勇者シッター
短めです。
ここで区切らないとなので‥
厄介ごとを請け負うこととなった。
アムさんの言う依頼とは、勇者の護衛のようなモノであった。
本来勇者とは、魔物と戦えなければならない。
勿論、後衛役にまで、前に出て戦えというモノではないが、戦闘の支援をする立ち回りや、使える魔法を増やす為にも、しっかりとしたレベルが必要なのだ。
それを疎かにしている勇者に対しては、貴族側から何とか働きかけて、勇者達にレベル上げを行って貰うのだと言う。
これは何処にも所属してない勇者達に対しての打診であり、何処かに所属している勇者の場合は別で、その勇者を支援している貴族に、全てを一任するのだとアムさんは言う。
そして勇者加藤と下元は、召喚から一年が経過しているが、現在、二人のレベルは低いと判断して、ノトス公爵家代理のアムさんは、レベル上げを行って欲しいと勇者に進言した。
どういうやりとりがあったのかは謎だが、アムさんはその同意をもぎ取った。
レベルを上げるのであればダンジョンにぶち込むのが手っ取り早い。
だが、ダンジョンにはかなり危険を伴う。
特に今、ノトスが管理している深淵迷宮は、現在、魔石魔物狩りが他のパーティでも解禁となっており、予想外の事故が予想出来る。 そして深淵迷宮よりも、もっとカオス状態な地下迷宮も却下。
それと、勇者加藤の方がレベル30を超えていない事もあり、深淵迷宮のローカルルール的にはアウト。
勇者なのだから、その辺りは目をつぶっても良いそうだが――
「ジンナイ君、要請が来ていた、東側の援軍派遣をキミにお願いしようかと思う」
「うん? 確か‥、東で魔物が多すぎるから、落ち着くまで来て欲しいとかの件?」
俺は西のゼピュロスで聞いた話を思い出す。
東で魔物が無秩序に湧いて、その対応で追われているから、勇者を派遣してほしいと要請があり、言葉や伊吹達が東に行った件を。
「ああ、それなんだ。ノトスにも援軍を派遣して欲しいと要請が来ていてね、それをこなしながら、勇者達のレベル上げの面倒も見て欲しい、今までは断っていたのだが‥」
アムさんは、今のノトスには援軍を送れる程の力は無いと返答していたと言う。
だが、とうとう脅迫染みた圧力をかけられたのだと。それは――
「牛肉ですか?」
「ああ‥、南は、牛肉などの肉類を東に頼っているからね」
「その流通を止める‥と?」
「ハッキリとそう言っている訳ではないけどね」
――なるほど、
その辺りのやり方は何処も一緒なんだな‥
ハッキリと宣言してしまうと角が立つ。
だから、そう匂わす言葉で相手を追い詰める、ありふれたやり方。
( ノトスも大変だな‥ )
俺は素直に従う事にした。
そして、東の遠征をしながら、勇者達のレベル上げを手伝う事となった。
閑話休題
その後の行動は迅速であった。
次の日の昼には出発の準備が出来上がり、総勢20人が東を目指す。
俺、ラティ、サリオと、勇者加藤に下元。
そして陣内組から、スペシオールさんとミズチさん、それと他10名。
それと身の回りの世話役や飯担当にレイヤと他2名。
食料など物資の搬送には、勇者下元の【宝箱】に協力して貰った。
それと不安要素の一つ、北からの刺客の件は。
これだけ味方がいる状況であれば、前回みたいな、北からの刺客が居ても平気だろうと、アムさんはそう言っていた。
だが、俺個人としては、ラティの【心感】の効果で、正確に敵が見分けられるようになったのが一番大きかった。
単純な嫉妬などによる敵意などではなく、明確な、俺を狙った使命的な敵意を嗅ぎ分けられるのだから、その敵意をぶつけて来る者が居た場合は、北からの刺客と判断出来る。
【心感】を自覚してからのラティは、その精度の鋭さが増していたのだ。
そして今は、公爵家特注の馬車の中。
公爵家特注の馬車は、車輪にベアリングなどを使用してあり、他にも振動を吸収するモノなどが装備され、他の馬車よりも快適な状況。
だが、中の空気は快適ではなかった。
「全く、なんでルイが戦わないといけないのよ」
「瑠衣、一応支援して貰っていたんだから、それにこの件はもう納得しただろ?」
不機嫌さを撒き散らす加藤瑠衣。
そしてそれを宥める下元卓也。
それに付き合わされてる俺。ラティとサリオは、御者台に避難させてある。
「なあ、下元を買い戻す時に払った金貨10枚返してくれないか」
「あ、そうだったごめんね陣内君。瑠衣、金貨10枚出して、僕のも預けてあるよね、奴隷に落ちる時に」
俺は金貨10枚の事を思い出し、さっさと返して貰うべく言ったのだが。
「はぁ? もう無いわよ、使った、使いましたタクヤを買い取った後だったから、もう使っちゃいました、だからもう無いの」
「おい、何処に金貨10枚も使える暇あったんだよ、昨日から公爵家を出てなかっただろうが、今日もそのまま馬車で出発したんだし」
露骨に支払うのを渋る加藤。
最終的には、下元の説得で金貨10枚を支払ってくれた。
俺はその時の二人のやりとりから、この二人の勇者は、手持ちの金はかなりキツい事が伺い知れた。
アムさんからの要請に肯いたのも、お金の援助的なモノなのかもしれない。
俺はそう思いめぐらしつつ、早く到着しないかとため息を吐いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬車で移動する事、二日。
俺達は目的の街へと到着する。
街の規模はノトスの街の半分ほど。だが、ノトスの街よりも強固に見える、石で出来た防壁。公爵家があるノトスの街よりも立派に見える、東の玄関口と呼ばれる、アズマの街へと辿り着く。
俺達の乗って来た馬車は計4台、そのウチの一つ、俺が乗っている馬車は豪華な公爵家用の馬車、その馬車の格からか、門番達は特別な対応を取ってくれ、待たされることなく街へと入れる。
特に、勇者である下元と加藤の二人がステータスプレートを提示すると、その対応はもっと丁重なモノへと変わった。
門番達からは、『そんな先触れきてたか?』っと、慌てた声が聞こえて来ており、先触れっての出さないと拙かったのか? と思っていると――
『おい、この街に勇者様がこれで3人集まったことになるぞ』と聞こえてくる。
「あの、ご主人様‥」
「ああ、ラティ警戒を頼む、サリオもだ」
「りょうかいしてラジャです」
何故か勇者がいると聞くと、警戒をしてしまう俺達。
此方にも勇者はいるのだが、勇者が誰であるか判るまでは、警戒が解けない。
――誰だ?
東だからもしかして伊吹達か?
もしくは小山?
俺は門番からの情報で、色々と予測を立てる。
もし勇者が『これで4人集まった』っと言っていれば、ハーティのパーティを想定した。だが、今の話では3人。
一人で動いている勇者を想定する。
西にいるかもと聞いていたが、ある人物をどうしても警戒してしまう。
もしかするとこの街にいるかもしれないと。
俺がそう警戒している時に、まるでタイミングを計ったかのように――
「おや? 中央のルリガミンの町以来ですね、元気にしていましたか?」
「あ、ここにいる勇者ってお前か」
「ええ、勇者同盟を率いて街を転々としていましたよ。それで今は、東側を中心に活動しているんですよ」
俺達の前に、勇者がやってきた。
前よりも髪が伸びた為か、気障ったらしく前髪を横に流した男。
生徒会系勇者、赤城俊介が立っていた。
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誤字脱字なども‥