教育的指導
最近、感想欄が本編になりつつありますw
少しの大騒ぎが起きた。
下元が売られた切っ掛け、彼が見惚れていた女の子とは、なんとラティのことであった。
だが下元は、だからと言って何か行動を起こすことはなかった。
彼曰く、何故か不自然に惹かれてしまったのだと言う。
俺にはそれが何なのか心当たりがあり、若干申し訳ない気持ちになる。
きっと下元が惹かれたのは、【蒼狼】の中にある、【魅了】の効果だからだ。
その件があり、ラティは勇者加藤に、親の仇のように睨み付けられている。
加藤からの一方的な、一触即発の状態になったが――
「やめるんだ瑠衣、だから気のせいだって、僕はなんとも思っていない」
「だって!だって!だって! 見惚れてたじゃないのよ! あのコに」
「だから、それは気のせいだよ。陣内サン、ごめんね何か癇癪起こしちゃったみたいで、さっきかかった僕の買い取りのお金は後で払いに行くから、居場所だけ教えてください。 今は瑠衣を落ち着かせてあげたいから」
癇癪を起している瑠衣から俺達を遠ざけるべく、下元はそう提案してくる。
俺もこの女からは、一刻も早く離れたいので。
「分かった、俺の居場所は公爵家の離れだよ、名前を出せば伝わる筈だから」
「うん、分かった。じゃあ後で行――」
「っアンタが公爵家に? ちょっとルイ達を案内しなさいよ、最近お金が心もとないし、支援を受けに行ってあげる」
加藤は、『アンタを支援する物好きなんでしょ? だったらルイも』っと不思議なことを宣い、俺達に案内をさせようとする。
俺は支援を受けているのではなく、ただ雇われているだけなのだが。この勇者加藤の発言に俺は戦慄し、そして逃げ出した。
何故ならそれは、これ以上関わりたくなかったから。
俺達は問題なく勇者加藤を振り切ることに成功した。
ラティが【心感】を駆使して位置を探り、逃走自体は成功したのだが――
「あの、居場所を知られているのですから、逃げても意味が無かったのでは‥」
「ジンナイ様、コレ逆に酷くなったんじゃないですか?です」
「っく」
「『っく』、っじゃないわよ! なに逃げてんのよアンタ」
「ごめん陣内サン、瑠衣を止められなかった」
勇者加藤と、勇者下元は、普通に公爵家前までやって来た。
勇者の来訪を無下に断ることなど出来る筈もなく、一時的にだが、勇者加藤と勇者下元は、公爵家に留まることとなる。
そして俺は、迷惑勇者の相手を終えたアムさんに呼び出される。
俺を呼びに部屋へ来たのは、住み込みメイドで元村娘のレイヤ。
普段は勝気なツリ目が、今はどんよりと疲れのようなモノを帯びている。
――あ、これは加藤に会ったな、
アイツと話していると精神が削られるからな、
ってことは‥アムさんからの呼び出しって‥まさか‥
俺はアムさんからの呼び出しに当たりをつけた。
十中八九、文句であろうと。
あの迷惑勇者を、結果的に連れて来てしまったのだから。
今のノトスには、勇者を十分に支援出来る程の力は無いとアムさんは言っていた。そんな所に、二人も勇者が転がり込んで来たのだから、間違いなく迷惑をかけることとなる。
俺は必死に、何か良い言い訳が無いか考えつつ、アムさんの元へ向かった。
だが――
「ジンナイ君、あの二人の勇者をよく見つけてくれたよ、感謝する」
「へ?」
「あの二人の勇者は、此方側で探していたのだよ」
俺に文句でも言って来ると思っていたアムさんは、逆に感謝の言葉を口にした。
アムさんの説明によると、貴族に支援されていない勇者であっても、ある程度は把握するように動いているそうだ。
魔王を討伐する為に召喚したのだから、当然、戦って貰わないと困り、貴族側に所属している勇者であれば、その勇者を支援している貴族から、勇者の進捗状況が報告されるらしい。それはレベルであったり、何かの功績であったりなど。
だが、何処にも所属してない勇者の場合は、近くにいる貴族がその勇者と接触し、レベルなどの進捗状況を調べ、それを中央の城へ報告する手はずであったのだと言う。
だが、勇者加藤と下元の二人は、全く消息が掴めていなかったそうだ。
街に立ち入るのであれば、ステータスプレートの提示により、何処へ行ったのかは把握が出来るのはずなのだが、あの二人は、その痕跡が無かったのだと。
その話を聞いて、俺はある事を思い出す。
――ワザキリだ!?
あの女、WS使ってステータス偽造しやがったんだ、
【欠け者】でも装って街に入っていやがったな‥
俺は即座にソレをアムさんに報告した。
狙ってやっていたのかどうかは分からないが、何かの追跡を振り切る為に、勇者加藤達はステータスの偽造をしている疑いがあった。
俺の報告を聞いてアムさんは、『ノトスの街に勇者が入った』という報告があがっていない事に納得をする。
「なるほど、だからどの街でも補足出来なかったのか‥」
「門番はステプレで確認するだけだからな、じゃあ俺はこれで」
俺はアムさんからの用事は終わり、執務室を後にしようとしたのだが――
「え? ジンナイ君、本題がまだなんだけど?」
「へ?」
正直、俺は油断していた。
何の備えも無しに、アムさんの間合いに入ってしまっていたのだと。
「え? 何か他に‥?」
「うん、ちょっとお願いがあってね」
嫌な予感しかしない。
アムさんの表情を見るに、これは『あかんやつだ』っという思いが駆け巡る。
「具体的に言うとね、勇者のお守りをお願いしたい」
「具体的に! もっと具体的に言ってくれ! お守りとかってふわっとし過ぎだろ! っというか、全力でお断りしたい案件なんだけど」
――そうだ、全力で関わり合いたくない、
大体なんだよお守りって、なんで俺が勇者の面倒なんかを、
しかも、あの女だろ‥
「ジンナイ君、勿論、報酬も支払う」
「いや、あの勇者は面倒そうだから‥」
「そうか、出来れば頼みたかったのだが‥」
「確かに纏まったお金稼ぎたいですけど‥」
そう、俺はサリオを買い戻す為に、かなりの出費をしていた。
しかし、まだ手持ちはある程度あり、無理に依頼を受ける必要は無かったのだ。
「にしし、じんないさん結構な出費しておったのう」
「ららんさん!?」
俺とアムさんが話していると、いつの間にか、部屋にららんさんが入って来ていた。
「え、あ! ららんさんもあの競売の時、あの場所にいたのか!」
「そうや、さりおちゃんが競売にかけられるって聞いたからの、一応、もしって時はオレが落札しようと思っての」
――ああ、なるほど、
ららんさんは気に掛けてくれていたのか、
俺じゃ手が届かない程に、サリオが値上った時の為に‥
ららんさんは、裏側でこっそりと見守ってくれていた。
俺はその思いに心の中で感謝をする。
「そういや、あの競売って結構な値上がりをしておったの」
「ん?ららん、結構な値上がりとは?」
「うん、金貨120枚まで値上っておったで?」
「――ッ!? まさか、やってしまったのか‥」
「へ? アムさん?」
「いや、これは俺も想定していなかったな‥」
アムさんが競売でのルールを、俺とららんさんに説明してくれる。
奴隷商には、奴隷の価格を変える権利がある。
だが、買い取り金額よりも価格を下げるのは禁止とされている、そしてもう一つ。
奴隷を競売形式で売るのは良いのだが、元の価格の10倍が限度とされているらしい、そうしないと不当な値上がりや、サクラを使った操作された値上がりなどの、無用な混乱が起きるからだと言う。
10倍を超える場合は、競売を一度中断。
その後は、その街の領主か、中央の城からの指示を仰ぐ形になるそうだ。
その状態であれば、アムさんも介入出来るらしい。
時たま、欲を張った奴隷商が10倍を超えても、知らん顔で続行すると言う。
元から誰にも知られていないようなルールらしく、奴隷商が黙っていれば、他の者ではまず誰も気づかない違反。 滅多に起きない事らしい、10倍まで値上るなど。
そして、少しであればお目こぼしもあるが、今回は約60倍。
とても見逃せる金額ではないらしく。
「その奴隷商は、違反行為で奴隷商の権利剥奪だな」
「アムさん!? なら、金貨120枚が少しは返ってくる?」
「すまない、多分無理だ、間違いなく中央に没収という形を取られる」
「マジか‥」
「じんないさん‥」
「それに下手に騒ぎ立てると、中央に奴隷まで持って行かれる可能性もある」
「――ッ!?」
俺はそれを聞いて、金貨120枚を諦める事を選択した。
正直金貨120枚は惜しいが、いま中央に行くのだけは拙いとの判断だ。
3人で何ともいえない空気でいると、ららんさんが思い出したように口を開く。
「あ、アムさんスマンのう、話を脱線させちゃって」
「ああ、ららん別に構わないよ、丁度ジンナイ君には断られた所だったし」
「正直金は欲しいですけど、あの勇者のお守りってのは‥」
「アレ? そう言えばららん、なんでこの執務室に? 何か用事か?」
「ああ、じんないさんを探しておったんよ、頼まれていた忍胴衣出来たからの」
「いや、強奪して行ったんですよね? 強化するって‥、まあイイですけど、ららんさんの強化は頼りになりますからね、流石は悪戯のららんですよ」
『ゴッフ』っと噴き出すららんさん。
やはりららんさんもこの二つ名はキツいらしい。
だからこそ、今まで俺達に隠していたのか、彼の表情から焦りが窺える。
『にしし』の笑みではなく、少しだが狼狽えるららんさん。
俺はそのレアなららんさんを、つい弄りたくなり。
「いつも頼りにしていますよ、嗤う彫金師のららんさん♪」
「ほほ~、じんないさん、そう来ましたか、ほほ~う」
にやりと笑みを浮かべる俺、だが、ニヤリと嗤い返すららんさん。
「じんないさん、忍胴衣の強化代なんやけどな、金貨50枚でええよ」
「『ええよ』じゃないよ! ちょっと高すぎ!? いや、明らかに高いよね?」
悪魔の尾を踏んでしまった俺。
今の俺には、とても支払える金額ではない、なんとか値切ろうとしていると。
「よし、ららん。俺がその代金を立て替えようではないか」
「アムさん? いいの――ってまさか!?」
「ああ、ちょっと依頼をこなしてくれればいいから、そうすれば立て替えるよ」
アムさんは最高に良い笑顔で、俺にそう宣告してくる。
そして次に――
「ジンナイ君、お守り頼んだよ」
「ぐう、」
俺は厄介なお守りを引き受ける事となった。
そして、そのお守りの内容に肩を落とし、不安に包まれる事となったのだった。
読んで頂きありがとうございます。
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誤字脱字なのも‥




