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裏取り

後書きに追加あり。

 三回連続の客間。

 何となくだが、少しづつ。


 彼女の計画に組み込まれている、俺はそんな気がした。




 

「ジンナイ様は何やら、五神樹ごしんきに恨まれておりますねえ」

「全く身に覚えがないんだけどな、その恨まれる理由に」


 唐突に話を切り出す侍女のエルネ。

 個人的には、この人は侍女とかじゃなくて、別の何かだと思えてくる。


( ユニコーン(処女厨)かな? )



 俺がしょうもない事を考えていると、エルネはとんでもない事を言い出す。


「まぁ私が恨まれるように細工‥いえ、誘導したのですけどね」

「うぉい! 一体どういうことだよ‥」


( 言い直してんだけど、印象かわんねーよ )




 侍女のエルネは、今まで自分がしてきた事を一切悪びれる様子を見せることなく告白をしてきた。俺だけではなく、勇者八十神(やそがみ)も巻き込んだことの、ある計画を。


 その計画とは、よく聞くありふれたモノだった。

 目的は、あの五神樹ごしんき共を、上手くコントロールすること。


 最初は五神樹ごしんき達だけで争わせていればよかった。

 だが、一つのイレギュラーが混ざっていたのだとエルネは言う。


 それが黄の樹イエロ。

 黄色のイエロだけは、【恋感】に引っ掛からなかったとエルネは語った。

 それの意味は、五神樹ごしんきのイエロだけは恋愛感情無しで、聖女の勇者葉月(はづき)に迫っているということなのだ。


 他の4人は完全に葉月(はづき)に惚れこんでおり、ある意味、派閥の意志など関係無しに葉月(はづき)を求めているそうだ。


 これが5人とも葉月(はづき)に惚れているのであれば、5人全員が恋敵となり、互いに決して譲れない対立した関係が出来上がる。

 だが其処に、恋愛感情で動かない異分子が混ざると状況が変わる。



 エルネが気付いたのは、本当に偶然だったそうだ。

 イエロがセキに、共闘しようと持ち掛けていた現場を目撃したのは。

 

 その時は、何も深く考えないセキが、その共闘を突っぱねたそうだ。だが、それを見た侍女のエルネは、このままではまずいと考えたらしい。

 

 1対4ならすぐに潰される。

 だがこれが、2対3や、1対2など、下手に共闘されると、折角のこの都合の良い構図が崩れてしまうと言う。


 互いが無駄に睨み合う、そんな今の状況が崩れてしまう可能性が出てきたと。



「だから私は、その五神樹ごしんき達に、共通の恋敵を作ったのですよ」

「は? 意味が‥」


 ――え?なに言ってんだ?

 共通の敵を作ったからって、そんなの共闘して排除するだけだろ?

 倒せば終わって元に――ッあ!排除し辛い敵か!



「私は勇者(・・)ヤソガミ様を共通の敵として用意したのですよ」

 

 勇者だろうが、葉月(はづき)を守る為ならば利用する。

 侍女のエルネは、心疚しい様子などは一切無く、そう言い切ってきた。


「勇者ヤソガミ様が、聖女ハヅキ様に淡い恋心を抱いているのは把握しておりました。だから其処(恋心)を上手く利用したのですよ」


 本当に微塵にも悪いとは思っていないのか、淡々と自分のしてきた事を語るエルネ。


「私が上手くお膳立てして、ハヅキ様の隣に、聖女様の唯一の騎士(ナイト)のように立ち振る舞って貰ったのですよ」

「――――」



 侍女のエルネがしてきた事。

 それは勇者八十神を利用しての、五神樹ごしんきのコントロール。

 

 五神樹ごしんき達を煽り、聖女葉月(はづき)を手に入れるのならば、真の勇者とも称えられる、勇者八十神を超えなくてはならない。


 そう彼等にすり込ませたのだと言う。だが――


「最初は上手くいったのですけどね、――それなのに‥」

「‥‥‥」


「あの勇者ヤソガミがっ、あの勇者はハヅキ様に対して、抑えきれぬ程の欲情を持ち始めたのですよ! なんと汚らわしいことかっ!」

「ちょっ! え? じゃあまさか‥、八十神が葉月を‥、その‥襲ったとかか?」


 ――マジかよ、

 あの熱血野郎が、熱血し過ぎたってのか?

 あれ、でも葉月(はづき)からはそんな嫌悪感は‥



 俺は少し前に葉月(はづき)から、八十神の事を口にしたのを聞いた。

 エルネさんから、『排除した』と聞いた時、葉月(はづき)は驚きはしていたが、それを納得したり、八十神の名前に嫌悪感を見せる様子は無かった。


 俺には八十神が欲望のままに、葉月(はづき)を襲ったとは思えなかった。



「あの勇者は、あの男は‥あろうことか聖女のハヅキ様を、欲望まみれの視線でハヅキ様を見たのですよ! アレはまさに、”視線にて孕ます”っというモノでした!」

「おぃぃぃぃい! はぁ? えぇぇ?」


「あの様な視線を送り続ける不埒者を、聖女ハヅキ様の横に立たせ続ける訳には行かず――」


 侍女のエルネさんは無茶苦茶(ユニコーン)だった。

 彼女曰く、あそこまで濃密な欲情は危険らしく、いつか暴発するであろう勇者八十神を、仕方なしに排除したのだと。


 だがこれにより、用意した共通の敵である八十神を失うこととなった。

 それでエルネは、『勇者ヤソガミのレベルを超えなくては、聖女ハヅキ様の心は獲られない』そう言って五神樹ごしんき達を上手く誘導(コントロール)したそうだ。 


 どうやって納得させたのかは謎だが、それで上手くいっていたらしい。

 だがコレにも一つ問題があり、それが――


「彼らはそれから躍起になって、少々無茶なレベル上げを始めたのです」

「ああ‥なんとなくそれは分かるな‥」

 

「本来であれば、各地を周るのを重視するのですが。慰問や教会の訪問よりも、地下迷宮ダンジョンに潜るようになってしまいました‥」



 今日のレベル上げを見ていてそういう空気があった。

 魔石魔物狩りのメンツは金になる巨大な魔石が目的だ、だが五神樹ごしんき達はそれではなく、上位魔石魔物を待っている感じだった。

 陣内組側に上位魔石魔物が湧くと、なんとも物欲しそうな目を、そして自分達側に湧くと喜々としていたのだから。

 

 レベル75までなら普通の魔石魔物で上がる。

 だが、そこから上は別である。ある程度、上の魔物が必要となってくる。

 


「レベル85、それが五神樹ごしんきの目指しているレベルです」

「そのレベルに達すれば、八十神のレベルを超えれるって訳か、」


「ええ、そうなるとまた五神樹ごしんき内での争いに戻ってしまうのですよ‥」

「そりゃぁなんとも‥イエロがいる限り…」


 ――あの五色共を誘導(コントロール)すんのも大変だな、

 アイツ等は単純そうだから、何か他に獲物が居ればいいけど‥

 ‥‥あれ…まさか、



「前回は失敗しました、私自身も経験が浅い為に、当て馬? ちょっと違いますね、少しだけお膳立てをしてやった生贄(・・)が調子に乗り過ぎて、必要以上にハヅキ様に近寄り、そして視線にて犯そうとして来ましたが‥」


( 八十神がヒデぇ言われようだ‥ )


「今度の生贄は上手くやるつもりなんです。ある意味、前回以上に生きが良くて、そして下手にハヅキ様に発情などはしなさそうですし、まぁ今度は私がさせませんけどね」

「なぁそれってまさか…」


 先程までは、感情を見せることなく淡々と喋っていた侍女のエルネが、今は何か含みを持たせ、嗜虐的な笑みを浮かべて俺を見つめ――そして口を開く。


「ええ、貴方ですよジンナイ様。貴方が次の共通の敵役(生贄)です」

「――ッ!? おい、まさか‥、今日セキが俺に突っかかって来たのって…」


「はい、私です。私が、『アレがハヅキ様の意中の人ですか、本当にお強いですねWSウエポンスキルも無いのに』っといった感じに少々煽りました」

「――んな!?」


「赤の樹は少々…猪突猛進ですからね、物の見事に動いてくれましたよ」

「お前、適当なこと言って俺を巻き込んだってのかよ!」


「ええ、必要な事ですから。ではそろそろ今日の所はお開きにしますか」

「おいっ」


「くれぐれもハヅキ様には惹かれぬように、前回(八十神)はそれで失敗しましたので、まぁジンナイ様なら平気だとは思いますが」



 侍女のエルネはそう言って俺に釘を刺し、客間を後にした。

 言いたい事、伝えたい事だけを一方的にコチラに言って(要求して)


「はぁ、なんだよこれ‥」


 思わず口から言葉が漏れる。



 ――くそ、なんか巻き込まれた、

 妙に俺の事を知っている感じだったけど、こういう事かよっ、

 まずは一度状況を整理するか‥



 俺は客間を出て、ポツリと彼女を呼ぶ。


「ラティ、いるか?」

「はい、ご主人様」


 何処に居たのか、スッと音を立てずにラティが姿を現す。

 本当に何処にいたのか、彼女は俺のすぐ傍にやってきた。


「‥‥ラティ、ちょっと相談と確認をしたい、俺の部屋に一緒に来てくれ」

「はい、ご主人様」



 


       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





 俺は自分の部屋で日課をこなしつつ、ラティにある事を訊ねる。


「ラティ、侍女のエルネさんは嘘を吐いていたか?」


 エルネの言っていた事は無茶苦茶だった。

 彼女曰く、ハヅキ様を守る為。

 侍女のエルネはそう言っていたが、それでは最終的に教会の目的が達成出来ない。

 教会の最大の目的は、アムさん曰く、聖女である葉月(はづき)の子供。


 それがユグドラシル教会の目的であったはずだ。



 それを考えると、侍女のエルネの行動には矛盾が発生する。

 派閥による多少の誤差はあるが。

 

 だから全てを鵜呑みにするのではなく、裏を取る意味で俺はラティにそれを訊ねた。


「っん‥あの、ご主人様。エルネ様は嘘は吐いておりませんでした」

「なるほど…、それじゃあ、ラティから見てどんな感情が視えた?」


「――っんぅ‥そうですねぇ、強い意志のような感情でしょうか? そんな色合いが視えました、っんふぅ‥」

「‥そうか、あ! そうだった。ラティ!五神樹ごしんきの感情は? あの黄色い奴の感情はどんな感じだった?」


 ――そうだった、

 エルネさんは、イエロだけは恋愛感情が無いって言ってたけど、

 それの確認もしないとだった、



「あの、イエロ様の感情ですねぇ? それは無色、そんな感じでした。んっ‥他の五神樹ごしんきの方達は皆がハヅキ様に惹かれている、そんな色合いの感情を出しておりましたが、イエロ様だけはそれとは違いましたねぇ」 

「なるほど、嘘は言っていないか‥」


 ――無色か‥

 感情で動くというよりも命令で動いている?って感じか、

 ちょっと厄介か?



 俺はラティの耳の付け根の、少し硬くなってコリコリしている所を優しく指先で掻きながら、今日の出来事を思い返していた。


 時折ラティから聞こえる、何とも言えぬ悩ましい息漏れが俺の思考の邪魔をするが。そこは神硬鉄(アダマンタイト)のような堅い意志で、己の己をねじ伏せた。




 その後、色々と考えてはみたのだが、結局、良い案は出てこなかった。

 取り敢えず拒否をするという方法もあるが、それは通じそうにない感じがしたので、一時保留。


 なので現状は様子見。


 そして俺はもう一つの日課でもある、ラティの尻尾撫でをしながら、ラティと情報のすり合わせを行い、その日を終えたのだった。


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ感想、ご質問、ご指摘などお待ちしております。


あと、誤字脱字なども…


皆さまの感想コメント、本当にありがとう御座います。

作者自身では気付かなかった視点や発想、本当にありがたいです。


それとレビュー感謝です!

少々取っつき難いこの物語なので、レビューは本当にうれしいです。


読み手の皆さま、本当にありがとう御座います。

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