★アキイシの街
新章スタートです。(短め)
馬車に揺られながら、俺はアキイシの街へ向かう。
此処まで一緒だったタルンタは、半泣きになりながら、シャの町へと帰った。
元々は討伐の見届け役、だが本当の目的は別にあり、それが破れた結果だ。
タルンタの話だと、あの世界樹の切り株があった森の木は、とても貴重な木材であり、本来、簡単には手に入らないモノだと言う。
理由は分からないのだが、年に1本程度だが、枯れた訳でもないのに、折れて倒れてしまう大木があるそうだ。そしてそれを切断し、貴重な木材としていたと。
倒れた木は、何故かギリギリ刃が通るらしい。
それが3年前から住み着いた、黒目ありの狼型の存在で森に入れなくなり、当然、森の管理もしていた狼人とも連絡が途絶え、今回の依頼となった。
それと、ある大事な事を思い出した俺は、別れ際の時に、彼に一つ尋ねた。
それは過去の魔王の事。
長寿のエルフ達に、それを聞くのも目的の一つであったが、あまりのゴタゴタですっかりそれを忘れていたのだ。
なので、それをタルンタに尋ねたのだが、返って来たのは――
『過去の魔王?』
『ああ、そうだ。知っている事があれば教えて欲しいんだけど』
『すまない、エルフの掟で教えられないんだ。もしそれを語ればエルフは皆殺しにされるかもしれない、貴族達によって…』
『へ?なんでそんな大事に!?何故?』
『いや、詳しい理由は俺も知らない。オレ自身は67才だから、昔の魔王って言われてもわからん、だけど、この件は絶対に何も語るなって言われているんだ』
そう言って拒否されたのだ。
しかも、その内容は貴族側にとって不味いモノらしく、口止めされている印象。
これは貴族側が、何か大事なことを隠している証拠だろう。
俺はタルンタとの最後の会話を反芻する。
――言い伝えとか、記録はあるけど、
エルフに、昔の魔王のことを尋ねるのを、貴族側が阻止している?
何を?勇者達に知られたらマズイんだ?
やっぱ、勇者の魔王化か?それとも他に何か‥‥
色々と考えが纏まらず、俺はリラックスの為に尻尾を撫でる。
無心になって、尻尾を約2時間ほど撫でていると、心に余裕が生まれ、今度は初代勇者の言葉を思い出す。
突然告げられた、真の勇者召喚。
どう考えても、自分の方が劣化勇者、しかも戦闘面ではかなりの劣化。
WSも魔法も無い。
しかも【固有能力】だって1個しか持っていない。
要は、それらに頼らず、他のモノで魔王を真に滅ぼす。
思い当たるとしたら、世界樹の木刀。
だが、初代勇者もコレを使ったが倒せていない。
――あれ?おかしいな、
何だか倒せる気がしない、真の召喚ってのも曖昧だし、
1300年も経過したからボケたのか初代は?
色々と考えたが、真の勇者召喚の件は、保留とした。
現状、どうしようもないので。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日の昼前。
俺達は目的地の、アキイシの街へと辿り着く。
アキイシの街は、エルフの森、シャの町と似たような地形に存在しており。
川がY字のように分岐している手前側に街が二つあり、分岐して中州のようになっている場所には、豪勢な屋敷があり、それは川と堀に守られ、如何にも領地の主が住んでいる、そんな建物が建っていた。
川を挟んだ二つの街を繋ぐ、二本の巨大で立派な石橋が目立つ街。
やはり西の街は、何処も水を利用した作りとなっていた。
「ほ~~、やっぱここも川とかを、運搬ように使ってんだな~」
「あの、南は、あまり大きい川とか無いですからねぇ」
「水が多いと、火が降った日に、楽ちんなのですよです」
サリオが馬を操りながらアホな事を言う。
「火が降るって何だよ‥、まぁ、確かに火事とかあっても水に困らないな」
「ほへ?西は、空から火降りますよです?小さいですけどです」
「っは!? 火が降るって雨みたいな感じで火が降んのか!?」
「はいです、だから西では近くに川とか無いと困るのですよです!」
ファンタジーだった。
流石は異世界、どうやら火がガチで降るらしく、便利なだけで川沿いなのでなく、命がかかっているので川沿いだったのだ。
因みに、サリオの【固有能力】の【天魔】とは、天(空)から降る属性の魔法威力アップであると教えてくれた。
サリオの火系魔法の高火力は、【天魔】と【火魔】の相乗効果らしい。
閑話休題
街に入る為のチェック、ステータスプレートの提示を行う。
やはり大きい街の為か、そこそこの間、待たされる。
気付くと、既に12時を回っており、やっと自分達の順番が回ってくる。
「ステプレの提示を」
「はいよ‥」
ステータス
名前 陣内 陽一
職業 ゆうしゃ
【力のつよさ】82
【すばやさ】 87
【身の固さ】 85
【EX】『武器強化(中)赤布』 『回復(弱)リング』『魔防(強)髪飾り』
【固有能力】【加速】
【パーティ】ラティ88 サリオ101
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ステータス
名前 ラティ
【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)
【レベル】88
【SP】467/471
【MP】331/345
【STR】 314
【DEX】 348
【VIT】 289+8
【AGI】 453+13
【INT】 277
【MND】 302
【CHR】 378+8
【固有能力】【鑑定】【体術】【駆技】【索敵】【天翔】【蒼狼】
【魔法】雷系 風系 火系
【EX】『見えそうで見えない(強)』『回復(弱)リング』『防御補助(特)』
【パーティ】陣内陽一 サリオ101
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ステータス
名前 サリオ
【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)
【レベル】101
【SP】298/298
【MP】690/696
【STR】233
【DEX】276
【VIT】225
【AGI】280+5
【INT】451
【MND】402
【CHR】314
【固有能力】【鑑定】【天魔】【魔泉】【弱気】【火魔】【幼女】【理解】
【魔法】雷系 風系 火系 土系 闇系
【EX】『見えそうで見えない(強)』
【パーティ】陣内陽一 ラティ88
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「――ッ!?」
目を見開き固まる門番。
シャの町でもそうだったが、やはり不自然なのだろう。
特にサリオは、レベル100超え。
下手をすると、現在、この異世界で一番レベルが高い冒険者の可能性もある。
門番の二人がコソコソと話し合う。
また面倒ごとか?っと思っていると――
「確認しました、どうぞお通りください、一人銀貨5枚です」
「へ?あ、はい、ありがとうございます、いくぞサリオ」
「ほへ? はいです」
一瞬呆気に取られたが、すぐに再起動して、高目の通行料を払い、サリオに馬車を進ませる。
門を越え、街の中に入ると、思わず驚きに声が漏れる。
「すげぇ、ノトスの街より断然凄いなここ」
「あの‥ええ、確かにそうですねぇ、ご主人様」
アキイシの街は栄えていた。
水上都市の街並みよりも洗練された印象があり、少なくとも南の公爵家の街、ノトスよりも圧倒的に栄えていた。
何処までもきっちりと石畳が敷き詰められた通路。
規則正しい街並みに、外装が綺麗な建物ばかり。
街の案内図もしっかりと用意されており、迷うことなく奴隷商の館まで向かう。
馬車のままでは動き難いので、街に入ってすぐの宿に部屋を借り、馬車もそのまま預かって貰った。
「ほへ~~、すっごい街なのですよです」
「ええ、本当にそうですねぇ」
ラティとサリオも、俺と同じ感想を抱いている様子。
奴隷商に向かう途中に、芝居小屋の集まっているエリアが見えたが、その規模は、ノトスの街とは比べ物にならなかった。
特に凄いのが、同じ作品を複数の芝居小屋がやっていた事だ。
俺の黒歴史、”狼人売りの奴隷商”が、3か所で公演していたのだ。
それが視界に入った時には、思わず吹き出していた。
――3か所ってなんだよ?
あれか?劇の出来の良さとか競ってんのか?
それともまさか、それだけ需要があるとかか? まさかなぁ‥‥
俺はその芝居小屋を横目に見ながら通り過ぎ、そしてとうとう辿り着く。
ラティが売られた可能性が高い、奴隷商の館に。
もしかすると1年ぶり、少なくとも半年ぶりに俺は、奴隷商の館に足を踏み入れたのだった。
目的はラティの父親、ロマネの情報を得る為に。
読んで頂きありがとう御座います。
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咳だけが治らん、咳で腹筋がちょっとシックスパックスになってきました。




