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隣の芝は五色

すいません、遅れてしまいました…ごめんなさいです

 場所取り。


 校庭のドッヂボールの場所取りや、花見の場所取り。

 映画館であれば、自分の座った隣に荷物などを置いて席を確保する。


 中央の地下迷宮ダンジョンでは、時間を決めて場所取りなどをしていた。

 そして――この深淵迷宮(ディープダンジョン)では、リーダーともう一人の補佐が先にやって来て場所を確保する。


 深淵迷宮(ディープダンジョン)は魔石魔物狩りを出来る広さの場所が多く、位置取りなどで揉めるといった事は少ない。

 だが今回は少し珍しいことが起きていた。


 狩場にて、先に魔石魔物狩りをしているパーティに、他のパーティのリーダーが話し掛けて、何かを説明してその場所を明け渡させていたのだ。


 話し掛けていたのは、元陣内組のアタッカーのロードズ。

 それと、侍女のエルネだった。



 僅かな会話の後、特に揉める様子はなく、立ち退く側のパーティは軽く手を振り、見た目は友好的に去っていった。

 その場所を譲ってくれたパーティを、綺麗なお辞儀で見送るエルネ。

 それが妙に印象的であり、詳しい会話の内容は分からないが、どうやらあの二人の意志で、魔石魔物狩りの場所()を譲って貰った様子だった。



 その後、残りのメンバー達と合流を果たすロードズのパーティ。

 遅れてやって来た葉月(はづき)は、隣に居るパーティが俺達と知って、軽い驚きと嬉しそうな表情をコチラに見せていた。







          ◇   ◇   ◇   ◇   ◇







 魔石魔物狩りを開始してから約一時間。

 戦闘にゆとりと言うべきか、それとも余裕ゆえの遊びと言うべきか、戦闘に少しの変化が出てくる。


 魔石魔物が湧くと、基本的に瞬殺を狙う。

 だが途中からは、二匹の同時湧きでない限り、少し内容が変わってくる。


「ラティ、上から縦に長めのWSウエポンスキル、行ける?」

「あの、”重ね”の練習ですか? テイシさん」


 無言でコクリと肯き、肯定の意を示すテイシ。

 とても斧には見えない鈍器のような武器を担ぎ、静かにやる気を滾らせる。


「はい、わかりました。 天井を蹴った時が合図でお願いします」

「…了解」


「お~い、お前等。次の湧きは単品なら重ねの練習予定な~」

「りょうか~い、で?誰が重ねを合わすんだ?」

「初弾はラティさん、合わすのはテイシだ」

「お、狼猫コンビか。ちょっと久々だな?」


「次は俺がいきてー」

「んじゃ、こっからは重ね予定で~」

「ぎゃぼう、今日もあたしはアカリ役ですかです」


 打ち合わせを終え、単に倒すだけでなく、練習も兼ねた戦闘を開始する。

 見方によっては、遊んでいるようで不真面目と取られるやりとり。だが陣内組では、この”重ね”を取り入れた連携には積極的であった。


 ダンジョンには、放出系WSウエポンスキルを弾き返し、直接当てるWSウエポンスキル系すらも耐え切る魔石魔物が存在する。

 中央、地下迷宮ダンジョンに湧く、上位の方のイワオトコや、深淵迷宮(ディープダンジョン)でいえば、サイズが大きめの狼型など。


 その魔石魔物相手の有効打として、WSウエポンスキルの”重ね”は重宝していた。

 だが、練習などの訓練無しでは厳しく、陣内組では積極的に練習を取り入れ、魔物の湧き待ちの間に、練習したい者はテイシのように宣言をしていた。



 そして次の魔石魔物が湧く。


「先行します!」

「あいよ―! 盾持ち準備ぃ!」

「ラジャー」


 一瞬だけ黒い霧のようなモノを魔石が纏い、それを吸い込むように吸収してから弾ける魔石。その弾けた空間に実体化するように湧く、狼型の魔石魔物。

 

 その湧いた魔石魔物が動き出すよりも早く、ラティが一気に間合いを詰める。


「ッ――――――!!」


 急接近してくるラティに気付き、威嚇のような唸り声をあげる狼型。

 しかしラティはその威嚇には歯牙も掛けず――


「―ッシィ!」 


 短い掛け声と共に、狼型の目の前を飛ぶように駆け上がるラティ。

 空中をジグザグにステップし、一瞬にして狼型の右肩に着地、そして再び上へと駆け上がる。


 ラティの動きに遅れて反応を示す狼型。

 自身の肩から上、頭上へと顔と視界を向ける。


「っしゃあ、盾役いけぇ!」

「おお!」


 完全に上へと意識を持って行かれた狼型に、盾を構えた陣内組が突撃する。


 ――ガァァン――


「おっし、抑えた!」


 【重縛】の【固有能力】持ちが、狼型に接触して動きを抑える。

 頭上に気を取られていた狼型が、右足に張り付いた男に意識を向け、下を向いてその男を視界に捉えたその瞬間――


片手剣WSウエポンスキル”フラブレ!”」


 高さが10メートル近くある天井を足場に翔け出し、瞬迅ラティが急降下と共にWSウエポンスキルを放つ。


 真っ赤なスカートを閃かせ、縦に一直線、ラティは青白い光の軌跡を残す。

 そしてその光る軌跡に――


斧系WSウエポンスキル”レイグラ”!」


 まさに鬼のような3連撃のWSウエポンスキル

 猫人冒険者テイシは、振りかぶった(鈍器)を高速で3回打ち付けた。


 そして凄まじい轟音と共に、黒い霧となって狼型の魔石魔物が弾け散る。


 落下していたラティは、目には見えないトランポリンでもあるかのように、空中で跳ねて軌道を変えて、舞い降りるようにして着地する。


「おお、ここまでかよ…」

「相変わらずマジですげぇな、ホントに【天翔】かよ今の…」

「つかっ、今のに合わせれるのかWSウエポンスキルを…」

「レイグラの重ねって火力あり過ぎだろ、霧が消し飛んでたぞ」



 今の連携には、普段から”重ね”を取り入れた連携を見ている陣内組から見ても、目を見張るものがあった。


 俺でも今の連携は、素晴らしいの一言。

 普段から見ている俺達でさえコレなのだから、当然、他所から見れば――


「――――――――ッ!?」


 隣のパーティほぼ全員が、驚きの表情で固まりコチラを見ていた。

 横に陣取っているとはいえ、それなりの距離は離れている筈なのに、彼等が驚きに息を呑むのが聞こえたような気がした。

 

 

 暫くすると隣の彼等は、思い出したかのように自身が置いた魔石へと意識を向けて、魔石魔物が湧くのを待ち始める。

 ただ何人かは、手の動きでラティの軌道(迅盾)を表現して話し合う者や、テイシの一撃に感化されたのか、己の武器を見つめる者達がいた。


 

 ほぼ、驚きと好意的な反応の中、一人だけがラティを睨んでいた。

 

 黒い姿のブラッグス。

 彼だけはラティの動きに嫉妬でもしたかのように、彼女を睨んでいた。


 俺はそのブラッグスを、色々と嫉妬深い奴だと眺める。


 そして隣のパーティの方を眺めていれば、当然、視界に入る葉月(はづき)

 俺と目が合うと、彼女はふわっと嬉しそうな、そんな柔らかい表情をして俺に小さく手を振る。流石にそれを無視をするのはアレなので、小さく、本当に小さく手を上げて返す。


 すると、それに気付いたブラッグスが、ラティから目線を外し、今度は俺をギラリとねめつける。


 ( 忙しいやっちゃな… )



 この前の襲撃の件を知っている陣内組は、少し鬱陶しそうに小声で。


「はぁ~なんだアイツは? ジンナイの次はラティさんかよ‥」

「っと思ったら、今度はまたジンナイを睨んでんな」

「何がしたいんだろうなアイツは…」

「あれで教会のエリートなんだろ?」


 散々の評価だった。

 陣内組のメンツは皆がそれなりの冒険者、隣から、隠すことの無い露骨な視線が飛んで来るのであれば、無視をしたくても無警戒ではない様子。


 何人もが視線は向けずとも、敵意を向けるブラッグスを意識していた。

 そしてその時、隣のパーティでも魔石魔物が湧く。


「あや? お隣さんは狼男型ですよです」

「あの、結構大きめに見えますねぇ」

「まぁ単品なら問題無いだろ」



 ラティとサリオの呟きに、俺はそう言った。

 ただの魔石魔物ではなく、かなり強めに見える狼男型。

 

 同じ狼男型でも、多少は強さのバラつきや、サイズの違いもある。そしてサイズの大きい個体は例外なく強い。

 ただ、複数の湧きならともかく、一匹だけであれば問題なく倒せる筈。寧ろそれが出来なければ、魔石魔物狩りを行う資格が危うい。



 俺達は、何気ないフリをして隣のパーティを眺める。

 先程まで、敵意を含んだ嫉妬交じりの視線を貰っていたのだから、監視と少しばかりの揶揄する気持ちで戦闘の行方を見守る。

 すると――


「…俺が行く!」


 距離があるコチラにまでも聞こえるブラッグスの宣言。

 明らかに俺達、陣内組にまで聞こえる声量で、彼は先陣を切ると吐いた。

 

 湧いた魔石魔物の狼男型に向かって駆け出すブラッグス。

 先程のラティを真似てか、真っ直ぐに正面から切り込む、しかし――


「――ッ!? ッチィイ!」


 ラティを真似て飛び込んだが、そのまま正面から肉薄するのではなく、魔物のプレッシャーに押されたのか、避けるようにして横へ翔けるブラッグス。

 狼男型の側面側、ダンジョンの壁に足を掛け、そして魔物の注意を引くようにして頭上へと駆け上がる。それはラティがやって見せた頭上飛びの再現。


 誰もが判る、これはラティへの、ある種の挑戦だと。

 そしてその感想が正しいと証明するかのように、彼は天井へと翔ける。


 が――


「駄目です! 跳躍が足りません!」

「ぎゃぼ!? じゃあアレって」

「おい、失敗かよ!」


 ラティの言は正しく、天井までは届かず、寸前まで行って落下を開始するブラッグス。天井に足を着こうとしていた為か、頭を下にした状態で落下する。


「援護!!」

「魔物の気を引けー!」

「突っ込めー!」

「ハヅキ様、回復魔法の用意を!」

「――ッ!?」


 バタつきながら下へと落ちるブラッグス。既に【天翔】は弾切れなのか、空を蹴ることなく真下へと、狼男型が待ち構える場所へと吸い込まれるように落ちていく。


 完全な死に体、あと一秒後には待ち構える狼男型に引き裂かれる運命。

 他のパーティメンバーからの、フォローも間に合わないと思われた瞬間。


「――ッ光系障壁魔法”コルツォ”!」


 落下するブラッグスの下へ出現する透明な光る壁、そしてその壁に弾かれて、落下の軌道が変わり寸前の所で狼男型の凶撃を回避した。


「えいっ!――きゃっ!」

「ぐはぁ」


 ブラッグスを助けようと、誰もが魔物へと突撃して行くそんな中。落下の途中に軌道が変わるなどは、誰も予想をしておらず。唯一、その軌道が変わることを把握していた、魔法を唱えた本人、勇者葉月(はづき)だけが反応出来た。


「ハヅキ様!?」

「――ッハヅキ!?」

「ええい! 押せ押せ! 今は押し切れぇぇ!」

「盾役! 抑え込めぇえ!」


 勇者葉月(はづき)は頭から落ちて来るブラッグスを庇うように受け止め、そしてその勢いと共に倒れ込む。

 刹那の空白、そして次の瞬間には怒号と共に無茶苦茶な戦闘が開始される。


 単純なレベルと人数によるゴリ押しの戦闘。

 一人が魔物に薙ぎ払われるうちに、他の数人が斬りかかる、そんな拙い戦い。一歩間違うと死者が出てしまう、それはハッキリと言って、一昔前の魔石魔物と対峙した時の戦い方。


 葉月がブラッグスを受け止めて倒れ込むという、予想外のアクシデントがあった為か、統率の乱れた戦闘となっていた。



 魔物を黒い霧へと変え、無事とは言えない戦闘が終了する。

 何人かが負傷しており、葉月(はづき)と他の回復役が治癒に回る。


「ハヅキ様、俺を受け止めて…け、怪我は?怪我は無いですか!?」

「うん平気だから、今は急いで回復魔法を掛けてあげたいの」


「ああ……」


 

 ブラッグスを受け止めて庇った後、すぐに葉月(はづき)は動いていた。

 狼男型の、凶爪に薙ぎ払われた冒険者に駆け寄って回復魔法を唱えて回る葉月(はづき)、そしてその後を、オロオロと付いて行く五神樹ごしんき達と、侍女のエルネ。


 それを一部始終見ていた陣内組。

 俺個人としては、ラティの動きに対抗して動いたブラッグスは嫌いじゃなかった。どちらかと言うと好ましい、掛けた迷惑は別として。


 だから俺は、ブラッグスを揶揄うつもりも馬鹿にするつもりもない。

 しかし、他の者は違っていた。

 

 ブラッグスの突然の行動を責める者、葉月(はづき)に負担を掛けた事だけを責める(五色)、ブラッグスの行動を身の程知らずと嘲笑う者。



 ブラッグスの失態から、一気にその場の空気が悪くなる。

 陣内組でも、指を差して笑う者はいないが、ブラッグスを嘲笑(だせぇ)する者は居た。


 今も必死に葉月(はづき)に謝罪するブラッグス。

 葉月(はづき)はその謝罪を、『気にしないで』と返すが、それでも謝り続けていた。

 そしてふと、コチラへと視線を飛ばすブラッグス。


「ぎゃぼう、なんかこっち睨んでいるよですよです…」

「あの、ちょっともの凄い敵意の色を見せているのですが…」

「理不尽過ぎんだろ…アイツが勝手に真似しただけなのに」


 まるでコチラの所為で恥をかいた。

 そんな激しい怒りの表情を見せてくるブラッグス。


 わなわなと肩と腕を振るわせて、怒りを必死に抑えようとしている。

 それを遠巻きに見ていると――


「ジンナイ、挑発に行くなよ? いま、アレを煽ったら爆発すんぞ」

「レプさん? 俺がそんな酷い奴に見えて? やらないよそんな事」


 ――ちょっとお?

 アレ? 俺って常時、誰か煽りにいくような奴って見られてる?

 あれ?前のブラッグスを煽った時の印象が強く残ってる?





 

 その後、微妙な空気が漂う中、魔石魔物狩りが再開される。

 コチラは”重ね”を駆使した戦闘を続け、特にこれと言った事故もなく狩りを進める、そしてある程度、時間が経過した辺りで――


「よし、一度休憩入れるか」


「あいよ~」

「お~い、置いた魔石を一度回収だ~」

「ラジャー」



 陣内組は休憩兼昼飯タイムとなった。

 魔石魔物が湧かないように、地面に置いてある魔石を回収する。

 効率だけを考えるのであれば、魔石を置きながら休憩をした方が良いのだろうが。やはり、魔石が地面に置いてあると、どうしても気を張ってしまう為、陣内組では魔石は一度回収する方針となっていた。


 そんな休憩時、ある人物がやって来る。


「陣内君、一緒に昼ご飯なんてどうかな?」

「へ?」



 勇者葉月(はづき)が、一緒に休憩をしながら昼メシとのお誘いをしてきたのだった。 

 

( お前、後ろ見ろよ… )

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想など頂けましたら幸いです。


それと誤字と脱字も…

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