続ゴタゴタ
引き続き、ゴタゴタ回
竜の巣探索二日目。
俺達は緩やかな傾斜を下り、下の層へ。
勇者救出のため、竜の巣をより深く潜る。
三雲と橘の競い合いは、いまだに続いている。
ただ、レベル差なのか経験の差か、明らかに三雲の方が戦果を上げていた。
したり顔の三雲と、悔しさに下顎を引く橘。
俺達、冒険者連隊の空気は昨日と変わらず、ゴタゴタのまま。
昨日と変わらぬ流れで探索を進める。
勇者2人がフル稼働、ラティが索敵、サリオが照明。
オッドも右頬を腫らしながら迅盾をこなしている。
――あ~~、殴られたのか、
なんか下らない言い訳でもしたのか?アイツ、
でも右頬ってことは左の拳か、ガレオスさん、手加減はしたのか、
ふとガレオスさんに目を向けると、彼は肩を竦める。
やはり説教か何かをしたのだろう。
そして俺達は、3層へ下りる傾斜の手前で、少し早目に野営の準備をする。
まだ進めないこともないが、3層で野営を組むより2層の方が安全であり。此処から下は竜が出ると言うのだ。
鋭気を養う意味でも、今日は早目に休む事にしようと、ハーティさんが提案してきたのだ。
本当は‥早く行きたいはず。
ハーティさん達には、パーティを組んでいる言葉や、伊吹達の位置が矢印で見えているはず。俺達よりも距離や方角が判る分、焦りなどがあるはずなのだ。だが彼はそれをぐっと堪えている。
焦って失敗をしてはならないと。
そしてこれも昨日に引き続き、橘の豪邸により男女が分けられる。
昼食の時とは違い、しっかりとした食事を用意し、各自順番に食事を取る。
俺は食事を取った後、睡魔と闘いながら見張り役をこなしていると。
「陣内君、ちょっといいかい?」
「ハーティさん、どうしました?三雲と橘の件なら俺には無理ですよ?」
「う、気付いていて傍観してるな?君は」
「俗にいう、イケメン税って奴です。苦労してください」
橘にオッド。俺はこの2人に対して少しウンザリ、気苦労と言うモノをしていた。
視界の隅で、俺を睨んでいるオッド。
俺の注意や、言動に過剰な反応を見せる橘。
先程も、俺の隣で食事をしようとしていたラティに注意し、『隣にいると孕まされるわよ』などと無茶苦茶なことを言い、豪邸の中にラティを連れて行ったのだ。
一応は反論でもしようかと思ったが、何か言うともっと騒ぐだろうし、その横では、オッドがつっかかって来そうな気配を見せていたのだ。
目でラティに合図をし、素直に橘に着いて行かせることで事無きを得る。
橘は三雲に負けているせいか、昨日よりも苛立っている様子。
そんなこともあり。
気心が知れたハーティさんが相手だと、つい気が緩み、愚痴や、じゃれる様な冗談を彼に言ってしまう。
ガレオスさんとは別の、年の近い頼れる兄貴?的な存在になっていた。
( 最初は大喧嘩したんだけどな、)
そのハーティさんが俺の話に喰い付いてくる。
「税って、まぁ2人は大切な勇者様だしね。別に苦労なんかじゃないさ。それに僕よりも陣内君の方が大変そうだね」
「っう、そうなんですよ。俺もハーティさんみたいに、みんな同じ距離感で接しられたら‥‥」
再び愚痴を吐いてしまう。
俺はハーティさんの対人の上手さが羨ましかった。
それがアレば、余計な波風を立てずに済むのだから。
――まぁ、イケメンじゃないと成立しないけどな、
人は観察出来て、心の機微が解っても上手く行かないんだよな、
あ~~、イケメンずるいな、
「う~~ん、陣内君ちょっと勘違いがあるみたいだけど、みんな同じ距離感ってのは、一種の拒絶だよ?それはあまり良くない」
「へ?」
「だからさ、仲が悪くてぶつかる方がいいんだよ。それによってお互いが棲み分けが出来て、その棲み分けがしっかり出来れば、逆に話やすくもなるものさ‥」
――あ、
そうだった、対立することで話せるようになる‥
ぶつかることで、
俺はふと、あの日、
食堂での大乱闘を思い出していた。
クサイ言い方だが、あの決闘のお陰でハーティさんと話せるように‥
「じゃ、そういう事で」
「はい」
モヤモヤとしたモノが晴れる。
アレは上手く行った流れで、その逆もあったかも知れないが、それでも‥。
「あ、そうだ」
「はい?」
話を終えて去っていくハーティさんが、何か思い出したかのように声を上げる。
「追加で一つ、嫌な奴と無理に合わす必要もないよ」
「それは得意です」
( ガチで得意だ)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三日目。
俺達は、前回勇者達が行方不明になった層にやってきた。
周囲は今までと同じ、広い空間。
竜がいると事前に教えられている為か、周囲から緊張を感じる。
さすがの三雲も緊張し、周囲をキョロキョロと見渡している。
だが橘は。
「今日は負けないっ」
この馬鹿は、まだ競うつもりでいた。
勇者救出が目的なのだから、無用な戦闘はしなくても良いのだが。どうにも彼女は戦うことが目的になっている節がある。
一声かけるべきか、注意するべきか、見守るべきか――
俺は無視することにした。
彼女の性格を考えるに、俺が何か言えば逆に突き進む。
それが正しいのか、間違いなのかなど関係なく。
俺は橘とそう言う付き合い方を選ぶ。
さすがに完全放置はマズイだろうが、その辺りはハーティさんにまる投げ。
( イケメン税だ)
その危い橘を見かねたハーティさんが声をかけようとするが。
「――っ来ます!正面から、っこれは大物です!」
ラティが索敵にかかったナニかを俺達に報告する。
のそりのそりと姿を現す灰色の巨体。
この竜の巣には、竜の巣独自の魔物がいる。
タワシに骨の腕と足が生えたような魔物や、鉱石で出来た細身の兵士。
竜の巣にいるのは無機物、そして小型。だが、そんな魔物とは間逆の存在。
大型で生命力に溢れた生き物、竜が姿を現したのだ。
その姿は、10メートルを超える灰色の山椒魚のような形。
口元はワニに似て、獰猛そうな牙と顎。
そんな竜が腹を少し引き摺りながらやって来たのだ。
「獲物!WS”スラグショト”!」
橘が迷わずに、撃ちなれたWSを叩き込む。
だが、本来突き刺さるはずの白い鏃が、呆気なく横に弾かれる。
「――っな!?」
「もっと狙って!堅い背とか狙ってどうすんのよ!」
すかさずに三雲がWSを、僅かに見える腹側を狙う。
「――ッシャアアアアアアア!!??」
少し浅いが、しっかりと突き刺さる三雲のWS。
「ちゃんと話し聞いてた?鱗が薄そうな場所を狙ってよ」
「っぐ!?わ、わかってるわよ!」
竜と戦ったことのある三雲達から、俺達は竜の弱点の説明を受けていた。
それは単純な説明、腹側や脇の下などが比較的に柔らかいと言うもの。
目を狙えれば一番良いのだが、流石に的が小さい。
竜の巣に入って始めての戦闘らしい戦闘。
迅盾組が飛び出し、竜の目辺りをイラつかせるように飛び回る。
無理に攻撃などせずに注意を引くように立ち回り、他のメンツは横や後方などの警戒に当たり、不意打ちに備える。
「弓WS”スターレイン”!」
竜に光の雨のが降りそそぐ。
一発一発の威力は低いが、広範囲で複数の魔物相手に有効なWS。
「馬鹿なの?なんでソレ選ぶのよ!?効く訳ないでしょ!」
「――っ!」
思わず、戦力外通知を突き付けたくなるような、お粗末な戦闘。
橘は完全に浮き足立ち、軽いパニックを起している。
冷静さを失い、がむしゃらにWSを放ち続ける。
「ああ!もう!」
三雲が苛立つ。
そしてそれは戦闘が長引くことになり、戦いにズレが生じる。
「よおおっし、オイラが活路を開くッス!直接目を狙えば、」
馬鹿が伝染する。
何を思ったのか、盾役がアタッカーの仕事をこなすと言うのだ。
竜の注意を引くだけじゃなく、目を攻撃しようとし、竜の側面に回って死角から攻撃を仕掛けようする。
だが――
「下がれオッド!竜を人と一緒にするな!そいつ等は側面の方がよく見えるぞ!」
俺は叫ぶ。
ワニや山椒魚のような頭をしているのだから、目の位置は人型とは全く違う。
見ればすぐに気付きそうなモノだが、手柄を焦ったのか、深く考えずに死地に飛び込むオッド。そしてその動きは当然捕捉され、左に振り向くような動きによる噛み付きが迫る。
「危ない!!」
「馬鹿野郎!」
俺とガレオスさんが声を揃えて叫ぶ。
完全に喰い付かれるタイミング、だが――
――お任せください――
突然、頭の中にそう聞こえる。
間一髪のタイミングで、ラティが横からオッドを掻っ攫って行ったのだ。
ガギンッ!っと音を鳴らす竜の顎。
ラティはオッドの首に腕をフックのように引っ掛け、竜の後方に着地する。
ただ、着地の際に、少々乱暴にオッドを地面に転がす。
――あ~~確かに抱えて着地とか無理だもんな、
少し痛そうだが、喰われるよりは100倍マシだな、
そして今がチャンス!
「三雲!橘!いまだ!」
俺は2人に檄を飛ばし、そして自分も飛ばす。
オッドに喰い付こうと、振り向き気味に上げた顎の下へ。
戦闘はその瞬間で終わりを告げた。
三雲と橘のWS。
それと俺の槍による一撃。
喉元を突き破ると、10秒程もがいていたが、そのすぐ後に絶命する。
そして竜の死骸だが。
本来は、貴重な鱗や牙などを獲る処なのだが、ハーティさんの指示により、放置して先を進むこととなる。
今は時間が惜しく、そして無用な荷物も増やせないと。
しかし、勇者を救出した帰りには、回収しようとも提案していた。
――マジで上手いな、
飴と鞭じゃないけど、しっかりとフォローしてんなハーティさん、
俺だったら、怒鳴って終わってたかもな、
こうして俺達の探索は再開される。
オッドと橘は凹んだままで。
しかも今回は、2人にはハーティさんがフォローを入れなかったのだった。
読んで頂きありがとう御座います!
感想やご指摘などお待ちしております、特に誤字など‥
次回は、たぶん言葉視点回!




