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最上位さん

「ねえ、聞いてんの?あたしぃは付いて来いって言ってんの」

「めんどくせえ、」


 胸の辺りで腕を組んで、少しばかり大きめの胸を、より大きく見せるような仕草をする勇者綾杉(あやすぎ)いろは。


 仕草の一つ一つがあざとく、個人的にはイラっとくる。

 そんな彼女が、ますます苛立たせてくる。


「イイから来なさいよ! レフト様に頼まれてんだから、アンタを連れて来いって」

「ん? 貴族に頼まれたのか?」


「勇者にお願いを出来るのなんて、貴族か王族ぐらいでしょ、アンタ馬鹿なの?」


 ――ふう、

 清々しいほどムカツクなコイツ、

 もう逃げ出してやろうかな‥



 俺はこの馬鹿女の顔に泥を塗る意味で、逃げ出してやろうかと検討した。

 全力で走れば、十分に撒くことは出来るはず。


 俺はラティとサリオに逃げる合図を送ろうとした時――


「まぁ、アンタっていうより、そっちの狼人のコに用があるみたいなんだけどね」

「へ?」


「ん~、だから、そっちの狼人のコに用があるのよ、なんでもレフト様が本来買い取るハズだったからって、確か三年前に――」

「――っまて!今なんて言った?買い取るって‥それに3年前‥」



 普段からよく聞く言葉。

 ”ラティを買い取りたい”これはよく聞く言葉だった。だが、本来・・という言葉に、俺は興味を引かれた。

 

 しかも三年前と言う。


 後ろにいるラティが息を飲むのを感じる。

 ラティは奴隷商の館に居る時から、何処か緊張をしていた。

 

 奴隷商と話している時、あまりラティの方を見ると、奴隷商に下手に勘繰られると思い、俺はラティの方を見るのを控えていた。


 控えてはいたが、それでもラティが普段と違うのを感じれた。 

 

 見なくとも判る。

 気配で空気で、何か繋がっているような感覚で解った。


 ラティが怯えていると。

 

 彼女はいつもの様な無表情、だが内心は違うのだろう。

 ラティは自分が売られた真相を知るのを、酷く怯えていた。

 それは『真相を知らなければ、これ以上傷付くことは無い』そんな心情を察することが出来た。

 

 だが、それでも知りたいと思う部分もあり、怯えの中に期待・・も抱えている。


 だから俺は――


「おい、ソイツの所に連れていけ」

「はぁ~? 『いろは様、愚かなわたしを連れて行ってください』でしょうがっ! なに最下位野郎が上から目線なのよ! 日本語正しく使えないの? 馬鹿なのアンタ」


( お前が正しい日本語とか言うな、)




 クソ腹立つ女、俺は勇者綾杉いろはの後を付いていく。

 上手すぎるタイミングかとも思うが、3年前、本来の買い取り、この二つの言葉は、今の俺には無視の出来ないモノであった。


 だが、ホイホイと付いて行くのは危険であり、俺はいろはに付いて行きながら、小声でラティに話し掛ける。


「ラティ、勇者と周りの兵士っぽい奴らのステータスをチェックしておいてくれ、何かあれば強行突破する」

「はい、すぐに調べますが、勇者様の方は既に【鑑定】で確認しました」


「レベルは?あとステータスとか」

「あの、それが‥‥」


「うん?」

「レベル3なんです」


「はああああ!?」

「あん? 何よアンタいきなり大声あげて」


「いや、すまん何でもない」


 俺の大声に足を止め、綾杉は訝しむが、『フン』っと悪態を付きながら、再び進む。


 俺は前を歩く綾杉を見ながら。


 ――はああああ!?

 おいおい、レベル3って何だよ?

 コイツ、マジで戦闘とかしていない? 勇者なのに?

 あ? もしかしてステータスの偽装とかか?



 俺が綾杉のステータスに疑惑を持っていると。


「あの、ご主人様、周りの兵士らしき人達のレベルですが、ほとんどが20前後で、30を超えている人は一人だけです」


 ――あ、これガチかも、

 ガチでレベルが3かもしれないな、

 勇者と共に戦っているのなら、周りの奴らも、もっとレベルが上なはずだ、



 現状だけの判断ではあるが、勇者綾杉のレベルは3だと判断する。

 見た目もそうだが、このクソ女が真面目に魔物狩りをしているとは思えなかった。


 俺はこの勇者綾杉と、その周りの兵士達だけであれば、脅威は無いと判断し、俺達は案内された店へと入る。


「ここよ、レフト様が待ってんだから、早く入って」

「ああ‥」



 俺達が勇者綾杉に案内された店は、格が高そうなレストランであった。

 外装も良く、中の内装も風格があり、普段なら間違いなく縁の無い店。

 俺はその内装を眺めながら。


「サリオ、魔法で風穴は空けれそうか? 結構しっかりとした作りの店だけど」

「ぎゃほう!? ジンナイ様? あたしに何をさせるつもりですよです!」


「ん?緊急時の退路の確保」


 ――全く分かっていないなサリオは、

 室内に案内されたら、まず退路の確保からだろうが、

 一体今まで何を学んだんだか‥

 


「ラティを見習え、ラティは既に窓の位置とかチェックしてるぞ、」


 俺は小声でサリオに室内での心得を教えるが、ドン引きした表情を返すサリオ。


 そんなやりとりをしていると。


「此処よ入って、大事な話だから個室よ」

「ああ、分かった」



 格の高い店、その中でもより豪勢に、より格式高く見える個室へと案内され、無駄に分厚い扉を開けて中に入ると。


「っふ、やはり貴様か」

「お前は‥」



 装飾品や壁、床の細部まで金がかかっていそうな部屋の中、如何にも貴族ですっといった感じの男が待っていた。


 細身で整った顔、一筋の前髪を垂らし、自信に満ちた顔を見せる男。


( あれ?どっかで見たような‥)


「中央の城では、邪魔をしてくれたな」

「っあ!」


 ――思い出した!

 葉月(はづき)に絡んで来てた奴だ、

 確か、伯爵とか言っていたような‥‥



「大事な話がある、其処に掛けろ」

「いや、このまま立って聞こう、何かあるとマズイんでな」


 俺はそう断って、肩に留めてある付加魔法品アクセサリーへ露骨に目を向ける。

 宝石が赤く輝き、警告を告げる付加魔法品アクセサリー


 それを見た目の前の貴族は、小さく舌打ちをしてから。


「姿を現せ、コイツは私の護衛だ、お前達を害するつもりなどはない」

「よく言う‥」



 目の前の貴族は、俺達が隠蔽看破の付加魔法品アクセサリーを持っていないと思ったのか、堂々と護衛らしき男を、この個室の隅に潜ませていた。

 そしてそれがバレるが、特に謝罪などもなく話を進めくる。


「この護衛は気にするな、それと、改めて名乗ろう、私はレフト伯爵だ」


 

 高級レストランの個室、俺達3人と、レフト伯爵、勇者綾杉、護衛の男。

 6人だけの空間で話が始まる。


 個室の円卓には、豪勢な料理や飲み物などが並べられているが、部屋に姿を隠した護衛を忍び込ませるような相手、当然信用などはせず、料理には一切口を付けずに、俺達は立ったまま話を聞く。


「まず先に言おう、その狼人は私が買い取る予定だったのだ」

「ああ、その事だけど、それは3年前の話とか聞いたけど」


 相手は貴族、そして一応年上だが、俺の中では既に碌でもない奴と認定し、敬語などは考えずにタメ口で話を進める。

 その俺の態度に、気に食わない表情を見せるが、レフト伯爵は話を続けた。


「ある者達から、【蒼狼】(フェンリル)持ちの狼人がいるから、買わないかと打診されたのだ、そして私はそれを受けた」

「買う? いや、なんだよソレ!?」


「黙って聞け、その説明をする――」



 レフト伯爵の話は、これがこの異世界の常識なのか?っと、疑いたくなるような内容だった。力ある大貴族だからなのか、それは酷いモノだった。



 ある日、レフト伯爵の元に、商人らしき男が訪れ、ある商品を売り込みに来たと言うのだ。


 その商品とは、【蒼狼】(フェンリル)持ちの狼人。

 

 特に聞いてもいないのにレフト伯爵は、自分は珍しいモノを収集する趣味があり、しかもそれは、高貴な貴族のみの特権であり、自分にはそれが許されていると、そう自慢げに語っていた。


 若干、話が脱線したりはしたが、要は、ラティを買い取ると言ったらしい。

 だが、その商人らしき男は、その商品を持って来れなかった言う。


 理由は、その商品の父親に、商品(ラティ)が奪われたからだと。

 その話を聞いて俺は思わず。


「おい!おかしいだろ!? ほとんど人攫いの話じゃねーか! いや、人攫いの話だろ!なんだよ買い取るとか、頭おかしいのか? 綾杉、お前はどう思うんだよ今の話っ」

「え!?えっと、それは‥‥」



 流石に今のはおかしいと思ったのか、言葉に詰まり狼狽える勇者綾杉いろは。

 だが此処で――


「ああ、ちょっと語弊があったな、買い取りというよりも、これは保護なんだよ」

「は?保護だと?」


「そうだよ、これは保護なのさ、貴重であり希少、そしてとても危険なモノ」

「何を言って‥」


【蒼狼】(フェンリル)持ちは、この西側(ゼピュロス)では保護される対象なのさ、そうこれは高貴なる貴族の務めともいえる事なのだよ」


「人攫いを正当化でもしようとしてんのか? なんだよ保護って」


 俺は苛立ち、鋭い視線で射貫くが、それに動じることもなくレフト伯爵は語る。


「だから【蒼狼】(フェンリル)だよ」

「その【固有能力】が何だってんだよ!」


「これからの話は他言無用だ、【蒼狼】(フェンリル)とは超複合固有能力なのだ、現在把握しているだけでも10以上、それが詰まった【固有能力】なんだよ」


「いや、それはおかしい! 確か効果は不明だって聞いたけど‥」


 ――ラティは確かにそう言っていた、

 それに彼女自身も把握出来ていなかったし、効果も謎のままだ‥ 

 分かっているのは”常時発動型”という事だけ、



 話に混乱する俺を見ながら、レフト伯爵が続きを話す。


「それはそうさ、伏せられているのだから、【蒼狼】(フェンリル)の効果は」

「伏せられて‥?」


「ああ、混乱をもたらすからね、傾国の美女ともいうべきか、だから効果を知っているのは一部の者達だけ、西の大貴族のみが知っている話なのさ」


 レフト伯爵は饒舌に語る。

 危険すぎる効果の為、それが悪用されぬよう伏せられている情報だと。

 そして、その一部の知っている者達がこっそりと保護を行っていたのだと言う。


 【蒼狼】(フェンリル)の保護を。

 


「だから何だよ、その保護されるっていう、能力ってのは?」

「そうだねぇ、話してもいいか‥どうせ‥‥ふふん」


 ニヤリと口元を歪めるレフト伯爵。

 目も、これから楽しい事が待っていて堪らないといった、無邪気な悪意のようなモノが見えてきている。


 その瞬間、背後のラティから気配が伝わる。

 彼女は重心を下げ、いつでも駆け出せる用意を行っているのが解かる。


 俺達が警戒を強める中、レフト伯爵は変わらぬ口調で続きを話す。


「特別に教えてあげよう、【蒼狼】(フェンリル)とはさっきも言ったように、超複合【固有能力】、2~3個の複合能力とは桁が違い、しかもとんでもないモノまで含まれているのさ」


 勿体ぶりながら語るレフト伯爵。

 だが、そして――


「まぁ、危険視されているのは、【魅了】(テンプテーション)【犯煽】(ウォークライム)と【心感】」

「――っな!?」


「特に、【魅了】(テンプテーション)【犯煽】(ウォークライム)の合わせが危険なのだよ、【魅了】(テンプテーション)は人を惹きつけ、そして【犯煽】(ウォークライム)が負の感情を煽る、欲望などの感情を激しく刺激する【固有能力】なのだ」



 否定したかった。

 だが、俺の中で、全ての疑問がすっと解決した。


 何故、全く需要が無いと言われている赤首輪の狼人少女が、30回を超える程買われたのか、そして買った相手が皆、何故、その狼人の少女を襲ったのか。


 先程、奴隷商と話していた時に感じていた違和感。

 それが一気に解消された。



 あまりの内容に固まる俺。

 それを愉しそうに眺めるレフト伯爵は、次の爆弾(真相)を落として行くのであった。

 

 

読んで頂きありがとう御座います。

ツッコミはお待ちください、次回でも、もうちょい話が続きますので、きっと辻褄が合うはずですので。


あ、でもご質問はお待ちしております!

あと誤字脱字なども‥

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[良い点] 自分もラティを奴隷として買っておきながら、 他人が買うという話になると過剰反応する、 自分の事は棚上げする主人公が、いかにも子供という態度を取っていて好き。 俺は大事に保護してるし!みた…
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