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落下

落ちていく




 暗闇の中を落ちていく



 俺は咄嗟に葉月を庇う為に、動いていたのだ。


 ――俺ってそんなイイ奴だっけか?

 まぁ困ってる奴が居たら、多少は何とかしたいけど…


 だが、

 命を張るほどの事をするタイプだったろうか?

 ラティの為なら、命を張ってもいいと思えるが。


 ラティは心配してるだろうか。

 俺が死んだら、奴隷の首輪から解放されるようにしてある。


 解放されたらどうなるのだろう?

 

 ――赤城とか上杉がパーティに誘いに行くのかな、

 アイツ等、俺が死んだら、ラティが解放されるから喜びそうだなぁ。

 あ、腹立ってきた、そうだラティはやれない、なら…




「ざっけんなーーーーー!!」


 諦めかけていた思考と感情を弾け飛ばし――

 諦めない意思と、ラティを誰にも と言う、みっとも無い想いで。


「っしゃあぁぁ!」

――ッガガリガリガリガリガリガリ!――

 木刀を壁に突き立てる。

 咄嗟の判断だった、槍よりも世界樹で作られた木刀を信じたのだ。



「とっっまっれーーー!!」


 木刀を突き刺しブレーキを掛けようなど、非現実じみた行動だ。

 だが、今ならレベルで上がった身体能力を信じて。


 壁に木刀を突き刺し減速試みる。



 そして


「 ―― ザッパーーン!!―― 」

 下に貯まってた地下水に落水した。

 減速に成功したのか、酷い怪我などはなく、手が痺れたくらいで済んだ。

 自分でやって置きながら、出鱈目である。



「た、助かった…?でも、真っ暗だ、」



 周りは完全に暗闇だった。

 1㌢先も見えない、暗闇の世界。


 魔法の使えない俺には完全に暗闇に包まれていたのだ。

 持ってる荷物を確認したが、急いで来た為に食料は持っていなかった。


 あるのは薬品ポーションだけである。


「明かりが無いと‥‥あ、ステプレなら少しは発光するかも」


 俺は期待を込めてステプレを開く。


ステータス


名前 陣内 陽一

職業 ゆうしゃ


【力のつよさ】40

【すばやさ】 38       

【身の固さ】 36


【固有能力】【加速】


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「やった開けた、少し暗いけど明るい!ってアレ?」


( ラティ達がパーティから消えている )


 俺はここで考る。

 確か、ここに救出に来るのに冒険者連隊アライアンスを組んだ。

 その冒険者連隊アライアンスが一度解散でもして葉月達を入れたのかも知れないと。


 ――だからか?パーティから抜けてるのは、

 だとしても、何だか心細いなぁ、ソロは…



 俺は取り敢えず地下湖から上がり、体を休め崖を見上げて見た。

 

 上の方が薄っすらと明るい。

 確か、壁が薄く光ってたからその光だろう。あの位置まで登れば戻れる筈だ。


「登るしかないか」


 一言自分に覚悟を決め、登る決意をした。

 硬皮鎧ハードレザーアーマーを脱いで、身軽になり登りやすくした。


 ラティに貰った小手だけは装備したままだ。

 この小手を手放すと言う選択肢は無かった


 手持ちの武器は体に括り付ける。登った後に武器無しは危険過ぎる。


 

 装備を確認をしていると、木刀にはキズ一つ付いて無く驚いた。


「あの崖を削ってキズひとつ無し、さすが世界樹の木刀だ」




 そして、高さ不明のロッククライミングを開始した。


「高さ、1㌔は無いよな、あったらやだなぁ」


 ちょっと弱音を吐いた。






         ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





 


 登り始めてから、体感で一日経過した気がする。

 

 現在、休める程度の出っ張りで休憩中だ。

 登っている間はステプレを出せないので暗闇ロッククライミングだ。

 身体能力が上がっているお陰で、何とか登っていられた。


 だが、暗闇の中登るのはちょっと心が折れそうになる。


 



 二日経過した気がする。


 地下水を薬品ポーションの空瓶に入れて置いた。

 さすがにもう全部飲んでしまったが。

 

 空腹と喉の渇きが辛くなってきた。

 正直かなりしんどい‥‥。





 ――ラティに会いたいな…






 ――もう下に降りちゃえば水が飲めるかな…







 ――絶対に諦めない。






 

 ――待ってろよラティ…あとサリオか…






 ――ちょっと休憩 ふう 辛い

 声を出すのが、しんどい、






 ――歌でも歌っちゃうかな声出ないけど、






 ―― ああああああ、光が近くなってきている!!







 もう、三日目くらいだけど、何とかいける気がしてくる







 そして、かすれ声で。


「登りきったぞーーー!」

 

 ――やってたよ俺、凄いよ俺、頑張ったよ俺!

 もう途中で『ゴールしてもいいよね?』ってつぶやいたよ。


 あまりの嬉しさに叫んでしまった。

 

 あまりに迂闊だった。

 横には死の塊が待っていたのに。



「げぇ!イワオトコ」


 この場所でイワオトコに襲われたのだから。

 ここに居て当然であった。


 高さ3㍍近い魔石魔物のイワオトコ。

 その巨体が俺に、豪腕の一撃を横凪に放ってきたのだ。


 避けられない状況、耐えてもまた落される。

 そこで俺は”結界の小手”から楔を出し地面に突き刺し叫ぶ。


「ファランクス!」


 楔を中心にある程度任意の位置に発生させれる結界。

 

 直径1㍍半の、光る魔方陣が目の前に出現した。


 ―― ッギィィーンン!! ―― 


 結界が豪腕の一撃を防ぎ切った。

 だが5秒もしない内に消えてしまう。体力も持っていかれた気がする。



 ――あまり連続で使えないか、

 これはなんとか逃げるしか…


 逃げようと思ったが、出口のある場所は段差の上。

 登れない訳では無いが、魔石魔物がその隙を与えてくれない。


 奥に逃げるか考えたが、

 奥は中層エリアそれもキツイ、腹をくくって戦うしかない。



 ――倒してやる!

 倒して生き延びる、そんで、ラティに会う。



 戦いはお互いに決め手の欠ける戦いだった。

 こちらの攻撃は弾かれ、相手は大振りなので避けることは出来る。

  

 俺は決定打が決めれず、魔物も攻撃は空を切るばかり。


 だが、変化が表れた。

 イワオトコの攻撃の余波で少しづつ体力は削られいったのだ。

 それに、崖登りの消耗も激しい。



「前と一緒で、隙間を狙うしか無い!」


 俺は長引くと不利と理解した。

 一気に間合いを詰め、相手の一撃を紙一重で避け、そして。


 伸びきった脇の隙間に槍を刺し込む‥‥


 

「だりゃらぁぁぁぁ!」


 槍を隙間にねじ込み、一気に捻る!

――――ッボッゴ!!

 

「削れた!」


 しかし、その油断が前回の失敗を再び繰り返す。

 右腕の横凪をもらってしまったのだ。


 襤褸切れのように、壁に叩き付けられる。


「――ッガァァァ、痛ってぇぇぇぇえ!」



 息が止まる、酸素が足りない血も吹き出てる。

 見上げれば近寄ってきたイワオトコが振りかぶっている。

 殴られた拍子に、槍は手放してしまっている。



 普通に考えれば、間違っているのだ。

 そもそも魔石魔物は大人数で戦う相手、それを1人で戦うのが無茶なのだ。


 ――でも…



 俺は普通に考えて…諦める理由も、諦める意思も無い!


「――っおっしゃぁぁぁ!」


 雄叫びをあげて再び突っ込む。

 今度は魔物の膝を足場に、高さ3㍍近いイワオトコを駆け上る。

 


 使う武器は木刀!


 俺はイワオトコに飛びつき木刀を首の裏側に。

 突き立てる、突き立てる、突き立てる、突き立てる、突き立てて。


 そして表面が割れて出来た亀裂に、”結界の小手”の楔を突き刺し。


 吼える――



「 ファランクス!! 」


 結界の魔法陣が出現する場所を、出来るだけ奥にイメージし。

 イワオトコの内部に結界を発生させる。


 ――――ギィィイン!―――― 


 イワオトコは結界の魔方陣に押され砕かれ、そして霧となって霧散した。


( パイルバンカーは男のロマン )


 

 俺はアホな事を考えながら完全に力尽き。

 3メートルの高さから固い地面に向かって落下する。


 ――疲れた、さすがに疲れた。

 でも、倒した俺一人で倒した、やってやったんだ。


 

 落下しながら、何となく1人でつぶやいく。


「ソロで倒したぜ」




「お疲れ様ですヨーイチ様」


 気が付くと落下途中でラティに声をかけられ空中で支えられてた。


 そして、今度こそ意識が途切れた、


 ラティの頭を撫でたいと考えながら‥‥。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――      

        オレの名前は ガレオス


 冒険者だ、歳は36だ、まぁ熟練の冒険者って奴だな。


 ルリガミンの町ので、勇者の仲間募集みたいなのがあったので、参加してみたんだ。


 そして、聖女様と一緒に中層まで降りることになった。

 正直新人ルーキーばかりで不安だったが。


 危険だと思ったが、勇者赤城が言うから仕方ない。

 オレがフォローしてやればいいんだからな。



 だが、甘かった。

 魔石魔物に遭遇して、危機に陥ったのだ。


 少ししたら赤城は援軍を呼んで来ると逃げていきやがった。

 そういう仕事は、足の速い奴か、戦力にならない奴が行くべきだ。



 味方を守りながらの撤退戦を開始した。

 さすが聖女様だ回復が凄い。前衛張ってる橘様も頑張ってる。


 だが武器の相性が魔物と悪そうだ。



 そして、どうしようかって時に。


「逃げろー救出にきたぞー」

 

 援軍の救助が着たか、これで助かる退ける。


「走れーそいつは足が遅いから逃げれるぞー」

「怪我人は何人かでひっぱってけー」



「聖女様を守れー」


 ――しまった、退くの早すぎたか!


「ちぃいい!マズイ」

「――ッキャ」


 黒髪の軽装の男が聖女様を突き飛ばし。

 その男は、イワオトコに叩かれ崖に飛んで行った。


 だが、今がチャンス!オレは聖女様の手を引いて出口に向かう。


 出口の方も魔物が現れたらしく戦闘中だった。

 でも”翔迅”が奮戦しているから平気だろう、様子は少し変だが。



 それからパーティを一度組み直す。

 俺達は、すぐに地上を目指した。負傷者が多すぎるのだ。


 地上に戻ってからは、聖女様が必死に落ちた奴の救出を訴えている。

 正直キツイと思う。

 

 助けてやりたいが、一人を助けるのに何人死ぬか分かったもんじゃない。


 赤城の野郎が、『準備を整えて明日にしましょう』とか言いやがる。


 果たして、助けに行く奴はいるのだろうか。





           ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





 次の日、赤城は『救出はやはり無理ですね』と意見を変えてやがった。


 まぁわからんでも無い。

 落ちたのは、あの”ハズレ者”だ、嫌われてて当然だ。

  

 だが、聖女様は泣きながら救出を訴えていた。

 勇者様達もみんなでなだめている。


 一応、みんなで相談するって事になった。

 オレも冒険者代表で呼ばれてた。だが、相談内容がおかしかった。

 

 奴隷をどうするか?

 と、言う内容にすり替わっていた。

 奴隷の”翔迅”を誰が引き取るか揉めているのだ。


 落ちた奴が主で、主が死ねば奴隷が解放されるからか。

 我々のパーティが引き取るとかの言い合いが始まっていた。




 聖女様は、未だに泣いて訴えている。

 

 奴隷の”翔迅”は無表情に黙ったままだ。


 

 ”翔迅”の取り合いの話だけが過熱していく。

 聖女様は泣き崩れて、今は橘様に支えられている。



 勇者達が皆、”翔迅”に話し掛けている。

 

 何故か胸糞悪い風景だ。

 その”翔迅”は瞼を閉じて、その勇者達を無視している。



 そして深夜近く。

 やっと勇者達が現場まで行くかって話になり準備をし始めた。

 のろのろと準備をしていると。


 そこで何かに反応するように”翔迅”が急に立ち上がった。

 『行きます』と告げて地下迷宮ダンジョンに向かいだしたのだ。

 慌てて聖女様も付いていく。


 聖女様が動いたら、慌ててその周りも付いて行った。




 そして現場に着いて俺は見た…誕生の瞬間を…



 

 崖に落ちた筈の”ハズレ者”がそこに居た。


 魔石魔物に殴られて吹き飛ばされて壁に叩き付けられて。

 魔石魔物がトドメの一撃を振り被ると、それを避けて駆け上がり。


 魔物の背に乗っかり何かを叩き突けていた。



『 ファランクス! 』




 激しい雄叫びが聞こえた。 

 

 すると、魔石魔物が霧になり霧散したのだ。

 あのバケモノを一人で倒しちまいやがったんだ。



 オレはその時に思った。

 この世界では危機になると”勇者”が来る。

 それはこの世界では半ば常識になっている。だが 

 

 それ以外の姿を見たのだ――



       

            ”英雄”



 奴は”英雄”になる。

 今この瞬間を目撃した奴にしか解らないだろうが。


 オレには”英雄”の誕生の瞬間に出会ったと感じた。



 ”翔迅”に、大事そうに抱き抱えられ、気絶している奴を見ながら。

 

読んで頂きありがとうございます


一区切りなので、宜しければ感想や評価など、頂けましたら幸いです。

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[一言] 勇者たちは主人公とラティの契約内容が変わったことを何故当然のように知っているのか。 契約内容について行政機関への届け出義務があってそれが漏出したか、鑑定で契約内容まで詳しく見えるかのどちらか…
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