轟く
最近、何と戦っているのでしょねぇ
僕は一人だった。
正確に言うならば、家族はいる。
元々住んで居た場所はカツオがよく獲れて、ほぼ三食がソレだった。
泳ぐことも出来た。
でも川でだ、海には人食い鮫が遊びに来るので危険だった。
そんな土地から中央に引っ越して来た。
転校をしてしまった。
自分では訛りなんてないつもりだった。
だけど、訛っていると指摘され、僕はあまり喋らなくなった。
より一人になっていった。
だけど――
『下元拓也さん好きです。ルイと付き合って下さい』
この言葉で世界が変わった――
加藤瑠衣と付き合うようになって、人と話せるように戻って来れた。
他の人とも話せるようになった。
一人だった世界から、みんなのいる世界に戻れた。
告白してくれた彼女には、感謝の気持ちしかない。
”本当にありがとう”と、そう感謝している。
自分一人だけだったら、今でもウジウジしていただろうから。
その彼女は肯定されるのが大好きだ。
だから僕は彼女を肯定する。
全世界を敵に回しても彼女を肯定してあげたいと思う。
彼女の言う我が侭など些細な事なんだから…
この異世界に召喚され、貴族に引き取られた。
そして運良く、瑠衣と一緒に支援して貰える事になった。
だけど瑠衣が貴族の男が迫ってきて、それが嫌だから逃げたいと言った。
ならばそれを肯定しよう。
僕たちは逃げた。
貰える物は貰って‥
街など入る時は、瑠衣のワザキリを使って偽造して街に入った。
絶対的な身分証明となるステータスプレート。
誰も疑問を抱かず、僕らは別人として街に入れてた。
時には瑠衣を怒らせる事もあった。
だけど謝れば彼女はいつも許してくれた。
ちょっとのお仕置きはあったが…
僕は恩人である瑠衣を肯定する。
人がそれは間違っていると言っても、僕だけは彼女を肯定してやると。
その盲目的な肯定が、この結果だ――
駆け付けなければ成らない時に、お仕置きのワザキリを貰い動けず。
ステータスは命にかかわる【VIT】以外全て削られた。
昨日削られた【CHR】はそろそろ復帰するかもしれないが、【CHR】など戻ったとしてもまともに戦える状態じゃない自分。
何でも肯定して、そして何も考えずにそれを受け入れた結果。
『クソがっ! 下元、お前って奴は‥、もういいっ! ラティ行くぞ』
ああ、僕も行くべきなのに、いけない‥
僕が招いてしまった事なのに…
何で僕はステータス欠損を受け入れた。
戦わないといけない時なのに。
『スペさん! ミズチさんを連れてトンの村へ来てください! ミズチさんの回復魔法が必要になる筈ですから、スペさんはミズチさんの護衛を』
『‥ああ、分かった』
駄目だ、何が出来る訳ではないが、付いて行くべきだ。
何か雑用役だけでも‥
「スペシオールさん、僕も連れて行ってください!」
「…………………………邪魔…」
「お願いしますっ!」
拒絶されたからといって、此処で止まったら絶対に駄目だ。
迷惑になるかもしれない。
邪魔になるかもしれない。
もしかしたら、何かに巻き込まれて死ぬかもしれない。
だけど――
「お願いします。いま此処で行かないと駄目なんです」
「わかった‥‥」
「わ、ワタシも連れて行ってくれい! ワタシが悪い訳じゃないのだ。だからそれの説明責任を果たさないといけないのだ、だからワタシもトンの村へ連れていってくれ」
突然やってきた役人の男。
『そうだ、そうだよ説明すればワタシが悪くない事が分かってくれる』『ワタシには説明する責任がある、うん、ある』などと、ブツブツと呟いている。
彼も僕が巻き込んだようなモノだ‥
くそ――
「…人数が多いな、馬車を…」
「――ッぐうう!?」
「スペさんこの人って‥」
「‥‥ああ、囮役でも買って出たのだろうな‥‥死体を見るに、狼人か‥‥?」
「良かった狼人でしたか! まだ、まだ間に合う。しっかりと説明責任を果たさねば、まだワタシは許される、許される――」
この人は何が目的で来ているの?
狼人だから平気? 同じ人なのに?
「‥‥埋葬などは後だ、」
「はい、急いで陣内サンと合流しましょう」
「ひぃ、あの黒い奴とか‥」
急いで陣内サンと合流しないと――ッあ!??
「ひぃい!なんだあの黒い魔物? 死体魔物以外にも魔物がおるのか!?」
「‥‥‥ジンナイだ‥」
「陣内サン、あれが陣内サンの戦闘‥」
黒い獣が猛っていた。
獣の如き咆哮、人とは思えぬ唸り声。
比喩ではなく、周囲が僅かながらビリビリと震えている。
彼の咆哮に引き寄せられる死体魔物達。
轟く黒い暴風へと近寄り、そしてその暴風域に入った魔物は、物々しい槍によって横に薙ぎ払われ、死体魔物達は消し飛んでいく。
「がああああああああああああああ!」
――ガゴンッ!!――
「――な!?」
近くに建っていた石作りの建物の一か所を、砂糖菓子のようにあっさりと破壊する。
なんてデタラメな‥
あの物々しい槍も、そして使い手の陣内サンも‥
WSを使わずに、あの石を簡単に削り取るなんて‥
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
眼前で繰り広げられる、非常識な光景。
どちらが魔物なのか分からないような、だが、槍の冴えには目を見張るモノがあった。決して軸がブレず、的確に魔物を屠っていく。
荒れ狂う天災染みたようなモノに立ち向かう魔物達。
そして消し飛ばされていく。
「強い‥」
一緒に来ている皆が、その光景に息を呑み黙り込む。
「ぅっらあああああああああああ!!」
何故あんなに強いんだ‥
ステータスの欠損や、【固有能力】の欠損を体感した事があるからそこ解る、ステータス値と固有能力の恩恵を。
僕とは比べ物にならないくらいに、彼のステータスは酷かったはず。
【固有能力】の【剣技】がある無しは、天と地ほどの差ある。
そういった恩恵が一切無いのに、何故、彼はあそこまで強いんだ。
いや、強いというよりも凄まじいんだ。
彼は‥‥
「む!マズイぞ! 魔石魔物級が湧いている!」
「え!?ってデカい!」
「ジンナイ君の援護に行かないと!」
「ひいいい! 聞いていないぞ!? あんなデカいのが湧くなんて。お、おい、お前達! 連れて来た責任を取ってワタシを守るのだ! いいな?守るのだぞ!」
何を勝手なことを言って――
「あ、」
4メートルを超える巨大な太った魔石魔物級の死体魔物。
その襲って来た魔石魔物級を相手に一気に間合いを詰め、そのまま跳躍し魔物の胸元に槍を突き立て、サッカーのバイシクルシュートのようなモーションで、振り上げた脚を下げる反動で、逆側の脚を勢いよく振り上げ、その脚で槍の柄を蹴り上げる。
そして勢いよくカチ上げられた槍が、魔物の胸から上を、気前よく吹き飛ばす。
「‥‥相変わらずデタラメだな、ジンナイは‥」
「あ~あ、なんか心配して損しちゃったね~」
「あああ、があああああ、ああ」
あれが陣内サンか。
ステータスの恩恵では、僕達よりも数段劣っているのに‥
なのに‥
なのに僕は何をやっていたんだ。
彼はこんなにも‥‥
瑠衣、僕は決めたよ――
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「がはぁ、ハァハァ…」
俺は人が死ぬのを、初めて見たような気がしていた。
冒険者達は、覚悟があろうが無かろうが、命の危険がある場所へ行く。
其処で命を落とすとしたら、それは自己責任だ。
覚悟があろうが無かろうが。
だが、一般人は違う。
だから、初めて人の死を見た気がしていた。
――くっそぉ、俺が加藤を止めていれば…
この村に予定通り来ていれば、くそ、
魔物は何処だ、何処に居やがる‥
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部――
「陣内サン」
( 喋る魔物だと!? )
「っがああああ‥‥ん?」
「――ッうあああ!?」
目の前にいる魔物は、何処かで見たことがある型の魔物。
叩っ斬ろうと思ったのだが、頭の隅で『それは不味い』っと告げている。
「‥‥ジンナイ落ち着け…」
「ジンナイ君、流石にそれは無いと思うよ?」
「へ? あ‥」
目の前の魔物は、勇者下元であった。
( あぶねぇ、保護法に引っ掛かるとこだった )
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、俺達はラティ達と合流した。
村の住人達は、石などで出来た堅牢な建物に避難していたそうだ。
特に村長などは、地下室の中に隠れてしまっており、最初は中々信用せず出てこなかった。
『村長! もう魔物はおりません開けて出て来てください』
『ワシは騙されんぞ! そう言ってここを開けさせて、お前も此処に逃げ込むつもりじゃな! この地下室はワシ等だけ隠れるんじゃ! それと大声など出すな、魔物が寄ってくるだろうが!』
村の責任者が出て来ないと話にならないので、俺はその扉を破壊した。
そして今。
村の住人がほぼ集まり、防衛戦を終えた赤城とサリオも駆けつけて来ていた。それと勇者加藤も。
村の小さな広場には、200人近い人が集まっている。
他にも村人はいるそうだが、荒らされた村の片付けなどをしていた。
そんな広場では今――
「わ、ワタシは悪く無いんだ今回の件は、勇……、いや、色々な手違いがあって、それでこの村に防衛隊が来るのが遅れてしまって、だからワタシは勇気を振り絞って、こうして駆け付けたのだ」
役人の男は、俺が此処へ来て戦ったのは、自分の指示であり、自分の手柄のように囀り始めた。
俺は、「もう、コイツぶん殴るかな」っと思っていると。
「嘘を吐くな! 俺は家の陰から見えてたぞ、その黒い冒険者さんが一人でやってきて、一人で全部魔物倒しただけだろうが、アンタは遅れてやってきただけじゃないか!」
この村人の発言に、待ってましたとばかりに――
「ええ、ですから彼をワタシが派遣したのですよ、一刻を争う事態でしたので、彼だけが先行する形を取りましたです、はい」
ニヤリと笑みを浮かべる役人の男、そして右手を俺だけに見えるようにして、指で輪っかを作るお金のハンドサインの合図を俺に送って来る。
要は、後で報酬を支払うから、この流れに乗ってくれという事なのだろう。
当然、そんなモノに乗るつもりは無く、黙らせようと思っていると――
「彼は優秀でしょう? 結局、この村では被害者は誰もいなかったみたいですし。 これもワタシの迅速な判断のお陰――どう―――ッ―だ――――から――ッ――」
途中までは耳が聞こえていた。
だが、途中からこの男の言葉を聞くことを、俺の聴覚が拒否をしていた。
聴覚が仕事を放棄した理由は理解できた。
ラティが震えるのが分かった。
赤城も異変に気付いたのか、束縛の魔法を唱えようとしている。
サリオも『ぎゃぼー』と言おうとしているのか、口が開いている。
スペさんは駆け出し、俺を押さえよう動いている。
ミズチさんはとても困った表情を見せている。
俺はそれらを全て振り切り、加減などなく拳を振り抜いた。
――ッゴ!?――
「―ッガハッァ!?」
「きゃあ」
突然の俺の凶行に、悲鳴をあげる村人達。
そして気前よく吹き飛んでいく下元。
下元は役人の男を庇って、自分が俺に殴られていた。
吹き飛んだ拓也の元に駆けて行く加藤。
ミズチさんも急いで回復魔法を唱えている。
「じ、陣内サン、駄目だよ貴方の力じゃ殺しちゃうよ」
「拓也!無理に喋らないで!」
「じっとしていて下さい、治癒魔法がしっかり入りません」
一瞬にして騒然となる広場。
「へいきぃです‥今は、僕に‥瑠衣、離れてくれ…」
「拓也?」
フラフラになりながらも立ち上がる下元。
何か俺に語ろうとしている様子。 だが俺にはそれよりもやる事があるので。
――ギシッ――
「くそ、動けねぇ、これを外せ赤城! なんのつもりだ。それとスペさんも離してくれ」
俺は拓也に殴るのを阻止されたので、すぐに追撃に移ったのだが、勇者赤城には束縛系の魔法で縛られ、スペさんからは羽交い絞めにされて、身動きが取れない状態であった。
――くそ、コイツらマジかよ、
俺が追撃に行くと読んでやがったな、
真っ青になって怯えている役人の男。
彼は震えながらだが、なんとか口を開こうとする。
「おおおお、お前、ワタシに何をするつもりだっ――っぶべら!?」
「貴方は黙っていてください」
俺に代わり、役人の男を殴り黙らせる勇者下元。
「陣内サン、聞いてください、他の皆も‥」
場の空気が不自然な程に凪ぐ。
――!? これは‥
CHRがワザキリの効果から戻ったのか、
それと…なんだコレは?周りの反応が、【心響】の効果か‥?
「聞いてください、僕は――」
俺にはイマイチ実感がなかったのだが、周りは完全に彼に呑まれていた。
そして勇者下元拓也は、必死に拙い言葉で訴えていた。
今回の件の真相を、そして今回の顛末を。
今回の件の発端や、責任の所在、狼人ウルフンさんの尊い犠牲などを聴かされ、何とも言えない表情を見せる村人達。
俺も責任の所在は自覚していた。
俺も勇者加藤を野放しであったと、しっかりと手綱を握っていればと‥
( くそ… )
下元の言葉は村人達に届いていた。
【心響】を発動させて語る想いには、恐ろしいほど効果があったらしく、狼人だからと、石材で出来た建物に入れる事を拒否した犯人が名乗り出る程であった。
そしてその名乗り出た者は、そこまで重くはないが罰せられることとなった。
嘘で取り繕おうとした役人も、移動での指示忘れの件と今回の件で、更迭が決定した。
その時、役人の男は大騒ぎしたのだが――
『わ、ワタシが彼を此処に送ったのです、よ』
『其処まで言うなら、当然、彼のレベルを把握しておりますよね?』
『ふへ? えぇっと…50よりも上だったかな‥』
『はぁ、貴方はひょっとして彼の名前も知らないのでは?』
俺のステータスを確認して青ざめる役人。
『陣内サンは、僕達とは違う特別な方なんですよ、推し測れるモノじゃない』
『いや、だってワタシは勇者様に‥』
『一緒に償いましょう…僕もけじめをつけます』
こうして、広場での裁判のようなモノは終わりを告げ、今は――
「皆さん、本当にご迷惑をお掛けしました」
深々と頭を下げる下元。
今この場には、俺達、防衛戦組だけが残っている。
「僕は今回の件で責任を取れません、だから償いをしていこうと思っています」
「え?なんで! 拓也が悪い訳じゃないでしょ? あの役人がしっかりしなかったのが悪いんだし、ね?だから拓也、そんなに思いつめないでよ」
下元の発言に対して、闇雲にフォローをしようとする加藤。
彼女には、先程の下元の言葉が全く響いていない様子、下元は加藤を抑え切れず、今回の件が起きてしまっていたと、言外に伝えていたのに、彼女は全くそれを理解しようとしていなかった。
そんな加藤を見ながら、下元は――
「瑠衣、別れよう」
「え‥」
「お互いの為とか、そんな綺麗ごとじゃなく、僕は、僕は‥‥」
「え、え‥」
必死に言葉を吐き出そうとしている下元。
「‥‥別れよう加藤さん 」
長くなったので、ちょい切り
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。
誤字脱字なども…




