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刈られた冒険者

ごめんなさい、ちょっと閑話的な、

 俺の名前はバルガン。

 一言で言えば中堅の冒険者だった。


 レベルは、まぁ20は超えてない‥歳は30を超え‥そうだ。

 そして中堅冒険者(ベテラン)だった。




 

 ある日、安い報酬の防衛戦に参加することになった。

 他の所よりもかなり低い報酬額、だが飯も出るし確実に稼げるのだから、仕方無しと参加する。この仕事を選ばず、しっかりと参加する辺りが中堅なのだ。


 世に貢献する、これが中堅の役割だ。



 戦闘自体は大した事は無そうだと言う情報が流れていた。

 ただ、一つだけ心配だったのは、霊体タイプが確認されていると言うこと。

 さすがに中堅の俺には、対霊体用装備までは(金が無い)が回らず、どうしたものかと思っていると、今回は対霊体用に助っ人に黒い奴・・・が参加していた。



 黒い奴。

 奴は最近ノトスで売り出し中の冒険者だ。

 売り出し中と言うよりも、半ば奴を中心に回っている部分もありやがる。

 はっきり言って気に喰わない。


 黒い奴はノトスに来た当初、”戦犯野郎”と呼ばれていた。

 それが奴のあだ名。みすぼらしい皮の鎧を着た、口だけの戦犯野郎。

  

 だが奴には、これ見よがしに見せ付けてくる、別格の奴隷がいた。

 狼人とハーフエルフの女2人。


 両方とも奴隷にしては珍しい赤首輪奴隷。

 この2人は、深淵迷宮(ディープダンジョン)から魔石魔物が溢れ出た事件の時に、凄まじい活躍を見せていた。特に狼人は勝利の決め手となるほどに。


 あの2人が居なければ、もっと被害が出ていたとの噂だ。

 まぁ、最初の指示。

 戦犯野郎が最初に、”深淵迷宮(ディープダンジョン)の中で戦おう”とか、バカなことを言わなければもっと被害は少なかったがな。


  

 そして、その魔石魔物暴走事件の直後に驚きがあった。

 2人の赤首奴隷達が、魔石魔物戦に駆け付けた勇者様達と、えらく親しげに話をしていた。これには驚きを隠せなかった。


 勇者達の方から、奴隷の彼女らに声をかけていたのだから。



 忌避される狼人とハーフエルフが、勇者様とすげぇ親しげにしている光景。

 その姿を見てる(冒険者)は、何か価値観が崩れる?少し違う、価値観が塗り替えられる感覚。急に狼人とハーフエルフが良く思えて来た。


 今までは、視界に入れるのも吐き気がするような種族だったのに、突然目が離せなくなっていた。しかも湧き上がるような渇望までも――


( ちくしょう、欲しい‥ ) 




 それから少し経ったあと、狼人の女が欲しくて、ふと奴隷商へ足を運んだ。

 別に買うつもりなんかは無かった。ただ、一応見に行ったのだが‥‥



 売り切れていた。


 元から需要も供給も無い種族。

 別に売り切れていても不思議では無かった。だが奴隷商は、『狼人かハーフエルフの奴隷は売っているか?』と訊ねる客が、急激に増えたと疑問をこぼした。


 その疑問に心当たりがある。

 俺と同じ奴が増えたと思うと、異様に欲しくなる。

 



 何故か、何故か次の日から、俺は狼人を探すように目を向けることが増えていた。

 そして、いつも目に入るのは、決まってあの狼人。


 深紅の外套から、儚げに零れ揺れる亜麻色の髪。

 あの黒い奴の赤首奴隷だ。


 

 名前を知りたくて一度【鑑定】で覗いてみると。その名前は、いま冒険者の間で流行している、新しい盾役の概念。迅盾を編み出したと言う、瞬迅と同じ名。


 レベルの高さを確認し、確信する。

 魔石魔物戦の時にも、そんな事を言っていたような気がしたが、アレはマジだった。あの黒い奴は、瞬迅を奴隷として従わせていやがる。

 

 ――嫉妬しか浮かばねぇ――



 何故かあの狼人の娘を見ていると、ドス黒い渇きが激しく疼く。

 激しく欲する。






 魔石魔物暴走事件から、魔石魔物狩りが出来なくなった。

 元からノトスでは魔石魔物狩りをする奴は少なかったが、それが禁止に。

 例外で、許可を貰った者が参加しているパーティなら狩る事が出来ると言う、そんな新しいルールが出来やがった。


 無駄な危険を冒さない、手堅い中堅冒険者の俺には関係ない話だったが。その魔石魔物狩りに参加した奴の話を聞くと、無視の出来ない内容であった。


 単純な稼ぎは、5倍以上。

 しかもレベルの上がりまで異常に速いとも言う。


 俺も参加しようと気合を入れて。街の外れ、深淵迷宮(ディープダンジョン)前の砦に向かったが、其処には奴がいた。


 あの黒い奴が、パーティを仕切っていやがった。


 

 あんな戦犯野郎に尻尾を振るような、安いプライドはねぇ。

 俺は誇り高き中堅冒険者。


 

 俺はその”ジンナイ組とやらには参加しなかった。

 何よりも腹立つのが。黒い奴は、周りに見せ付ける様に、狼人の娘を自分の後ろに侍らしてやがる。


 何だよ、自慢か?腹が立つ。





 そして遂に復讐の機会がやってきた。

 はずだった‥‥




 防衛戦に来ていた黒い奴は、結局何も仕事をせずに後ろにいるだけ。出てきた霊体タイプは、斧を持った勇者ウエスギ様が屠ってくれた。


 黒い奴は、俺が欲しい狼人とイチャついているだけ。

 歴代の勇者が残した格言に『嫉妬で人が殺せたら』と言うモノがある。

 最初これを聞いた時は、何をアホなっと思っていたが、今はその思いが解る。

 

 やはり歴代勇者様が残した言葉には重みがある。




 その日の夜、俺は援軍でやって来た兵士達に、ある話を持ち掛けられる。

 

 その内容は。

 北の領地で犯罪を犯した、罪人を捕縛して欲しいと言うモノ。

 俺の願いが天に届いた。


 俺は迷うことなく了承する。

 そして序にある事を訊ねてみた。


 『奴隷の狼人はどうなるのか?』と。

 返ってきた返事は最高だった。


 『槍持ちを捕まえた奴にくれてやる』


 槍持ちとは、あの黒い奴のこと、そしてくれてやるとは狼人。

 俺はいきり立つ。



 あの瞬迅は強い。

 俺では相手にならないが、奴隷の首輪で締め上げればどうにでもなる。

 しかも、この大捕り物は、兵士達が全員参加すると言う。

 3対100の鬼ごっこ。

 

 しかも、追加でそれに冒険者も参加すればもっと戦力差は広がる。

 他の冒険者達の中には、”止めて置いた方がいい”などとアホなこと言っていたが。俺は思う。乗るべき波に乗れないから(中堅)へ上がれないのだと。


 だから(中堅)は参加する。



 もう夢は広がる。

 あの深紅色の外套からのぞく亜麻色の髪。

 そして何処か落ち着きのある、冷めた瞳。

 白と深紅色の珍しい形の鎧に包まれた肢体。

 ほっそりとしているが、ぐっと惹き付けるモノがある腰まわり。

 

 どれも欲しい――

 後は、他の冒険者達よりも先に黒い奴を見つけること。


 

 そして俺は運が良く、黒い奴を見つけられた。

 だが。


 俺が喋っている最中に、奴は仕掛けてきた。

 夜だったと言う事もあるが、その動きはほとんど見えなかった。

  

 まさに漆黒の鏃。



 気が付くと脚の付け根が酷く熱い。見れば其処には、幅の広い槍がザックリと突き刺さっており。しかも、えげつないコトに、奴は槍を捻って傷口を広げやがる。



 俺は勘違いをしていた。

 魔石魔物を狩っている奴が弱いはずが無い。

 

 【鑑定】で見たステータスは、おかしい事になっていたから忘れていたが。黒い奴は、中堅の俺じゃ全く太刀打ち出来ない存在であった。



 刺された傷口から、吐き気がするような激痛。そして生命の危機を感じさせる出血量。それを呆然と意識が飛びがちになりながら見つめ。俺はある事を思う。


 ――黒い奴の逆鱗に触れて、俺みたいになった奴が他にもいる――


 そんなどうでもイイ事を考えながら意識を失い。

 次に目覚めた時には、全てが終わっていた。



 今回の件は、冒険者達にはお咎めなし。

 唆した貴族側に、罪が全て行った形としたそうだ。

 

 だが、俺は折れた――



 俺はエスの村で畑を耕す事にした。

 もう冒険者としては、無理だと悟ったのだ。

 元冒険者、そして中堅である俺は一応は村から歓迎された。

 もう奴とは、同じ場所(冒険者)に居たくない




 そして身支度を整え、ノトスの街の宿に残した物を回収しに戻ってくると。


「はっ、なんだよコレ‥?”狼人売りの奴隷商”?」


 宿から少ない荷物を回収して、知り合いに挨拶を済ませ、通りかかった芝居小屋に看板にふと目を向けると。なんとも言えないタイトルの芝居が公演されていた。


 物語のワンシーンを絵に起したのか。其処には、狼人の少女と槍を持った目つきの悪い男が描かれている看板が置いてあった。


「とうとう狼人の芝居まで出てきたのかよ。それにコレって‥くそ!村に帰るか‥」



 こうして俺の冒険者生活が終わりを告げた。


読んで頂きありがとう御座います。


宜しければ、感想やご指摘などお待ちしております。

それと誤字脱字なども教えて頂けましたら、嬉しいです。


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[一言] 今度の演目が前の二作と違って、この脚本を書いたのはだれだぁ!!と怒鳴り込んでも許されるレベルで歪曲されている気がしてワクワクする。
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