五竦み
一部感想コメントから使わて頂きました。
次の日。
俺達は深淵迷宮へと向かった。
因みに勇者葉月は、孤児院へ慰問として向かっていた。
パーティの編成は、深淵迷宮を囲む砦の中で行う。
テキパキと指示を出すイシスさん。
その指示に従い、パーティを編成していく後衛役のレプソルさん。
少し懐かしく感じる空気だった。
だが中へ入ると――
「ほへ~~、だいぶ変わったのですねです‥」
「あの、こんなに近くで魔石魔物狩りを行うように?」
魔石魔物狩りの場所に着くと、前と違った状況に感想を漏らす二人。
俺も、前とは大分変わったモノだと、それを眺めていた。
地下迷宮である深淵迷宮。
その特徴は、通路がとても広く、小部屋などがほぼ無いこと。
通路の横幅は10メートル以上、高さもそれに近い程。元の世界で言えば、高速道路にあるトンネル以上の広さである。
そして通路は直線の場所が多い。
その広い直線の通路に、俺達以外のパーティが二組もいた。
広くて直線なので、曲がり角のような死角もなく、見張りがしっかりとしていれば安全な場所ではあるが、少し離れた横で、他のパーティが魔石魔物狩りをしているというのは、新鮮な感じがしていた。
俺が物珍しそうに横のパーティを眺めていると――
「ああ、ジンナイは初めてだっけか? 魔石魔物狩りが他の冒険者達にも解禁になってから、ココに来るのは」
「レプソルさん、これって一体‥」
俺は横に他のパーティがいる理由をレプソルさんに訊ねた。
「ん? 理由か? それなら簡単だよ、安全の為さ」
「安全?って、お互いに何かあった時に助けられるようにってこと?」
「ああ、そうさ、オレ達が前に魔石魔物を暴走させた時も、周りに誰もいなくて助けがなかったから大事になった訳で、だからこうやって、すぐに助けにいけるように皆で決めたんだよ」
後衛役のレプソルさんは俺に現状の説明をしてくれた。
魔石魔物狩りが、陣内組以外にも解禁となったのだが、ただ前みたいに各自で勝手に狩るだけだと、あの魔石魔物暴走事件が再び起きる可能性があると危惧した。
それで、魔石魔物を狩るならば、魔石魔物狩りパーティは、お互いに連携を取ってフォローし合う形を取ろうと決めたそうだ。
他の魔石魔物狩りパーティのリーダー達は、その多くが元陣内組。
なので、話を付けるのは簡単だったそうだ。
そして事故が起きぬ様に、こうして一つの通路に纏まるようになったと。
「なるほどな、なんか前にやったオンラインゲームの狩場みたいだな‥」
「ん? おんらいん?げぇむ? なんだそれはジンナイ」
「ああ、ごめん。レプソルさん気にしないでくれ、そんじゃ一狩り始めようか」
俺達は魔石魔物狩りを開始した。
壁側に魔石を置いて、魔石魔物が湧くのを待つ。
東の影響か、前よりも魔石魔物が湧くのが早くなったと注意を受ける。
前までは、1~2時間で湧いていた魔石魔物が、今では30分から1時間の間で湧くようになったのだと言う。
実際に目撃したという訳ではないのだが、最近では10分で魔石魔物が湧いたという報告もあるそうだ。
俺達は決して油断せずに、魔石魔物狩りを行った。
「ふう、次の湧くまでにどれくらいだろ?」
「最短であと10分ってところか? 遅ければあと30分?」
太陽の見えない深淵迷宮。
俺達は砂時計で時間を計りつつ、魔石魔物狩りを淡々とこなしていく。
置く魔石の数は、最大でも2個を維持したままで。
「レプソルさん、置く魔石の数は前と変わらないんですね。俺はもっと増やしているのかと思っていましたよ」
効率をよくするのなら、地面に置く魔石の数を増やすべき。
だが、陣内組を仕切っているレプソルさんは、効率よりも、その辺りは安全性を重視していた。
「そりゃ痛い目あったからな、白いケーキ野郎もそうだけど、狼男型がヤバいからな。アイツは置いてある魔石からすぐに魔石魔物を呼び湧かすからな」
俺はレプソルさんの話を聞いて、昔起きた出来事をふと思い出す。
狼男型の魔石魔物。
その魔石魔物は、稀に湧く上位魔石魔物。
ハリゼオイのようにWSなどを弾いたりはしない為、湧いたらすぐに囲んでボコれば問題なく倒せる相手なのだが、奴には魔物の呼び湧かしという特殊能力があった。
単体なら、囲んで割と楽に倒せる。
だが、魔石が散らばっている状態だと、とても危険な魔石魔物。
俺はそれを再認識し、気を引き締めて久々の魔石魔物狩りに集中した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、特にトラブルもなく魔石魔物狩りを終える。
今日の稼ぎの巨大魔石を売りに、指定されている店へと向かい魔石を売る。
本日の成果、金貨4枚と銀貨10枚。
「まぁまぁの稼ぎかな」
「今日は結構稼げた方ですねぇ、それに上位魔石魔物が3回も湧いたので、わたしはレベルが上がりました」
「あ、あたしも上がったですよです!」
普通の魔石魔物では、レベル75を超えた辺りから経験値が獲られなくなる。だが上位魔石魔物であれば、レベル75を超えているラティ達でも経験値が入っていた。
レベルの無い俺には少し寂しいことだが。
魔石を売った店から、まっすぐに俺達は公爵家の離れへと帰る。
途中でサリオが、『スキヤキ食べたいですよです』っと贅沢な事をぬかしていたが、サリオのせいで借金まみれとなっている俺は、アイアンクローと共にそれの却下を伝えた。
『ぎゃぼー』っと、少し騒がしい形で歩いていると、俺達の少し前で、俺達以上に騒がしい集団が歩いていた。
正確には、その集団の周りも騒がしくなっていた。
「ハヅキ、孤児院の慰問で疲れているなら、俺が運んでやるぜ?」
「セキよ、それだと目立ち過ぎるだろうが、少しは考えないと駄目だよ‥」
「そうそう、それにぃどうやって運ぶっていうのさぁ~、おんぶ?それともぉ~お姫様抱っこぉ? どちらにしても見過ごせないなぁ~」
「全く、この者達ときたら‥もっと優雅にエスコートしないと――痛ッ」
「‥‥‥気安く触れようとするな」
何とも言えないやり取りが繰り広げられていた。
聖女の勇者葉月を、五色の奴らが囲むようにして付き従い、その後ろに侍女のエルネさんが付いて行く形になっていた。
赤い奴が葉月に話し掛けると、それを遮るように青い奴が間に入り、それに合わせて黄色い奴が赤い奴を牽制。
その3人の隙を突くようにして、紫色の奴が葉月の肩に手を回そうとするが、それを黒い奴が結構強めにその手を叩き落としていた。
そして――
「おいシキ! なに勝手にオレのハヅキに触れようとしてんだ?」
「これだから君は、本当に油断も隙もない‥」
「シぃ~キぃ~?」
横で3人仲良く睨み合っていたヤツらが、今度はターゲットを紫の奴に移していた。そしてその隙に、黒い奴がフリーとなって葉月の横へ移動しようとすると。
「ブラッグス? 黒くて影がうっすいからってぇ、そうはいかないよぉ~」
黒い奴の動きに、目敏く反応する黄色の奴。
そして五色共は、全員が睨み合うような状態に突入する。
「なんじゃありゃ?」
「あの、互いが牽制し合っている様子ですねぇ‥」
「ほへ? みんな仲が悪いのです?」
五神樹が硬直状態に入ると、それを周りで野次馬のように遠巻きに眺めていた通行人達が、一斉にヒソヒソと話し合っている。
パッと見は、5人が一人の女性を巡っての争い。
そしてそれが事実。
非常に外聞が悪い。しかもその騒動の中心は聖女の勇者葉月。
すると――
「あっ、侍女のエルネさんが動いたですよです、あ、何か言っているです」
「あの、結構激しい感情の色が視えますねぇ」
「葉月も大変そうだな…」
小声で咎めていたので、エルネさんが何を言っているのかは聞こえなかったが、多分、周りへの外聞が悪いや、葉月への醜聞などっと言っているのだろうと予測が出来た。
エルネさんが言い終えると、五神樹達は周りを一度見渡し、次に無言で葉月を守るような元の配置へと戻っていく。
終始苦笑いの葉月。
「ハヅキ様は苦労なさっているのですねぇ」
「そう、みたいだな‥」
俺達はそれを眺めながら、アレに巻き込まれぬよう距離を取って帰宅した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の夜、俺がモモちゃんと戯れていると、昨日からこの離れに泊まっている侍女のエルネさんがやって来る。
「ジンナイ様、少々宜しいでしょうか?」
「うん? いいですよ」
特に断る理由もないので、俺はエルネさんの呼び出しに応じ、抱っこしていたモモちゃんを乳母のナタリアさんに手渡す。
「モモちゃんまたね、ナタリアさんお願いします」
「はい、あとはマリアベルと一緒に見ておきます」
「あぷぁぷあ~」
モモちゃんから「またね~」っという声に後ろ髪を引かれつつ、俺はエルネさんの後に続く。そしてやって来たのは、昨日と同じ客間。
生活魔法の”アカリ”を灯し、エルネさんは俺に話し掛けてきた。
「ジンナイ様、今日、あの状況を見ていたのなら、ちょっとは助けてくれても良かったのでは? 最後まで離れた位置でこちらを見ていましたよね?」
「あ、気付いていたんだ」
今日の帰宅途中の騒動。
一度は収まったが、またすぐに五神樹達はやりあっていた。
誰かが動けば他がそれを牽制し、その隙に誰かが抜け駆けのように動く。
そしてそれをまた牽制するの繰り返し。
「ええ、私は常に周りを警戒し観察をしておりますので」
「だからか、それで気付いたのか、五神樹達は自分達の事だけしか見てなかったってのに。そういや、あいつ等って仲が悪いのか?」
俺はふと、そんな感想を口にする。
すると、侍女のエルネさんがとても良い顔で、俺の感想に答えてくる。
「ええ、あの五神樹は、先日もお話しましたが、互いが己の派閥の為に競っているので、仲は悪いですね。ですが‥」
「ですが‥?」
「あの状況。三竦みならぬ五竦み状態なのは、私としては非常に助かります」
「へ? ああ! なるほどそうか、お互いが監視し合っているからかっ」
――なるほど、
確かにあの状況は、エルネさんにとって都合がいいのか
あの五色は、互いが牽制し合って身動きが取れない状況だもんな、
俺はエルネさんの意図を理解する。
もしかすると、彼女はこの状況を上手く作り上げている可能性すらある。
「ええ、互いが監視し合っているような状況なので、万が一という可能性もグッと減ります。これで聖女様の純潔を守る事が‥」
「アンタはユニコーンかよ、やたらとソレに拘って‥」
俺は思わず、しょうもない冗談を言ってしまう。
「ユニコーン? ああ、存じております。 処女に可能性を感じる誇り高き獣ですね? まさに私にピッタリな二つ名ですね」
「また歴代共か‥、なんか酷い混ざり方してんな知識が…」
俺がエルネさんのブレ無い姿勢に、少しげんなりとしていると。
「ああ、二つ名と言えば、このノトスに来る途中で面白い二つ名と、それに関連する、にわかには信じがたい噂話を聞きましたね」
「うん? なんだろ?」
「ジンナイ様がお一人で、東のとある村を守っただとか、」
「――ッ」
何の事か見当がついた。
そして俺はその時、守れていない‥
「その時のご活躍から、一部の者達の間では、ボッチラインと呼び称えられているそうですよ?」
「うぉい! 何だよその嫌がらせみたいな呼び名…」
俺は暗い気持ちを悟られたくなく、少し無理矢理気味にテンションを上げた。
「ボッチとか嬉しくないだろ、なんだよそれ‥」
「おや? ボッチとは、歴代の勇者様達が言うには”誇り高き孤高なる者”。そう聞いておりますが? それで、一人で前線を守った者、孤高の一人最前線と呼ばれているそうですよ?」
「やっぱそれ、何かの嫌がらせとかじゃないのか?」
「いえいえ、称えられておりましたよ? 一人で魔物を300体以上を屠ったと」
( 盛り過ぎだろっ )
暫くの間、そんな雑談をエルネさんと交わし、その日は終えた。
だがやはり彼女からは。
何かを探られている、そんな感覚が拭い切れなかった。
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