過去を‥
ちょっと支配されたので、話を割って、
( よし殺そう )
俺は心の中で、お茶目な感じで呟く。
別に本気では無い。
ちょっとした軽い気持ち。
ちょっぴりカチンと来ただけ。
俺以外の奴がラティに、プロポーズをしたのが気に喰わないだけ。
だから――
「わあああーーー待て待て待て!ダンナ落ち着いて!?」
「ちょわ!?ジンナイ様!?『ひっひふ~っひっひふ~』して落ちつくです」
「ジンナイ落ち着く」
「へ?」
気付くと俺は押さえられていた。
左肩をガレオスさんに、右腕をテイシに、腰をサリオに抱き付かれる。
3人は本気で俺を押さえようとしている。
「いや、そこまでガチになられても、俺は普通だよ?」
必死になって止めに入っている3人に、俺は落ち着いた声音で話しかける。
――そんな大袈裟だなぁ、
まるで俺がガチで殺しに行こうとしたみたいじゃん、
いくら何でも、そこまでやらないってのに、
俺は冗談なのにと、3人を見るが――
「ぎゃぼーーう!?今ガチで殺ろうとしてたよです」
「いやいや、あれだけ殺気を放って置きながら‥全く、ダンナのやる気スイッチは、ラティ嬢が絡むと羽のように軽いな、」
「あの殺気はマズイ」
「まったくですです!この前も、ラティちゃんを貰うぞ?的なことを言った冒険者さんを、まだ喋っている最中になのに、太ももにぶっすりと槍を突き立てたよです」
「あ~~~、あの脚刈りってその事なのか、なんの事かと思ってたら、」
「そうなのです!それなのです、威嚇も無しにぶっすりですよです」
「ダンナってまず相手の機動力奪いにいくよな‥」
サリオとガレオスさんのふたりが、俺を挟んで話しに盛り上がる。
俺は毒気を抜かれた気分になり、ふと前を向きなおすと。
「ヨーイチ様、流石に今のは肝が冷えました」
「ラティ‥」
俺の目の前で、ラティは眉を八の字にひそめ、困った顔をしていた。
だけどその困った顔には、何処か嬉しそうなモノが感じ取れる。
そしてその後ろでは、逆に顔を青くし、脅えたオッドが立ち竦む。
俺に声を掛けたラティは、一度俺を見据えてから振り返り、オッドと向き合う。
話しかける相手に礼を尽くす為か、深く被っていた深紅色の外套のフードを取り、狼人の証とも言うべきピンと張った耳を露わにする。
そして姿勢を正し。
「わたしはヨーイチ様の奴隷です、申し訳ありませんが先程の申し出、お断りさせて頂きます。それと、唐突な、あのような申し出は些か失礼かと」
「――ッ!?」
いつもの綺麗な姿勢で、ラティが冷たく言い放つ。
怒気などの感情は含まれてはいないが、しっかりとした拒絶を感じさせる声音。
言われた事を理解したか、していないのかは不明だが、目を見開き固まるオッド。
そしてその惨状を見かね。いい大人、ガレオスさんが間に入る。
「ああ‥うん、まぁアレなんだ、獣人族‥特に狼人は自分の番だと直感で判断すると、いきなり言うみたいなんだよ。悪気は無いんだ勘弁してやってくれ」
ガレオスさんは、先程の番うんぬんの発言は。狼人ならではのモノであり、オッド個人ではなく、種族としての本能のようなモノだと言う。
ガレオスさんの説明により、俺もそれなら仕方なしと不問にしようとしたが――
「藍色の瞳に、輝くような亜麻色‥」
「おい、オッドさんよぉ、どうしたんだぁ?」
オッドのフォローをしていたガレオスさんも、オッドの挙動に不安を感じる。
その挙動のおかしいオッドは、ガバッっとラティに抱き付こうとする。
「貴方が欲しいッス!――って?あれッス?」
この程度の不意打ちなど、当然ラティには通用する訳もなく。音も立てずにラティは弾かれるように後ろに下がる。そう、俺の背後へと。
一瞬にして俺がラティを庇う形が出来上がる。
そしてそれに対峙するオッド。
最近何処かで観た事があるような光景。
俺はそれが何だったかすぐに思い出す。
そしてそれが正しかったとオッドによって知らされる。
「やっぱりッス、こんな偶然が本当にあるんッスね、あのお芝居の‥」
「やっぱりそれか、」
「オイラ金貨千枚はまだ無いッスけど、彼女が欲しいんッス!亜麻色の髪の狼人は、狼人にとって特別で貴重な存在ッス。それに、お芝居みたいに愛してるって言っても、人と狼人では子供が出来ないんッスよ?だからどうか――ッガッゥ!」
「あ、待てってダンナ!?」
「ジンナイ様!?」
「陣内君!いきなり何が!?」
「陣内!どうしたのよ!」
「ジンナイ!」
「やっぱ、コイツは危険だわ、」
俺は無言でオッドに喉輪をかまし、そのまま地面に叩き付けた。
本当はそのまま頭蓋でも踏み抜こうとしたが、タッチの差でガレオスさんに阻止され。その場に駆け付けた三雲とテイシにも押さえられる。
最近似たような事はノトスの街でもあった。
あの芝居を観て、ラティを買いたいと言いだす輩は他にも居た。
だが此処までしたのは初めて。
勿論、暴力を振るってしまった理由は分かる。
解る‥‥
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後。
俺とラティだけは指定された宿に帰された。
残りのメンツはそのまま食料などの買出しを続行し、俺とオッドは引き離される。
今は指定された宿の一室。
二つ並んだベッド。
今日は此処に、ラティと2人で泊まれと言うことであろう。
――サリオはテイシさんと同室かな、
テイシさんと一緒なら、ハーフエルフのサリオも平気か、
‥‥今はそれよりも‥
「ラティ、聞いてもいいかな?」
「はい、どうぞ」
俺とラティは並んでベッド縁に腰を下ろし、目を合わさずに話しを始める。
2人っきりで。
「亜麻色の髪がどうとか言ってたけど、アレって‥あと、子ど、、」
「あの、わたしも分かりません。ただ、言われて見ると親以外では見かけたことは無かったかも知れませんねぇ」
――なるほど、ラティも知らなかった事か、
そういや、ラティを買った当初って、ラティの髪はもっと暗い色だったな、
明るい亜麻色には見えなかったよな、
俺はラティの髪の色が好きだ。
食事や生活の改善からか、ドンドン輝きを増していくラティの髪の色は、別に自分の髪ではないが、自慢の一つのように思っていた、俺の中で。
そんなラティの髪には意味があり、その髪を持つ狼人は特別な存在だとオッドは言っていた。
「ラティ、特別な存在の狼人って、」
「あの、それも詳しくは、幼少の頃から森の中だけで生活をしていたもので、他の方達と出会う事はあまり無く‥」
ラティはポツリポツリと語りだす。
何処の領地か知らないが、幼少の頃は森の中にある家で過ごし、話し相手はほぼ両親だけ。あとは家に置いてある大量の本を読むことで日々を過していたのだと言う。
ラティの博識は、本をよく読んでいたから。
逆に、一般常識とされている事は知らないのかも知れないと彼女は言う。
それは亜麻色の髪や、狼人特有の番の件など、そして子供の事。
両親からは、狩りや戦闘など、森で生きていく技は教えて貰えたらしい。
だが、他の事は教えて貰っていなかったと言う。
もしかすると、ラティの成長に合わせて教えていくつもりだったのかも知れない。
だが、ラティは両親に売られた。
金貨8枚程度の赤首輪奴隷として。
この異世界では、奴隷として売られる時に、絶対のルールがある。
それは、売り手側が親か本人かのどちらかと言う事。
何処からか子供を浚って来ても売れない。
本人を脅して売ろうとしても、本人がその場で否定すれば罪になり罰せられる。
そしてラティ本人が自分から売ったのでなければ‥‥
今まで、断片的ではあるが、話は聞いたことはある。
だが今、ラティは両親の事も含めて俺に話す。
「ヨーイチ様、あの日の事はもうよく覚えていないのですが――――」
あの日の話をラティが始める。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想など頂けましたら大変嬉しいです。
それと誤字脱字なども教えて頂けましたら、