さきぶれ
オッドとの決闘後。
意外にも、何事もなく終わりを告げた。
決闘を取り仕切っていたのはハーティさん。
そのハーティさんが、『はい解散!』っと声をかけ、野次馬を散らしたのだ。
問題児は、小山とガレオスの2人に連行される。
小山だけだと不安だが、ガレオスさんがいるならマシと、俺は判断をする。
俺の方は、乱闘騒ぎを起したのだから、もうちょっと何か注意をされるかと思っていたのだが、特に強く何か言われることは無かった。
ただ一つだけ、チクリと言われた言葉は。
『陣内君もガス抜きが必要だと思っていたからね、ある意味丁度良かった』
との、ハーティさんからのお言葉。
どうやら、俺も結構キテいたらしい。俺自身は全く気付いていなかったが。
――ああ、あの時言ってたガス抜きって
アレは俺も含まれてたのかよ、言ってくれよハーティさん‥
乱闘後、再び見張り役に俺は戻る。
そしてその隣には。
「やっと普通に戻ったのですねです」
「っう、そんな顔に出てたか?俺‥」
「サリオが心配して、アタシに相談をしに来てたわよ」
「ああ‥だからあの時、テイシの横に行ってたのか、」
「お顔には出てなかったですけど、纏っている空気と言うか‥です‥」
「そうか、」
――何気に心配かけてたのか。
サリオでも気付く程に、溜まってたのか俺、
なんだかんだ言ってサリオも‥
「それと目つきがなんかヤバかったのです!あ、あれ?今も腐ったままです?」
「うるせぇ!元からだよ!っこのイカっぱら!」
「ぎゃぼぼぼーー!!」
俺はサリオに折檻をかます。サリオの悲鳴が木霊し、周囲の安眠を妨害した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日。
見張り役の後、短めの仮眠を取り起床すると、オッドと数名の姿が消えていた。
少し気になり、俺はハーティさんに訊ねる。
「ハーティさん。何人か減った気がするんですけど、帰したとか?」
「うん?ああ、ちょっと頼みごとをしたのさ」
「頼みごと?この竜の巣で?」
「頼みごとっていうよりは、冒険者連隊の仕事かな?ちょっと先触れを頼んだんだよ」
ハーティさんからの説明だと。
どうやら、足の速い数人だけで、一足先に地上へ向かって貰ったそうだ。
全体での移動よりも圧倒的に速く、どうしても先に伝えて置きたい事と、それを用意して欲しいモノがあるのだと言う。
それにオッドが参加しているのは、昨日の罰らしい。
「それに今は、まだお互い顔を合わせない方が良いだろうし」
「いや俺は別に‥」
「ん?ああ、そうか知らないのか陣内君は」
「へ?」
ニヤニヤと俺を見るハーティさん。
とても話したい事があるから『さぁ聞くのだ』っとばかりな顔をしている。
少し嫌な予感はするが、コレは聞かないといけない雰囲気。
「何かあったのですか?その‥オッドに、」
「お?素直に聞いてくれたね、良かった。ならば話そう!」
そしてハーティは語る。
俺が知らない所で起きていた、物語を――
『あの、オッドさん』
『ええ?ラティさん!?え?もしかしてオイラの想いが、』
『あの、何か勘違いされておられるようですが、違います』
『うっ、そうッスか、なら何の用ッスか?』
『先程の決闘前に、わたしと番になりたいと再び申しておりましたので、その返事に参りました』
『そうっス、オイラは貴方と番になりたいッス!雄の狼人として』
『あの、それは男の狼人としてですか?』
『そうッス!雄の狼人として、狼人の貴方に惚れて、』
『あの、少々話が逸れてしまいました。まず最初に、お断りさせて頂きます』
『あうっ』
『そして、理由を聞かねば納得出来ないでしょう、それとご理解も‥』
『そうッス!訳を!何故子供も成せない人間となんて‥、おかしいッス!』
『あの方は、わたしを見てくれます』
『オ、オイラだって貴方を!?』
『でしたら、わたしが狼人では無かったらどうしますか?』
『――っがぁ!?』
『それに、わたしと共に居ると言う気概を、貴方は見せられますか?』
『きがいッスか!?えっとヤル気みたいなもんッスね?それなら、』
『見せられますか?と訊ねております。ヤル気のあるなしではありません』
『で、出来るッス!やれるッス!そんなの幾らでも――』
『ならば。巨竜が相手でも、その顔面を素手で殴れますか?』
『あの‥、竜の顔を、?』
『囮役として、あの巨竜の突撃を正面から受けられますか?』
『無茶ッス!出来る訳が無いッス!そんなの‥』
『ヨーイチ様はそれを成しております。距離を取って翔けるだけとは違います!』
『っあ、ああ‥‥』
『仲間達を守る為に、そしてわたしを守る為に‥』
『そ、そんなの‥』
『ヨーイチ様は、わたしの主たる気概を常に見せてくれます』
『でも、でもッスよ?アイツは人間ッスよ?』
『それが何か?何か問題でもあるのですか?』
『なんで、なんでッスか!なんでアイツをソコまで想えるんッスか!?』
『わたしはヨーイチ様に‥、いえ、これ以上語る必要は無いですねぇ』
『好きってことッスか?それとも愛、』
『貴方にこれ以上語る必要はないです』
「って感じなことがあってさ、バッサリといってたよ」
「‥ハーティさん、それ盛ってませんか?幾らなんでも、ラティが‥」
「酷いな~、本当だって。それにこの話は口止めされてたし」
「誰に?」
「うん?勿論ラティさんにだよ。ご主人様のお耳汚しになるからだってさ」
「ラティが‥」
俺はとても嬉しく、そして凄く気恥ずかしくなった。
ラティがどんな思いで、ソレを言ったのかは解らない。
ハーティさんの話が、誇張した話で無ければ。ソレは好意的であろう。
嬉しい、だが照れる。そんな気持ち。
俺はテレ隠しの為か。つい、しょうも無い話を、ハーティさんに振ってしまう。
「ハーティさん、」
「うん?」
「先触れって、なんか卑猥な感じしますね」
「‥‥陣内君、君は何を言ってるんだい?全く‥ホントに、」
( うう、アホな事言った、)
「話を逸らすにしても、もうちょっと他にあるだろう」
「ぐぅ‥」
「でも、言葉さんに、ちょっと言って貰いたいワードかもね、」
「アンタも何言ってんだよ!」
俺の露骨な誤魔化しに、ハーティさんもアホな事を言ってつき合ってくれる。
追求や茶化しなどぜずに、誤魔化されてくれる。
だが後ろには。困った表情の言葉と、ジト目気味の目をしたラティが立っており、色々と気まずい状況は暫く続いた。
閑話休題
俺達はその後、一日かけて地上へと戻る。
竜の巣に潜り、約一週間。俺達は無事に帰還した。
誰も犠牲者を出さずに、勇者達を救出したのだ。
竜の巣の一層辺りから、レベル上げや狩りをしていた冒険者達も合流し、最終的には100名を超える人数で水上都市の門を潜る。
正式に情報が流れた訳では無いのだが、やはり勇者が行方不明という噂は流れており、その勇者達が生還したので、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。
門を越え水上都市に入ると、先に帰還していたオッド達がやってくる。
「ハーティさん!話は通してあるッス!中央の広場を使っていいっス」
「よし、広場をしっかり押さえられたか!それなら問題無いな」
「ハーティさん?広場を押さえたって?」
俺はハーティさんとオッドの会話に疑問を感じ、それを訊ねる。
だがその質問には、何故かガレオスさんが反応を示す。
「はは~~ん、ダンナには教えてなかったのかハーティさんよぉ?」
「あ!そう言えば、まだ言ってなかったデスネ」
「白々しい、ワザとだろ?驚かせようとして‥、ダンナ、実はな――」
俺達は、水上都市中心に近い大広場へやって来た。
見物に着いてくる冒険者や街の住人は、すでに数えるのは無理なほどに膨れ上がっており、しかもまだ増え続けている。
そして、大きく開けた場所に、橘が巨竜を【宝箱】から取り出した。
「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」
竜という珍しさ、そしてその巨大さに見物人から歓声と驚きが吹き荒れる。
巨竜を取り出した橘は、最高に良い笑顔を見物人に向ける。
「なんでアイツが偉そうにしてんだよ、」
「まぁダンナ。一応、勇者タチバナ様が居たから運べたんですし」
「うん、これなら問題無いな。下手な噂話なんて吹き飛ぶな」
ハーティさんとガレオスさんの狙い。
それは、勇者が行方不明になったと言う、マイナスのイメージを消し飛ばす事。
冒険者稼業、舐められるのは不味いと言う。
生還したことを好意的に捉える者は多い。だが、その逆で不安視する者も多い。
勇者の楔の効果で、身近に居る者は問題無いが、噂のみで判断する輩には通用しない。
ならば、噂を利用すべく。
マイナスのイメージが吹き飛ぶ、強力な話題を提供すれば良いのだと言う。
それが、この25メートルを超える巨竜の亡骸。
しかも竜は貴重な素材にもなる。
加工系の職人達が、きっと群がってくるだろうと。
そしてそれに気前良く売り捌けば、それでまた評判が上がると。
このデモンストレーションの為に、オッド達を先に向かわせて、広場などの許可を取っていたのだ。
ゼピュロス公爵家としても、有難い話であり。断る理由が無い。
こうして俺達は、祭りを行うこととなった。
まず最初の目玉は、巨竜の素材販売だ。
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