表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

146/690

破る理由

ある狼人のお話

 この異世界は狼人に冷たい。

 冷たいと言うよりも、厳しいの方があっているのかも知れない。


 東は無視され、南は陰口、北は叩かれ、中央は後ろから蹴られる。

 唯一西だけは、何事も無く過ごせる。


 過ごせると言っても、碌な仕事がない。

 命懸けか安い金で、こき使われるの二択。

 決して楽ではない。



 ただ、お芝居の裏方の仕事だけはマシであった。

 仕事の内容はキツいが、タダで芝居が観れる。

 本来であれば、チケットを買って入場しようとしても叩き出される。

 客席に狼人がいると、評判が悪くなると言う理由でだ。


 だが、裏方の場合はこっそり見ることが出来る。

 その代わり、賃金はかなり低いが。




 そんなある日、俺の人生が変わる出来事が起きた。

 安い金で命を張る仕事、冒険者達の荷物運び兼囮役をやらされている時にだ。


 俺は勇者様に見い出されたのだ。

 非力な片手剣しか使えない俺に、その勇者様は新しい力を教えてくれた。

 ちょっと速く動けるだけの俺に、最高の戦い方を教えてくれた。


 それから強くなるのは、あっという間であった。


 相手を屠るだけが強さじゃない、強い一撃だけが攻撃じゃない。

 そんなことを勇者様は俺に教えてくれた。

 自分が生かせる最高の戦い方、迅盾を俺に授けてくれたのだ。


 

 その勇者様は言った。


『その迅盾を教えてくれた、狼人の少女と同じ【固有能力】を持っていたから、迅盾と相性がイイと思ったのさ』


 勇者様の言う【固有能力】とは、【天翔】と【駆技】それと【体術】。

 攻撃を行うには、そこまで有効ではない【固有能力】だが、迅盾という戦闘スタイルを行う場合は、とても有効な【固有能力】だった。


 そしてオイラ・・・は、迅盾を授けてくれた勇者様を師匠と呼ぶようになり、尊敬し少しでも近づきたく、振る舞いや口調を少し・・マネするようになった。

 


 ある日、オイラは師匠に芝居を観に行こうと誘われる。

 なんでも、狼人が主人公の珍しい芝居だと言う。

 

 当然、その誘いに応じる。




 感動だった。

 最初は酷い奴隷の扱いだったが、まさに輝きを増していく狼人の少女。

 他のお芝居でも、ちょくちょく見かける3人組を思い出す。

 当然役者は違うのだが、槍を持った男に、狼人の奴隷、ハーフエルフの奴隷。

 

 最初は何かの偶然かと思った。

 だが、その3人は実在すると言う。


 芝居に出ていた、亜麻色の髪の狼人は実在すると言うのだ。

 もし、瞳が藍色であれば、それは――



 


『好きです!惚れました!オイラと(つがい)になってくださいッス!』 


 気付いたら告白していた。

 耳のテッペンから尻尾の先まで電流が流れるような想いだったのだ。

 だが、断られる。


『貴方が欲しいッス!――って?あれッス?』


 今度は己の確固たる意志で、思いを伝え行動に移す。

 目の前に居るのは、あの奴隷の少女。

 芝居の中の狼人ではなく、芝居の元をなった狼人の少女。


 此処で告白しない狼人の雄は、耳と尻尾を削ぎ落とすべき。

 そう思わせる存在が目の前にいた。



 彼女に触れたい、髪に触りたい、耳に触れたい、尻尾に触れる権利を得たい。

 その全てを込めて抱きつく。

 抱きしめてやる!香りをかぐ!感触を確かめる!毛並みを撫でるつもりでいた。

 だが、避けられた。


 自分の間合いだった、全力だった、抱きしめたはずだった。

 気付くと彼女は下がっており、しかも黒い奴の陰に隠れている。

 まるで、最近観た芝居のような場面。


 それが頭にあったのか、咄嗟に口にしていた。

 芝居で聴いたような台詞を。


『オイラ金貨千枚はまだ無いッスけど、彼女が欲しいんッス!』


 思わずそんな事を言ってた。

 芝居を観ていてムカついていた、彼女を買おうとする奴等と、同じ台詞を。




 他にも必死になって何かを言った気がしたが、ここで記憶が途切れる。

 後で話を聞くと、あの黒い奴にぶちのめされたらしい。


 不意打ちで無ければ、後れを取ることはなかった。

 十分な間合いさえあれば、オイラの空中殺法が使えたのに。

 オイラが逆にぶちのめしてやったのに‥



 それから屈辱的な約束をさせられる。

 だが、それを守らねば師匠を助けにいけない。

 しょうがないので、オイラはそれを受け入れた。



 約束はさせられたが、オイラを魅せ付けるのは問題ない。

 オイラの迅盾を。


 あんな奴より、オイラの方が(はや)く雄雄しい所を魅せつけてやる。

 



 しかし調子に乗りすぎた場面もあった。

 竜に喰いつかれそうになったのだ。


 だが、その瞬間彼女が助けてくれた。

 普段は照れているのか、ほとんど近寄らせてくれない彼女が触れてきた。

 

 雌に助けられると言うのは、雄として情けない気持ちだが。

 惚れた相手に助けて貰うと言うのは、悪くなかった。


 そう、(つがい)とは支え合うモノなのだから。



 しかし、オイラが作った決定的な瞬間を奴に取られた。


 迅盾はチャンスを作るのが仕事だと理解している。

 あんな奴に、攻撃出来る隙を作ってやってしまた。腹が立つ‥


 


 一つ不可解なことがあった。

 アイツがWSウエポンスキルを放たないこと。

 だがその理由をすぐに知った。


 アホらしい事に、奴はWSウエポンスキルが放てない。

 それは、戦士が剣を振れないに等しい。


 確信する。

 当たり前のことだが、奴は彼女に相応しくない。

 元から狼人ではないのだから、奴は相応しくなかったが、これでより深まった。


 相応しくないと‥‥


 あの巨竜相手でも、一歩も引かず戦い、華麗に舞う彼女に、改めて惚れ直す。


 オイラがどうしても距離を取ってしまう巨竜が相手でも、彼女は肉薄し巨竜の眼前を翔け巡り、絶対的な(チャンス)を作り出す。


 迅盾を創ったと言う彼女。

 オイラとは別次元の高みにいた。




 死ぬほどムカつく事があった。

 奴は彼女の前で、勇者コトノハ様を背負っていた。


 コトノハ様の表情から、感じ取れるモノがある。

 奴は、奴はコトノハ様にまで手を出している。

 コトノハ様の心を掴んでいる。


 ムカツク思いが吹荒れる。

 もう約束など知ったことか‥‥だがその前に。




 オイラは奴を睨み続ける。

 途中で気付く、オイラから行かなくとも、アイツから突っかからせてやる。

 ギリギリまでは、守ってやろう約束を。


 3層に上がるために階段を登る。

 奴を睨んでいると、どうしても彼女も視界に入る。

 そして今は、階段の下から見上げる形で。


 不可抗力で仕方ないので、仕方ないので見上げる。が――


 ここでも奴が邪魔をする。

 何故か彼女のすぐ後ろに立ってオイラの視界を邪魔するのだ。

 いちいち苛立つ。




 そしてそれが最高潮に達した。

 奴は彼女の耳を撫でたのだ。



 オイラが不意に手を伸ばしても、それを避ける彼女が、その手を避けない。

 しかも彼女の表情は‥‥


 ――違う!絶対に違う!

 あんな顔をするなんて!絶対に見間違いだ!

 あんな表情を見せるなんて‥‥




「ジンナイ!お前なにしてんッスか!」


 アレは見間違いだから、オイラは止めにいった。

 彼女があんな表情をする筈がない。


 

 安心しきって安らいだ顔をする筈がない。絶対に――


 だからオイラは、嫌がる(・・・)彼女の為に約束を破ろう。

 元から守る必要のない約束を‥‥


 嫌がる彼女を助ける為に。




読んで頂きありがとう御座います。

すぐ次を上げる予定です、


宜しければ感想など頂けましたら、嬉しいです。


あと、誤字なども御座いましたら、教えて頂けると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ