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レフトパンチ

どうしてこうなった、

深く考えず読んで頂けましたら‥

 目の前に立ち昇る、光る火柱。

 上空へ巻き上げられる黒い色の残骸。


 私はそれを眺め、どうしてこうなってしまったのか、まるで走馬灯でも見るかの様に思い出す。

 

 始まりは彼女との出会いだった。

 




 私には貴重な【固有能力】である、【出会】と【僥倖】が備わっていた。

 

 【出会】は、何かと遭遇出来る確率が上がる能力。

 森などに入れば、動物や魔物、それと植物など、何でも出会う可能性が高くなる、当然待っていても遭遇する。


 【僥倖】は、偶然に会える幸せ。

 骨董品屋に入れば、貴重な商品や、探していたモノに出会えるなど、何か良い事に出会える可能性が高くなる能力。


 【出会】で、数多く出会うだけでは意味が薄い、【僥倖】は、そう頻繁にあるモノではない。だがその二つを合わせると、その効果は数倍に跳ね上がった。


 貴重で珍しい品によく出会え、そして購入を繰り返していた。

 資金に多少の危虞はあったが、私は伯爵、その辺りはどうにもなり、放蕩による浪費は貴族の嗜み、経済を回す意味もあった。



 そしてある日、私は出会った。

 自分の一番のコレクションである、あのゴーレムを動かせる存在に。

 やはり自分には【出会】と【僥倖】が、しっかりと効果を発揮していると確信していた。


 恐れるモノは何も無いと。



 

 支援をする事になった勇者には、ただひたすらにゴーレムを操って貰った。

 操作が困難過ぎて、まともに動かすことが不可能だったゴーレム。だが勇者は、それをいともたやすく操り、不可能だと思っていた、歩行からの疾走までも簡単にこなしていた。


 やはり動かしてこそのゴーレムだ。



 ゴーレムを稼働させるには、大量の魔石と大地の欠片が必要だったが、私はお構いなしに買い漁った。

 一時は、魔石が格安で買える時期もあったが、北のボレアスが介入し、格安で買える時期は終わりを告げた。


 その頃からだろうか、骨董品や美術品、歴代勇者達の作品や物を大量に持ち込む者が多くなったのは。


 【出会】と【僥倖】があるのだから、それらが来るのは当たり前。私に貴重な出会いをもたらすのだから、なんら不思議はなかったのだが。


 

 それらに紛れて、偽物や贋作、【鑑定】ではチェックし切れない品が多く持ち込まれていた。

 普通の者なら、それらは全て怪しく見えるはずだが私には、【出会】と【僥倖】があるのだから、本物も多数混ざっている。



 それからは偽物を売り付けようとしてくる商人達との戦い。 

 どこから噂が立ったのか、私は金払いの良い収集家として、広く知れ渡っていた。


 日増しに多くなる、ニセモノを売り付けにくる商人。

 ほとほと困る毎日。


 そんなある日、私はある芝居を観る。

 私の領地、レフトの街で芝居をやりたいという劇団。

 

 私は内容の確認という名目で、その芝居を観ることになったが、ある二つの事が引っ掛かる。


 一つは、狼人の奴隷が主人公という、公演を認める訳にはいかない、唾棄すべき酷い内容だったという事。

 狼人が主役など、脚本家を引き裂いてやろうかと思うほど。


 次の二つ目が、亜麻色の髪に藍眼という狼人の奴隷。

 西の御伽話で聞いた、特別な狼人、そして3年前に取り逃がしたという、例の狼人と特徴が一致していた事。


 まさに【僥倖】の効果だろう。

 


 そして調べればすぐに分かる、その狼人のことが。

 南のノトス領で雇われている冒険者、ジンナイという、何処かで聞いた事がある奴の奴隷だと。


 自分の領地ではない(ノトス)では手が出せないが、私は待った、【出会】の効果を。



 それから暫くした頃、ある話がやってきた。

 ジンナイという冒険者を捕まえ、北に生きて連れて来て欲しいと。

 あまり大っぴらには出来ない依頼らしく、限られた一部の者だけに伝えられた情報だと言う、そしてそれを告げた者は、去って行く。


 これもまさに、僥倖であった。

 ゴーレムの維持や稼働費、そして領地運営の出費で、かなり財政がきつくなっていた所。そんな時に、この話である。


 もし達成が出来たのなら、資金の援助を約束してくれたのだ、あの北の大貴族であるボレアス家が。


 北の大貴族ボレアス家は領地が潤っており、もっとも金がある貴族といわれている。そこからの資金援助であれば、当面は金に困ることはなくなる。


 以前、聖女の勇者様にお願いをして、亡霊から豪邸を取り戻して売り払った金も枯渇した。そろそろ本気で危険になっていたこの時、まさに僥倖。


 歴代勇者様が残した、税の取り立て方法の一つ、ショウヒゼイを導入しても財政が改善されない状態であるレフト領を、これできっと救うことが出来ると確信していた。



 そして巨竜討伐の情報を聞き、その素材を買い付けた為に、資金が完全に詰まってしまったので、レフト領への帰り道のついでに、アキイシ領主へ、少しばかりの金の無心に寄れば、私の待っていた者達と出会え、私は自分の【固有能力】の素晴らしさを確信していた。



 はずなのに‥



「なのに、なのに何故だーー!!」

 

 何故、私のゴーレムが破壊される!?

 あの【蒼狼】(フェンリル)持ちの狼人さえいれば、私はもう二度と、偽物や粗悪品を掴まされる事が無くなるのに。

 

 あの男だって、捕らえた後は両の手を切り落とし、喉を焼き潰して声を出せないようにすれば、【蒼狼】(フェンリル)の情報が洩れることなく、北へと引き渡せたのに。


 私の望む生活が約束されていたはずなのに。


「何故、私の邪魔をするのだ! もう許さん、決して許さんぞ!」


 もう決闘など知った事か! 元々はギルドの訓練場で、罠を張り巡らした場所で闇討ちをするつもりだったのだ。

 多少の目撃者が居ようと関係ない。私は貴族なのだ、平民は私に従っておれば良いのだ、それに此方には勇者がいる、正義は我にあり。

  

「お前達、あの男を狙え! もう瀕死だ、やってしまえぇ!」

「は、はいレフト様、魔法で狙え!」

「火系魔法”ファイボ”!」

「土系魔法”ストキャン”!」


 瀕死の男に向かって、トドメとなる魔法が飛んで行く。 が――

  

WSウエポンスキル”シルファン”!」


 亜麻色の閃光が、まるで獣の牙を連想させる、上下に切り裂くWSウエポンスキルで魔法を切り裂き撃墜する。


「はあああああ!?」


「させません、ご主人様はわたしが守ります」

「ジンナイ様、早く付加魔法品アクセサリーを付けてくださいです」

「ああ、わりぃ」


 何故だ何故邪魔をするっ! お前は私に飼われていれば良いモノを。

 ええいっ!もうこうなれば‥

 

「民衆達よ、この者達は犯罪者なのだ、私達は勇者アヤスギ様と共に、この者達を捕らえに来ているのだ、さあ!私に協力をするのだ」


 おお! このアキイシの街の衛兵達も来たな。

 ならば――


「おお、アキイシの衛兵達よ、この私に協力してくれないか! その者達を――」

「ワシの街の衛兵を勝手に使わんで貰おうか、レフトよ」


「あ、いや‥これはこれは、アキイシ伯爵殿」


 まさか領主まで!?

 くそ、やはり騒ぎが大きすぎたか、それに時間もかけ過ぎたか‥

 だが今は。


「アキイシ殿、是非、ご協力を願いたいのだが――」

「っ断る!」


「ふへ?」

「これは決闘だったのだろう? 報告は受けておるし、観戦もしておったぞ」


 んな!? 見ていた?

 何処からだ? 何時からこれを見ていたんだ!? まさか‥‥


「確か、顔を一発と、その鬱陶しい前髪を賭けておったのう」

「っそ、それは‥‥なんと申しますか、言葉の綾と申しますか、これは違うのです! 奴らは大罪人であり、私は勇者アヤスギ様と共に捕らえる為にですねっ」


「ほう、あの狼人の娘も罪人であると? ならば処刑せねばならんのか?」

「い、いえ、あの者は私が保護しなくてはならないので、処刑などはっ」


 ここに来て【蒼狼】(フェンリル)持ちを殺されて堪るか!

 男の方は諦めがつく、だが、この【蒼狼】(フェンリル)持ちだけはなんとしてでも‥


「おや? おかしいのうレフトよ、貴様は亜麻色の狼人を得ようとして、その決闘に敗北したのではなかったか? そこの男、”狼人売りの奴隷商”に」

「はへ? 狼人売りの奴隷商?」


 何処かで聞いた事がある。

 何処だ?何処で聞いた、何処で‥‥あ!


「この場に居合わせた者達は幸運だのう、まさか”狼人売りの奴隷商”の続編ともいえる場面に居合わせたのだからな、どうじゃシェイクよ? この場面は芝居に出来そうか?」

「ええ、勿論ですよアキイシ伯爵様。 とうとうワタクシも立ち会えましたよ、この3人組の活躍の場に、これは良い物語が書けそうです」


「「「「「おおおおおおおお」」」」」」」


 シェイク? シェイクとは、あの脚本家のシェイク?

 アキイシ家お抱えの脚本家シェイクか!



「おいおいおい! あの三人組なのかよ!?」

「あー! 本当に亜麻色の髪なんだ、それに紅の外套も‥」

「あのちっこいのが例の幼女か? 芝居よりも小さいな」

「あれがラフラティナか、本当に別嬪さんだ‥これが金貨千枚か‥」

「目つきがヤバいな、芝居は大袈裟だと思ったが誇張じゃなかったのか」

「これも芝居になるのかな? シェイクもいるし、私も出ちゃうのかな?」

「アンタ、なんでただの野次馬が‥」

「ちょ?ちょっと【鑑定】してみなって! 凄いから本当にっ」



「な、なんだこれは!? 何故ここまで騒ぐ!?」

「ふん、貴様の所では公演してないそうだな、まぁ、お陰でウチが多めに公演を出来るようになったがな、それに貴様の所から観に来る者が多くて街が潤うわい」


 観に来る?潤う?

 まさか、この街に来る者が増えたとでも?一体どういう‥


「さてそろそろ幕引きじゃな、おい男! 動けんお前さんに代わってワシがこやつをぶん殴ってやろう」


「待て! 勝手なことをすんな――っぐぅぅうっ」

「ッご主人様! この薬品ポーションをっ」

「ジンナイ様! グビグビ飲んじゃってですよです!」


「さて待たせたな、まずは顔面に一発だったな、お前達、押さえ付けろ」

「ま、待たれよアキイシ伯爵! な? お前達は何故私を取り押さえる!? 私を誰だと思っておるのだ! 私は誇り高きレフトは――ッガフ!?」

  

 な、殴られた?この私が?

 ――ッ!? この口の中の痛みと、異物感の感触は‥


「ひゃ、ひゃがほれた(歯が折れた)?」

「おっと、手加減して左で殴ってやったんだがな、まあいいだろう、あの男や狼人の娘が殴ったら間違いなく貴様では死んでしまうからな、代わってやったワシに感謝するのだぞ?」


 何を感謝しろと?

 ふざけおって、許せん、これは許せんぞ――

 大体、その小さい後衛が殴れば良いではないか! くそ、歯が‥


「おっと、次はその鬱陶しい前髪が残っておったな‥」

「ふえっ!? ほれいひょうなぃを(これ以上なにを)?」

「待ておっさん! それはラティにやらせろ。ラティ、親の仇討ちにもならないけど、アイツも要因の一人だ、狩って来い前髪を」

「あの‥、はい、ご主人様。狩って参ります」


まへぇ(待て)!」


 何だ!何だ何だこの狼人は!?

 抜け落ちたような無表情なのに、寒気がする、狩られる、誰か助けッ――


 ――ッブブッチィッ――


「あがああああああああああああああああああ!?」 


 額が熱い!熱い熱い!焼けるようだ!

 熱さが引かない!?それなのに何故冷たさも感じる!?あああ、痛みも湧き上がってくるっ、ぐあああああ、痛い痛い痛い痛い、どうなったんだ私の前髪は!?


あへ(あれ)?」


 おい狼人! その手に持っている金色の束はまさか‥


かえへ(返せ)、なああ!?」


 何故捨てる! しかも汚いモノでも払うようにっ

 ああ、私の髪が、貴族の嗜みの前髪が、


 許さんぞ、許さんぞおおお!

 アキイシ!此方を見ろ! そして私に謝罪をせんか!何故その男の方を‥


ふぉい(おい)


「ジンナイと申したな、お前は」

「あんたは、ギームル?じゃないよな‥それにシェイクさんと知り合い?」


 無視をするな! 何を呑気に話しておるんだ! 私への謝罪が先だろうがっ。


「んん? ワシはお前さんのファンだよ」

「へ?ファン?」



 無視しおって、許さん許さんぞ、この二人は絶対に許さんぞ!


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ感想やご指摘など頂けましたら、嬉しいです。


あと、誤字脱字なども‥


勢いで書き過ぎた、

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