二つの嗤い顔
昔、ある荒々しい猛虎のようなストライカーが言っていた。
ゴールの枠が見えればシュートを決められると。
俺もそれに近く、射程範囲内で障害物が無ければ魔物を倒せた。
因みに、猛虎なストライカーのライバルであり、空でも飛びそうな奴は、『ゴールが見えなくてもシュートを決めれる』と言われてた。
俺は巨体死体魔物と、白いケーキ野郎を連続で倒した。
白いケーキ野郎を倒した事で、魔石魔物の狼男型と狼型は普通の行動パターンに戻り、呆気なく撃破。そして、巨体死体魔物を倒すと、呼び出されていた雑魚死体魔物達が全て消えた。
全く予想していなかった。だが、あの呼び出された死体魔物は、呼び出した巨体死体魔物が倒されると、霧となって霧散したのだった。
それにより、ローブの結界を張っていたサリオと、そのサリオと一緒にいた葉月は、魔物に襲われることなく無事に救出された。
そして今は――
「ロードズ、お前わかってんだろうな、どれだけ周りに迷惑を掛けたのか」
「レプソル…、ああ、お前の言う通りだったよ。俺達は魔石を置き過ぎた、見誤っていたよ…それは認める」
「じゃあ今日の稼ぎの魔石を全部――」
「――ッそれは多すぎるだろ!? 酒と飯を奢るでなんとかっ」
「俺達がいなかったら――」
「だからそれは―――ッ」
「―――」
「――」
今、俺の目の前では――
論功と言う名の吊し上げ大会が行われていた。
今回の騒動で、陣内組とその隣のパーティが援護に向かった。
そしてその結果、SPとMPが枯れ、今日の魔石魔物狩りは続行が出来なくなっていた。そして、その代償として、今日の稼ぎの魔石を全て吐き出せとレプソルは要求をしていた。
「いくら何でも多すぎるだろ!全部とかっ」
「少しぐらい多すぎる方がイイんだよ、そうすりゃ馬鹿をする奴が減る」
「――っぐ」
論功はまだ暫くの間、続きそうであった。
俺は少し離れた場所で、それをぼんやりと眺めながら別の事を考えていた。
――ヤバかった‥
だけどっ‥今度は助けられた、
くっそっ……あの時も‥
俺は切り札を使った反動で、脚に激しい疲労感と痛みを感じて地面に座り込んでいた。
他のメンツは、他に魔石が落ちていないか探したりや周囲の警戒などを。回復魔法が使える者は、負傷者の治療に回っていた。
当然、その中には聖女の勇者葉月も――
「傷を見せてください、回復魔法を掛けますね」
「あ、ありがとう御座います聖女様、なんと言うか記念になりますっ」
まるで貴重な記念のように回復魔法を掛けて貰う前衛、しかもアホらしい事に、順番待ちをして回復魔法を待っている者もいる。
「どっかの握手会かよ‥」
俺はその目に付いた光景を『アホか』という思いで見ていると、その視界を塞ぐようにして黄色い奴がやってきた。
「どうもぉ~ジンナイさん、ちょぉ~っと――話をしたい」
「お前は――って!? お前は…イエロか?」
俺の前にやって来たのは五神樹のイエロ。
だが、俺の知っているイエロとは違っていた。誰にでも好かれそうな人懐っこい表情は消え失せ、無邪気だった瞳は仄暗く、にこやかな口元は口角がつり上がり、今は歪な三日月型に。
そして三日月型の口元からは、不快感のみの声音で話し掛けて来る。
「全くオマエは余計なことをしてくれたよな、折角ボクが余計な思考を取り除いたってのに、また振り出しに戻ったよ」
「……お前なにを言って…?」
「本当に邪魔をしてくれるよね、オマエは――」
俺の前に立ち、他の人達には顔が見えない角度を維持しつつ、不快感しか感じさせない歪んだ表情でイエロは三日月な口で続きを語る。
その内容は。
イエロは五神樹達を上手く誘導して、超えるべき壁とされていた勇者八十神に対して、その本人を超えるのではなく、奴のレベルを超えれば、八十神を超えた事になるという理論を立て、それによって他の五神樹達を納得させようとしていたのだと言う。
要は、あやふやな『壁を超える』という定義を、数字で明確にして、超えたことにしようとしていたのだ。
そして八十神を超えたのであれば、堂々と聖女の葉月に迫れると。
しかも、初日に聞いた6人部屋は、イエロの謀略なのだとゲロる。
「イエロ、お前…」
「ふん、文句ぐらい言わせて貰いたいね。折角上手くいっていたのに‥全部駄目になったよ、おまえのせいでなっ!」
「へ?」
「おまえだよっ! オマエが新しい壁になったんだよ! ふざけやがって、あんなの見せられたら――ッくそ! なんだよオマエ、レベルが無いとか舐めてんのかよっ!」
「……」
「くそっ、全部パァだよ」
歪んでいたイエロの顔が、より深く不気味に歪む。
「あ~~あ、この五神樹の役目が終わればボクは自由になれたのに‥」
「………」
「ボクはね、人型よりも獣人の方が好きなんだよ、耳と尻尾が無い雌なんて…、これが終われば好きにさせてくれるって約束を貰っているのに‥またやり直しだよ」
「お前…」
「いいよね、オマエは、可愛い狼人のコが居てさ。ボクに自慢でもしてんのかよっ!見せつけやがって…」
――コイツ‥
だからか?葉月に恋愛感情がなかったって理由は、
獣人好きって奴か‥
「ふう、吐き出すことを吐き出せたら――楽にぃ~なったよぉ、じゃぁねぇ」
今までの顔は幻だったのでは?っと思うほどに、表情を元に戻すイエロ。
ニコニコとした笑みを浮かべ、先程とは真逆な人畜無害な表情を見せて、さっと俺の前から去って行く。
胃の中に、何か不快なモノを押し込まれたような感覚。
そして押し込まれたモノがせり上がり、胸元がムカムカとしてくる吐き気のようなモノを感じ、それを吐き出してしまいたい気分になっていると――
「少々宜しいでしょうか?」
「っぐ、ここでお前まで来んのかよ‥」
不快感のおかわり、侍女のエルネが笑みを浮かべてやって来た。
「あら? 何か嫌がられておりますね、まぁ別に構いませんが」
「構わないのかよ‥で? 何の用だよ」
「はい、感謝を申し上げたく、ハヅキ様を助けて頂いてありがとう御座います」
「ふん、なに言ってんだよ、俺だけじゃないだろ助けに動いたのは。感謝を言うなら全員に言えっての、全員に」
「はい? 何か勘違いをなさっておられるようですが、ワタシが言っているのは、貴方が新しい壁になってくれたからですよ、勇者ヤソガミ様に代わる、新しい壁に」
( おい、それって… )
俺はすぐに理解出来た。
エルネが何を言わんとしているのかを。
「本当にありがとう御座います、貴方はこれ以上ないほどの壁ですよ。ハヅキ様のお顔を見れば誰であろうと解ります、ええ、本当に‥」
「ハッ、何の事だがわからんな…」
「ええ、それで良いのです。決して勘違いなどして動かぬようにお願いします」
「――――」
エルネはそれだけを言うと、イエロと同じでさっと去って行った。
――くそ何だよ、
結局巻き込まれたのか?
いや、少し違うか‥俺の行動が、そう判断されただけか‥
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後。
俺達は、魔石魔物狩りを切り上げ地上へと向かった。
そしてその地上では、冒険者達が冒険者連合連帯を組んで待ち構えていた。
どうやら俺達の陣内組の隣、ロードズ組とは逆方向にいたパーティは、あの死体魔物の群れを目撃して、即逃げ出していたそうだ。
そして地上に戻り、死体魔物の群れの事を報告。
当然地上では、入り口を塞ぐ為に防衛戦の用意をしていたのだった。
深淵迷宮で起きた今回の”死体魔物大量発生事件”は、これによって広く知られることとなった。
暫くの間、説明に追われ。その後、俺達はある酒場へと向かった。
太陽を見るとまだ15時前、まだ早い時間だった為か酒場は空いており、俺達の陣内組と隣のパーティ、それとロードズ組を入れた50人近いメンツがその酒場を占拠する。
今回の迷惑料として、戦犯ロードズ組の奢りであった。
「おっしゃー野郎共、タダ酒飲むぞー!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
誰かが言った開幕宣言に、シャレにならない大音量が返ってくる。
そしてその宣言に青ざめるロードズ組。
やらかしたロードズ組は、今回の騒動の件での論功の結果。
戦闘参加者全員に、酒を奢ることとなっていた。
ロードズ組を抜いたメンツは約35人、掛かる費用は金貨で約3枚程度。
俺的には、意外と安く済ませたのものだと思っていると――
「ジンナイ、二時間後に冒険に出るぞ」
「――ッ!?」
冒険、それは冒険者達が目指すモノ。
そう、冒険者達なら誰もが目指すモノを、冒険と呼んでいた。
階段へと向かう行為を、俺達は冒険と呼んでいたのだった。
「ロードズ組の奢りだ、ウチの陣内組だけだがな」
「ああ、なるほど‥こっちが本命ってか」
さぁ、冒険が始まる――
読んで頂きありがとう御座います。
ちょっと短めでした‥
宜しければ感想やご指摘などコメントを頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字なども…