固有能力
前回の【固有能力】のお話
ちょっとした説明回?後半
勇者召喚の話や、魔王のこと。
俺や勇者である言葉も、かじる程度なら知っていた。
初代勇者の仲間、シャーウッドから聞かされた話。
俺は頭の中で話を整理する。
そして一つ思う。
――なんて回りくどい事を、
しっかり倒せよ初代ぃぃぃいい!
世界樹を切り倒しておきながら、実は倒し切れていないとか、
そんでその尻拭いに呼び出されたのが、勇者達かよ、
無性に腹が立つ。
今はまだマシだが、最初の頃は本気で酷かったのだから。
( 王女とラティが居なかったら野垂れ死んでたな )
俺が最初の頃を思い出し、その怒りを再燃させていると。シャーウッドの話に驚いたのか、俺の腕に縋り掴んでいる言葉が、先程よりも腕に力を入れて俺に縋りつく。
彼女に縋り付かれる事で、怒りと毒気が抜けていく。
女性に頼られるというモノは、存外に冷静さ取り戻すモノだった。
ただ、別の感情の部分が、冷静では無くなったが。
――おお、ふわっとする‥弾力のあるふわっとが、
つか、コレって言った方がいいのか?当たってますよ?って、
いや、無いな!ここはスルーだ!聞けるか!いや、シャーウッドの話を聞こう、
様々な葛藤を抱えつつ、俺はシャーウッドの話に耳を傾ける。
先程の魔王の話よりも、イキイキとして【固有能力】をシャーウッドが語る。
『君達は、【固有能力】って呼び名に疑問を感じなかったかい?』
「ん?【固有能力】って【加速】とか【鑑定】とか?」
『そう、人が持っている能力や特殊技術』
「みんな持ってるし、別に‥」
「あ、固有がおかしいのですね?」
『正解!』
言葉の回答に、満足げな笑みを浮かべ頷くシャーウッド。
『昔、まぁ1300年前はみんなが持ってた訳じゃ無いんだよ』
「固有能力を?」
『うん、固有能力を3個持ってたら、かなり凄いってレベルだね』
「確かに、3個は欲しかったよ‥」
『そんなに多くの人が持ってた訳じゃ無いし、種類もほとんど無かった。一人一個って感じ。だから固有だったのさ、』
「それが?」
『多分、勇者の影響で広まったんだよ』
「は?」
『本当の理由は分からない。だけど勇者達が身につけた【固有能力】の一部は、伝染でもするかのように、生まれてきた子供達が持ってきたんだ――』
それからシャーウッドはそれを詳しく説明してくれた。
生まれてきた子供達とは、勇者達の子供かと思ったが、どうやら違うらしく、生まれてくる全ての子供達が、数多くの【固有能力】を持って生まれるようになったと言うのだ。
それから1300年経過し、今では持っているのが当たり前のようになり、ただ、呼び名の【固有能力】だけはそのまま残ったと。
「シャーウッドさん、それを貴方は【千眼】で見てきた?」
「うんそうなんだ、びっくりしたんだよ?みんな【固有能力】持っているのだから。しかも複数で数多く」
「でも、なんでその【固有能力】の説明を?興味が出たとか、さっき俺が話題に出たからとかじゃないですよね?他に何か理由が?」
『案外鋭いね。こっからが本題だ。【固有能力】は合わさったりするんだ。【天翔】と【駆技】の両方の能力を持った【天駆】みたいにね。これは価値が高い【固有能力】』
――あ~~、確か伊吹が持ってたなソレ
両方の能力があるって言ってたな、
で、それが、?
『魔王発生の説明に戻るけど、格って説明したよね。価値が高いって意味で説明したけど』
「説明受けましたね、さっき‥」
『僕は、勇者が魔王になる原因の一つが、この価値の高い【固有能力】が原因じゃないかと思うんだ。例えば、露骨に【魔王】みたいな【固有能力】を持っていたとかね』
シャーウッドの考察、そしてその仮説に俺達は固まる。
確かに勇者達は、この異世界人が持っていない【固有能力】を持っている。
いま横にいる言葉もそうだ。彼女は確か、【女神】と【蘇生】の【固有能力】持っていると聞いた。
しかも、【蘇生】には一度お世話になっている。
価値と言う点では、計り知れない程高いだろう。
【女神】は見当付かないが【蘇生】なら、【治癒】と【強化】が合わさって【蘇生】になったとか、そんな感じなのかも知れない。
そしてシャーウッドの言っている事は、言葉が魔王になる可能性が高いと言っているのだ。本人の目の前で――
俺の腕に縋っていた彼女が、今は腕にしがみついている。
魔王になる可能性に脅えているのか、震えながらしがみつく。
――そりゃそうだな、、
当たり前だよな。魔王の説明をしていたと思ったら、
不意打ちみたいに、自分が魔王になるかも知れないって言われたんだから、
脅える彼女の姿に、庇護欲が激しく刺激される。
きっと男であれば、誰でもそう思うであろう、脅えた表情と頼りない姿。
だから俺は。
彼女を安心させようと手を伸ばす、そっと彼女の頭の上に。
優しく撫でてあげようと――
「やっと辿り着きました」
「へ?」
俺の背後に、ほとんど音を立てずラティが上から着地していた。
「ラティ!?」
「ラティさん!」
『おや?追加のお客さんかな?』
俺は話に夢中になって、ラティが近づいている事に気付いていなかった。
降り立ったラティは、帰り用のロープを握っており、そのロープをつたってハーティさんも砂で満たされたこの小部屋に降りてくる。
「ふ~、やっと着いたか。ちょっとしたアスレチックだな。あれ?犬がいる?」
「ハーティさん?あれ何でハーティさんが?」
後で呼ぼうと思っていたハーティさんが降りて来ていた。
正直意外であった。
俺達の救出に来るなら、伊吹かテイシといった身軽なタイプが来ると思っていた。だが、ハーティさんがやって来た。そして彼からの言葉ですぐに理解出来る。
「僕以外は上から離れられなくてね。何時また竜が襲って来るか分らないから」
「あ、なるほど」
竜を相手にするには、迅盾と竜の鱗を貫けるアタッカーが必須。
迅盾はラティが適任だが、きっと無理を言って降りて来たのだろう。他に迅盾が出来るオッドなどがいるのだから。
だが、アタッカーの伊吹とテイシ、この2人は外せない。
ガレオスさんも冒険者連隊を指揮する立場で、上に必要。
それでハーティさんが降りて来たのだろう。
――まぁ、都合よかったか、
上に呼びに行く必要なくなったし、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は今、ロープを伝って上に登っている。無心で――
ラティとハーティさんの登場で、シャーウッドの話は一時中断された。
脅えていた言葉も、『あくまでも、仮説だから』っとシャーウッドに説明され、落ち着きを取り戻す。
ハーティさんは、ここに来た目的。
この異世界が、実はゲームであり、コンピュータの中の世界。意識だけを持って来られており、『肉体は元の世界にあるのでは?』っとシャーウッドに確かめるつもりらしい。
どうやらハーティさんは、シャーウッドはGMか、もしくは管理者なのでは、と思っている様子。
小声で俺に、『確認したいんだ、一人で‥』と呟かれ、俺はハーティさんの意を汲んで、先に俺達3人だけで、落ちた穴を登っている。
そう登っている。俺とラティの2人が。
「すいません陣内君‥キツくないですか?」
「ダイジョウブダ、モンダイナイ」
「‥‥‥プッシュー‥」
下から不機嫌そうな息漏れの音が聞こえて来る。
「ごめんなさい、私がちゃんと登れれば‥」
「キニスルナ」
背中に感じる圧倒的な、ふわっと感。
登る事だけに意識を集中しないと、動けなくなる状況。
かつてない程、登ることだけに集中している。
地下迷宮での、崖登りよりも必死で‥
――マズイ不味い拙いっ
下にはラティがいるんだぞ!
下手に止まろうモノなら、絶対にヤバイ!
勘繰られる!
落ちた穴は、垂直という程ではないが、それなりの角度。
普通の女の子には、とても登れるモノではなかった。
当然、言葉は普通の女の子。レベルが高いと言っても、それはステータスだけの話。運動神経まで上がる訳でない。
登れない言葉の為に、俺が彼女を背負い、落ちた穴を登ることにした。
レベルが上がっている俺の筋力ならば、彼女を背負っても全く問題なく登れる。
登ることには、全く問題はなかった。が――
背に彼女を背負い、紐を使って固定。
彼女自身も、腕を俺の首に回してしっかりと掴まり体を固定する。
そのようにして俺は登っていた、3人が2人で。
厚手の忍胴衣の上からでも感じる圧倒的な、ふわっと感。
極限まで意識を集中し、血を体中に巡らせ、決して一箇所には集中させない。
首筋にあたる吐息も、神鉄鋼の意志でねじ伏せる。
万が一落ちても、支えられるようにラティを下に配置。
だが何故か、追い立てられているような感覚。止まると刈られるような‥
俺はこの穴登りを、汗と冷や汗を同時にかきながら、登り切るのであった。
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