裁判
遅くなりましたー;
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あの騒動から三日が経過した。
そして色々とあった――
あの日、酔い潰れたラティを連れて公爵家に帰ったのだが、俺はすぐに呼び戻される事となった。
その理由はレプソルの乱心。
詳しい経緯は後から聞いたのだが、階段にいると噂になっていた兎人はレプソルの知人だった。もう少し踏み込んだ言い方をするならば、彼女のような存在らしい。
プライベートな事なので、あまり深くは訊ねなかったが、兎人の子は、公爵家に雇われている冒険者レプソルを頼って来たそうだ。
そしてそのレプソルに、感謝の気持ちから何か贈り物をしたかったそうだが、彼女はお金はあまり持っておらず、そこを唆されて仕事に誘われたらしい。
当然、仕事の内容はボカすように誤魔化され、騙される形で誘われていた。
そしてその初日に、レプソルが階段にやって来てその彼女と対面。
仕事内容が分かっていない兎人の彼女に会う。
彼女が騙されているとすぐに気付き、そしてレプソルはブチ切れ暴れる。
俺はラティから雪の結晶の形をしたペンダントを借りて駆け付け、魔法をばら撒き大暴れしているレプソルを制圧した。
店側の方にも、兎人の少女ミミアを騙して働かせようとした負い目もあり、暴れたレプソルは罪に問われる事は無かった。だが、ノトスの街での階段の出入り禁止、それと店舗破損の賠償金は払う事となった。
金額は金貨240枚。
レプソルはそれなりに金貨を貯めてはいたが、結局は足りず借金生活となった。
しかしこの一件で、レプソルは兎人のミミアと正式に付き合い始めた。
因みにこの時に、【出禁のレプソル】と言う二つ名を頂戴した。
そして騒動から明けて次の日。
いつものように魔石魔物狩りに、深淵迷宮へ向かうと。
「あれ?なにしてんだアイツ等?」
「あの、何かいつもと様子が違いますねぇ」
「ありゃ? 今日は深淵迷宮はお休みですかです?」
深淵迷宮の入り口がある砦の一角を陣内組が陣取り、レプソルを取り囲むようにしてぐるっと回って立っていた。そして何故かレプソルは縄で縛られている。
サリオはそちらよりも、深淵迷宮の方を気になり指を差す。
サリオの指差す先、深淵迷宮の入り口には三日間の封鎖と書いてあり、入り口を見張る門番まで立っていた。
――あ~~、あれか、
昨日やらかしたから、何かあったんだろうな‥
もしかすると、新しいルール的なモノが追加されるかもだな‥
俺は昨日の、”死体魔物大量発生事件”のことを思い出し、心の中でそんな感想を思い浮かべていると――
「あ! 来たぞ、もう一人の被告人が!」
「「「「奴も裁判にかけろ」」」」」
「へ?」
一瞬、ギームルから受けた、裁判モドキのトラウマが脳裏をかすめる。
思わず身構える俺に、陣内組のメンツは理不尽なことを言い出す。
「イチャつくのは百歩譲って許そう。だが、人前でそれをやる奴は万死に値するっ! さぁジンナイ、素直に裁かれるが良い!」
「そうだそうだ!」
「見せつけやがって…」
「金も払わずに女といちゃつくとは‥許さんっ」
「ああ、万死に値する」
何を言われているのかは理解が出来た。
だが同時に、それを理解したくない気持ちが沸き上がる。
アホらし過ぎると――
俺が理解を放棄しようとしていると、後ろから予想外の伏兵が現れた。
「あの、ご主人様、それはどういう事でしょうか? 彼等が嘘を吐いているようには見えません。一体どういうことでしょうか?」
「へ?」
ラティが静かに怒りを放ち立っていた。
何故ラティが怒っているのか、それはなんとなく理解出来た。
多分、嫉妬の一種だと思う。 だが――
――えええええ!?
ラティが怒るんかい! いや、覚えていないんだよな、
昨日、酔い潰れたんだから、自分のした行動を‥だけどこれって…
俺は昨日の出来事を、とても話すことが出来ずラティには伏せていた。
うっかり話そうモノなら、アキイシの時のように逃げられると予想して。
「ほへ? いちゃついてたのってラティちゃんよね?です」
「――え?」
「あ、馬鹿サリオっ!」
「うん、だからラティちゃんがジンナイ様に抱っこされてたんですよ?」
「あの、それは‥?」
サリオの発言に、珍しく狼狽えるラティ。
ラティは【心感】持ちなので、サリオが嘘を吐いていない事が判る。だからこそサリオの言葉に驚き狼狽えていた。
( おお、これは珍しいな )
「くそ、赤首だからと油断していたぜ、あんなプレイがあるとは‥」
「ああ、まさか歴代勇者様が残した、あの『赤ちゃんプレイ』を逆でやるとは‥上級者過ぎるだろう」
「階段でそれを頼むと、すげぇ追加料金が発生するってのに」
「逆もいいな、今度俺も頼んでみるか金がある時に…」
久々に、歴代勇者共の酷い愚行を知った。
俺が歴代共の行いに軽い目眩を感じていると――
「あの、あの、それってまさかわたしが‥あれは夢だったのでは…」
「うん、ラティちゃんがまるで、”モモちゃんみたいに”ジンナイ様に甘えていたのですよです。あの時の酒場で、みんなが見ている前で」
「ちょっ! サリオ」
容赦なく追い打ちをかけるサリオ。
サリオは【理解】の【固有能力】を持ってはいるが、この【理解】は、人の心の機微といったそういう所には全く機能していない様子だった。
「ラティ‥?」
俺はラティに恐る恐る話し掛けた。
「あの、今日は魔石魔物狩りはお休みですよねぇ?」
「だな、なんか封鎖されているし」
「あの、それでしたらちょっと急用がありますので、これでっ」
――シュタッ――
表情だけはなんとか無表情を取り戻したラティだが、顔の赤みは取れず、まさに逃げるようにして空へと翔けていく。
高さ5メートル以上はある砦の壁を、ラティは軽々と飛び越えていった。
「…すげぇな」
「城壁とかも普通に越えそうだな」
「ナイススパッツ…」
「天翔ってあそこまで出来るのか‥」
ラティの動きに感心するように驚く陣内組。
だがすぐに使命を思い出す馬鹿達。
「はっ! 今はまず裁判を続けるぞ!」
「うむ、罪深いこの二人を裁かなくては」
「ああ、特にレプソルの方は罪が重いな」
「兎人の少女だと‥羨ましい、くそう」
「ミミアちゃん、可愛かったなぁ」
裁判官の皆が、兎人のミミアの事を思い出していた。
俺も昨日レプソルを止めに行った時に見た、兎人のミミアを思い出す。
背中まであるストレートヘアーの青みがかった白い髪。
保護欲を激しく掻き立てる愛らしい顔立ちと、いかにも兎らしい赤い瞳。
そして、愛らしい顔立ちに合わない、凶悪な肢体。
細身にも関わらず伊吹クラスの丸い胸元。
比喩ではなく、本当に大きい果実でも張り付いているような胸であった。
そして腰回りのくびれも素晴らしかった。
病的に感じるような細さではなく、野性味を感じさせる健康的な腰回り。
――くっそ! 思い出したら腹立ってきた、
あんな子とイチャついているだと‥これは許されない…
そうだ裁かれるべきだっ! 奴は!
「ホークアイ裁判長、この不届き者の処罰はどうなっておりますか?」
「うえ? あれ? ジンナイがいつの間にこっち側に?」
「おいジンナイ! お前何言ってんだ。なんでお前まで――」
「――ッ黙れ裏切り者! あんな兎なコと色々と仕出かしてんだろ! くそ、羨まぁ…、羨ましいぞレプソル! で、裁判長、この者の処罰方法は何です?」
――羨ましい、
俺なんて…くっそ羨ましいっ!
「ああ、一応罰として、陣内組全員のアイアンクローによる、”アンダーハンドパスリレー”を予定しているが」
「よし、アンカーは俺に任せろ! 最後はしっかりとタッチダウンしてやる」
「おいふざけんな! なんで俺が裁かれる――っむぐ!?」
「逝くぞ野郎共ー!」
「「「「「「「「「「「おおおおお!!」」」」」」」」」」」」
その後、レプソルの顔をバトンに見立てたバトンリレーを開始した。
ただ、あまりその醜態に、マネージャーのような仕事をしている猫人の女性、イシスさんが止めに入った。
「――全く、一体何をやっているのですか」
「あ、イシスさん…これには深い訳が…」
「深く無いでしょうに、ただの嫉妬ではないですか」
「いえ、その嫉妬が深いのです」
「そうだそうだ! 我々は深く傷ついたのだ」
「ホントだよな、兎人が階段にいるからって行ったのに‥」
「ああ、南じゃ滅多にいないってのによぉ」
「俺は金貨での支払いも覚悟していたのに」
「そしたら、コイツが…くっ!」
「――っがあああ!?」
「ああ、だからリレーを再開しないで下さい!」
実質、陣内組を管理しているイシス。
その彼女に注意され、陣内組の皆はバトンリレーを止めた。だが――
「でも…レプソルさんには彼女さんが居たのですね、知りませんでした…」
少し寂しそうにそう呟くイシス。
その表情は何処か切なそうであり、哀し気な女の顔。
つい最近、何処かで見たことがある表情。
その表情を見た陣内組のメンツは心を打たれ、己にSTRブーストの魔法を掛け、レプソルには弱体系の魔法を唱えてから、再びバトンリレーが開始されたのだった。
それからの三日間で、ノトスの状況は少しづつ動いた。
舞い込む仕事に忙殺されるアムさん、そこへ今回の死体魔物大量事件。
深淵迷宮に新しい規則が追加された。
地面に置いて良い魔石の数は、1アライアンス3個までとなった。
本当のところ、安全策を取って2個までが良いのだが、魔石を欲する商人側の主張を抑え切れず、3個までとなった。
アムさん曰く、商人側の主張は制限無しだったと言う。
冒険者ロードズは、魔石魔物狩りの資格を剥奪された。
何処かのパーティに参加して魔石で稼ぐのはセーフだが、リーダーとして人を集める事が禁止された。
当然、参加しているパーティに対しての発言等も禁止された。それを破った場合は、ロードズ本人とパーティメンバー全員が罰せられることとなった。
そして何処のパーティも、そんな爆弾は抱えたくはなく、実質、深淵迷宮からの追放のようなモノであった。
そしてこれにより、死体魔物大量発生事件は手打ちとなる。
ロードズ以外の者は、誰も罰せられることなく。
「ジンナイ様、約束ですからねです。玉子は5個を要求するのです」
「あ~~わかったわかった」
「あの、久々のスキヤキはわたしも楽しみですねぇ」
あの騒動から三日後、俺はサリオと約束していた食事に向かった。
明日から深淵迷宮が解放されるので、打ち合わせを兼ねて一度陣内組は集まり、明日の予定を話し合いをした。
そして話し合いを終えて、真っ直ぐ帰るのではなく、俺達は行きつけの店、『竜の尻尾亭』へと向かう。
『竜の尻尾亭』は一般市民向きの店ではなく、冒険者などの荒くれ者を相手にしている食堂兼宿屋。
ちょっとしたトラブル程度では出入り禁止にならず、そして追い出される事もないので、俺達は重宝していた。多少絡まれる事があっても、店側から出ていけと言われないので。
そして俺達3人は、『竜の尻尾亭』へ入って行ったのだった。
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宜しければ感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。
あと誤字脱字なども…