絶対的な守護神
説明回~、全部まとめるとぐちゃぐちゃになるので、ちょっと小分けです~
俺は再び客間へと戻って来ていた。
気絶していたロウはそのまま彼の部屋に戻し、ベッドの上に寝かしてきた。
そしてその客間には、俺と葉月、そして侍女のエルネの三人だけ。
あの五色との騒動は、アムさんの介入とエルネさんの登場により収拾した。
断片的に聞こえてきた会話の内容ではあるが、ある程度の経緯は分かった。
それは。
あの五色共は、偽りの指示を侍女のエルネさんに伝え、エルネさんが離れているうちに、葉月を言い包めて、彼女とこのノトスにやって来たのだと。
普段から聖女の勇者である葉月と一緒に居たのは、この侍女、エルネさんだったらしい。
彼女と勇者葉月はいつも同じ部屋に泊まっており、エルネさんがガードしていたようだ。
そして今、俺が断片的に聞いていた内容を、侍女のエルネさんから改めて聞かされていた。
「今までは私が常にご一緒しておりましたが、今回は彼らに謀られた形となりまして、その‥街に置き去りにされました」
「なるほどね‥」
「私も少しおかしいと思ったんだ、他の二人も居なくなったから」
謀られた内容とは。
東側にある街で、侍女兼お目付け役であったエルネさんは、その街の教会へあるお使いを頼まれて向かったそうだ。
だが、その街の教会では、その様なお使いは聞いておらず、謀られたと気付き急いで戻ったのだが、既に葉月と五神樹は、その街を発っていたそうだ。
そして慌てて情報を集め、このノトスまでやってきたそうだ。
しかも、エルネさん以外にも居た侍女達も、エルネさん同様に途中で離され、五神樹達は葉月に、『ノトスで新しい侍女が用意されています』っと言って葉月を安心させていたそうだ。
後は、邪魔者がいない間に何とかしようと思っていたそうだ。
そしてその何とかの一つが、6人部屋の確保らしい。
もしかするとだが、公爵家に無茶な要求をして、公爵家に泊まれない状況をワザと作った可能性まである。憶測ではあるが。
当然、その様な状況になった葉月は、宿を抜け出しココに来たと。
一通り話し終え、一度リラックスする俺達。
そして一息つくと、再びエルネさんが口を開く。
「ジンナイ様、これは愚痴‥、いえ、いつかお願いをするかもしれないので、少し聞いて欲しい事があります」
「うん? 愚痴? お願い?」
「え、エルネさん?」
侍女のエルネさんは、仕える者らしいビシっとした姿勢に仕切り直し、そして俺を正面に捉え語り始める。
「あまり大っぴらには言えないのですが、教会は六つの派閥に分かれています」
「あ~、よくある話ですね」
「はい、よくある話です。そしてその派閥はよくある話のように、自分達の派閥が優位になるよう多少の争いがあります」
――ああ、よくある話だな、
しかし何でそれを俺に話すんだ?
何か狙いが‥?
「そして今、その争いの焦点は聖女であるハヅキ様となっております」
「ああ‥あの5色は、その派閥争いの?」
「ご理解が早くて助かります。その通りです、あの五神樹とは、各派閥が聖女ハヅキ様を孕ます為に送り込んできた神子達なのです」
「――ぶっほぉッ!?」
「ええ!?ちょっとエルネさん!? もうやだぁ‥」
「アンタなに言ってんだよ! もうちょっと何か言い方あんだろ? オブラート、オブラート的なモノで包むとかあんだろっ」
「はい、解りました。あの五神樹の目的は、聖女ハヅキ様に突っ込んでその中に出―「アウトォォォォォォ――」
閑話休題(花畑の映像が流れている的な)
仕切り直して改めて話を聞いた。
その内容は。
ほとんど貴族達と一緒であった。
権威の最高峰の一つ、勇者。
その勇者を手に入れ、そして子を宿したとなれば教会内での派閥の地位は盤石となる、そんな酷い争いの先兵が、あの五神樹だと言うのだ。
だが派閥は六つある。
その最後の一つは――
「その争いをよく思わない派閥、それが私の所属する派閥なのです。高潔な聖女様をこのような醜い争いに利用しようなどと、決して許されることではないのです」
「なるほどね、教会の良心ってところか‥」
――これもよくある話だな、
組織が腐っていても、全てが腐っている訳じゃなくて、
その中にもまともなヤツはいる、
「全く、五神樹を擁する派閥は分かっていない。聖女様は処女であるべきっ! それを穢すような考え方をするとは、本当に分かっていない!」
「エエエッエルネさんっ!? そんないきなり何をっ、陣内君! 聞いちゃ駄目!」
「お、おぅ‥」
( すげぇ気まずい‥ )
「いえ、これはハッキリと言わせて頂きます、聖女様は純潔であるべきなのです。それを脅かす危険性のあるモノは排除してきました」
「はえ? 排除って?」
「盛りのついた犬のような勇者、勇者ヤソガミ様を遠ざけさせて頂きました」
「え? 八十神君がいなくなったのって‥」
「ええ、あと、勇者タチバナ様にも離れて頂きました」
「えっ風夏ちゃん? 風夏ちゃんは女の子だよ? 八十神君からは何となく‥だけど‥、風夏ちゃんも? なんで風夏ちゃんまで‥」
「聖女様は知らない方が宜しいかと‥」
『私には人の心が視えるのです』、そんな風な態度を見せるエルネさん。
色々と疑問しか浮かばないやりとりが、眼前にて繰り広げられている。
だが、一つ気になったことがあり――
「えっと、エルネさん…、貴方は感情が視えたりします?」
「視える? ああ、私には【恋感】があるので」
( 恋感って‥心感の親戚かよっ )
俺はその【固有能力】の名を聞いて即理解をした。
きっと、恋愛感情の色が見える【固有能力】なのだろうと。
そしてそれを駆使して葉月を守り、排除出来る者は排除してきたのだろう。ただ、五神樹だけは、同じ教会として排除は出来なかった様子だが。
「えっと、話を戻しますが。教会側のゴタゴタ‥それを俺に聞かせてどうするつもりで? 俺には関係の無い話ですよね?」
「ええ、ジンナイ様には関係の無い話です。ですが、何かを貴方にお願いをする時に、コチラの背景をご理解して頂けておれば、話が拗れずすんなりと行く思うので」
ちょっと何を言っているのか分からなかった。
だが彼女は、俺に何かを頼むかもしれないと言っていることだけは理解出来た。
しかし腑に落ちない点も――
「エルネさん、何で俺にナニかを頼むかもしれないのです? 別に他の人でも‥」
「それは簡単です。ジンナイ様なら、”ハヅキ様絡み”のお願いをした時に、打算的な下心はあっても、感情的な下心は無いだろうと予想をしたからです」
「うん? えっと打算的?と感情的な?」
「はい、分かり易く言いますと。打算的な下心は何かの損得勘定で、そして感情的な下心とは、感情…包んだ言い回しになりますが、そのお願いと引き換えに、聖女ハヅキ様に迫ってハヅキ様の操を奪おうとする事です」
「またそれかよっ! で、なんで俺だとそれが無いと言える?」
「簡単です、貴方がハヅキ様に惹かれていないのが視えるからです」
「――ッ!?」
【恋感】があるからこそ視えるのだろう、侍女のエルネさんはそうハッキリと言い切った。
その言葉を聞いて、本当に一瞬だが、暗い表情を見せた葉月。
( ‥‥‥‥‥ )
一瞬だが頭の中で逡巡する。
そしてすぐに、答えを見つけることを放棄した。
俺の複雑な心境などお構いなしに、侍女のエルネさんは説明を続ける。
「ああ、正確には、全く惹かれていないと言う訳では無いのですが、ジンナイ様は別の方に強く惹かれておりますので、無用な心配だと思いまして」
「なるほど…」
俺は本当に心が視えているのだと感じた。
彼女のいう、【恋感】の効果を。
そして。
俺はエルネさんの説明中、今度は意識して葉月の表情を視界に入れないようにしていた。
――だから分からない――
その後エルネさんは、俺に雑談でもするかのように色々と聞かせてきた。
聖女の勇者葉月が今まで、何を成してきたのかを。
エルネさんの話によれば、葉月は教会の象徴として行動してきたようだった。
教会が運営する孤児院への慰問。
貴族からの除霊の依頼や、冒険者とのレベル上げ。
そのレベル上げの時には、他所のパーティにまで回復魔法を掛けて回っていたそうだ。
その行動はまさに聖女様。
行動に対して、何かの対価を求めるようなマネはせず、何か物を受け取るようなことは無かったと言うのだ。しかも、自分達に配分されるハズの魔石は、一緒に狩りをしていたパーティに譲っていたそうだ。
何とも欲のない行動。
だが教会は受け取っていたのだろう。
信仰と好評価を。
そんな脱線染みた話をしていると、ある興味深い話題が出てきた。
それは中央、ルリガミンの町では魔石魔物狩りが減ったという話。
「え? 魔石魔物狩りをする人が減ったんですか?」
「ええ、かなり減った、っという様子でしたね」
「うん、私も聞いていた話と違うな~って思ったもん」
「なんだろう、その減った原因って?」
「原因なら分かりますよ、魔石魔物の湧き方が変わったそうです」
「ほら陣内君、ハリネズミみたいな強い魔石魔物っているでしょ、アレがよく湧くようになったのと、前まで湧かなかった霊体タイプまで湧いて大変みたいなの」
「魔物の湧き方が変わった‥?」
――十分あり得る、
位置的には、一番東に近いんだから地下迷宮は、
その余波が来てんのか?
そして、エルネさんが追加で語る内容には驚きがあった。
あのハリゼオイが、約3割の確率で湧くと言うのだ。
ハッキリと言って悪夢である。
囲んでWSを撃っても、それを弾く背の剣山。
そして、魔法は分散して弾き返してくるのだから。
あのハリゼオイを倒すには、俺のように正面からやり合うか、もしくは赤城のように束縛系の魔法で縛り付けるしかない。
どちらも、レベルの高さだけに頼らない、本当の強さが必要となってくる。
その話を聞いて、俺は魔石魔物狩りをする者達が減ったのを理解出来た。
もしかすると魔石魔物狩りが、昔のように無くなるかもしれない。
俺がそんな感想を思い浮かべていると――
「だから五神樹はノトスに来たのかも知れませんね。彼等は、ジンナイ様の事をあまりよく思っておらず、避けていた筈なのに‥今もっとも魔石魔物狩りがやりやすいと噂の深淵迷宮に来たのかもしれません」
語りながら、一人で納得する侍女のエルネさん。
俺としては、何故、俺がソコまで避けられるのかが分からず、それを訊ねる。
「あのう、エルネさん。何で俺がソコまで避けられるのかが謎なんだけど‥」
「え‥‥、そうでしたか、ええ、そうでしたね。でも本当は薄々気付いていらっしゃるのではないですか? ジンナイ様」
侍女のエルネさんは、何とも意味深な発言を残し、『今日はもう遅いので、此処までにしましょう』と言って、3人だけの話し合いを切り上げた。――まるで、明日もこの話し合いがあるかのように。
そしてその日は、そのまま終わりを告げ。
俺は自分の部屋へ、葉月達は、大急ぎで用意された客室へと行った。
俺はふと自分の部屋に戻ってから呟く。
「ラティ、ずっと扉の前で張ってたな‥」
パーティは解散状態なので、いつもの矢印は無く、ラティの位置は正確には分からない筈だが、【蒼狼】と尻尾による絆のような感覚で、ラティの位置が分かっていた。
ずっと客間の扉の前にいた事が‥
そしてもう一つ呟き、自分に言い聞かせる。
「エルネさん‥、あれは俺を探っていたよな…」
漠然とだが、俺は警戒が必要だと感じていた。
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