引き渡していた。
そしてやって来たレプソルはオレに気付き――
「あ、ホークアイ、ちょっとこの二人を運ぶの手伝ってくれ」
「ああ、分かった。で、ドコに運ぶんだ?」
「最終的には警備の奴にも突き出すけど、その前にちょっとな…」
「了解、今度なんか奢れよ」
「金が無い俺にたかるなよな」
「いいだろ裏切り者、兎人の彼女がいるんだから」
こうしてオレの食事は終わりを告げたのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想など頂けましたら幸いです。あとご質問やご指摘なども。
誤字脱字も…




