追い出される
体に酷く気だるさが残る朝。
寝ぼけた頭で今日の予定を思い出しながら、その後の予定も考える。
――今日は城下町に馬車で帰って、
サリオに会ってから、依頼の報酬貰ってから、あれ?
後はどうしようかな、、予定は特に無しか、またこっちに戻って、
そんな事を考えながら目を覚ましていく。
頭の中もハッキリしてくると、ある違和感に気が付いた。
腰の辺りがじんわりと温かい。
そこで昨日の事を思い出す。
俺は昨日、腰を痛めてしまっていた事を。
腰の治療には。
冷やすだけではなく、温める方法もあると聞いたことがある。
だからきっと、腰を温めているのだろう。
だが、どうやって温めてるのだろうか?どうやって‥‥。
「おおおおおおおおおおおおお」
「あ、おはようございますご主人様」
ラティが俺の腰に柔らかくしがみ付いていた。
そして起きると何事もなかった様に、起床し、そのまま旅の支度を始めた。
「ラティ、おはよう、えっと、一晩?」
俺は何が一晩なのか自分でもわからずに訊ねる。
「はい、ご主人様が寝られた後に、腰の辺りを辛そうにしておりましたので」
「ああ、ありがとう、うん」
色々と聞きたいこともあったが、何故か聞き難いので止めておく。
( きゃーラティの顔がちょっと見れない、 )
そんな俺の葛藤も知らずに、ラティは俺の分の支度も済ませ。
食堂に朝食に行こうと、赤い顔をして無言で伝えてくる。
( もしかしてラティも照れているのか )
「ああ、朝食を食べてから、馬車で城下町に行こうか」
「はい、ご主人様、それと出来れば人目に付かずに‥‥」
ラティが何を言いたいか最初は分からなかった。
だが、朝食を食べて外に出たら理解出来た。
周りからの視線が、今まで以上に厳しいモノになっていたのだ。
昨日、亮二から聞いてはいたが、ここまで酷いとは、予想外だった。
「ラティ急ごうか、ちょっと肩を貸して欲しい」
「はい、急ぎましょうご主人様」
ラティに肩を借りて馬車乗り場に向かう。
ラティ肩を借りた瞬間に、また別の種類も混じった視線を貰う。
これはしばらく【ルリガミンの町】には来ない方が良さそうだ。
ラティに肩を借りながらやっとこさ馬車乗り場に辿り着く。
しかし、そこで俺を待ち構えるように待っている奴がいた。不機嫌な顔を俺に見せつけるように上杉が立って居たのだ。
「おう、陣内ちょっとマジな話がある」
「腰が痛いから一昨日でいいか?」
面倒なので、このまま馬車に乗ってバックレようと思っていたが、もう一人の勇者が話しに割って入ってきた。
「陣内陽一君だっけ、生徒会の赤城俊介だ、君に伝えないといけない事が出来てここに来たんだ」
「俺もコイツと同じ用件だ、陣内マジで話を聞けよ」
俺は二人に止められ、仕方なく話を聞くことになった。
ラティにはあまり聞かれたくないのか、離れて三人だけでの会話だった。
話の内容を自分的に解釈するとこうだ。
現在の冒険者のレベルは。
勇者と一緒に組んでいる者とそうで無い者では差が明確に出来てきた。
勇者と一緒に冒険者を”勇者の仲間”と呼ぶらしい。
そして勇者の仲間になれば、誰でも高レベルになれる。
だが、ただ高レベルの冒険者よりも。
元から強い奴や、有効な【固有能力】持ちを高レベルに育てるべきだと。
みんなはそれに賛同したそうだ。
それで、ラティは優秀だから勇者の元で育てるべき。
っと、難しい言葉をつかって説明してきた。
「で、それでラティを寄越せと?」
「ああ、端的に言うとそうだね」
「陣内。だから彼女を解放しろよ」
「上杉君、そうやって上から言うと話がこじれるだろう」
「ああ、わかったよ、お前に全部任せるよ」
上杉は赤城に言われ、意外と素直に後ろに下がった。
そして赤城は、両手を広げ芝居がかったように、俺を懐柔しようと言葉を続ける。
「この世界を助ける為には、ある程度の厳選しないとダメだと思うんだ、ただ単に誰かを強くするのではなく、強くするべきを強くするのが必要だと思うんだよ」
たぶんコイツは、自分の言ってることは。
”間違っていない事を言ってる”だから正しいと、そう思っているのだろう。
顔が、如何にも自分は正しいって顔をしている。
これだから生徒会は、まだ感情でものを言ってる上杉の方がいい。
間違っていないから、正しい訳でもない。
正しいとは、沢山あるのだ。例えば感情論での正しいとかも。
だから俺はその感情論で答えを返す。
「え?やだよ」
「陣内!話を聞いていたのかよ、ボクは協力しろって言ってるんだよ!」
「もう、君付けは無しかよ、取り敢えずヤダから」
激怒する赤城、こちらに掴み掛かる勢いだ、沸点が低すぎる。
すると、離れていたはずのラティが、後ろに来ていた。
ラティは、心底面倒そうな表情をしており、話の内容を理解している様子で。
赤城をバッサリと言葉で断ち切る。
「昨日もその件は、お断りしました」
そう一言短く言い放ち、俺には『馬車が出発します』と伝えてきた。
俺はそのまま、赤城を無視する形で、馬車乗り場に向かった。
その後ろでは、上杉と赤城は苦虫を噛み潰したような表情で睨んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は腰の痛みを我慢しつつ、馬車に揺られていた。
現在は腰の痛みを我慢しつつ、ラティに昨日の話を聞いている。
「亮二の奴、何もなかったって言ってたのに」
「もしかしたら、見ていなかったのかも知れませんねぇ」
「赤城、えっと背の小さい方と昨日話をしてたのか?」
「はい、討伐後に話があると言われまして」
俺は昨日のクモ討伐後のことが気になり、ラティに聞いてみた。
どうにもあの討伐後に、状況がかなり変わってきている気がするのだ。
「あの、先程の方達には、わたしに勇者パーティの何処かに入って欲しいと」
「ほうほう」
「なんでもこれからは強い人材が欲しいと」
「人材と来ましたか」
「でも、ご主人様の方が良いですと返事しました」
「お、おう」
( これはラティさんデレ期に入ったか? )
「あの人達は、戦闘がお粗末過ぎまして、ちょっと‥‥」
「うん?どうゆこと?」
そこから意外にもラティの愚痴が始まった。
ラティがいくら動いてチャンスを作っても、隙を突いた攻撃はしない。
ただ単にWSを撃つだけ。
目の前の魔物にWSだけ放つだけで、時に邪魔であったと。
攻撃も基本避けずに回復魔法任せ。
一緒に戦っても連携など気にしないで、そんな人達ばかりだと。
そんな人達に、自分からパーティを組むつもりは無いと。
「そっか、ラティも苦労してたのか」
( デレ期じゃなかったー )
「はい、ご主人様 苦労しました」
俺はそのままラティの頭を撫でて苦労を労わってやった。
そしてラティは、俺の腰の痛みを和らげようと、腰に手を当てて温めてくれた。
閑話休題
馬車で城下町に帰ってからすぐにサリオに渡された住所に向かった。
着いた場所は、二階建ての建物で。
一階が鍛冶屋の営業をしている建物だった。
その建物の二階の階段から、丁度サリオが降りてくるところだった。
「サリオ、報酬受け取りに来たぞ~」
「あのぅ‥‥ごめんなさいです」
サリオは泣き腫らした目をしていた。
よく見れば少し大きめの荷物を抱え、何処かに行く格好であった。
ただ、何処かに旅行すると言った雰囲気ではなかった。
しかも、報酬の話を聞くと、お渡し出来なくなったと言われた。
サリオが泣きながら語る、その理由は。
剣の素材を取って来いとは、サリオを追い出す為の口実作りだったのだ。
サリオに無理難題を押し付けて。
そして達成出来ない事を口実にして、追い出す予定だったのだと。
最初は保護者としてサリオを引き取ったが。
何かしらの理由で、保護者を止めることにしたらしい。
ハーフエルフの彼女は保護者無しでは、この街に住めない。
彼女にとっては、ほぼ死刑宣告のようなものだった。
村と街に入らずに生活をしていくのは、ほぼ不可能なのだ。
まだ異世界生活が浅い、俺でも解る事だった、
そして、サリオは保護者抜けられてしまったのだ。
「サリオ、引き取ってくれた場所ってのは、この鍛冶屋か?」
「はぃ‥‥」
「ラティここでサリオと待っててくれ」
「はい、ご主人様」
納得いかない俺は、鍛冶屋に話を聞きに、乗り込んだ。
あまりに理不尽過ぎるからだ。
――納得など出来るか!
ハーフエルフだからって、っくそ、歴代勇者共め、
「すいません、いますかー?」
「あい?何か注文か?」
出て来たのは50代位の髭親父だった。
人相は分かり易い悪人顔、サングラスとかが似合いそうな顔だ。
「ちょっとサリオの件でお聞きしたいのですが、あと糸の報酬も」
「っち、何だよ、来やがったのかよ、報酬は俺が依頼したわけじゃねーから」
この男は、報酬すらもサリオに払わせるつもりだった。
カチンとキタ。俺は年上を敬うことなく悪態をついて、話し続ける。
「なぁアンタさ、何でサリオの保護者を辞めたんだよ」
「あん?」
「今まで保護者やってたんだろ?何でいきなり辞めたんだよ」
「はぁ、アレは育ったら奴隷にでも売り飛ばすつもりだったんだよ」
「っな!売り飛ばすって、」
「それなのに、全く育ちゃしねえし、」
そして髭親父は、もっと下衆なことを語りだす。
「一応エルフの血が入ってるなら見た目も良くなるだろうし、性奴隷としてならそれなりに売れると思ったんだがな、仕事も出来なければ、奴隷としても役立たねぇ」
「‥‥‥」
「危ない橋を渡って、奴隷として売る程の価値も無いし」
「そうか、わかったよクズ邪魔したな」
「―――ッテメ!!」
鍛冶屋の親父が何か叫んでいたが、俺は聞かずに鍛冶屋を出た。
ぶん殴ろうかと思ったが、殴ってどうにかなるモノでは無いので自重した。
それよりもサリオをどうするかだ。
「サリオ、事情は一応聞いてきたよ」
「はいです」
ラティは黙って見つめている。
そして俺はサリオにある事の確認をしてみる。
「サリオ、保護者って俺になれるモノか?」
「ぎゃうぅ、多分無理です、国からの許可がいるので」
「やっぱりそうか、あと一個提案があるんだけど、聞くか?」
「‥‥はぃ」
さっきの鍛冶屋の髭親父との会話で、俺が思いついた方法。
思い付いたのは、あまり良くない方法だが。
このままサリオを、野垂れ死にさせるのはあまりに可哀想だ。
だから俺は提案をする。
「サリオ、俺の奴隷になってみないか?」
「ぎゃぼ!?」
その時サリオは固まり。
ラティは予想が付いていたらしく、小さいため息をついた。
そして。
「お客様、今回だけですからね。本来は違反に近いのですから」
「助かりますオーレさん」
「がぉーん!とうとう奴隷に堕ちたのです、堕ちたハーフエルフなのです」
「一応金貨2枚も必要経費かかってんだぞ、このイカっぱら」
「また言ったー!乙女に言ってはならないベスト3に入るワードをです」
俺は奴隷商のオーレに頼み込み。
赤首輪奴隷としてサリオを売り、その後に買い戻して、俺の奴隷にしたのだ。
一応、サリオ本人の意思と言うことで、奴隷として売れたのだ。
「ホントに今回だけですからねお客様」
「ありがとうオーレさん」
「新人のサリオです!よろしくお願いします先輩」
「あの、よろしくお願いしますねサリオさん」
意外と余裕そうなサリオだった。案外タフだ。
サリオは自身の着替え等は持っていたので、その辺りは楽だった。
しかし、戻った宿屋では、ちょっと問題があった
「奴隷に部屋は貸せないから、三人部屋に移ってもらうよ」
「はい、」
「ぎゃぼうぅ、男の人と同じ部屋ですか!食べられてしまうのですかあたしは」
「ジンナイさん奴隷の追加ですか?困りますよ、仕方ないからラティさんはここに置いていってくださいね」
サリオの問題のある発言と、ルードのわけ分からない要求。
それに対して俺も言い返す。
「サリオ、俺にロリコン趣味は無い!それとルードの覗きには気をつけろ」
「ぎゃぼー!21才なのにロリコンって、なんですかねぇ?です」
「ごめん、僕にはイカっ腹を覗く趣味はないよ?」
「――――――――――!!」
こうして騒がしいパーティメンバーが一人増えた
そして後日。
俺は忌避されるハーフエルフを奴隷に追加した事で。
また一つ、俺の悪い噂話が追加された。
読んでいただきありがとうございますー