バザー
本編が始まります
「どうしてこうなった?」
百人近く収容出来る酒場で、俺は冒険者達から睨まれている。
理由は分かるけど‥‥。
魔石魔物を討伐後。
討伐に参加した者や知り合いなどで宴会をするのが恒例らしい。
冒険者内のお祭りみたいなものらしい、討伐中に亡くなる人も出てくるから、追悼の意味も込めて行われるようだ。
昨日も魔石魔物討伐宴会があったようだが、俺は宿に篭っていたから知らなかったのだ、知っていたとしても行かなかったが。
そして今回は犠牲者無しだった為に、いつも以上の盛り上がりを見せている。
この宴会では、討伐に貢献度の高かった者を称え、逆に貢献が低かった者を、吊るし上げにするイベント的なモノある。
早い話が反省会も兼ねているのだろう。
「【狼人】のお嬢ちゃん!すげー良かったぜ、いい仕事してたよ」
「ああ、あれ凄かったな、一人で魔物を引き受けていたみたいなモンだったな」
「盾組は反省した方がいい」
今も、その反省会は続いている
「3人も居て5秒も耐えれないってどうよ?」
「そうそう壁になって無いよ、攻撃射線を邪魔するだけの存在だったな」
「馬鹿なに言ってるんだよ!このお嬢ちゃんの足場役って大事な仕事をしてただろうが」
「ああ、それがあったか、足場役やってたな、ゴメン忘れてたよ仕事してたね」
「次からは盾をちゃんと構えて、優秀な足場としてもっと頑張れよ」
たぶん、この反省会は切磋琢磨の意味合いもあるのだろう。
――だが、ちょっと仲間を削り過ぎじゃないですか、
盾役の人が拗ねて『もう俺、忍者になって蝉盾やるよ』とか訳分からないこと言い出してるし、
ラティはMVPらしく、周りに人だかりが出来て次々と話しかけられている。
中には自分達のパーティに誘っている奴もチラホラと。
「キミは最近ここに来た子だよね、どう俺達のパーティに入らないかい?」
「ハイドお前のところの戦闘スタイルじゃ合わないだろう、うちの方があってるよ」
「やめなよ貴方達、彼女困ってるでしょ」
ちょっとした争奪戦が始まっている。
ここは冒険者達の町、【狼人】とか気にしない人が多いのだろう、ラティを誘う人が多い、”フルスイングズ”もまた誘いに行っている。
俺はそれを離れた場所から眺めている。
何か暗黙の了解でもあるのか隔離されている、そして今は隣の奴と話をしている。
「なぁ陽一、ラティちゃん大人気だな」
「ああ、そうだな亮二、お前もそう思うか」
「あの活躍だったからな」
「ああ、凄かったな」
「でもトドメのキッカケとなった、陽一の槍は誰も気付いてないんだな」
「丁度みんな一斉攻撃していたんだから、俺だけって訳じゃ無いし」
「なるほどね、あと、ラティちゃんが人気なのは他に理由あるんだよな」
「うん?」
「ラティちゃんは手篭めにされている奴隷の可哀想な子だって」
「へ?」
「認識だから余計に誘って助けてあげたいってのも理由らしいぞ」
「たく、誰だよその噂を流した奴は」
「ん?上杉、あいつのパーティがその噂話し流してるの見たし言ってたし」
( やっぱアイツか )
「彼女は可愛いからな、それに強い。なんでお前と一緒に居るんだろうな」
「ラティが奴隷で俺が買ったからだろ」
「奴隷でお前が買ったからか」
「そうだよ」
「そうか」
亮二となんとも言えない会話を続けていると、宴会の〆なのか、MVPに今回の討伐で出た、巨大な魔石の授与が始まった。
ラティはそれを軽いポーカーフェイスのまま受け取る。
――もうちょっと表情出せば良い場面なんだろうな、
いや!駄目だ、面倒なのが増える、
そんな事を考えていると、ラティが近づいてきて俺に魔石を渡してきた。
「ご主人様、魔石を頂きました、どうぞお受け取り下さい」
「「「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」」
一斉に静かになって俺の方を冒険者達が見つめてくる。
なんともラティらしい行動だった。
それを冒険者達が無言で見ている。
冒険者達は、嫉妬と驚きを混ぜたような視線に、非難と軽蔑を足してから驚きを引いたような視線を俺にぶつけてきた。
( もうそれ悪意しかねぇじゃないか )
これ以上この場に居ても、碌なことにならなそうなので、宴会を後にする。
帰ると伝えると、その嫉妬が5割増しした視線が背に突き刺さった。
( ラティさん、なんて事してくれるんじゃい! )
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日は、早朝から馬車に乗り城下町を目指す。
城下町に一度戻る理由は壊れた槍を新しく買い直しと、貯まってきた【大地の欠片】の売却が目的である、巨大な魔石も売る予定だ。
そして今は馬車に揺られ、あの時の事を思い出していた。
あの時、俺はラティを羨ましいと思った。
【狼人】と言うだけで迫害されてきたラティは、魔石魔物討伐後、周りから称賛されていた。
それはラティが努力して手に入れた強さであり、誇るべきものだった。
いまの俺は、周りから誤解による非難や、勇者としての能力を持っていないことでの非難と差別を受けている。
俺はその誤解を解こうとか、非難を受けないようにするなどの、努力をしていなかった。
それなのに俺は、努力をして評価を勝ち取ってきているラティのことを、単純に羨ましいと思ってしまった。
自分に腹が立ってきていたのだ。
称賛されるラティを見て素直に『良かったな』と言えなかった自分に。
この負の感情を解消するには、ラティを貶めて悦に入るか。
並び立つことの出来る存在になるか、それともすべてを諦め切るか、
当然並び立てるような存在になるのが一番なのだろう。
でもそれは簡単なことではない、とても難しいこと。
「簡単な事じゃないよな~、ああ、嫉妬かっこ悪い‥‥」
「あの、ご主人様どうしたのでしょうか?」
「いや、何でもない」
無意識に口に出ていたらしい、精神的に弱気になっていたのだろうか。
「あの、ご主人様そろそろ、撫でるのは、、」
「あれ?いつの間に、ごめんよ気付いたら撫でてたよ」
最近無意識にラティの頭を撫でてしまう癖がついた。
精神安定のためだろうか、考えごとや他にも自分の悪評などで、落ち込んでいると、つい撫でてしまう。
ここは心を落ち着かせよう、まずはラティの頭を撫でて。
閑話休題
馬車に揺られて数時間、城下町に着いてから【大地の欠片】と魔石を売却をした。金貨12枚にもなった。
今回は魔石が高く売れたこともあり、巨大魔石を貰ってきたラティにも金貨を渡すべきと考え、金貨六枚渡そうと思ったが、ラティには「奴隷ですから」と断られた。
何とか説得して。せめて半分でもと、金貨三枚をなんとか渡せた。
「ホントに三枚も頂いて宜しいのでしょうか?」
「出来れば六枚受け取って欲しかったんだけどね」
「わたしは奴隷の身ですので、その金額は受け取りかねます」
「でも魔石を貰ったのは、本来はラティだし、」
そんなやりとりを繰り返していた。
もう一つの目的である、槍を買いに行くと、丁度バザー市が開催されていた。
「あの、ご主人様、定期的に開催されるバザーがやっているようです」
「結構大きいね規模、」
「稀に掘り出し物があるようですよ」
「お、ちょっと見てまわろうか」
中央の大通りを使ってバザーが開催されていた。
だが、それよりも気になった事があった。
ラティのテンションが少し高い事だ、彼女にして珍しい反応だった。
二人でバザーを見てまわる。
「ここなら槍も売ってるかな、前にいった店は2種類しかなかったから」
「そうですね、探し回ってみれば良いのが見付かる知れません」
「よし、探して見よう」
「あの、ご主人様 提案なのですが、広いので手分けして探すのはどうでしょうか?」
「ああ、確かにそっちの方が効率が良いか」
「はい」
ラティの提案の乗り、二手に分かれて新しい槍を探すことにした。
しばらく探していると良さそうな槍を見つけた。
槍の良し悪しを判断しきれず、ラティに相談をする為、今度はラティを探す。
すぐにラティは見つかったが、少し様子が違っていた。
ラティはバザーの売り子の人と、困った様子で何かの交渉をしていたのだ。
「お願いします、売って頂きたいのです、この小手を」
「悪いけど、【狼人】に売る商品は無いよ」
「お願いします!代金の金貨二枚に追加で金貨一枚出しますので」
ラティは【狼人】だと言う理由で商品を売って貰えない様子だった。
やはり冒険者以外だと差別の風習は根強いらしい。
俺が代わりに買いに行こう思い、ラティに駆け寄ろうとしたが‥‥。
「よう、売り子さんよ、売ってやれよ」
「そうそう、この子スゲー強いんだぞ」
「売ってたやってくれよ、この子には昨日世話になったんだよ」
3人の冒険者がラティを助けに入った。
確か昨日の魔石魔物戦で居合わせたメンツだった。
その3人の口添えで、ラティは小手を金貨二枚で無事に購入した。
「あの、ありがとう御座います、助かりました」
「いいってことよ」
「俺達も昨日は世話になったんだし」
「【狼人】だから売って貰えないって方がおかしいんだよ」
ラティは冒険者にお礼を言ってから、また何処かへ移動した。
俺はラティに槍の【鑑定】をお願いしに来ていたので、ラティを追いかけた。
「ラティ、良い槍があったんだけど、【鑑定】お願いできないかな」
「あ、ご主人様 丁度良かったです、この小手を使ってみてくれませんか?」
ラティは先程の小手を、俺に渡してきた。
彼女が言うには、この小手はとても珍しい物で、一般の店では見かけない物だと言うのだ。
理由は、小手として優秀と言うより、特別な効果があるのだと。
そしてその効果を知っている人が少なく、数も少ないらしい。
「へぇ、握りながら力を込めると、この楔が出るんだ」
「はい、この楔を地面に刺して『ファランクス』と唱えると、魔法の結界盾が展開するんです」
その小手は一種のマジックアイテムだった、価値的には金貨十枚以上。
まさに掘り出し物ですと、ラティがいたずらっぽい顔で教えてくれた。
そして次に嬉しそうな顔で俺に伝えてくる。
「よかったです良い物が見つかって、ご主人様に何かお礼の贈り物がしたかったので」
「それで、分かれて探そうと提案したのか」
「はい、わたしが負傷した時に全額出してまで助けて頂きましたから」
ラティからの予想外のプレゼントを貰い、お礼言ってから槍が売っているバザーの店に移動した。
「この槍なんだけど、どうかな?」
「はい、金貨二枚分に見合う品だと思います」
「んじゃ買おうかな、あれ?」
槍を買おうと商品を見ていると、少し珍しい剣が目に入った。
刃の部分に糸でも巻いたかの様な凹凸がある武器だった。
独特な刃が気になり、槍を買うついでに店員に聞いてみる。
「この槍を下さい、後この剣って珍しいですね」
「お買い上げありがとです、あとこの剣ですね」
小学1年にしか見えない、小さい店員さんが説明をしてくれた。
なんでも珍しい製法で作った剣で、ある特別な蜘蛛の糸を混ぜて作るのだと。
刃にできてるその僅かな凹凸が引っ掛かり、斬ると言うより掻っ切る感じで、多少非力な人でも固い皮など切り裂けると言う一品だと。
「それ買った!その剣を売ってください」
「ぎゃぼー!貴重品です金貨六枚もです良いのですかです?」
「はい、金貨六枚です」
( ぎゃぼーって小さい子だから面白い口癖だな )
俺はラティから貰った小手のお礼に、実は新しい剣を探していた。
この剣はラティに合っていると判断して購入に踏み切った。
掻っ切るってのがいかにもラティらしくてよかったからだ。
その後は、久々に宿の獣の尻尾に向かった。
宿屋の部屋の更新を行い、食後は部屋で明日の予定を相談した。
「あの、何度も失礼ですが、ホントに宜しいのですか?この剣を頂いても」
「ああ、そろそろ新しい強い装備必要になるしね」
「あの、ホントにありがとう御座います」
「俺もこの小手本当に嬉しいよ、ラティから貰えるなんて、」
「喜んで頂けてなによりです」
ラティがとても嬉しそうに微笑む。
「明日、外で試して見よう小手の効果を」
「それでしたら、わたしもこの剣の試し切りをしてみたいですねぇ」
「じゃぁ、明日はこの周辺で【大地の欠片】狩りも久々に行こうか」
「はい、ご主人様、ちょっとの間離れただけなのに、懐かしいですね」
ラティと明日の予定を決め、その日は少し早めに休んだ。
そして次の日、城下町の外に向かって行く途中。
中央通りの冒険者ギルド前を通る時に、ちょっとした出来事に出会った。
「ハーフエルフがギルドに依頼なんて、しようとしてんじゃねーよ」
「でもでも、受けて貰えないと、あたし困るんですぅーーー!」
「いいから、帰れ!」
「がぉーーーーん」
俺達の目の前で、ギルドから追い出された女の子が泣いている。
ちょっと独特な泣き声だった。
「えっと、大丈夫か?」
「はい、号泣ですが大丈夫です、ってアレ」
その泣いている女の子は、昨日バザーで売り子をしていた子だった。
そしてこちらが昨日の客だと気付くと、凄い勢いで、ほとんど死に物狂いで掴み掛かるように話し掛けてきた。
「ああああ、ぎゃぼーーーー!昨日、剣を買われたお客様ですよねです?」
「――っああ‥‥」
( 嫌な予感がする )
「実はですね!ですね!昨日の売った剣は売ってはいけない剣になったらしく困ってたのですよ、それでそれで、素材を獲りに行かないといけなくて、でもギルドには断られて、困ってて、それで、」
「ちょっと待って、一度落ち着いてから話してくれ」
それから売り子の少女の話を落ち着いて聞くことになった。
内容は、ラティに売った剣を欲しいと言う人がいて。
その人がお金を取りに戻っているうちに、俺が買ってしまったと。
そしてその人は、その剣がどうしても欲しいと言うのだ。
新しく作るにも、その剣を作るには特殊な材料が必要で。
その素材をギルドに依頼をしたが断られてしまったと。
「取り合えず、ラティの剣は返品はしないからな」
「うう、、です、、」
その剣を返してくれたらな~的な、空気を相手がかもしだした時に、ラティが剣を大事そうに抱えたのが見えたので、その案は却下した。
「でも、なんでギルドに断られたんだ?」
「それはあたしがハーフエルフだからですぅうう、がぉーーん」
「なぁ、ラティまさか、、」
「あの、そうです、歴代勇者様全員がハーフエルフは人間にもエルフにも激しく嫌われるものだと」
「またアイツらかーー!って、歴代全部が?」
「はい、初代から十二代目まで全部です」
「そんな理由でまた迫害されてるのか」
俺は、勇者達が原因で理不尽な迫害を受けているハーフエルフが可哀想だと思ったのと、ラティが剣を憂いなく使えるために、依頼を受けようと決めた。
( ラティも剣のことは気にしてるだろうからな )
「わかった剣は返せないが、俺がその素材取りを行ってやる」
「ぎゃぼー!ホントですか?ありがとです、これ失敗したら追い出される所でしたです」
「まかせろ、ラティもそれでいいかな?」
「はい、ご主人様」
こうして予定を変更し、俺達は急遽依頼を受けることになった。
――勢いで依頼を受けちゃったけど、
俺でこなせる依頼かな、内容確認してなかった、
読んで頂き感謝です
そして空白は埋まらない、、