ジョー東
あらすじ!
サリオ買い戻す>其処で勇者発見>その勇者を育てろ>ついでに東いけ>東に行ったら>赤城にあった
エウロスの玄関口、アズマの街で赤城と再会する。
赤城とは、中央のルリガミンの町での、大脱走の騒動以来だ。
前に見た時よりも、かなり落ち着いた印象の赤城。
昔は、鼻につく達観めいたフリをしているような奴だったが、今の赤城はまるで、一仕事終えた後の賢者の時のような、深みのある余裕さを纏っていた。
「なんか印象変わったな赤城」
「ふっ、それなりにやってきているからね、少しは成長するさ」
纏っている雰囲気は伊達ではないと滲ませる赤城。
本当に印象が変わった赤城に、俺は素直に感心していると――
「陣内君、君も大分変わったな」
「ん?そうか?」
――おっと~ 俺ですか?
気付いちゃいましたか? 赤城もそうだろうけど、
俺もかなり修羅場くぐって来ているしな、やっぱ滲み出ちゃうよな、
俺にもわかるように、赤城にもわかるか‥前との違いが、
「なんか‥全体的に色が黒くなったな君は」
「‥‥色かよ‥」
( 物理的な変化かよ! )
俺は赤城の指摘通り、全体的に黒くなっていた、主に色が。
暗い紺色だった忍胴衣は、ららんさんの改修によってより暗い紺色に。補強として貼り付けてあった鉄板に代わり、今は巨竜の黒い鱗に。そして忍胴衣という名は、黒鱗帷子に変わっていた。
しかも改修の際に、鱗を二枚重ねで使われていた一部を剥がし、その剥がした鱗を使って面当てを作ったのだ。
ボクシングマスクをもっと薄くした形、額と後頭部、こめかみと頬を覆う形。
視界をほぼ遮らず、魔法の効果なのか付け心地も抜群な面当て、それをららんさんが作ってくれたのだ。
そして、黒い鱗から作り出したので、面当ての色は漆黒の闇色。
どういう理屈なのか、光を当てても全く光を反射せず、それが俺をより黒く見せていた。
「前の腐った革の鎧は止めたんだな、それにしても中々の一品だな」
「うるせえよ、まぁ確かにあの鎧は酷かった、この黒鱗装束とは大違いだ」
赤城との久々の再会により、俺は彼と談笑する。
すると後ろから――
「陣内、なにやってんのよ‥って、生徒会?」
「やあ加藤さん、久しぶりだね、勇者同盟を抜けて以来かな? 後ろにいる下元君も久しぶりだね」
割り込んで来た加藤に気を悪くすることなく、気さくに対応する赤城。
それとは対照的に、なんとも言えない気まずそうな顔をする加藤と下元。
「すいません赤城サン、折角入れて貰った勇者同盟をすぐ抜けてしまって‥」
「ああ、構わないよ、あの時の勇者同盟は酷かったからね、僕は何とも思っていないよ、だから下元君も気にしないでくれたまえ」
俺は赤城と下元の会話から、あの時の事件を思い出していた。
勇者同盟のメンバーが増え、それで調子に乗った赤城が中層まで行き、魔石魔物にやられて敗走した時の事を。
あの一件で、増えたメンバーがごっそりと抜けたのだった。
――あ~あの時に抜けた勇者が下元達だったのか
まぁ、抜けたくはなるよな‥、あの時はホントに酷かったし‥
俺と同じく、あの時の事を思い出しているのか、きまりが悪そうにしている赤城は、仕切り直すかのように話を振って来た。
「見たところ結構な大人数だけど、君達も東の防衛戦に参加を?」
「あ~~、ちょっと違うかな、ノトスからの援軍的な感じ? かな」
「ノトス‥なるほど、後ろの人達が例の陣内組って奴ですか」
「っう、まぁそんな名前になっているけど‥‥って、なんでそれを知ってんだ?」
赤城は伸びた前髪を右手でさっと整え、少し得意げな視線を俺に向ける。
「勿論知っているさ、ノトスでの君の活躍もね。彼から聞いているから」
「なるほど、あの情報屋ドライゼンか、アイツなら確かにその辺りの情報集めていそうだもんな、納得がいった。 で、そのドライゼンは? 久々にアイツとも話がしたいんだけど」
烏合の衆であった我らを、無事、階段へと征くプランを提供してくれた、燃える赤髪のドライゼン。
俺は彼のことが結構好きなので、久々に話をしたいと辺りを見回すが。
「ああ、ドライゼンならいま別行動をしているよ、勿論、勇者同盟の一員としてね、勇者同盟を抜けた訳じゃないよ」
赤城は勇者同盟の現状を説明してくれた。
勇者同盟は現在50名を超えており、その50名での防衛戦の参加は、大規模防衛戦でもない限り過剰戦力になるらしく、それならば勇者同盟を二つに分け、二か所の防衛戦に参加をするようにしたそうだ。
リーダーが赤城の南側組と、リーダーがドライゼンの北側組に分かれて行動しているのだと言う。それと――
「ドライゼンにはある目的が出来てな‥、だから彼はリーダーとなって動いているんだ。それでな陣内君、その時が来たらドライゼンに力を貸してやって欲しい、勇者である僕には出来ない事かもしれないから」
「うん? ドライゼンに力を貸してやって欲しい事って、勇者だと出来ない事なのか? 俺よりも勇者の方がいいんじゃないのか? それにその目的ってのも何だよ?」
俺の言葉に少し間を置いてから赤城が答える。
「うん、それは彼から直接聞いてやってくれ、僕から言うべきことじゃないからね、それにきっと陣内君にも悪い話じゃないよ」
そう言って赤城は目線を俺から外し、この話はこれで終わろうと示してくる。
そして赤城の目線を追ってみれば、周りには人だかりが出来ていた。
今、俺の周りには勇者が3人集まっている状態。
しかも、街の門を潜った近く。
それなり人の通りが多い場所であり、其処で勇者3人は目立っていたのだ。
「じゃあ僕らはこれで、もし防衛戦に参加するのなら、防衛戦でまた会うかもね」
「ああ、」
門を潜り、街を出て行く赤城の勇者同盟。
その後ろには他の冒険者達も付いていき、これから何処かに集団で向かっていくのが判った。
俺は赤城達を見送り、そして――
「んじゃ、俺達も行くか」
俺達はこの街を治めている、メークイン上級男爵の元へと向かう。
メークイン上級男爵に、俺達がノトスから派遣された援軍であること伝え、その後、メークイン上級男爵から指示を貰う予定だ。
メークイン上級男爵の居場所までは、案内を買って出た門番の後に付いていく。
勇者が二人も居ることにより、全ての対応が丁重で、何の問題もなくメークイン上級男爵に面会出来た。そして何の問題もなく進む筈だったのだが。
「おい、何で勝手に決めてんだよお前‥」
「ルイをお前呼ばわりしないでよ。それに丁度いいでしょ、沢山の魔物と戦うんでしょ? 何が問題なのよ、ねえそうでしょ拓也?」
「えっと‥、うん、そうだね瑠衣。僕もいいと思うよ、移動防衛戦で」
「この馬鹿ップル‥‥」
俺の予定では、何処かの街を拠点にして、その周囲の魔物を捜して倒し回るレベル上げの予定であった。
それであれば、自分達のペースで魔物を狩る事が可能であり、尚且つ、余計なことに巻き込まれる可能性が低いと思ったからだ。
もし、何かが寄ってきても、ラティの【心感】があれば問題無く対処出来る。
だが勇者加藤は、勝手に移動防衛戦を選んでしまったのだ。
メークイン上級男爵が提示してきた依頼は三つ。
流通を守る為に、物資の運搬を行う馬車の護衛。
一つの街や村に留まり、その周囲の魔物や、攻めて来る魔物を倒す防衛戦。
魔物の動きに合わせて、ひたすら移動を繰り返す、移動防衛戦。
基本的に、防衛戦と呼ばれるモノとは、湧いた魔物がその場に留まらず、何処かへ向かって大移動する現象に対して、その侵攻ルート上で待ち構える作戦の事を指す。
大量の魔物が、まるで巨大な川のようになって移動してくるのを撃退するのが、大規模防衛戦。
川のように纏まらずに、広く広範囲の魔物が一斉に移動するのを、侵攻ルート上の街や村で待ちかまえて撃退するのが、広範囲防衛戦。
そして、その二つを足したような魔物大移動に対して、侵攻してくる魔物の数に合わせて、移動を繰り返し撃退する防衛戦、それが移動防衛戦。
とても面倒な防衛戦であり、出来れば避けたい防衛戦であった。
これは普段であれば、此処まで魔物が湧いたりしないそうだが、勇者椎名のやらかした一件が原因で、手に負えない程に、魔物が湧きまくっている様子であり、そして勇者椎名の行動が原因だという事は、伏せられていた。
そして、その防衛戦を選んだ勇者加藤の言い分は――
「いいでしょ、色々と村とか回れるんだから、旅行の弾丸ツアーみたいで楽しそうでしょ? それに報酬も一番良いみたいだったし」
「おい下元、何とか言ってやってくれよ‥」
「えっと、瑠衣がやりたいみたいだし、僕はそれで構わないかなと‥」
「なんとも斬新な勇者様たちなのですよです」
「あの、なんと言えば良いのでしょうか‥」
俺達は瑠衣の独断により、移動防衛戦に参加することが決定した。
勇者ではない俺の発言は、貴族であるメークイン上級男爵には届かず、勇者瑠衣の発言が優先され、お守り役である俺の意志は無視された。
その後、メークイン上級男爵が用意した高級宿に泊まり、次の日には出発となった。
「あ~、この街をもうちょっと観光したかったぁ」
「瑠衣、今度また来ればいいから、もう行こう」
「観光って、お前絶対に、移動防衛戦を旅行の何かだと思ってるよな‥‥、つか、早くいくぞ、どんだけ待たせるんだよお前ら‥」
馬車と食料といったモノは陣内組が用意し、既に街の門の前まで運んであり、今は集合場所にやって来ない勇者二人を呼びに行った帰りだ。
「この勇者様たち面倒ですね~、何でジンナイ様はこんな依頼受けたんです」
「ざけんな、お前のせいだろうがっ、あの金貨120枚があれば‥‥」
俺は前回の失敗を踏まえ、サリオの頭を鷲掴みにして力を込める。
サリオからの「ぎゃぼぼー」と言うBGMを聞き流し、俺はすぐ後ろの会話に耳を傾ける。
「‥‥勇者様にも色々いるのだな‥」
「ウエスギ様は気さくで気持ちの良い人だからね、だから余計に‥」
聞こえて来たのは、陣内組のスペシオールさんとミズチさんの会話。
この二人は俺と同じく、勇者のお守り役としてアムさんから派遣されていた。
陣内組を指揮しているレプソルさんは、ノトスに残り。どんな戦闘でもそつなくこなすテイシも、戦闘の要としてノトス側に。
攻撃と回復役要員として、スペシオールさんとミズチさんは派遣されていた。
そして他の陣内組も、レベル60を超える者達で固められ、万が一でも事故がないよう配慮されている。
そんな彼らから、勇者加藤に対して、不満めいたモノが出始めていた。
しかし実際の所、言われてもおかしくない行動をしているのだから仕方ない。
――しかしまさか‥
上杉が高評価される日が来るとは、
まぁ、今の上杉は真面目に戦っているから当然なんだろうけど、
上杉が高評価な事に、『意外だな』と思いつつ、防衛場所までの道案内役の兵士に導かれ、街の外に向かおうとしていると――
「あの、申し訳ありません。トンの村方面に向かうでしょうか?」
先に馬車は門の前まで待機させていた為、門の前まで徒歩で向かっていた俺達に、村人の格好をした男が話し掛けて来た。
「何処かへ向かう冒険者様達のように見えましたので、もし向かう先が自分と同じであれば同行させて頂きたく、失礼ながらお声を掛けさせて頂きました」
話し掛けてきた男は村人のような恰好に、これまた似合う麦わら帽子姿、そして俺達の前に進んで来ると、礼儀正しく麦わら帽子を取り、帽子を胸に当てながら丁寧なお辞儀をしてくる。
「っあ」
「――ッ!?」
「あれ?です‥」
その姿に思わず声が漏れる。
丁寧なお辞儀をしてきた男は、見た目は30代ちょっと、薄い茶色の髪と髪の色に似た薄茶色の瞳。
そして昔はピンと張っていたであろう、半分から先が切り落とされた獣耳。
その切り落とされている耳の形を見て、俺はすぐに気付く。
「申し遅れました、ワタシはトンの村のウルフンと申します」
俺達の前に、耳と尻尾を切り落とされた狼人の男が立っていた。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。
それと誤字脱字のも‥