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羨ましい

 

 俺は今、ラティから気を失っていた間に起きた出来事を聞いていた。


 ラティは、あの後すぐに目を覚ましたそうだ。

 目を覚ますと其処には勇者の聖女様である葉月が居て、俺に回復魔法を掛けている最中だったと。

 ラティ曰く、かなり無理をして回復魔法を使ってくれてたそうだ。



 他にも俺が投げ出してきていた、武器とクモを倒した時に落とした、巨大な魔石も回収し、持って来てくれていたのだ。

 

 その後は、俺の回復と無事を確認後、そのまま去っていったと、ラティは教えてくれた。



「そうか、葉月が治してくれたのか、それに装備も持ってきてくれて」

「はい、とてもお優しい方でしたよ、それに綺麗なお方でした」


 どうやら葉月にはデカイ借りが出来てしまったようだ。

 今度会ったら、助けてくれた感謝の礼を言う事にする。



「よし!ラティ動けるようになったし、まずはこの魔石を売って資金にしよう、流石に文無しはマズイ」

「はい、ご主人様 その大きさでしたら金貨1枚以上は望めるかと」



 そして俺達は回復屋を出て、魔石を売りに行った。

 魔石は今日稼いだ分で約金貨2枚にもなった。




      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





 その後、宿の食堂で食事をしていると、その食堂で食事をしていた冒険者から、俺は警告を受けた。

 

 どうやら俺はラティを助ける為に、地下迷宮ダンジョンを爆走していた訳だが、照明魔法の”アカリ”を使用していなかった事と、魔石を放置した事を咎めているようだ。


 これは地下迷宮ダンジョンでの守るべきマナーでありルール。

 これを破る行為をした俺は、冒険者内で、ここで【ルリガミンの町】で言う、ハズレ者扱いだと警告してきた。


 助ける為に必死だったから、魔石もアカリも完全に頭から抜け落ちていた。

 

 今思うと、確かに帰る時にすれ違う冒険者達は、非難の視線を受けていた気する。




 食後は部屋に戻り、俺は一人反省会をしている。

 ラティは沈黙のまま、隣のベッドに腰を下ろし、俺を見つめている。


 今回の件の最大の失敗は。

 俺が安全なメインルートを避けてしまったこと。

 

 完全に安全ではないが、メインルートに行けば、通路も安定しているし、何より、危機に陥った時に、誰かに助けを求めれる。

 今回は運が良かっただけで。

 目的も無くハズレルートに行くのは無謀であったこと。



 勇者達と顔を会わせたく無いと言う、情け無い理由。

 そしてラティを誰にも見せたくないと言う下らない独占欲。


 結果ラティを危険な目にあわせた事になったのだ。

 俺は猛省すべきだ。



「ラティ色々と済まなかった、俺の判断が間違ってた、明日からメインルートの地下迷宮ダンジョンに行こう」


「はい、分りましたご主人様、あの、それと、」

「うん?」


「済まなかったとは、何かしらの謝罪なのでしょうか?」

「へ?えっと、」


「それが何かとは問いません、きっと反省をなされているでしょう、そしてそれを改善致すのでしょう、ヨーイチ様は」


「ああ、」



 うちのラティさんは、何も聞かず優しくて、そして反省だけで終わるなと厳しかった。


 俺は反省の意味も込めて、ラティの機嫌を取ろうと思い頭を撫でたが。


『プシュー!』


 いきなり間違ったみたいだった。

 どうやらコレで機嫌を取れるほど甘くはなかった。


  




           ◇   ◇   ◇   ◇   ◇






 次の日から俺達はメインルートに行くことにした。

 部屋で準備を済ませ、食堂で朝食取り、薬品ポーション買い足し、地下迷宮ダンジョンの入口に向かった。


 地下迷宮ダンジョン前にはちょっとした人だかりが出来ており、また八十神達の勇者パーティが集まり、丁度地下迷宮ダンジョン入って行くところだった。


「あの勇者様、昨日魔石魔物を倒してたらしいぜ」

「魔石魔物ってかなりの強敵だよな」

「ああ、魔物によっては20~30人は必要な場合もあるらしいぜ」



 どうやら、昨日の戦ってた強そうな魔物は魔石から生まれた魔物だったみたいだ。そしてまだ噂話は続いた。


「あ!その時に、その近くでどっかの馬鹿が、魔石を放置してどっか行った奴が居たらしいぜ」

「ああ、それ聞いた!”アカリ”を使わず走り回ってた奴だろ」

「薄暗い中で”アカリ”使わず走ってる奴なんて盗賊だろ、斬っちまえば良いんだよ」



 今度はどうやら俺の噂だった、そしてまだ噂話は続きやがった。


「そいつって、最近王国から流れて来た奴だろ?強姦魔の」

「俺も噂で話で聞いたな、強姦魔だって奴だろ?赤奴隷襲った」

「そそ、そいつと今の話の奴が同じなんだってな」



 噂話が盛り上がっていく。

 これは気付かれないうちにさっさと、地下迷宮ダンジョンに入った方が良さそうだったが、会いたくない奴が声をかけてきた。



「よう、陣内 お前の噂で持ちきりだなぁ、ある意味勇者よりも目立ってるぜ、お前、羨ましくはないけどな」


「ああ、そうだな、お前のおかげでもっと目立ちそうだよ」

( 狙ってやってんのか コイツ )


 

 最悪のタイミングで上杉が話しかけてきた。

 そして今日は隣に上杉と同じ野球の蒼月亮二が立っていた。


「オッス、陽一 結構噂聞いてるぜ、俺が知ってるのは噂話しだけだけどな」



 蒼月亮二あおつきりょうじ、上杉と同じ野球部で目がクリっとした坊主頭。

 周りからは、野球部を辞めて陸上部入れって、言われる位に足が速いで有名な奴だ。そして結構良い奴、俺もコイツは結構好きだ。


「へ~、この子が例の噂のアレの娘か、凄い可愛いね、確かにこれは仕方ないのかな?」



 噂が例のが、何を指してるか判る。

 そして俺も釣られてラティを見る。食事が改善された為か、髪は薄暗い亜麻色が少し明るくなり、凛として洗練された立姿に、腰近くまで下ろした癖のない髪。

 皮鎧で分かり難いが、しっかりとした膨らみは上向きに、顔立ちは可愛いく少し眠そうに下がっている瞼、瞳は藍色。



 ――うん、これは可愛い!

 学校でラティが歩いて居たら、10人中12人が振り返るレベルだ。

 


 昨日までは、ここで逃げていた。

 俺はラティを誰の目にも晒したくないと言う、くだらない独占欲で彼女を無駄に危険に晒した。


 アレは納得のいく危険ではない。

 やってはいけない無思慮な危険だった。



 だから逃げずに俺は踏み止まる。


「例の噂が何か知らないけど、俺は今日メイン行くから、道を空けてくれ」


「ん?今日はハズレに行かないのか?」

「ああ、メインに行く」



 俺は淡々を答える。何処か上杉を突き放すように、。

 だが奴は、いつも通りに絡んでくる。


「まぁ、俺には関係無いけどな、それよりも解放してやれよ!」


「ああ、その話はまた今度な、ラティ行くぞ」

「はい、ご主人様」

( よし、今回は俺は逃げ出して無いぞ!、、ただ )



 ただ、周りの冒険者達が俺とラティを交互に見つめて、色々と小声で話し合っていた。

 

 ラティが俺に手篭めにされた可哀想な子みたいに見られてるので、非常にラティに申し訳なかった。 が


 まぁラティはいつもの軽いポーカーフェイスだったけど。



「ラティごめんな」

「あの?何のことでしょか?」



 そんなやり取りをしながら、メインルートに向かって行く。



 地下迷宮ダンジョンのメインルートは足場が整備されており、石畳の道が出来ていた。入口付近は冒険者が多い為か、魔物は全くいなかった、寧ろ冒険者が溢れていた。



「む~~、周りからの視線が痛いな、昨日の件と、例の噂の影響だな」

「あの、スイマセン、昨日わたしが倒れてしまってせいで」


「いや、それは良いんだ、」

 


 昨日の件は、俺が悪いので仕方ないが、もう一つ方の噂でラティが可哀想な子、と 見られるのはどうしても申し訳ない訳で、どうしたら良いのか。


 ――あ!そうだラティさんは処女ですよーって叫べば、

 これで誤解が解けるんじゃ?イケるんじゃないかコレ、 



「っじ~~~~!」



「あの、ラティさん、何でしょうか?」

「いえ、ご主人様が”何か”とんでもない事をしようとしている気がしたので」



 この子はやっぱりエスパーだった。





            閑話休題おこられました






 メインルートの地下迷宮ダンジョンは足場が平らなこともあり、非常に戦いやすく、魔物討伐数は過去最高を誇った。


「戦いやすくて、楽でいいな」

「あの、今日はかなり倒してますからねぇ」


「休憩がてらに、ステプレでも確認するか」

「はい、ご主人様」



 何時ものやりとりをしてステプレをチェックする


ステータス


名前 陣内 陽一

職業 ゆうしゃ


【力のつよさ】32

【すばやさ】 32       

【身の固さ】 29


【固有能力】【加速】

【パーティ】ラティ30



――――――――――――――――――――――――――――――――


ステータス


名前 ラティ

【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)

【レベル】30

【SP】145/167

【MP】180/186

【STR】 95

【DEX】110

【VIT】 89

【AGI】161+2

【INT】 90

【MND】 93

【CHR】119

【固有能力】【鑑定】【体術】【駆技】【索敵】【天翔】【蒼狼】

【魔法】雷系 風系 火系

【EX】見えそうで見えない(弱)

【パーティ】陣内陽一


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


「寂しい上昇率だ」

「あの、すいません、わたしは凄くは上がってますねぇ」



 休憩をしながら、軽食を取っていると、今いる場所は広い部屋になっており、見通しが良いためか、他のパーティも集まって来て、食事を始めている。



「この場所ってメインルートの人達の、休憩場所に使われてるのか」


 何となく感想を呟く。


「確かに多いですねぇ、広くて見通しの良い場所ですから、魔物が来てもすぐに分かるからですかねぇ」



 地下迷宮ダンジョンなのに、のんびりをした空気が漂う大広間。


 だが、突然の叫び声で、一瞬で部屋に緊張が走る。



「「 魔石魔物がでたぞーーーー! 」」



 雪崩れ込むように、4人組みのパーティが広場に逃げ込んで来た。

 そのパーティを見ると、上杉の”フルスイングズ”だった。


 大盾持ちのガルさんは肩を支えられながら血だらけであった。



「イワオトコ型の魔石魔物だ、魔法で倒してくれぇー!攻撃が弾かれるんだ」


 ガルさんの肩を支えている冒険者が叫んでいる、彼が持っていた筈の両手斧が見当たらない、既に壊れたか落としたのだろうか。



「野郎ども、魔石魔物がくっぞー!」

「野郎じゃないわよ」

「魔法組はこっちに並んでぇ~」


 

 対処に慣れているのか、大広間に居たメンツは素早く迎撃体勢を整えて行く。


「壁役も逝けるこっちこーい」

「誰か、一応 下に降りてった勇者様パーティ呼んでおいてくれー」

「お、俺が伝令行く、あと一人護衛で誰か」

「おーーい!誰か町で上級冒険者呼んで来い、どうせ入口でダベってるだろう」

「照明も増やしとけーー!多すぎるくらいでいいから」


 大広間の天井付近に照明魔法”アカリ”が複数作りだされる。


「しかし、誰だよ魔石をほっといた奴は」

「ああ?例の奴じゃねの?」



 何人かが俺を横目で見ているが、丁度その時に、体長3㍍近いイワオトコ型の魔物が大広間に姿を現した。


「魔法組!撃てーーー!」


「 ――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!!



 魔法十数発が一斉に着弾し、様々な爆煙を上げるが。


「あ、おい!弾かれてるぞ魔法が!」

「誰だぁ!誤情報流した奴はぁー、奴は魔法キャンセル持ちじゃねぇか!」


「盾組!逝ってこーい」

「「「おおおおーー!」」」

  

 魔法が効かないと解ると、直ぐに切り替え、盾持ちが魔石魔物を押さえに逝く。 


「ダメだちょっとこれ持たねぇーー!」

「無理無理無理」

「誰か釣り囮に、こいつ重過ぎる」


 そして即座に弱音と泣き言を吐く盾役。 



 囮役と聞き、すぐさま迅く動くラティ。



「ご主人様、先行します!」


 ラティが魔石魔物を引き付ける。

 盾役達は一応近くで、すぐに飛び出せるように、そのまま待機をした。


「アタッカー行くぞー!」

「両手持ち前衛集まれーー!、」

「おい、片手剣持ちは帰れ邪魔だ」

「「「「おおおおーー!!」」」


 ラティが敵を引き付け、アタッカーが両手武器を叩き突けていく。


 1対30人の戦いが続く。



「――ッガァ!!

「まじい、一人飛ばされたぞ」

「ヘルプ走れー!!」

「後衛回復魔法で援護」

「やってるわよ!!」

「支援も混ぜろ」


 怒号が飛び交う、そんな中、運悪く一人が壁際に追い詰められた。



「ッやべぇ!!」

「フォローー!」


 壁に追い詰められたのは上杉だった。

 それを蒼月亮二が走って拾う様にして上杉を掴み逃げる。


 その瞬間にラティが動く。


「おおおお、」

「痛て、足場にされた」



 ラティが再び切り込み、壁と天井、時には味方も足場にして飛び跳ねる。

 囮役として、魔物の注意を引くように駆け回る。


 その動きを見ていて、俺にはラティが動く0.5秒の先が見えた。

 何回も繰り返し見てきた動き。はためくスカートの揺れ、アカリに照らされた亜麻色のなびく髪、その流れから動きが予測みえた


 ラティが魔物の左手側から、飛び込み、なぎ払ってくる左手を、【天翔】で下に避ける、まるで落差の激しいフォークボール。そして懐から、駆け上がるように斬りつけながら、頭上に飛び上がる。


 魔物は飛び上がったラティを右手で掴もうと、体を捻りながら振り上げる。そして俺はその振り上げた右腕の脇に、【加速】を使って隙間に槍を刺し込む。


「 ――ザクッ!―― 」


 突き刺した槍を、そのまま捻って隙間を広げると、魔物右腕が肩から崩れ落ち槍も砕ける。


 手ごたえのある一撃だったが、魔物は残った左腕で俺をぶん殴った。


「――っぐあぁ!!」


 壁際まで転がるように吹き飛び、地面で削られ皮鎧がズタボロになる。


「崩れたぞー」

「崩れた右肩に氷水系以外の魔法叩き込め!!」

「おおーー」

「いけーーーー」



 何かの祭りの様に魔法が放たれる。

 魔石魔物は大量の魔法を崩れた断面に叩き込まれ、霧となって霧散した


「「「「「「おおおおおお!!」」」」」」



 冒険者達の歓喜の声が上がる。

 その時、ラティが沢山の”アカリ”をスポットに、魔法の着弾の煙をスモークに、華麗に天井を蹴って地面に着地した。



 それは華のある、凛とした所作だった。



 その姿に見惚れていた、冒険者達が一斉に声を掛けてくる。


「嬢ちゃん、よかったぜ良い囮役だった」

「おめーら、盾役つかえねーな!」

「うるせー、相性が悪かったんだよ」

「言い訳すんじゃねぇよ!」



 ラティを囲み、戦った冒険者が達がお互いに、褒め合い、貶し合い、称え合い、笑い合い、感情を爆発させて、勝利に酔いしれていた。




 それを俺はズタボロになりながら、壁にもたれつつ眺めていた。

 ラティは周りから話かけられ、少し困り気味に戸惑っている。 


 

「ラティの人気凄いな、貴族とかじゃない冒険者だと【狼人】とかあまり気にしないのかもな」


「凄い戦いだったし、」


 俺は独り言をいっていた。

 誰に聞かせるでもなく、自分に聞かせる為に。



 視線を感じ、ふと横を見ると、今到着したのか呼ばれていた勇者パーティが立っていた。


「あ、勇者様と聖女様、なんとか自分達で倒せました」

「お呼びしちゃって、すいません」


「ああ、いいよ、倒せたのなら、誰も犠牲は出なかったかい?」



 呼ばれた勇者達と冒険者達が会話を続けている。



 そして其処に葉月が居ることに気付く。そして俺は


「葉月、昨日はありがとう」


 俺は葉月に、ギリギリで届く声で、昨日お礼を伝えた。


「いえ、間に合ってよかったです」

「由香!アイツは無視しなよ、強姦魔でマナーとルール破りのハズレ者なんて」


「でも、風夏ちゃん‥‥」



 お礼は言ったし、これ以上話し掛けたらダメそうなので、ラティの方を見る、まだ囲まれていた。


 何だかちょっと羨ましくなってきた。

 心の奥でチクリとするものを感じる、きっとこれは‥‥。



 ――ああ、俺は羨ましいんだろうな、

 ラティが周りに認められてきているのが、俺とは違って‥‥




 俺は、魔法に照らされ歓喜を帯びた冒険者の渦を、照明魔法の届かない壁際で、それを1人で眺めていた。




ある意味、プロローグが終わりました

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