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一歩

長らくお待たせしました。

新章、『聖女の五神樹(ごしんき)』編スタートです。 


ちょっと短めです。

 俺達は、ノトスの街へ特に問題なく辿り着けた。

 問題があったとしたならば、それはノトス公爵家の馬車の中で、モモちゃんが少し粗相した事と、モモが泣くとラティが子守歌を歌い、それを聞いて俺とサリオとロウが泣き出すぐらいであろう。


 モモの食事の方も、神水(エリクサー)入りの牛乳のお陰か、問題なくモモは飲んでくれて体調を崩す事はなかった。


 

 そしてノトスの街の門の前。


「ステータスプレートを見せて下さい」

「はい、って、モモはどうするんだ? 赤ちゃんでも出せるのか?」


 俺が思わず聞いてしまう。

 ステータスプレートは出そうとする意志と、手のどちらかを少し上げないといけないのだ、手を下ろしたままではプレートは出現しない。


「あ、赤子の場合は、此方()が【鑑定】で見ますので」

「それならよかった‥、この子です」


 俺はスヤスヤと寝ているモモを抱いて、門番の男に彼女を見せる。


「おや? 狼人の子ですか‥」

「…はい、それが何か?」


 俺は少し険のある声音が出てしまった。

 どうしてもトンの村での、狼人に対する対応(仕打ち)が鮮明に脳裏に残っている。

 だが彼は――


「何とも可愛らしいですね、特に小動物っぽい所が、あ、どうぞお入りください」

「はは、はい、そうですね‥」


 もぞもぞ身を小さく捩り、俺の胸元に頬と鼻先を寄せるモモちゃん。


「すげぇ、可愛いんですよ」


 俺は胸張ってそう答えた。


 ――そうだ、そうなんだよ、

 刷り込まれたモノさえ取っ払えれば、普通に受け入れられる、

 不当な扱いを受けることはないんだ‥






 エウロスとは違いノトスでは、狼人の差別は風化し始めている。

 理由は単純。ノトスに長期滞在していた勇者達は皆が狼人に好意的であり、ノトス公爵代理のアムさんも狼人を嫌っていない。


 そして、狼人が主役のお芝居。

 

 これはエウロスと大きく違うだろう。


 東がメインの勇者椎名は、狼人に対して気にも止めていなかった。

 東に遠征している他の勇者達も、村や小さな町を周る防衛戦。

 流行りの劇も、剣聖のアクション系のお芝居。


 やはりノトスとは違った。



 俺はそんな感想を浮かべながら、馬車の中でラティの尻尾を撫でていた。

 

 門番からのステータスプレートのチェックを終え、俺達はノトスの街へと入った。

 当然、徒歩よりも人混みの少ない馬車専用の道を馬車で進み、俺達はノトス公爵家の屋敷を目指していた。


 モモちゃんを門番に見せる為に、俺はモモちゃんを抱きかかえたのだが、モモの兄である狼人少年のロウは、そのステータスプレートのチェックが終わると、酷いことに俺からモモちゃんを奪っていった。


 きっと兄として、可愛い妹を何時までも俺に抱かれているのが嫌なのだろうと、その目つきと態度から窺い知れた。


 気持ちは分からんでもないが、やはり癒し(モモちゃん)を持って行かれて寂しい。

 だから俺は、癒し(ラティの尻尾)を撫でる事にした。



 だが今度は、尻尾を撫でている俺に、『ぐぬぬっ』的な視線を飛ばしてくる狼人のロウ少年。

 

 ノトスまでに来る途中、俺がラティの尻尾を撫でていると、ロウがそれを目撃した時、目がこぼれ落ちるのでは?っと思うほどに、目を見開き剥き出しにしていた。


 

 あの表情からは、狼人の尻尾を撫でる行為の意味を、うっすら程度には知っている様子であった。

 その後ロウは、ラティが隣に座っている時は、露骨にラティの尻尾を気にしている風であったが、ラティは常にロウとは反対側、手の届かない所に尻尾を流していた。


 

 そんな経緯があるので、彼は今もラティの尻尾を凝視している。


 ――はぁ、これは俺でもわかる、

 こいつ、一丁前にラティに惚れてんな、

 まぁ、あの魔物の群れから助けたのはラティって認識だろうしな‥



 俺は二つの理由で、ロウから嫌われているのが理解できた。

 一つは酷い出会い。

 もう一つは、好きな人を取っている男。


 一つ目の理由は、そのうちに誤解が解けていけば問題ないのだが。

 もう一つの方はどうしようもなかった。


 それに――


 ――むう、なんだかモヤモヤすんな、

 ラティの隣に誰か居たって事、いままで一度も無かったな‥

 今は俺の隣だけど、さっきまでラティの隣は……



「あの、ご主人様、堪えてください、あの‥その、尻尾は触らせませんので…」

「――ッ!!」






           閑話休題(心がモロに漏れて~ら)







 公爵家に到着すると、御者台に居たラルドさんはすぐにアムさんの元へ向かった。

 今回の遠征での報告や、他にも色々と伝える事があるらしい。


 そして俺達は、まず屋敷の離れに向かい、モモを寝かす事にした。

 モモは取り敢えずラティのベッドに寝かし、ドミニクさんの娘で、このお屋敷の離れでメイドをやっているリーシャに、モモとロウの事を報告と説明を行う。


 そしてリーシャからは『まず、アム様にお伝えするのが先じゃないです?馬鹿ですか』っと、至極真っ当なことを言われ、俺はアムさんの元へと向かった。



 俺は考える。

 どうすべきなのかを。


 狼人のロウとモモを引き取った。

 勿論、それには後悔などはしていない、あの場で置いて行くという選択肢は無い。

 だからと言って、それが正しい訳でもないし、それに簡単な問題ではない、冒険者としてしょっちゅう外に行くのだから、誰か面倒を見てくれる人を探さないといけない。


 だが現在、自分達の住んでいる場所は公爵家の敷地。

 そんな場所にホイホイ誰か入れて良い訳でないので、必ずアムさんの許可が必要になるし、最悪の場合は此処を出て行かなくてならない。


 しかも、今の自分にはかなりの借金があり、簡単に外に出れるわけでもない。

 誰かを雇うにしても、その手続きなど色々とあり。


 ――やべぇ、かなり大変なんじゃこれ‥

 あれ? これって考えれば考える程、詰んでいくような‥



 俺は重い気持ちで、アムさんがいる執務室の扉を開いた。






「うん、いいよ。 乳母なら丁度手違い(・・・・・)で探してしまっていてね、だからある意味、丁度良かったかもね」

「へ?」


 問題は呆気なく解決した。

 俺はロウとモモの事をアムさんに報告、そして相談したのだが、ロウはそのまま離れに住んでよく、そしてモモの乳母も手配してくれると言うのだ。


 ハッキリ言って都合良く上手く行き過ぎである。

 だから当然――


「アムさん、疑うとかじゃないですけど、なんでそんな簡単に‥」

「ああ、勿論こちらにも下心はあるよ、ジンナイ君、君を引き留める為の楔としてね。だから、乳母の雇用費なんて安いモノさ」


「へ? 乳母の雇うお金までって‥マジでなんでです?一体…」


 俺は困惑する。

 自分が払うべき乳母の雇う給金まで、アムさんが支払うと言うのだ。

 どう考えて怪しいのだが――


「一昨日ね、こんな手紙が来たんだよ」

「?」



 俺はアムさんから、一通の手紙を受け取った。

 厚みがあり、手触りも中々良い高そうな紙。


 そして書いてある内容は。


「『ノトスよ、エルフ娘のサリア嬢を無事に身請け出来るよう、あの時、ワシが話を付けてやったろ? だからあの時の借りを返せ。 』『冒険者ジンナイをワシに寄越せ』って書いてあるんだよ」

「ああ、確かにそう書いてあるけど‥これってまさか?」


「うん、西の大貴族、アキイシ伯爵からの書状さ」


 ――あのじいさんか!

 ああ、確かにそんな事言っていたけど…

 まさかマジだったのか、



「だからだよ、」

「へ、だからって?」


 アムさんは何とも言えない表情で俺を見る。

 そして意を決したように、普段あまり見せない真面目な顔で俺に言う。


「今後の予定でも、ジンナイ君、君が必要なんだ、だから少しでも引き留める要素になるだろうと思ってね」

「あ‥」


 アムさんは俺に、ノトスに残って欲しいと言っている。

 治めている街の規模を考えるなら、アキイシの街の方が上だろう。

 単純な地位でいうならば、ノトスの方が上。だが、それでもアキイシ伯爵家の方にもかなりの魅力はある。


 俺は雇われている立場。

 それは自分の意志で雇われる場所を変える事が出来ることを意味している。

 そして、俺を引き留める為に、ロウとモモの面倒を見ると言っている。


 もしかすると、アキイシ伯爵家でも、ロウとモモの面倒は見て貰えるかもしれないが、俺は――


「俺は此処を出て行きませんよ、俺が拒否をしたって言って断ってください。俺はアムさんにはお世話になっているし、それに、アムさんの事、結構好きですし‥だから…」

「ありがとう、助かるよ、あ、好きってのは友人でって事だよね?」


 俺は、『気持ち悪い事言うな』っと表情で返答をする。


 これで、アキイシ伯爵家との話は終わりだと思っていると――


「ああ、そうそうジンナイ君、もう一つあったよ」

「うん?もう一つ?」


「なんでも新作の劇には、君の名前を使いたいらしい、シンナイだと何だか冴えないそうだ、だからジンナイの名を使いたいと言って来ているんだ、どうする?これも断るかい」


「ジンナイの名を使ってください!」


 ――これだ!

 これなら!CHRの無い俺でも、俺を世間に知らせれる、

 そうだ! 後は‥



「あと、出来たらでいいので、他の劇にも出ている俺の役も、全部ジンナイに変えれないか、それも送ってください」

「本気かい? 確か嫌がっていたよね? 何か心境の変化? それとも決意か何かだね」


( 鋭いなアムさん… )


 

「わかったよ、それも送っておこう」

「助かります」


 ――あ~なんだかんだでアムさんに頼りっぱなしだな俺、

 乳母の事も、今のことも‥ん?

 アレ? そう言えば、なんで乳母なんて探してたんだろ?



 俺はふと疑問に思った。

 アムさんには奥さんはまだいなかった筈であり、乳母を探す事に違和感を感じ。


「アムさん、なんで乳母を探してたんです? 俺的には丁度助かりましたが‥」

「ああ、それかい‥」


( まさかアムさん、やらかしちゃったとかか? )


「セーラさんだよ、勇者ウエスギ様の婚約者、いや、今は一応結婚しているのかな? その彼女がご懐妊したんだ、子供が出来たって言った方が分かり易いかな?」

「……………………………………はい?」


 ――やべぇ、疲れてんのかな、幻聴が聞こえた、

 上杉に子供が出来たと、わけわからん事が聞こえたよ、

 あ~~、モモちゃんを抱っこして癒されたいな‥



「ジンナイ君? だから勇者ウエスギ様の奥様に、子供が出来たんだよ」



 その時、俺の嫉妬ハートが壊れるほどに震えた。

  

 

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字などのご報告頂けましたら嬉しいです。


最近、感想コメント欄が本編とはあまり関係の無い、設定集のようになっている。

言葉の胸のサイズとか、本編に関係ない事が色々と‥

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[気になる点] アムを見てるとどこぞのフィ○ップを思い出しますねwww
[一言] >その時、俺の嫉妬ハートが壊れるほどに震えた。 クスッとしました^_^
2021/04/20 16:27 退会済み
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