表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/690

激戦ゲートブリッジ前

 俺達はアキイシの街を疾走する、追手を振り切らない速度で。


 いつでも振り切る事は出来た。

 だが今は、ある目的の為に速度を緩め、誘導しながら目的の場所へ向かう。


 途中、追われている俺達を盗人か何かと勘違いをし、正義感に駆られ、俺達を捕まえようとしてくる通行人もいたが、先行して走っているラティに鎧袖一触、すれ違いの一瞬で地面へと寝かされていった。


 今までは無意識で使用していた【全駆】、それをしっかりと意識し、【全駆】を使用するラティは、今までの動きよりもキレが冴えわたっていた。


 途中では、相手の膝の上や肩でステップを踏むという離れ技も披露し、妨害をしてくる通行人達を無力化しつつ、俺達は巨大な橋の前に辿り着く。


「よし、此処で迎え撃つぞ!」

「はい、ご主人様」

「らじゃです」



 俺達は走るのを止め、橋を背にして追手の到着を待つ。


「貴様等! 何故逃げる!」

「追いついたぞ、早くレフト様にご報告を」

「アヤスギ様もすぐに来ます、このままアイツ等の足止めだ」

「動くなお前達」


 追いついた兵士らしき者達は、すぐに此方に飛び込んでは来ずに、俺達を逃がさぬよう牽制をしつつ、ジリジリと距離を詰め、一足で飛び込める位置で此方の様子を窺う。


 その様子を見た俺は――


「あ~~待て待て、これ以上逃げないから安心しろ?」

「は? 貴様何を言って‥」

「お前らが突然逃げ出したのだろうがっ!」


 俺の言葉に喧嘩腰な返答を返す男達、そして暫くの間、その兵士らしき男達と会話にならない会話を続けていると。


「はぁはぁ、やっと追いついたぞ‥はぁはぁ‥」

「じ、陣内、この最下位野郎が、アンタなに逃げ出してんのよっ!」


 護衛を引き連れ、レフト伯爵と勇者綾杉がようやくやって来る。

 レフト伯爵は普段から運動をしていないのか、かなり息が上がっている様子。


「はぁはぁ、さあギルドにハァ、行くぞ、はぁハァ‥」

「‥ギルドには行かねえよ」


「っな!? まさか神聖なる決闘から逃げ出すつもりか!」

「あ~~違う違う、ここで決闘をしようって事だよ」


「んな!? そんな馬鹿な事がっ――」

「受けないなら俺達はこのまま逃げるぜ? 橋を渡って魔法で足止めでもすれば、余裕で振り切れるだろうしな。それとこっちには移動支援魔法使える奴もいるんだぜ? これの意味が分かるよな?」


 これはハッタリと駆け引き。

 サリオはハーティやレプソルさんのように移動補助魔法など使えない、だが彼女は見るからに後衛役の格好、そこで俺が自信満々にそう宣言(ハッタリ)をすれば。


「ぐうっ、貴様等、まさか読んでいたとでもいうのか‥」


 ――おいおい、言葉が漏れてんぞ、

 やっぱ何かしらを仕掛けてやがったな、

 なんでこの異世界は、呼び出しイコール罠なんだよ‥ 


 まぁ一番の呼び出しでの罠は、勇者召喚だけどな‥‥



 俺とレフト伯爵が決闘場所での駆け引きをしていると、それを横で見ていた綾杉が、俺達の会話に割り込んできた。


「レフト様、もうココでイイからやっちゃいましょう! こんな最下位野郎なんて、あたしぃ達の敵じゃないですよ~」

「アヤスギ様‥‥、そうですな、我らの敵ではないですな」


 綾杉の一言に大きく肯き、レフト伯爵はこの場で決闘を開始することを決める、街の大動脈ともいえる巨大な橋の前、大勢の野次馬達がいる中、俺達は決闘を開始する。


 だが戦う前にやることが一つ。


「おい、この決闘に賭けるモノは覚えているよな?」

「ああ、覚えているとも、その狼人とお前の身柄だ!」


「‥‥保護じゃねえのかよ、まぁいいや、それとこっちが勝ったら俺達を諦めて貰うのと、一発ぶん殴ってから前髪の引っこ抜きだからな」



 俺はわざと声を張り上げ、周りの連中にもしっかりと聞こえるようにして、勝敗後の確認を行う。


 当然、俺の確認を聞いた野次馬達から驚きの声が上がる。

 ほとんどの者が、これから行われる決闘(見世物)に期待を膨らませている様子。


「さっさと始めようぜ、で、どいつが俺達の相手だ? まさかそこの勇者さんじゃねえだろうな、レベル上げをサボっているみたいだけど?」

「ふんっ、これだから最下位野郎は、レベルだけで決めつけてんじゃないわよ、あたしぃ達のパナイ強さを見せてやるわ! ――っはぁぁぁぁ!」



 謎の気合いと共に、手を地面に付ける綾杉。

 彼女の周りが光に包まれ、まるでスポットライトを複数当てているかのような状態、もしスモークでも焚いていれば、どこぞのコンサートのような光景。


 そして――


「出でよ! 超近接戦闘人形ドルアーガ・ザ・バトラー!」

「「「「「おおおおおおおおおおおお!?」」」」」」」」」」


 湧き上がる歓声の中、黒い一体の人型が姿を現した。


「どう? この子がアンタ達の相手よ」

「ちょ!?これってまさか‥」

「細い黒いイワオトコ‥?」

「ぎゃぼう、まさかの魔物ですかです?」


「ふははははは、これは魔物ではないよ、これは歴代勇者の遺した作品だ!」


 楽しくて愉しくて堪らない、そんな表現しか当て嵌まらない感じで高笑いし続けるレフト伯爵。 その奇行に周りの目を集める中、俺は――


 ――絶対に作っている奴がいると思ったよ、

 中二病で、もし作れる能力がある奴がいたら絶対に作ると思ってたぜ、

 ”ゴーレム”をよ、



 俺は昔、魔物のイワオトコを見た時、ゴーレムっぽいという感想を持った。

 そしてそれと同時に、(歴代共)かゴーレムを作っただろうな、とも。

 

 

「ああ、確かにこれは一、3の戦いだな」

「その通りだよ、約束通り一体だけだよ此方は」


「どう? あたしぃのゴーレム召喚は、カッコいいでしょ?」

「何が召喚だよ、ただ単に【宝箱】から、それとなく出しただけだろ」

「ジンナイ様、あの光ってただの生活魔法”アカリ”ですよです」


 空気を読まず、ネタを暴露する俺とサリオ。

 ネタばらしに腹を立てたのか、勇者綾杉は。


「いけ!ドルアーガ!」


 いつの間に用意したのか、何処かの店からテーブルを持ち出し、そしてその上に立ち、金の輪っかのようなモノを頭にはめて、ゴーレムに指示を出す。


『――ガピッ』


 ドルアーガと呼ばれた二本足で4本腕の人型ゴーレム。

 3メートルを超える身長、印象としてはスッキリと痩せたイワオトコ。

 その見た目は完全に、元の世界で見たアニメのロボ兵器。


 ただ、装甲というべきか、その表面は黒色、線のようになった凹凸の部分は赤。

 黒と赤で統一された禍々しいカラーリング。

 そして俺達が特に注目したのは――


「あの黒色って、まさか‥」

「最近どっかで見た事がある黒色なのですよです」

「あの、あれはきっと‥」



 俺達の目の前に、3メートルを超える巨体とは思えない程、軽やかに躍り出る黒と赤色のゴーレム。

 そのゴーレムが目の前に来たことで確信する。


「あの装甲は、巨竜の鱗か」



 竜の巣(ネスト)で、数多の攻撃を弾いた鱗。

 結局のところ、あの鱗をまともに貫けたのは伊吹の新WSウエポンスキルのみ。その鱗を装甲にしたゴーレムが俺達の目の前に立ち塞がったのだ。


 ――まじぃ!これは拙い、

 くっそやられた! だから一体なのか、

 この決闘じゃあ操っている綾杉を狙えないっ!



 これは想定外であった。

 あいつ等に負ける事はない、そう思っていたが、このゴーレムはマズイと直感した。俺達の前に躍り出た時の動き、あの動きは中々良い動きであった。


 イワオトコ以上の装甲に、イワオトコよりも訓練された動作。

 ある程度の修羅場を潜っていれば解る。このゴーレムは強敵であると、このゴーレムの存在が、レフト伯爵の過剰とも思えた自信の源であると。

 


「ふはははははは! どうだねこの美しい姿! 力強さを感じさせる4本の腕、そして全てを通さぬこの黒き装甲、少々高く付いたが良い買い物をしたよ」


 ゴーレムと対峙する俺達。

 攻めに出ない俺達に、怖気づいたのかと気を良くしたレフト伯爵は、聞いてもいないのにベラベラと、そのゴーレムの自慢話を語り始める。



 5代目勇者が作り上げたというゴーレム(ドルアーガ)

 多額な買い取り額で購入したゴーレムだが、操縦者の意志で動くゴーレムは、それはそれは動かすのが大変だったらしい。


 人の意志で動くといっても、自身の身体なら神経や慣れ、それに頭の中で特に意識しなくとも動かせるが、ゴーレムの場合はしっかりと意識しなくては、指の一本も動かせなかったらしい。

 

 しかも指の一本を動かすことに意識を割くと、今度は他の場所が意識出来ず、上手く動かせない。

 

 要は操縦が複雑過ぎて、通常の人間には操縦が出来ない、欠陥品だったと言うのだが、此処で奇跡的な出会いがあったのだと恍惚に語る。


 それは――


「そう、あたしぃよ! このあたしぃには高速思考の【固有能力】である【速考】と、並列思考の【並列】があったのよ」


 『まさにこのコは、あたしぃの為に存在しているの』っと、そう自慢げに少し大きめの胸を張る勇者綾杉。



 俺は黙ってレフト伯爵の自慢話に耐えていた、少しでも情報を得る為に。


 ――っく、思ったより厄介そうだな、

 しかも高速思考と並列思考だと、定番のチートじゃねえかよ!

 アイツ、馬鹿そうに見えて、持っている【固有能力】は知的系かよ、

 だけど確かにこれなら、レベルとか関係ないな‥



 俺は軽い失態を犯していた。

 ラティが綾杉を【鑑定】した時、あまりのレベルの低さに驚き、その後しっかりと綾杉の【固有能力】をチェックしていなかった。



 俺は集めた情報から突破口を模索する。

 負ける相手とは思わないが、楽に勝てる相手でもない。

 本来であれば、操縦者である綾杉を狙えば簡単に倒せる相手だが、今回の1対3の決闘方法ではそれは出来ない。


 此処で綾杉を狙おうモノなら、それは反則負けとなる。

 もしそれを実行するのなら、それは最終手段。



「じゃあ行くわよ最下位野郎っ!」

「チィッ」


 3メートルを超える巨体が、見た目からは想像出来ない速度で襲いかかって来る。


『――ッガガッピ』

「っはぁ!」


 ラティいつものように前に出て、囮役をこなしつつ攻撃も加える。

 だが――


 ――ギィィイ――


「っく! 弾かれます」

「ラティ!」

「あたしも援護するです!”炎の斧”!」



 サリオの放つ炎の斧。

 イワオトコすらもバターのように切り裂く一撃が、いともたやすく弾かれる。

 

「がぉーん! やっぱり弾かれたのですよです」

「だろうな‥」

「そんなへっぽこな炎が、このコに効く訳ないでしょうが!」


 『ホラホラホラー!』っと掛け声を上げながらゴーレムを操作する綾杉。

 4本の腕が、振り下ろし薙ぎ払い、そして掴み掛って来る。


 まさに猛ラッシュだが。


「ッはぁぁ!」


 ラティはその全てを回避し切る。

 地を蹴り空を翔け、時にはゴーレムの剛腕により破壊されて舞い上がった石畳までも足場にして、彼女は舞うようにして全ての攻撃を回避する。


「何よ! このちょこまかと! この!このこの!」

「あああああ!? 待ってくださいアヤスギ様! 殺さないように、その狼人は使うのですから殺さないようにっ」


 レフト伯爵の懇願に、一瞬、動きが止まるゴーレム。

 その刹那――


WSウエポンスキル”フラブレ”!”スピイン”!」


 片手剣WSウエポンスキルから短剣WSウエポンスキルへの”繋ぎ”を使った”重ね”を、ゴーレムの左脚の付け根に突き刺すラティ。



 今まではその”重ね”でも、黒い鱗は突破出来なかったが。

 

 ――ザクッ!!――


 足の稼働部分の為か、僅かに薄くなっている場所へ、彼女の母の形見、魔剣ミイユが深々と突き刺さる。


 一瞬だが訪れた勝機、俺はそこで切り札を切る。


「サリオ! 加速の魔法よこせ!」

「らじゃです! 風系支援魔法”ヘイストゥ”!」


 薄いピンク色の風を身に纏い、俺は一気に駆け出す。

 己の【加速】と、魔法による加速の二重加速、俺の危険な切り札。


 狙う先は、ラティがたった今削った左脚の付け根、其処に目がけて俺は弾丸のように突き進み。





 弾かれる。


「――っぐは!?」

「ご主人様!!」

「ジンナイ様!」


「甘いっつ~~の、まあちょっと焦っちゃたけどね」


 飛び出した俺に勇者綾杉は、高速思考の恩恵か俺の動きに反応し、カウンターとなる掌底を放って来た。左側の2本の腕を使い、手の平で掬い上げるようにして俺を叩く。



 今までに味わった事のない衝撃。

 喰らう瞬間に、身体の全身を使って受け身を取るよう試みたが、元々が全力(切り札)で突っ込んだ身、ダンプカーにでも轢かれたら、きっとこんな感じで吹き飛ぶのだろうという形で吹き飛び、そして俺は地面に叩きつけられる。



 身体が砕け散ったかのような激痛。

 レベルが上がったことによる身体強化と、巨竜の喉の鱗で作られた忍胴衣のお陰で、なんとか辛うじて息がある状態。


 激痛で思考の全てが塗り潰されていく中、レフト伯爵の声が響く。


「さあ、負けを認めて貰いましょうかね? 保護対象者よ」

 

 

 レフト伯爵が俺達に、負けを認めろと要求をしてくるのであった。

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども、

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ