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申告

小木曽雪菜派です

 俺は目の前の男を注意深く観察した。老人と言っても差し支えない男を。

 

 会話の内容からこの男が、この領地の主、アキイシ伯爵だと判断出来た。

 だが今もっとも気になったのは、この男の顔。

 男の顔は、宰相ギームルにそっくりだった。ただ、白髪なのと髪の長さが違うので、別人だとは判断が出来たが、とても似すぎていた。

 ギームルを更に老けさせて、髪を後ろに流し野性味のある感じにすると、目の前の男になる、そんな感じの男だったのだ。


 そしてこの男は、俺のファンだと言い出していた。

 この男の意図は読めないが、ラティが特に警戒の色を出していないので、今のところはまだ敵ではなさそうだった。

 しかもこの男は、レフト伯爵の命令で一度は敵対心を滲ませた野次馬達を、軽い茶番で鎮め、尚且つ味方にしてくれたのだ。ただ、その手法には一言言いたい事はあったが。



「一体何なんだ、いきなり仕切りだして、しかも俺のファンって‥」

「ああ、ファンだとも、しかし本当に素晴らしい攻撃の流れだったぞ、目で追えない突撃から一気に追い込み、そしてそのまま倒してしまうのだからのう‥まさに必殺(フェイタル)だったのぉ」


「――ッ!?」


 ――マジで俺の事を知ってる?

 西に来たのは最近だぞ、いくらなんでも‥



「お前さんの事はちと気になっておったのだよ、芝居とは別の件でな」

「芝居とは別で?」


( 芝居の方も気になるが、今は‥ )


「ああ、あの堅物で公明正大なアイツが、お前さんだけには違ったのだからのう、アイツがムキになって誰かを潰しに行くなど考えられんかったからのう」

 

「‥‥アイツって?」

「ギームルじゃ、宰相のギームル、ワシの弟だ」



 

 白髪の老人、アキイシ領の領主、アキイシ伯爵は俺に教えてくれた。

 アルトガル国宰相ギームルのことを。


 後ろでレフト伯爵が『ほへほへ』と、歯でも折れたのか、謎の抗議の声を上げているが、それを無視してアキイシ伯爵は語った。


 弟のギームルは、ただただ公平であり、常にこの国の行く末のみを考えている男だったと、何か行動を起こす時は、世を乱す行為を行った者を罰する時のみ。


 領地同士が争わぬように配慮し、調停も行う。

 中には何とかギームルを抱き込もうとする者もいたが、それには決して靡かず、常に中立であり公平、そしてとても有能だとアキイシ伯爵は言う。


 その弟ギームルが、ある男を排斥するような行動に出たのだと言う。

 その男は罪を犯した訳でもない。何か危険な事をしようとしている訳でもない。

 ギームルを知る者にしたら、それはとても不可解な行動だと。



 

「だから気になったのだよ、お前さんの事がな」

「おい、俺はどんだけ嫌われてんだよ‥」


「まぁ、一つだけ心当たりがあるのだがな、奴がお前さんを憎む理由を‥ワシにとっても失ったようなモノだしな、兄弟であるのじゃからのう‥」


 そう言って遠い目をするアキイシ伯爵。

 そして此処で話が一区切り付いたと分かると――


「ジンナイ! さっきの目にもとまらぬ一撃はなんだ? アレか? お前の必殺技だな? そうじゃ、名前を付けんといかんな」

「シェイクさん‥今まで話すタイミング待っていたな、」


「お! そうじゃ、制限解除穿撃リミッターオフチャージなんてどうじゃ?」

「おい!勝手に名前付けんな!」

( でもちょっとカッコいいじゃねえか )


「それとそれと、ラティ嬢よ。何故あの時、『期待』だったのじゃ?普通なら『信頼』とか言う場面じゃろう? その辺りの心境をちと教えてくれんかの、芝居の演出で必要になってくるからの」

「あの、あの、それは‥」

「ラティ、答える必要なんて無いぞ! 何を言ってもどうせ捏造すんだから」


「ジンナイよ、捏造などではないぞ、話を盛っているだけだ」

「――っ変わんねーよ! ほぼ一緒だ一緒!」



 ただひたすらに、物語を作る為の取材を行おうとするシェイク。

 俺とラティ、そしてサリオにも話を聞こうと、夢中で話しかけに来た時。


「私を無視するなあああ!」


 口の中の調子が治ったのか、先程とは違い、しっかりとした発音で声を張り上げるレフト伯爵。

 その瞳はギラついており、どう見ても良からぬ事を秘めている様子。


 俺は、制限解除穿撃リミッターオフチャージの反動でガタガタになっている脚に活をいれ、何があっても良いように木刀を構える。


 ――この状況で何か仕掛けて来るのか?

 くそ、脚と背中の痛みが全く引かない、

 もうゴーレムはいないよな? どう考えても【宝箱】のサイズ的に限界だし、



 レフト伯爵を睨みながら、俺は状況の確認を急いだ。

 まず脚は、アキレス腱は切れていないとは思うが、アキレス腱が千切れたような痛みが続き、立っているのもそろそろ限界。


 そして背の中心に感じる痛みも抜けていない。


 もう一体のゴーレムの可能性も考えたが、【宝箱】の許容量は6畳の部屋と同じぐらい、もう一体が入れるスペースは無いはず。


 

 まだ何か他に、奥の手があるのかと、油断せずに見張っていると――


「お、お前達! 私に謝罪せんか! このレフト伯爵様を殴り、前髪まで引き抜いたのだぞ! まさかただで済むと思っている訳ではないだろうな!」


 レフト伯爵は憤慨していた。

 いまだに両の肩を警備兵に掴まれ、膝立ちで取り押さえられている状態。


「伯爵だぞ! 伯爵の私にぃぃ、そこの男! 私に謝れ! 頭を地べたに擦り付けて許しを請え、そして狼人の娘を差し出さんか!」

「へ?」


 ――あれ?

 これって切り札とか奥の手があるんじゃなくて、

 まさか‥単純にブチ切れているだけか? 



 怒り荒れ狂うレフト伯爵は、ひたすらに謝罪をしろと要求し、まるで頭の中の大事な線が切れてしまったかのように騒ぎ続ける。


 俺はレフト伯爵のあまりの豹変に軽く引き、他の人はこれをどう見ているのだろうと、辺りを見渡す。


 ラティとサリオも引き気味、脚本家シェイクさんは荒れ狂うレフト伯爵は無視して、今回の目撃者である野次馬に聞き取りを開始している。


 他には勇者綾杉は、それを泣きそうな顔で見つめ、そしてアキイシ伯爵は――


「喧しいっ!」

「――っぶべら!?」


 彼は再びレフトパンチをレフト伯爵に放っていた。


「さっきからギャンギャンと吠えよって、ん? その手に持っておるのは神水(エリクサー)か、だから口の中が治って吠えておったのか」

「アキイシ伯爵よ、いくら貴方であろうと今回の件は許しませんぞ」


 神水(エリクサー)が入っていたと思われる小瓶を右手で強く握りしめ、恨めしそうにアキイシ伯爵をギラっと睨むレフト伯爵。


 そのレフト伯爵を見下ろしながら、アキイシ伯爵が口を開く。


「のうレフトよ、貴様何か勘違いをしとりゃせんか?」

「勘違いなどしてはおらん! 早く私を開放し、そして謝罪を――」


「貴様、勇者保護法に引っ掛かっているのを理解しておるのか?」



 騒ぎ立てていたレフト伯爵が固まる。


「いいか、勇者は個人が利用して良い存在ではない、魔王を倒すべく支援する存在なのだぞ? それを貴様は私物化しておったな?」

「な、な、何を根拠に、ああ、何を根拠に言っておるのだ!」


 明らかに狼狽えるレフト伯爵、そしてそれを追い込むアキイシ伯爵。


「約この一年、勇者様にはゴーレムしか扱わせていないな? レベル上げなどは全くしておらんな? 支援し抱えている勇者様を戦えない勇者にしておるのだぞ貴様は」

「っな!? 何を言う! アヤスギ様は立派に戦えますぞ! ゴーレムを操り、どの勇者よりも立派にご活躍するであろう勇者様ですぞ!」


「ほう、何処にそのゴーレムがあるんじゃ?」


 そう言ってワザとらしくキョロキョロと辺りを見渡すアキイシ伯爵。

 

「何処にも見えんがの?」

「そ、それは‥‥、今は壊れてしまって‥」


「武器が一つ壊れただけで戦えなくなるなど言語道断! これは勇者保護法の違反行為に該当する、それと西の勇者は、東へと遠征の要請が出ておった筈じゃがのぅ?」

「あ、それは‥‥えっと‥」


「確か体調不良の為、東には行けないと聞いておったが、どう見ても健康そうだが? ん?訳を申してみよ」

「いや、これは‥‥」



 言葉はしどろもどろとなり、視点は定まらず何処を見ているのか分からない状態に陥るレフト伯爵。

 そして其処で、トドメの言葉で射貫くアキイシ伯爵。


「ワシは貴様を、勇者保護法違反で中央に申告を行う」




 この言葉にレフト伯爵が目を剥き、そして意識を手放したのだった。

読んで頂きありがとう御座います

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も、



早乙女京子は、かずさっぽい外見です。

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