激戦ゲートブリッジ前
俺達はアキイシの街を疾走する、追手を振り切らない速度で。
いつでも振り切る事は出来た。
だが今は、ある目的の為に速度を緩め、誘導しながら目的の場所へ向かう。
途中、追われている俺達を盗人か何かと勘違いをし、正義感に駆られ、俺達を捕まえようとしてくる通行人もいたが、先行して走っているラティに鎧袖一触、すれ違いの一瞬で地面へと寝かされていった。
今までは無意識で使用していた【全駆】、それをしっかりと意識し、【全駆】を使用するラティは、今までの動きよりもキレが冴えわたっていた。
途中では、相手の膝の上や肩でステップを踏むという離れ技も披露し、妨害をしてくる通行人達を無力化しつつ、俺達は巨大な橋の前に辿り着く。
「よし、此処で迎え撃つぞ!」
「はい、ご主人様」
「らじゃです」
俺達は走るのを止め、橋を背にして追手の到着を待つ。
「貴様等! 何故逃げる!」
「追いついたぞ、早くレフト様にご報告を」
「アヤスギ様もすぐに来ます、このままアイツ等の足止めだ」
「動くなお前達」
追いついた兵士らしき者達は、すぐに此方に飛び込んでは来ずに、俺達を逃がさぬよう牽制をしつつ、ジリジリと距離を詰め、一足で飛び込める位置で此方の様子を窺う。
その様子を見た俺は――
「あ~~待て待て、これ以上逃げないから安心しろ?」
「は? 貴様何を言って‥」
「お前らが突然逃げ出したのだろうがっ!」
俺の言葉に喧嘩腰な返答を返す男達、そして暫くの間、その兵士らしき男達と会話にならない会話を続けていると。
「はぁはぁ、やっと追いついたぞ‥はぁはぁ‥」
「じ、陣内、この最下位野郎が、アンタなに逃げ出してんのよっ!」
護衛を引き連れ、レフト伯爵と勇者綾杉がようやくやって来る。
レフト伯爵は普段から運動をしていないのか、かなり息が上がっている様子。
「はぁはぁ、さあギルドにハァ、行くぞ、はぁハァ‥」
「‥ギルドには行かねえよ」
「っな!? まさか神聖なる決闘から逃げ出すつもりか!」
「あ~~違う違う、ここで決闘をしようって事だよ」
「んな!? そんな馬鹿な事がっ――」
「受けないなら俺達はこのまま逃げるぜ? 橋を渡って魔法で足止めでもすれば、余裕で振り切れるだろうしな。それとこっちには移動支援魔法使える奴もいるんだぜ? これの意味が分かるよな?」
これはハッタリと駆け引き。
サリオはハーティやレプソルさんのように移動補助魔法など使えない、だが彼女は見るからに後衛役の格好、そこで俺が自信満々にそう宣言をすれば。
「ぐうっ、貴様等、まさか読んでいたとでもいうのか‥」
――おいおい、言葉が漏れてんぞ、
やっぱ何かしらを仕掛けてやがったな、
なんでこの異世界は、呼び出しイコール罠なんだよ‥
まぁ一番の呼び出しでの罠は、勇者召喚だけどな‥‥
俺とレフト伯爵が決闘場所での駆け引きをしていると、それを横で見ていた綾杉が、俺達の会話に割り込んできた。
「レフト様、もうココでイイからやっちゃいましょう! こんな最下位野郎なんて、あたしぃ達の敵じゃないですよ~」
「アヤスギ様‥‥、そうですな、我らの敵ではないですな」
綾杉の一言に大きく肯き、レフト伯爵はこの場で決闘を開始することを決める、街の大動脈ともいえる巨大な橋の前、大勢の野次馬達がいる中、俺達は決闘を開始する。
だが戦う前にやることが一つ。
「おい、この決闘に賭けるモノは覚えているよな?」
「ああ、覚えているとも、その狼人とお前の身柄だ!」
「‥‥保護じゃねえのかよ、まぁいいや、それとこっちが勝ったら俺達を諦めて貰うのと、一発ぶん殴ってから前髪の引っこ抜きだからな」
俺はわざと声を張り上げ、周りの連中にもしっかりと聞こえるようにして、勝敗後の確認を行う。
当然、俺の確認を聞いた野次馬達から驚きの声が上がる。
ほとんどの者が、これから行われる決闘に期待を膨らませている様子。
「さっさと始めようぜ、で、どいつが俺達の相手だ? まさかそこの勇者さんじゃねえだろうな、レベル上げをサボっているみたいだけど?」
「ふんっ、これだから最下位野郎は、レベルだけで決めつけてんじゃないわよ、あたしぃ達のパナイ強さを見せてやるわ! ――っはぁぁぁぁ!」
謎の気合いと共に、手を地面に付ける綾杉。
彼女の周りが光に包まれ、まるでスポットライトを複数当てているかのような状態、もしスモークでも焚いていれば、どこぞのコンサートのような光景。
そして――
「出でよ! 超近接戦闘人形ドルアーガ・ザ・バトラー!」
「「「「「おおおおおおおおおおおお!?」」」」」」」」」」
湧き上がる歓声の中、黒い一体の人型が姿を現した。
「どう? この子がアンタ達の相手よ」
「ちょ!?これってまさか‥」
「細い黒いイワオトコ‥?」
「ぎゃぼう、まさかの魔物ですかです?」
「ふははははは、これは魔物ではないよ、これは歴代勇者の遺した作品だ!」
楽しくて愉しくて堪らない、そんな表現しか当て嵌まらない感じで高笑いし続けるレフト伯爵。 その奇行に周りの目を集める中、俺は――
――絶対に作っている奴がいると思ったよ、
中二病で、もし作れる能力がある奴がいたら絶対に作ると思ってたぜ、
”ゴーレム”をよ、
俺は昔、魔物のイワオトコを見た時、ゴーレムっぽいという感想を持った。
そしてそれと同時に、誰かゴーレムを作っただろうな、とも。
「ああ、確かにこれは一体、3の戦いだな」
「その通りだよ、約束通り一体だけだよ此方は」
「どう? あたしぃのゴーレム召喚は、カッコいいでしょ?」
「何が召喚だよ、ただ単に【宝箱】から、それとなく出しただけだろ」
「ジンナイ様、あの光ってただの生活魔法”アカリ”ですよです」
空気を読まず、ネタを暴露する俺とサリオ。
ネタばらしに腹を立てたのか、勇者綾杉は。
「いけ!ドルアーガ!」
いつの間に用意したのか、何処かの店からテーブルを持ち出し、そしてその上に立ち、金の輪っかのようなモノを頭にはめて、ゴーレムに指示を出す。
『――ガピッ』
ドルアーガと呼ばれた二本足で4本腕の人型ゴーレム。
3メートルを超える身長、印象としてはスッキリと痩せたイワオトコ。
その見た目は完全に、元の世界で見たアニメのロボ兵器。
ただ、装甲というべきか、その表面は黒色、線のようになった凹凸の部分は赤。
黒と赤で統一された禍々しいカラーリング。
そして俺達が特に注目したのは――
「あの黒色って、まさか‥」
「最近どっかで見た事がある黒色なのですよです」
「あの、あれはきっと‥」
俺達の目の前に、3メートルを超える巨体とは思えない程、軽やかに躍り出る黒と赤色のゴーレム。
そのゴーレムが目の前に来たことで確信する。
「あの装甲は、巨竜の鱗か」
竜の巣で、数多の攻撃を弾いた鱗。
結局のところ、あの鱗をまともに貫けたのは伊吹の新WSのみ。その鱗を装甲にしたゴーレムが俺達の目の前に立ち塞がったのだ。
――まじぃ!これは拙い、
くっそやられた! だから一体なのか、
この決闘じゃあ操っている綾杉を狙えないっ!
これは想定外であった。
あいつ等に負ける事はない、そう思っていたが、このゴーレムはマズイと直感した。俺達の前に躍り出た時の動き、あの動きは中々良い動きであった。
イワオトコ以上の装甲に、イワオトコよりも訓練された動作。
ある程度の修羅場を潜っていれば解る。このゴーレムは強敵であると、このゴーレムの存在が、レフト伯爵の過剰とも思えた自信の源であると。
「ふはははははは! どうだねこの美しい姿! 力強さを感じさせる4本の腕、そして全てを通さぬこの黒き装甲、少々高く付いたが良い買い物をしたよ」
ゴーレムと対峙する俺達。
攻めに出ない俺達に、怖気づいたのかと気を良くしたレフト伯爵は、聞いてもいないのにベラベラと、そのゴーレムの自慢話を語り始める。
5代目勇者が作り上げたというゴーレム。
多額な買い取り額で購入したゴーレムだが、操縦者の意志で動くゴーレムは、それはそれは動かすのが大変だったらしい。
人の意志で動くといっても、自身の身体なら神経や慣れ、それに頭の中で特に意識しなくとも動かせるが、ゴーレムの場合はしっかりと意識しなくては、指の一本も動かせなかったらしい。
しかも指の一本を動かすことに意識を割くと、今度は他の場所が意識出来ず、上手く動かせない。
要は操縦が複雑過ぎて、通常の人間には操縦が出来ない、欠陥品だったと言うのだが、此処で奇跡的な出会いがあったのだと恍惚に語る。
それは――
「そう、あたしぃよ! このあたしぃには高速思考の【固有能力】である【速考】と、並列思考の【並列】があったのよ」
『まさにこのコは、あたしぃの為に存在しているの』っと、そう自慢げに少し大きめの胸を張る勇者綾杉。
俺は黙ってレフト伯爵の自慢話に耐えていた、少しでも情報を得る為に。
――っく、思ったより厄介そうだな、
しかも高速思考と並列思考だと、定番のチートじゃねえかよ!
アイツ、馬鹿そうに見えて、持っている【固有能力】は知的系かよ、
だけど確かにこれなら、レベルとか関係ないな‥
俺は軽い失態を犯していた。
ラティが綾杉を【鑑定】した時、あまりのレベルの低さに驚き、その後しっかりと綾杉の【固有能力】をチェックしていなかった。
俺は集めた情報から突破口を模索する。
負ける相手とは思わないが、楽に勝てる相手でもない。
本来であれば、操縦者である綾杉を狙えば簡単に倒せる相手だが、今回の1対3の決闘方法ではそれは出来ない。
此処で綾杉を狙おうモノなら、それは反則負けとなる。
もしそれを実行するのなら、それは最終手段。
「じゃあ行くわよ最下位野郎っ!」
「チィッ」
3メートルを超える巨体が、見た目からは想像出来ない速度で襲いかかって来る。
『――ッガガッピ』
「っはぁ!」
ラティいつものように前に出て、囮役をこなしつつ攻撃も加える。
だが――
――ギィィイ――
「っく! 弾かれます」
「ラティ!」
「あたしも援護するです!”炎の斧”!」
サリオの放つ炎の斧。
イワオトコすらもバターのように切り裂く一撃が、いともたやすく弾かれる。
「がぉーん! やっぱり弾かれたのですよです」
「だろうな‥」
「そんなへっぽこな炎が、このコに効く訳ないでしょうが!」
『ホラホラホラー!』っと掛け声を上げながらゴーレムを操作する綾杉。
4本の腕が、振り下ろし薙ぎ払い、そして掴み掛って来る。
まさに猛ラッシュだが。
「ッはぁぁ!」
ラティはその全てを回避し切る。
地を蹴り空を翔け、時にはゴーレムの剛腕により破壊されて舞い上がった石畳までも足場にして、彼女は舞うようにして全ての攻撃を回避する。
「何よ! このちょこまかと! この!このこの!」
「あああああ!? 待ってくださいアヤスギ様! 殺さないように、その狼人は使うのですから殺さないようにっ」
レフト伯爵の懇願に、一瞬、動きが止まるゴーレム。
その刹那――
「WS”フラブレ”!”スピイン”!」
片手剣WSから短剣WSへの”繋ぎ”を使った”重ね”を、ゴーレムの左脚の付け根に突き刺すラティ。
今まではその”重ね”でも、黒い鱗は突破出来なかったが。
――ザクッ!!――
足の稼働部分の為か、僅かに薄くなっている場所へ、彼女の母の形見、魔剣ミイユが深々と突き刺さる。
一瞬だが訪れた勝機、俺はそこで切り札を切る。
「サリオ! 加速の魔法よこせ!」
「らじゃです! 風系支援魔法”ヘイストゥ”!」
薄いピンク色の風を身に纏い、俺は一気に駆け出す。
己の【加速】と、魔法による加速の二重加速、俺の危険な切り札。
狙う先は、ラティがたった今削った左脚の付け根、其処に目がけて俺は弾丸のように突き進み。
弾かれる。
「――っぐは!?」
「ご主人様!!」
「ジンナイ様!」
「甘いっつ~~の、まあちょっと焦っちゃたけどね」
飛び出した俺に勇者綾杉は、高速思考の恩恵か俺の動きに反応し、カウンターとなる掌底を放って来た。左側の2本の腕を使い、手の平で掬い上げるようにして俺を叩く。
今までに味わった事のない衝撃。
喰らう瞬間に、身体の全身を使って受け身を取るよう試みたが、元々が全力で突っ込んだ身、ダンプカーにでも轢かれたら、きっとこんな感じで吹き飛ぶのだろうという形で吹き飛び、そして俺は地面に叩きつけられる。
身体が砕け散ったかのような激痛。
レベルが上がったことによる身体強化と、巨竜の喉の鱗で作られた忍胴衣のお陰で、なんとか辛うじて息がある状態。
激痛で思考の全てが塗り潰されていく中、レフト伯爵の声が響く。
「さあ、負けを認めて貰いましょうかね? 保護対象者達よ」
レフト伯爵が俺達に、負けを認めろと要求をしてくるのであった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども、