西の奥へ
エルフの村に行くと決めてから、少しだけ慌ただしい日々が続いた。
まず旅の用意である。
行きだけでも2日かかり、往復だけでも4日。
その他にも、多少のトラブルなども想定して10日分の食料などの用意をし、お金の方も多少の余裕があったので、しっかりとした幌付き馬車を購入した。
久々の3人旅である。
他には、厄介事では無いが、勇者側からちょっとしたお願いがあった。
今回の竜の巣勇者救出事件は、勇者達が自力で帰った事にして欲しいとお願いされたのだ。
理由は政治的な問題。
勇者側というよりも貴族側の問題として。
勇者達が公爵家に呼び出しをされていた理由はソレだったのだ。
自分達の領地で、勇者達が複数救出されるというのは、恥や負い目のようなモノらしく、自力で戻ったのならともかく、誰かの助けで救出されたとなると、貸しになったりと後々で突っ込まれる要素になると言うのだ。
それを申し訳なさそうに伝えて来る伊吹やハーティさん達に、俺は『問題無い』と返事を返す。
前に深淵迷宮の探索でも手伝って貰い、何よりも俺の中では仲間だと思っている連中なので、俺はソレを承諾した。
そしてその勇者達は、依頼してある装備品が完成したら東に向かうと言う。
東の方は、勇者椎名がやらかした一件で色々と大変らしく、今は軽い混乱状態らしい。情報によると、今までとは全く違う感じで魔物が湧き、それを迎え撃つので四苦八苦しているのだという。
ある程度の流れが出来上がれば良いのだが、今はそれを構築している状態であり、少しでも余裕を持たせる為に、しっかりと戦える人材を集めているらしい。
其処に西側の貴族達は目をつけ、西側所属の勇者達を東に送り付けて、今回の勇者救出要請の件をうやむやにする狙いだという。
ガレオスさん曰く、無理矢理貸しを作り、それで相殺する狙いだと。
それと元東側所属の三雲と言葉達には、正式に援護要請が来たらしく、小山と橘の二人と一緒に東へ向かうこととなった。
それなりの報酬も出るので、三雲組を運営しているハーティさんにとっては、決して悪い話ではないようだ。
ハーティさんにとって、西に来たのはシャーウッドから話を聞く為。それが済んだ今、東に向かうのはなんら問題は無かった様子。
ただ最後に、ハーティさんとガレオスさんの二人から、ある情報を聞かされる。
一つは、東の戦力不足は北が傭兵や冒険者を過剰に集めているから。
二つ目は、西側所属のレフト伯爵家は、支援している勇者を東へ向かわせなかったと教えてくれた。
理由は不明だが、西側の勇者が一人、西に残ったと言うのだ。
わざわざ俺に言う必要の無い情報だが、ガレオスさんは嫌な予感がするのだという。何か碌でもない事をしていると。
『俺の勘がそういっている』だそうだ。
そして三日後。
補修していた忍胴衣を受け取り、少し寂しい気持ちもあるが、俺達は勇者組とは逆の方向へと旅立った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
水上都市からさらに西へ旅立って二日後、俺達は無事に目的の地へ辿り着く。
目の前に広がるは、露骨に作られた森。
一つの川が二つに分岐する所に森が作られていた。
森を避けるようにして、二つに分かれて流れている川。
そしてその川を運搬に利用すべく作られた、数多くの桟橋。
それは不自然な光景であった。
元の世界でも見たことがある河川敷のような場所。
川の周りは草原と背の低い木ばかり。
だが、一部のエリアだけが森なのだ。
具体的に言うならば、”村が森に飲まれた”そう表現をするのがピッタリであった。
「話には聞いていたけど、無茶苦茶だ‥」
「あの、確かにそうですねぇ、」
「ほへ?エルフの森って大体こんなんですよです」
この異世界のエルフ達は、馬鹿共のしょうもない価値観と認識により、森に住むということを強制されていた。
自ら好んで森に住む分には良いが、そうでない者にはいい迷惑。
そしてそのとばっちりを喰らった者達は知恵を絞り、村に森を作るという方法を取ったのだという。
それが今、俺達の目の前に広がっていた。
経緯を知らなければ、自然の力強さを感じさせるファンタジーな風景。
経緯を知っていると、『無茶苦茶だ』の一言。
「ちくしょう浪漫を返せ、」
「ぎゃぼー!なんか無茶言ってますよです」
閑話休題
俺達は馬車を進めエルフの村に近づく。
エルフの村は川に挟まれて守られる形になっており、水上都市同様、水を使って魔物の進入を防ぐ形を取っていた。
村へと架けられた木造の橋は、下を船が通れるほどの高さを持っており、馬車のまま村へと入る。
そして村の入り口で俺達はステータスプレートをチェックされる。
「うん?男一人と奴隷が二人か」
「はい、この二人は俺の奴隷です、俺と一緒なら問題無いですよね?」
「ああ問題無い、それと村に入るなら一人銀貨2枚だ。小さい子供が居るみたいだが金額は変わらんぞ、我々は年齢で区別をしたりしないからな」
俺は銀貨6枚を支払いエルフの村へと入る。
小さい村の為か、特に厳しいチェックは無く、奴隷である二人が居てもすんなりと村に入ることが出来た。
一つの隠し事をしながら。
――おっし!通れた、
ローブで耳の長さ隠しとけばイケると思ったが、上手くいった。
俺は此処へ来る時、サリオにローブのフードを深く被り、耳を隠せと指示をした。
耳さえ隠してしまえば、そこまで差がある訳でもないので、バレないと踏んだ。
そしてその賭けに俺は勝つ。
「サリオ、バレるなよ、色々と面倒になりそうだし」
「はいな!あたしも面倒ごとはイヤイヤなのです」
歴代勇者の価値観で、エルフ達はハーフエルフを忌み嫌うとなっていた。
深い理由もなく排斥するように刷り込まれており、ハーフエルフ達は、エルフ以上に酷い立場とされていた。
そのハーフエルフであるサリオが居ると、色々と拗れると思い、俺達はサリオの正体を隠して押し通すことにする。
一応はサリオだけ外に待機という案もあったが、それは嫌な予感しかしないので却下した。
「さてと、情報集めと泊まれる場所の確保かな」
「あの、馬車があるので馬車に泊まるというのはどうでしょうか?」
「あたしはお風呂に入りたいですです!」
いま俺達が乗っている馬車は、幌付きの馬車。
作りもしっかりとしてあり、雨風も防げ視線も遮れる。中で3人川の字になって横になれば、十分寝ることも可能である。
ここまで来る途中も、見張りを立てながらそうやってやって来た。
ラティとしては、下手に何処かに泊まってサリオがハーフエルフだとバレないように馬車に泊まる案を提案して来たが、当人のサリオがそれを嫌がる。しかもバレる可能性がもっとも高い風呂に入りたいとぬかす。
「サリオ、風呂は却下だ!バレんだろうが!だけどベッドで寝たいから宿には泊まろう、さすがに窮屈だからな馬車の中は」
「がぉーーん!お風呂はお預けですか~です」
「あの、サリオさんはその方が無難かと、」
多少の危険はあるが、俺はベッドで寝たいので宿に泊まることにする。
しかし本当の理由は。
――無理だぁぁぁ!
馬車の中だと荷物もあるから、結構ギリギリなんだよな、
近すぎるんだよ、吐息とか聞こえんだよ、色々とギリギリなんだよ‥‥
最近は色々とギリギリであった。
公爵家の離れでは別の部屋、最近は一緒の部屋というのは少なくなっていた。
それに彼女とはもう出会ってから1年、前よりも色々と成長しており、ギリギリだったのだ。
色々と‥‥深刻に‥‥
宿を決めた後、俺達はシェイクさんから聞いたエルフを訪ねる。
西のエルフ達の村、【シャの町】の町長タルカシャを。
彼にラティが住んでいたという森を訊ねる為に。
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