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すいません、忙しくて更新遅れました。
俺は今、ある馬車の御者台に腰を下ろしている。
そして俺の隣では、狼人のウルフンが馬車の馬の手綱を引いていた。
俺達はアズマの街から、ミギの町へ防衛戦に向かうこととなった。
そしてそのミギの町へ向かう途中に、トンという名の村があり、其処まで帰りたいウルフンの同行を許可した。
本来であれば、トンの村方面に行く輸送の護衛部隊と一緒に行くのが普通なのだが、トンの村方面へ向かう護衛隊はもう既に出発しており、遅れてしまったウルフンは困っていたそうだ。
そして困ったウルフンは、街の外へ移動する冒険者達に声をかけ、トンの村方面に向かう者達に同行させて貰おうと考えたそうだ。
最初は移動先までの案内役の人間が、その同行を断ろうとしていた。
だがその理由が、ウルフンが狼人であるという差別的な理由であった為、瞬迅たるラティが所属する陣内組は激怒、元から狼人に対して忌避するような認識を持っていない勇者の二人も、それには怒り案内役を嗜めた。
狼人というだけ、差別や忌避されていたであろうウルフンは、陣内組の対応に目を丸くして驚いていた。そして今回は珍しい事に、俺に出番が無かった。
そのウルフンは腰が低く謙虚な立ち振る舞いで、陣内組の一人一人に頭を下げた。俺にとってそれはとても新鮮であり、彼に好感を持てた。
そして是非、話をしてみたいと思い、俺は彼の隣にお邪魔をする事にした。
「東に来るのは初めてなんですよ、出来れば東の事を教えて頂けませんか?」
俺は隣に座る狼人のウルフンさんに話し掛ける。
ウルフンさんは、被っている麦わら帽子を後ろにズラし、此方に顔がよく見えるようにしてから口を開く。
一回り以上年下の俺に対して、狼人のウルフンさんは此方が気まずくなってしまいそうな程に、丁重な対応で俺に東側のことを教えてくれた。
東側では、村の間を3~5キロほどの間隔で村を作り、牛などの家畜を飼育する方法を取っているのだと言う。
勿論、東でも北側の方では、米などの稲作も行っているなど、色々と東側の話を聞けた。そしてふと、俺は3~5キロ間隔で村を作る理由が気になり、それをウルフンに訊ねる。
「ウルフンさん、何で村を纏めないで、3~5キロ間隔に分けているんです? なんか効率が悪そうな気がするんですけど」
俺はなんとなく、それが気になっていた。
南よりも人口が多いとはいえ、大きい村か、町でも作った方が流通の流れも楽だし、管理などがし易いと思ったからだ。
「ええ、それはですね、家畜の病気が広まらないようにですよ」
「――ッ病気ですか…」
ウフルンがいうには、家畜は何処から貰ってくるのか、体調を崩す病気によくかかるのだと言う。
死に至る程の病気ではないそうだが、酷く弱ったり、時には、それが切っ掛けとなり他の要素で死んでしまう事があるそうだ。
それは元の世界での、風邪に似たようなモノで、近くにいる他の家畜にうつり易いらしい。だが逆に、離れてさえいればうつらないと言うのだ。
それの対策として、村同士が一定の距離を保ちつつ、無数に点在しているのだと教えてくれ、そしてそれが今回の、移動防衛戦に繋がると補足もいれてくれる。
無数に点在している村や町。
今までであれば、少しの戦力で問題無かったのだが、ここ最近、何故か魔物が急激に増えて来たとウルフンは言う。
少数の戦力ではキツい場所でチラホラと出て来ており、だからといって、対抗出来る戦力を村に常駐させられるほど、冒険者がいる訳でも無いし、お金だってかかる。
だから戦力の動かせる所は動かして、足りない所を補う形を取ったそうだ。
俺はこうして、ウルフンさんから、東の説明を受けていた。
そしてウルフンさんと会話を交わしていると、俺達の目的地はまだ先だが、先にウルフンさんの住んでいるトンの村が見えて来る。
「ありがとう御座います、無事に村に戻れました」
「いえいえ、此方も同じ方向でしたから」
隣に座っていたウルフンさんは、此方に向き直り、帽子を取ってお辞儀する。
そして露わになる、先が切り取られた痛々しい獣耳。
――っく、これってアレだよな、
狼人の嫌われている部分を切り落として、
それによって許しを請う奴だよな‥‥
俺の脳裏には、腹立たしい貴族連中が浮かんだ。
あいつ等は言っていた、狼人の耳と尻尾を切り落とし、狼人としての証を捨てる事で、存在することを
許す的な言い回しをしていたのを。
俺はその耳に、無意識で哀れみの視線を投げてしまった。
「ああ、この耳ですが。申し訳ないですお目汚しを、張ったままの耳ですと、村に住ませて貰えないもので、ワタシの宝物達の為にも、いま村を出る訳にはいかないですからね」
ウルフンさんはそう言って、右手に巻いてあるミサンガのようなモノを、優しく愛でるように撫でた。
「コレ、ウチの子が作ってくれたんですよ、ワタシの御守りにって、外回りが多いですからねワタシは」
俺に見やすいように右腕を少し上げ、手首に巻いてある、緑色と茶色の二色が交差したミサンガのようなモノを俺に見せた。
「なんとか無事に帰れます、ああ、早くウチのコ達に会いたい…、だからこんなのどうだって良いんですよ、ワタシには…」
ウルフンはハッキリと何かを言った訳では無いが、俺には、『同情しないで下さい』と聞こえた。
宝物を守る為に取った行動を、憐れんで欲しくないと。
その後、いつまでも頭を下げているウルフンに見送られながら、俺達はミギの町へと向かう。
ウルフンさんの馬車を降り、勇者加藤と下元が乗っている馬車へと戻る。
「‥‥乗って来るんだ」
「瑠衣っ、この馬車は元から陣内サンのだろ、戻って来て当然だよ」
二人の空間を邪魔されたのが気に喰わない勇者加藤、そしてそれを嗜める下元。
ゆったりとした心地よい空気から、げんなりとした空気へ。
――加藤うぜぇ、
本当に何で下元はコイツと付き合ってんだろ‥‥
こっから我が侭とか多そうだな、
俺は移動の多い移動防衛戦で、この先きっと、寝る場所や風呂などで文句ばかり言うであろう、勇者加藤に嫌気がさしていたが。
だが、少しばかり予想外の事があった――
ミギの町に到着し、其処で防衛戦の見届け役の人に迎えられる。
昔と違い、装備一式を黒鱗装束に変えた俺は、相手に舐められることなく、この陣内組のリーダーとして受け入れられる。
そしてすぐに、寝る場所や、その他の環境の確認を行った。
今までの経験上、寝る場所の小屋などは用意されているだろうが、贅沢な食事や風呂などは期待出来ないだろうと踏んでいた。
そして確認をすると、やはりその辺りは期待出来なかった。
手狭な小屋、そして風呂に至っては絶望的。
これは勇者加藤が文句でも垂れると思っていたが。
「あ、屋根はしっかりしてるのね、これなら良かったわ」
何と、寝る場所と風呂が無いことに不満を言わなかったのだ。
寧ろ、余裕さを感じさせていた。
「へ~、結構いい感じの町ね、良かったね拓也」
「う、うん」
その後、二日間。
このミギの町に滞在しつつ、群れをなして攻めて来た魔物を撃退する。
自分達の陣内組以外にも、約10名近い冒険者達もやって来ており、それにより寝床の小屋が更に窮屈になったのだが、それに対しても不満を言わなかった。
男性用ほど狭くはなかったが、女性用の小屋もそれなりに窮屈になっていたにもかかわらず。
三日目に、再び移動となった。
そしてそれにも不満など言わず、勇者加藤は従った。
しかも、確実に楽しそうにしていた。
イーの村に着いてから、俺はその事を思わず勇者下元に尋ねた。
失礼な言い方だが、とても意外だったからだ。
「なあ下元、なんで加藤って平気そう――ってか、普通にこの状況に適応してんだ? 寧ろウチのサリオの方が文句言っているのに」
「ああ、瑠衣はこういう旅行みたいなの好きだからね、僕も意外だと思うよ」
下元は、俺の説明不足の質問に対して、正確に答えてくれる。
俺が何を言いたいのかを、きっと察してくれたのだろう。
「僕もこの異世界に来てから、瑠衣には振り回されっぱなしだよ、この異世界中を周るんだって言ってね、色んな場所に連れまわされたよ」
「ああ、そういや観光してるとか言ってたな、あれってガチだったのか…」
「うん、何処かに探検をするっていった様な事はなかったけど、馬車で回れる場所なら何処へでも行くって感じだったね」
俺は勇者加藤の意外な一面を知る。
加藤に対して、少し認識を改めないといけないと思っていると。
「でも、そろそろかも…」
「うん? 何が?」
「たぶん近いうちに、瑠衣の悪い癖が出る頃かも…」
だが最後に、不穏なことを呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
五日目。
俺達は町を移動して、再びミギの町へ戻って来ていた。
「正面来ます! 人型サイズタイプですっ!」
「人型ってか、あれゾンビだよな…」
「あの、少々数が多いですねぇ」
「ジンナイ様、あたしが薙ぎ払っちゃうです?」
俺達は町を背にして、人型の魔物の群れと対峙していた。
魔物の群れから、町を守る形なのだが。
「なんか、どっかの映画みたいな光景だな‥、取り敢えずサリオ、魔物を間引く感じで薙ぎ払え、でも全部やるなよ、勇者達のレベル上げにならないから、あとスペさんもフォローをお願いします」
「了解してらじゃです!」
「……わかった…」
「ええ~、やれるなら全部やっちゃいなよぉ、わざわざ拓也が戦う必要ないでしょう」
「瑠衣、これば僕達の訓練みたいなモノなんだから、頑張ろう」
レベル75を超える精鋭揃いの陣内組にとって、この防衛戦自体は楽であった。
東側なので、厄介な霊体タイプが湧くかと思っていたが、湧いて襲って来るのは人型タイプばかり。
体長1メートル70センチほどの人型。
分かり易くいうならば、それは腐った死体だった。
倒すとハラワタなどぶち撒いて、清掃などが大変かと心配をしていたが、その辺りは魔物であり、倒すと黒い霧となって霧散していた。
俺は後ろでどっかりと立ち、それを眺めている。
俺の仕事は霊体の排除。
物理が効きづらく、そして神出鬼没の霊体は、隊列や陣形を崩される要因になるので、俺は木刀を握り待機、そしてラティは、俺の横で【索敵】に集中していた。
「陣内サン、それじゃ切り込むね」
「あいよ、いってら」
強化魔法を鬼のように重ね掛けされた下元が、赤紫色の揺れるオーラを纏って、魔物の群れへと駆けて行く。
下元の戦闘スタイルは片手剣で軽快に切り込むタイプ。
持っている【固有能力】も優秀なのが多く、レベル上げを始めると、メキメキとその強さを発揮していた。
そして勇者加藤は、下元専属というべき支援魔法役。
彼女は、マーキングという魔法を使い、特定の個人だけに強力な強化魔法を掛けられる【固有能力】、【加愛】というモノを持っており、それを使って禍々しいオーラが滲み出るほど、下元を強化していた。
勇者加藤の使うマーキングとは、パーティを組んでいなくても、相手の位置が正確に判り、そして相手の状態も把握出来る魔法であった。
禍々しい程に強化された下元が、危なげ無く無双する。
こぼれるようにして、町に辿り着く魔物達を、陣内組と他の冒険者達が狩る。
順調な防衛戦。
「ジンナイ様、むか~~し、始めて防衛戦に参加した時に似ていますねです」
「あ~、確かにちょっと似ているかもな」
初の防衛戦では、俺とサリオは全く出番がなく、今みたいな感じであった気がする。だが、今は全く違う意味での出番の無さだが。
俺とサリオが、防衛戦を眺めながら昔を懐かしんでいると――
「アンタ、サボってんなら戦いなさいよ、拓也ばっかりに戦わせて」
「俺は後詰めみたいなモンだ、それに説明しただろその事は…」
「うっさいわね、何よっ、」
「全く‥、人の話を聞けよ‥」
俺は全く自分達の状況を理解していない勇者加藤に、とても嫌気が差していた。
だが、それはまだ甘い方だった。
「あ、陣内、この町飽きた、そろそろ別の町に移動しよう」
「へ?」
俺はこの後、下元が言っていた、勇者加藤の悪い癖を思い知ることとなった。
勇者加藤は、同じ場所に居て飽きてくると、すぐに何処か別の場所へ行きたくなる癖があったのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想やご質問など頂けましたら、幸いです。
あと、誤字脱字なども‥




