質問
「ラティ、質問に答えて欲しい」
「はい、ご主人様」
気密性が高いのか、とても静かな室内。
部屋の外、扉の前に見張りの気配はするが、今、部屋の中は3人だけ。
サリオにしては珍しく、空気を読んで静かに俺達を静観している。
そんな中で、俺はラティに質問をする。
「ラティ、まず【心感】の事だが、それを聞かせて欲しい」
「はい、お答え致します。今まで気付かずに使用しておりました」
「うん?気付かずって? え? どういう‥こと?」
「あの、これは言い訳に聞こえるかもしれませんが、わたしは、【索敵】を使っているつもりだったのです、【索敵】の効果で敵意などは判るので、それの延長上かと思っておりました」
「ああああああ!?なるほど‥」
俺はピンっときた、ラティが何を言っているのかを。
まず、ラティが嘘を吐くとは思えない、ラティはそういった隠し事はしないタイプである、だから疑わずに聞いて、俺はすぐに理解し納得が出来た。
――そうか、そうだよな、
ラティは普通に【索敵】を使っているつもりだったんだ、
他の人と【索敵】を比べるとかしないだろうし、なまじ【索敵】があるから、
【心感】の存在に気付かなかったんだ!
元から【心感】があるとは知らない彼女、だからこそ勘違いしていたのだと俺は納得が出来た。彼女は純粋に【索敵】を使っているつもりであったと。
「ラティ、感情の色ってのは、最初から見えたりしたのかな?」
「あの、それは、レベルが上がるにつれてハッキリと見えるようになって来ました、レベルが60を超えてからは、特にハッキリと」
ラティは説明する。
最初の頃は、そこまでハッキリとした訳ではないが、レベルが上がるにしたがい、敵意と殺意が見分けられるようになり、好意と欲望が見分けられ、嘘や動揺も判るようになっていたと。
レベルが上がった事で、【索敵】の精度が上がったモノだと思っていたそうだ。
「そうだよな、【索敵】持ってんだから、それの効果だと勘違いするよな、」
「あの、すいません、わたしも迂闊でした、誰かに尋ねれば良かったのですが‥」
「いや仕方ないよ、普通は聞けないよな、」
――『わたしの【索敵】が凄すぎるんですけど?
皆さんも、そうなのですか?』って聞ける訳ねえな、
なんの自慢だよ‥
そして俺はもう一つ、とても大事な事を聞く。
「ラティ、尻尾のことだけど‥」
「あの、あ、あの‥」
「ああ、うん、まずは番がどうとかってことだけど‥‥アレってラティも知らなかったんだよな? 番?夫婦的な感じってか、えっと‥」
「はい、わたしもそれは知りませんでした。いま思いますと、両親に頭を撫でて貰ったことはありましたが、尻尾にはあまり触れて来なかった気がします」
俺がどもりながら尋ねた内容を、さっと察して答えてくるラティ。
そして――
「あの、心のが読めるという事なのですが‥」
「あ、うん‥」
「正直申しまして、気付いていませんでした」
「へ?」
「ご主人様が撫でている時は、常に優しい気持ちと、その‥柔らかいや手触りが良いっといった気持ちのみが伝わっていました、なので、撫でているご主人様の手から感触と申しますか、そういった気持をわたしが錯覚しているモノだと思っておりました」
「ああ‥そうか‥」
――言われてみるとそうだ、
俺はラティの尻尾を撫でる時は、いつも同じだった、
ただ純粋に、心地よい癒しのみを求めていた、
ラティの説明は俺の中で、ストンっと来るモノがあった。
尻尾を撫でる時は、常に癒しのみを求め、雑念などは一切無く、他のことは考えた事が無かった。だからラティは疑問を感じなかったのかもしれない。俺も子供の頃、母親に優しく頭を撫でて貰った時は、その手の平から愛しむ優しさを感じていた。
だから、きっとそれだと思っていたのだろうラティは。
「なるほど、納得した」
「あのっ、今のお話を信じて頂けるのですか?」
「ん? それなら」
「あっ」
俺はさっとラティの尻尾に触れ、そして優しく撫でる。
今の自分の気持ちを乗せて、指で梳くようにして尻尾に想いを伝える。
「――ッ、本当に、本当に流れて来ました‥ヨーイチ様がわたしの話を信じて頂けた想いが、本当に」
「良かった」
ラティは顔を伏せて、そう呟いた。
その声は、心の芯から嬉しそうな、そんな声音で。
「あ~~、でもこれからは尻尾は撫でるの控えた方がいいのかな、番じゃないと駄目とかみたいだけど‥」
俺の中では、”心が読まれても構わない”そう思っていた。
だが、ラティはどうなのだろうと思う。彼女的には、俺からの心が流れ込んで来ると知ってしまった訳であり、何よりも『触れられて不快と感じるのでは?』っと、そんな想いが頭に過っていた。
「あの、それは絶対的なしきたりのようなモノではないですし、わたしの中では特に気にしておりません。あとそれに、あの‥わたしはご主人様から流れて来る心は‥ヨーイチ様から流れて来る想いはとても心地よいモノです、だから今まで通り触れて頂けましたら、わたしは嬉しいです」
「――っぐが!?」
顔を伏せていたラティが、その顔を上げて俺を見つめ、そして真剣な表情で俺にそう伝えてきた。
その言葉を正面から受けた俺は、色々と撃ち抜かれる。
学校で最高に可愛い女の子に、『好きです』っと言われたとしても、此処まで心は踊らないであろう。何かのスポーツで世界一位を獲ったとしても、これ程までの達成感は感じられないだろう。
今なら、巨竜であってもタイマンで勝てる、そんな高揚感が湧いてくる。
「あ、あのご主人様?」
「ああ、何でもない、よし次だ――」
俺は今、とても人様に見せられない様な表情をしていると自覚をし、顔を無理やり叛けながら次の話を始めた。
閑話休題
俺はラティに一つ一つ質問し、ラティはそれに簡潔に答え続ける。
【全駆】も、【天翔】と【駆技】があった為に気付かず、ラティは無意識に【全駆】を使いこなしていたらしい。
レベルが低い最初の時は、【AGI】が足りず脚力も弱いので、【全駆】の恩恵には全く気付かなかったそうだが、レベルが20を超えた辺りから、多分使用していただろうとラティは言う。
本来は決して開化する事の無かった才能。
だが勇者の恩恵の効果によって、レベルとステータスが正常に上がるようになり、本来はマイナスの面が色濃い【蒼狼】が、今は凶悪なほどの性能を発揮することとなっていた。
ステータスの伸び具合から、【AGI】の補正も高そうであり、それと予測ではあるが、”重ね”を創り上げ、この異世界に登録もしている。
これは伊吹のように、【剣技】の【固有能力】を発揮して、新しいWSを創り上げるよりも、遥かに上の偉業であるだろう。
とても価値のあることだ。
俺はラティとの話を終え、次にもう一つの疑問を頭の中で纏める。
それはラティが奴隷商に売られた経緯。
攫われたのが先か、それとも後なのか、ラティは多分、レフト伯爵に売り込みに来たと言う、商人風の者に浚われたのだろう。
単独なのか、それとも複数なのかは不明だが、ラティを一度攫い、その後にラティの父親に彼女は取り戻されている。
そしてこれは憶測だが、その時に、一時的に預けるのが目的で、赤首輪の奴隷としてラティを売っていると。
――そうだ、
ラティの親父はどうなったんだ?
現状を考えるに‥‥、これは確かめておくか、
よし‥
「ラティ、サリオ」
「はい」
「あいな?」
「ちょっと作戦を立てる」
俺は小声で話し掛け、これからの行動を二人に説明する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「待たせたな、話は付けてきたぞ。神聖な決闘として許可も取ってきた、決闘の場所は冒険者ギルドの訓練場だ」
ノックもせずに、いきなり部屋に入り込んで来るレフト伯爵。
一応、この個室はレフト伯爵が店から借りている場所だが、この遠慮の無さは明らかに此方を舐めた上での行動。
流石に苛立ち、俺は軽くレフト伯爵を睨みながら口を開く。
「高貴な貴族さんにしては無作法だな、それで場所の事だけど、他に見学者ってか、決闘の見届け役とは誰が? この街の貴族様がやるのか?」
「ああ、見届け役なら私がやってやろう、この決闘で戦うのは私ではないのだから問題はなかろう? 態々人を呼ぶ程の事でもないからな」
ニヤリと厭らしい笑みを見せるレフト伯爵。
その態度からは、これでもかという程の怪しさが満載、寧ろ一周回って嫌な清々しさすら感じる程。
「そうですか、決闘の許可は貰ったんですね?」
「ん?今言っただろう、この街での決闘の許可は得ていると」
「なら問題無いな‥後もう一つ確認したいことがある」
「うん?なんだ? 今更怖気付いたのか?」
「ああ違う、ちょっとした確認だよ、アンタに【蒼狼】を売りに来たっていう奴らはどうなったんだ? 確か親に取り返されたって言ってたよな?」
俺はそう言ってラティの方へ目を向ける。
「口の利き方がなってないな‥まぁ良いか、ソイツ等には罰を与えたよ、何でも親を殺してしまったと言っていたからな、だから安心して保護されたまえ、キミの親を殺した者達にはキチンと罰を与えてやったぞ」
「その連中には会えるか?」
ニヤニヤと嗤っていたレフト伯爵だが、一瞬だけ真顔に戻り、再び厭な笑みを顔に貼り付け返答してくる。
「さあな、何処かに行ってしまったからな‥」
――間違いなくヤったな、
伏せてある【蒼狼】の情報持ちだ、逃がす訳ないな、
これはやっぱり‥‥よし、
「もっかい確認だけど、この街での決闘の許可はあるんだな?」
「さっきも言ったであろう、許可は得ているとっ! さぁ行くぞギルドに」
俺はこの異世界で強く学んだことがある。
それは、呼び出された場所へは行ってはいけないということ。
元の世界で『知らない人について行っては駄目』という学校での教えと同じように、この異世界では呼び出しに素直に応じては駄目なのだ。
絶対に碌なことがない。
だから俺は――
「ラティ!サリオやれ!」
「はい!」
「ぎゃぼー!やるのですねです、生活魔法”アカリ”!」
俺達は事前に打ち合わせをしていた。相手が決闘の許可を取って来たら、まず逃げ出すと。
「っぐあ!?目が!目があああ!?」
「レフト様!?」
「なんだ魔法か!?攻撃か!?」
俺達の目の前には、サリオが最大光量に設定した”アカリ”が出現する。
夜であろうと100メートル先まで照らす光量、それを正面から直視してしまったレフト伯爵が悲鳴を上げる。
「片手剣WS”スクエア”!」
「よし!外に出るぞ!目指す先はデカい橋だ!」
「らじゃです」
俺達は個室の窓を吹き飛ばし、そこから外へ駆け出す。だが、追手は完全に振り切らずに、ギリギリで追跡が出来る程度の速度で街の中を走る。
俺達は、街と街を繋ぐ巨大な橋を目指し向かったのだった。
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あと誤字脱字なども‥




